クラリス王国
みここです。HATUTOUKOU。
朝、僕は目が覚めてベッドから降りる。
隣には不自然にシーツのしわが伸びており、先ほどまでソフィーがいたことを伝えている。
しかしソフィーの姿はもうなかった。
部屋を総当たりしたが、ソフィーは結局見つからなかった。
仕方がないので、服を着替えて外に出る。
すると、木によりかかって眠っていたヴァンの姿をとらえた。
ヴァンは、こちらに気づくとすぐに立ち上がった。
「おはよう、ヴァン」
「おはよう」
「ねえ、ソフィーが見当たらないんだけど」
「ああ、彼女ならついさっき帝国に向かっていったさ。なんでも手紙で招集されたらしい。皇女の茶会だそうで。徴兵は呼んでも来ないくせにな」
ははっとヴァンは笑う。そんな中僕は、せめてお別れの挨拶くらいしてくれてもいいのにと、少しだけソフィーを恨めしく思った。
「なに、すやすや寝てるミラを起こしたくなかったんじゃないか? 旅の疲れがあっただろうし」
「そうは言ってもね。やっぱり最後に話したかったよ」
まあ、もうそんなことを言っても彼女はすでに旅立ってしまっている。
それなら僕達も僕達で王国へ向かうしかないだろう。
「……じゃ、行こうか」
「おう」
僕とヴァンは、その足で再び王国までの道のりを歩むことになった。
「そういえばさ、ヴァンって帝国の騎士なんだよね。なんで王国に行こうとするの?」
「うーん……。まあ言伝ってとこかな。王国のとある貴族に伝えなきゃいけないんだよ。伝えるだけなら魔法でもできるんだが、いざとなったときに俺が使われるかもしれないからな。保険ってやつさ」
「へえ……」
正直、国と国を渡るなんて少し怖いと思っている。
よくこういう場合、国境を超えるにはそれなりの手続きとか必要なイメージがあるし、戦争とかに巻き込まれないか心配なのだ。
「安心しろって。今はまだ戦争はしてないよ。今はね」
ヴァンはそんなことを言っているが、今はという部分をやたら強調していた。
まるでいつか起きる可能性があると言わんばかりに。
ただ、そこは国と国との駆け引きだろうし、どちらにせよ旅人である僕にはあまり関係ないと思われた。
それが今後、どのようにして僕に災厄が降りかかるのかをこの時の僕はまだ知る由もなかった。
そこからさらに歩き、夜が更けたところでいったん野営し、次の日の昼過ぎくらいには王国に着いた。
――クラリス王国。
僕がこの世界にきて初めて見る国という形態をとった街。
山岳に囲まれ、広い国境を持ち、敵国という敵国はまわりに存在しない、そんな平和な国。唯一近くで交易のあるのが帝国であった。
活気あふれるその雰囲気に僕は少し飲まれてしまっていた。
「それじゃあ俺は貴族様のところに行く。ここでしばらくお別れだな」
「うん、ここまでありがとう。またいつか」
「ああ、すぐに会えるさ」
ヴァンは街に着いた早々、そう切り出して駆けだしていった。おそらく本来なら一日以上はやくこれたはずなのに、僕に付き合ってくれていたのだ。感謝してもしきれない。いつかごはんでも奢ってあげよう。そう、心の中で思った。
「さて、これからどうしよっかな」
王国に来たはいいものの、僕には特にすることはなかった。
あの神が言っていた通りに、異世界の人と交流を持つにしても接点がなくっちゃあねえ。
左右に露店が並ぶその通りを歩きながら僕は悩む。
特になにもしたいことが浮かばなかったのでとりあえず、この国の物を見て回っているのだ。
オルティアの屋敷から出てきたときに持っているお金はまだ一度も使っていない。
お金の入った革袋を開けてみると、金の硬貨2枚と、銀の硬貨10枚、銅の硬貨が50枚入っていた。
店の値札を見る限り、銀の硬貨2枚もあれば今日の食事分は軽くそろえられそうだ。
果物野菜は銅貨10枚ほどで買える。服なら銀貨2枚くらい。
それぞれの硬貨は、銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚といった感じのようだ。
これなら全然お金には困らないな。
とりあえず、僕は宿を見つけた後、再び露店で目ぼしいものを買いあさることにしたのだった。
みここでした。HATUTOUKOUでした。
ついに王国にたどり着いたミラ。そこは隣国が帝国だけという特に戦争も知らないような平和な国。
しかしミラがたどり着いたときにはすでに異変が起こり始めていた。