ソフィーの魔法講義③
みここです。初な投な稿です。
「濁ってるわね……」
「ええ、濁ってますね……」
ソフィーは申し訳ないといった表情でこちらを見る。やめろ、そんな目で僕を見るな。
浮かび上がった僕の魔法適正の球はすべて薄黒く変色していた。適正がないのは目に見えてわかった。まあ異世界に飛ばされてから順風満帆に楽できるというのはどうやら小説だけのようだ。事実は小説よりも奇なり、なんて言葉はあるけれど、それを言うなら現実は小説より苦なり……だろう。
「いや、ちょっと待って」
ふと、ソフィーは何かに気づいたかのようにまじまじと球体を見る。
「ほら、やっぱり。ミラ、これ見て」
彼女は僕の適正球体、その黒色――闇魔法適正を指さす。
その闇魔法適正をよくよくみると、他の球体と違って黒く輝いていた。
「ほら! これ! ミラ、闇魔法の適正あるじゃないか! しかもかなり光ってるよ! 他が黒すぎて気づかなかったわ」
「あ」と直ぐに失言をしてしまったなあといった表情になったが、また元通りのシニカルな仮面を張り付ける。
「ミラには闇魔法の適正があるね」
「よ、よかったです……」
はじめは魔法適正全般を否定されてしまったかのように感じていたが、なるほど確かに黒い球体だけは誇らしく自分を主張していた。にしても、ほんとによかったよこれ。危うく挫折するところだった。
「そうだね、ミラ。あんたに私の闇魔法を一つ教えてやるよ。いくら適正があっても使えないんじゃ意味ないからね」
「え! ありがとうございます!」
「ただし、私も魔法適正的に闇は苦手だから、そこまでいいものじゃないよ」
彼女は、自信なさそうに闇魔法を展開する。
ソフィーが魔力を込め始めると、周りの影が濃くはっきりと、まるで影自体が光っているような錯覚に陥った。
「それじゃ、見せるよ。シャドウソーイング!」
彼女の、手刀を思わせる手の動きから一閃。黒い斬撃が放たれた。それは恐ろしく速い動きで目の前の岩が寸断された。岩の断面は、夕方の日の光がきれいに反射していた。
「うわあ……」
「これが闇魔法のシャドウソーイングさ。どんなものでもその切れ味が増す。加えて斬撃としても飛ばせる魔法なんだ。そうだな、ミラ。あんたのダガ―にこれを纏わせることで、近距離の切れ味と共に、遠距離の的にも攻撃ができる。オールレンジの戦い方ができるはずだよ」
「あ、ありがとうございます!」
彼女はそういうと満足そうに微笑んだ。
僕は、その転移した高原でひたすらその魔法の練習を繰り返し、十分に使えるようになったころには月が真上に上っていた。
「今日はもう寝な。明日にはここを出なきゃいけないからね」
ソフィーの魔法でソフィーの家に戻ってきた僕たちは、さっそく寝ることになった。
なんでも、明日ソフィーは、帝国に用事があるんだそうだ。
ヴァンは王国に用があると言っていたので、ちょうど逆の方向になってしまう。
一旦魔法のお勉強はこれで終わりということだ。
しかし、そう思うとすこし名残惜しいな。ソフィーさんは優しい人だし。
まあ、これを除けば……だが。
「ソフィーさん」
「ん? なんだい?」
「なんで一緒にベッドで寝るんですか」
「そりゃ、このベッドは私んのだからねえ」
「それなら僕、床で寝てもいいですよ」
「いやいや、女んこが床で寝るなんてよくないよくない。そんなこと言うもんじゃないよ」
「でもこれはちょっと……」
僕は、ソフィーに後ろから抱かれる形で――つまり抱き枕のような状態で一緒にベッドに入っていた。
彼女の溢れんばかりの胸の膨らみと腕とに挟まれて若干息が苦しい。
「いいじゃないかね。私、今日いっぱいあんたに魔法教えたよ? その代償さ」
「はあ……」
そういわれると何も反論できない。事実、彼女からたくさんのことを教えてもらった。その恩義なら報いなければならない。
しかし、僕の中身は男だ。こんなグラマーな女性と一緒に寝るだなんて、すこし躊躇われる。
「大丈夫、あんたは立派な女の子だよ」
耳元で小さくソフィーはつぶやく。
まるで心を読まれたかのような言葉に一瞬動揺したが、彼女のスースーという寝息が聞こえてきて、すぐさま寝言なのだと気づく。
立派な女の子……。そうではないことを知っている僕からすると、彼女の言葉は妙に心に残る。
自分の記憶がなく、日本生まれの男という以外の情報が頭から消失している僕としては、その残った記憶すら偽物なんじゃないかと思い始める。
そんな不毛な、決して答えのないだろう問いを静かに繰り返しているうちに、僕の意識は闇夜に溶けていった。
みここでした。初な投な稿でした。
今回で、ミラは新たな魔法をおぼえることができましたね。
シャドウソーイング。ソーイングは、縫うと切るの二つの意味が有ったりして。
どうでもいいね。
次回、もうすでに忘れられてるヴァンと再び冒険へ。一体帝国から王国へ向かうヴァンの目的とは。
次回をお楽しみに!