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短編集

嫌な男

作者: 星蘭


 和真は嫌な男だ。



「初めまして、もとかの友達?よろしくね、和真っていうんだ」


 にこり、さわやかに微笑みながら友達の顔をのぞき込む。そんな和真を私は横目で見る。何が、よろしくね、なんだか。そのつくったような笑顔が気持ち悪い。


「え、あ、はい!こちらこそ!お願いします!」

 と顔を赤く染めながら友達は返事を返す。それを見た和真は笑顔を絶やさないまま、友達を店内に薦めた。



 和真は、私より5歳年上だ。そして、喫茶店を経営している。顔が良いからか、朗らかな雰囲気が人を惹きつけるからか、喫茶店はいつも女性であふれかえっていた。とても、和真はもてるのだ。

 友達は女性が大半を占める店内に目を丸くしている。ですよね、女性の数が多すぎますよね。私は両親が帰ってくるまで、ここでくつろいだり手伝いをしているため見慣れたものだ。


「あ、ここ段差あるから気をつけてね」


 そう手を差し出され、友達はひどく恥ずかしそうに微笑み手を乗せる。それを見て和真はゆるりと微笑む。そんなに緊張しなくてもいいのに、可愛いねえ、なあんて呟きながら。


 それと同時に、勢いよく和真に絡みつく華奢な腕。


「和真さあん、会いたかったあ」

 色気むんむんのお姉様が和真にしなだれかかる。友達と和真がしゃべっているのを割り込んで。まるでお姉様は、和真しか見えていない、興味がないかと言うように。色気たっぷりの甘ったるい笑みを浮かべる。


 和真の手の上に自分の手をのせたままの友達は、恥ずかしいようなどうしていいか分からないような困惑した顔をしている。こんな場面に出会ったことがないのだろう。

 私は和真と居ると嫌でもそういうものを見てしまう。こんなのまだまだ序の口だ。


「ほら、もとかも見ているんだし。離れて」


 だから、和真がお姉様方を相手しないことも知っている。ばしんと冷たくお姉様の手を振り払う。お姉様はあからさまに不機嫌そうな顔をしたが、友達は安心したような表情をした。



 そんな顔するから和真に会わせるのが嫌だった。

 紹介なんかしたくなかった。


 その友達の表情は「もとかちゃん、私も一緒に喫茶店寄りたいの。いつも行ってるでしょ?」そう声をかけられて承諾したときの顔だ。そんなに仲良くもない私に声をかけてきた意味も知ってる。和真も間違いなく気づいてる。



「じゃあお茶飲んで帰って、おごっちゃう」

「本当ですか、うれしい」

 和真の台詞に友達は花が咲くように微笑んだ。


「もとかの友達だからね、特別だよ。内緒ね内緒」

 そうささやいた和真は、もとか手伝って、と私を手招きしながらカウンターの奥に消えていった。来た。心臓がどきどきしてきた。続いて消えようとした私の服を軽くつまむ手があった。名前もぼんやりとしか覚えてない友達。


「もとかちゃん、ありがとう」

 頬を染めながらはにかむ友達に、曖昧に微笑みながら私もカウンターの奥へと入る。



 その瞬間強い衝撃。



「う゛、」

 壁に乱暴に押しつけられる。うめくような声が零れた。ずるり、と体が崩れ落ちると腰を強く抱かれ、抱きしめられる。ぎりぎりと。力が強すぎて苦しい。痛い。痛い!


「やだ、いたい!痛いってば!やだ!」

「もとかの友達、」

 思ったよりも数段低い声で、びくりと体を体を震わせる。



「もとかの友達、俺のこと好きでしょ?明らかに見れば分かるよ。なんで連れてきたの?ねえ?なんで?あの子に協力してあげようとでも思ったの?そんな酷いこと俺にしようと思ったの?もとか、なんで?」


「そんなんじゃ、ないもん」

 本当にそんなのじゃない。ちがう。わざわざ喫茶店の目の前で友達に呼び止められたのだ。喫茶店に一緒に行こうと。そんなの誰が断れるの。


 ゆっくりと離れた和真の顔には、怖いぐらいの笑顔が浮かんでいる。朗らかな雰囲気なんて程遠い、怖い顔。


「俺は、もとかが好きなのに。どうして分かってくれない?」

 そう言って、唇を寄せてくる。黙って受け入れる姿に、少し落ち着いたようだ。



 向こうでは友達が待っている。

 和真を心待ちにして。

 和真に微笑みかけられるのを夢見て。

 和真に淡い恋心を抱いて。

 そう思うと、自分がどうしようもなく嫌になる。

 それを見越して和真はこんなことする。

 私が罪悪感を抱くように。


 本当に和真は嫌な男だ。

 私にも同じ血が流れていると思うとどうしようもなくなる。

 なんで同じ血が流れているんだろう。

 なんで繋がっているんだろう。


「お兄ちゃん、友達が待ってるよ」

「和真って呼べって言ってるだろ」


 苛立った様子で私の口を手でふさぐ。もうこれ以上、何も言うなというように。聞きたくないというように。


 兄なのに。私は妹なのに。

 兄弟なのに。血が繋がっているのに。

 兄弟なのに、愛し合うなんて。


 それは言い訳かもしれない。

 でも、どうして私なの。

 なんで私なの。


 ゆっくりと和真の手をはがす。


「私も、お兄ちゃんのこと、大好きだよ?」

 どうしていいか戸惑うような顔をつくって首を傾げる。


 私はお兄ちゃんが大好きだよ?

 何言ってるの?お兄ちゃんだもん、好きなのは当たり前だよ?やだ、お兄ちゃんお友だちにまで嫉妬しちゃって。本当にお兄ちゃんは私のこと好きだよね。そういうのシスコンって言うんだよ?知ってた?

 そう無垢な妹を装う。



「俺も好きだよ、もとか」

 和真はひどく傷ついたように笑う。


 

 分からないふりをして逃げるなんて最低だと思う。

 だけど、どうしたらいいのか分からない。

 どうにもできない。


 私は、和真を愛していない。一人の男の人としては見れない。

 でも、兄としては大好きなのだ。兄と離れるなんて考えられない。兄を拒絶して嫌うなんてできない。


 兄は嫌な男だ。

 だけど、私はもっともっと嫌な女。




報われない話でした。

最初は、お互いが好きだけどそれをちらつかせながらも一線を越えない兄弟みたいなノリだったのに、どうしてこうなった?どこからこうなった?


この後は、私の中では2パターンです。


①もとかに好きな人が出来て、必死に和真の前ではひた隠すけど見抜かれて、もとかは監禁

②このままずるずるいって、どうしようもなくなって、和真が我慢できなくなってもとかをおそって監禁


どっちも監禁パターン。

あれ、監禁が好きなのかな(笑)



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