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星空も見ずに
神楽坂研究所は、不夜城である。所員は今日も徹夜の予定であった。まだ22時、深夜とも呼べない。
「先輩。まだできませんか」
半ばというより、8割方は諦めの境地で彼女に問う。
「まあ待てよ」
そういって先輩はニヤリと笑う。野性的な女だ。見た目はお嬢様系なのだが。
「ストーリーができちまえば、こんなのすぐだろう? シミュレータはもうあるんだ。共有の計算機も予約してある。CPUもメモリも十分だ」
「そういうときに、問題が起こるんですよ」
「たとえば?」
「インフィニバンドのカードが壊れる。もしくはレイドのカードが壊れる」
「二重化してあるだろう?」
「そういうときは、だいたいそこも同時に壊れます」
「ふむ」
「あるいは宇宙人が攻めてくるとか」
「そちらはたぶん、アメリカが何とかするはずだ」
「そういうときに限って、宇宙の裏側から別の宇宙人が同時に攻めてくるんですよ」
「なんだ、宇宙の裏側って?」
「なんでしょうね。余剰次元とか?」
深夜を回り、今日もオフィスには煌々と灯がともっている。