廃墟の怪
申し訳程度のホラー苦手のかたはご注意を
廃墟の怪
さて、街へ出てきたもの何をしようか?
人を驚かすにもムードが欲しい。こんな明るい大通りで怪奇現象引き起こしてもあまり効果はないだろう。
建物に入ろうにも、実は中にいる人に招いてもらうか、その建物か人に縁がなければ入ることが出来ないのである。
これは神様から教えてもらった豆知識で幽霊になるとこの縁が大切にたってくると言う。
つまりは建物に入れず、ここらをさ迷うことしか今は出来ぬのである。
さてどうしようか……
考えた末、思いついたのがこれ。
心霊スポットぽい場所に肝試しに来た奴と縁を結ぼう!
実はこれは結構マイナーな方法らしく、縁の結び方の一例として神様も言っていた方法である。
怖いもの見たさのその心の隙間に縁を結ぶ。
詐欺のようなものである。
さぁ、思い立ったが吉日と言うではないか!
早速それっぽいとこ見つけるぞ。
それから丁度いい廃屋発見。先客がいないか確めて、待機することに。
何やら学校のチャイムが聞こえるので近くにあるのだろう。縁があれば行ってみたいものだ。
…数日後…
ついにカモが来たようだ。
女子の笑い声が聞こえる。集団だな。
バカめ!しかも逢魔時にやって来るとは。
下手に11時とか中途半端な時間に来られるより余ほどいい。
へへ、存分に驚かして、私の悦の糧となるがよい。
世の中は不条理だ……
力を持つ奴は持ってるし、持ってない奴は徹底的に叩かれる。
お母さんは持ってない人だった。
あの男に散々いいように金を搾り取られて、最後は過労で死んじゃった。
結局残ったのはお母さんを殺した男と多額の借金。
もうどうしようもない。家にいても暴力振るわれるだけ。毎日毎日八つ当たりの暴力。
どこに相談してもたらい回し。厄介なことは他のところへ。臭いものには蓋をしたがるご時世。何の解決にもならなかった。
学校に行ってもそうだ。周りから浮いた異物は格好の餌食だ。アイツ等の生け贄。周囲の社会勉強の道具にされる。
結局どこ行っても同じこと。
いっそ死んでしまおうかと思うもそんな勇気が出ない。
当たり前だ。それができているならこんなことにはなってない。
今日も今日とていじめっ子どもに連れられて学校裏にある廃屋にやって来ていた。
ここは自殺者の霊が出るとかでないとか噂されてる場所だ。
こんなとこ何で好き好んで来るのやら……
「おい、相川。一人でこんなか入って来いよ。そんで二階からこの写真ばらまけよ。この前撮ったお前のゲロ写真」
「いいねそれ。写真ってあのゲロ吐いたやつね。丁度いいじゃん」
何が楽しいのかゲラゲラ笑いながら渡してくる。どうしょうもない悔しさとむなしさが溢れてくる。このままこいつらを殴り殺せたらどれだけいいか……
だがそれはもうやった。でもどれだけ力を込めても、男二人にただの女一人がかなうはずがない。見事に返り討ちにあってこれはその時の罰のつもりだろう。
クソビッチが撮影してる。その動画でまた脅してくるのだろう。
ここにホントに幽霊が出るのなら。もういっそのこと私も連れていってくれないだろうか。
一人で無理なら付き添いの一人いればなんとか死ねる気がするから……
そんな終わった願いを持って私はこの廃墟へと足を踏み入れた。
廃墟は木造でいたるところにガタがきているようだった。夕日が射し込みそれがむしろいいも言えぬ怖さをかもし出していた。
あぁ、イヤだ……
どこからか誰かがこちらを伺っているかのように感じる。目がいたるところにあるかのよう。本当に気味が悪い。
ここに入ってから急に冷えてきたように感じる。……いや、わかってる。こんなの自分の気持ちの問題だって。でも、気味が悪いのは本当なのだ。さっきまであんなこと考えてたのに嗤える話だ。意気地無しにもほどがある。
そうこう考えてるうちに階段を見つけた。早く終わらせよう。何だかイヤな予感がする。
二階はいくつかの部屋に別れていようだ、さっきのように廊下を一直線に進めばいいわけではなく。一つは部屋に入らねばならない。
入り口前から見た窓ならすぐ前の部屋だ。
部屋の戸を開けようと手を伸ばすが、その手が自然と震えてるのが目についた。
はは、私ってこんな怖がりだったっけ。
意を決して戸をあける。だが、開けた途端に後悔した。子供部屋だ。心情的にも雰囲気的にもイヤなことだ。何でよりにもよって……
色々な物がそのままのようで余計に気味が悪い。さっさと終わらせようと窓から下を見下ろした。
そこに狐の面を被った人が立っていた。
こちらを見上げるように……
目が合った。すると全身に氷水を被ったように感じて、動かなくなった。
あぁ、目をソラシタイデモウゴケナイ………
それからどれだけ目を合わせていたのだろう。一瞬のようにも何時間にも感じれたそれが。その人がゆっくりと正面を向くことで終わりをつげた。
それから、まるで滑るかのようにこの家に入ってきた。
え、入ってきた?え、え、え、
考えがまとまらない。
どうする。どうする。どうする。
マズイマズイマズイマズイ
あれはヤバイ。絶対にヤバイ。
アイツらはどこに行ったんだ?
いや、そんなこと考えてる暇はない。
アレがくる。窓から跳ぶか。そうだこのぐらいの高さならいけるはずだ。
そう考え再度窓を見ると。
そこには分厚い鉄板で打ち付けられた窓があった……
え……何で……さっきまで無かったのに………
言いようもない恐怖が私を包む。
だがそれどころではない。
逃げねば、いや無理だこのまま行っても階段で鉢合わせる。
なら隠れるしかない。
どこか隠れる場所は…
キーーー
戸が開く音がする。
ギシ、ギシ
誰かが歩いて近づいてくる。
怖い怖い怖い怖い怖いコワイコワイコワイ
心臓がうるさい。息が苦しい。今は少しでも気配を消さなくちゃいけないのに。
死にたくない。純粋にそう思った。
生きてきても何にもいいこと無かったのに。
でも、生きたいと切に願った。
散々神様なんていないと思ってたはずなのに神様にお願いし続けた。
まだ死にたくない。生きていたい。幸せになりたいよ………
もういいやなんて考えてたのに願っている。
きっと私は世界一の道化だろう。
でも、惨めでも愚かでも切に祈った。
ギシ、ギシ、ギシ………
音がする。だんだんと近づく足音。
私の前で止まった。
ガコン
向かいのクローゼットが開かれる。
するとそのまま
ギシ、ギシ、ギシ……
足音が遠ざかる。
キーーー
戸が閉まる音。
私は助かった……
ゆっくりとおもちゃ箱から出てくる。
生きた心地がしなかった。
今だに生きていることが不思議である。
アレはなんだったのか。あの三人はどこにいったのか。疑問が生まれてきたがそれよりもここから出ることが最優先である。
戸を少し開け廊下を見る。
人の気配はしない。
ゆっくりと音を消し一階へ降りる。
降りたら一直線の廊下である。一気に走り抜ける。
後ろを振り返らずに全力で、廃墟を出て人通りのない道を半分まで走り抜いて気が抜けた。
安心した。もう大丈夫だと。そう思って振り返る。
みーツケタ。