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第7話 ふがいない

 ダンジョンへの挑戦者が増えたことで、ヒミカとタキリはダンジョンの最下層でスクリーンを見ながら、嬉しそうに紅茶を飲んでいました。


「やりましたね、タキリちゃん!

 タキリちゃんのアドバイスの通りに、かわいいモンスターを配置して大正解でした」


 ヒミカがタキリに笑顔で声をかけます。


「い、いえ、アドバイスなんてとんでもないです!

 ヒミカ様が生み出されたネッコがかわいいからですよ!

 私は単にかわいいものが好きなだけで」


 タキリは謙遜をしますが、ヒミカはいいえと首を振ります。


「私だけでは、かわいいモンスターを配置することはなかったでしょう。

 だから、これからも気がついたことや思ったことは何でも言ってくださいね」


 ヒミカとタキリは、今日もお茶を飲みながら、ダンジョンに挑戦する人々を見守っています。


「ネッコの魅力は絶大ですね」

 などと他愛もない話をしていると、どんどんと足を止めることなくダンジョンの奥へと突き進む一団がありました。


 ヒミカはむむむと眉間にしわをよせ、右手の人差し指を空中に文字を書くように動かして、スクリーンを操作します。その一団をズームアップしよく見えるようにして、ヒミカはスクリーンを凝視します。ネッコはその一団の前にも現れているのに、その一団は何の反応も示しません。


 歩き続ける一団の後ろで置き去りにされたネッコは、にゃんというポーズをとったままで固まってしまいました。自らの可愛さが足らなかったと思ったのでしょう、ネッコは目を見開き、微動だにしません。


 そんなネッコをスクリーン越しに見て、ヒミカは「えっ、ネッコを素通り!?」とつぶやいて目を見開き、タキリは「ネッコ……」とつぶやき口を両手で抑え、涙をこらえます。


 そんな固まったままのネッコは、しばらくしてやってきた挑戦者に撫でられることで、まだまだいけると思ったのでしょう、ごろごろと喉を鳴らしながら、挑戦者に甘えました。ネッコが元気を取り戻したことで、ヒミカとタキリは安堵の息を吐き、先ほどの一団をスクリーンで追うことにしました。


 ヒミカは厳しい顔でタキリに告げます。


「タキリちゃん、恐るべき挑戦者が来たようですね」


「ネッコの魅力が通じない相手がいるなんて」

 と、タキリは神妙な顔で頷きながら、不安そうにつぶやきました。


 ヒミカはキリッと表情を引き締めたまま、タキリに話しかけます。


「タキリちゃん、この挑戦者たちはきっとこのまま1階層目を突破してしまうでしょう。

 ですが、これも想定の内です。この挑戦者が2階層目を突破できるか見ていようではありませんか!」


「わかりました、ヒミカ様!

 この挑戦者たちがどこまでやれるのかじっくりと観察しましょう!」


 ヒミカとタキリは、挑戦者がどこまでやれるのかを見極めようと鋭い視線をスクリーンに送るのでした。



 ◆ ◆ ◆



 時間は少しさかのぼります。

 ヒミカのダンジョンに挑んだ挑戦者達は、ネッコとのふれあいを満喫した後、日も暮れるのでダンジョンを出ることにしました。


 ヒミカは夕方になると、帰りたくなるような切ないメロディをダンジョン内に流れるようにしています。そのためほぼ全ての挑戦者が、「あっ、帰らなきゃ」とつぶやきながらダンジョンを後にしたのでした。1人も2階層目に通さなかったネッコ達は、うれしそうにじゃれ合います。


 その様子を見ていたヒミカは、ふふんと得意そうにしながらタキリに説明します。


「この切ないメロディを流すことで挑戦者たちに、そろそろ夕飯の時間だと知らせることが出来るのです。ダンジョン内でも規則正しい生活をしてもらいたいですからね」


 それを聞いたタキリは、「さすが、ヒミカ様!」と目を輝かせてヒミカを見つめます。

 さらにヒミカは説明を続けます。


「いいですか、タキリちゃん。

 神も人も健康が一番大事なのです。健康を維持するためには、規則正しい生活とバランスのとれた食事、適度な運動が大切なのですよ!」


「はい、わかりました!」


 ヒミカの言葉にタキリは元気よく頷きます。



 1階層目をクリア出来なかった挑戦者達はダンジョンの外に出ると、口々にネッコの魅力を語り合いました。


「あぁ、良いダンジョンだったな」

「うむ、ネッコとあんなにふれあえるなんて思ってもみなかったよ」


 男達は、満足げに語り合い、酒場へと向かいます。

 男達の横を子供達が駆け抜けていきます。


「あー、つれて帰りたかったなぁ」

「アスハちゃん、だめだよ。ペットをかうのは大変なんだから」

「わかってるって」

「でも、ネッコとあそびたかったら、ヒミカさまのダンジョンに行けばいつでもあそべるよ」

「うん、明日も行こうよ」

「わかったー」

「もうじき日もくれるから、また明日ね!」

「「「ばいばーい」」」


 他にもダンジョンに挑んだ挑戦者たちは口々に、ネッコとのふれあいについて語り合いました。

 そんな中、ダンジョン帰りの挑戦者たちの話を聞いて忌々しそうにする者達もいました。


「まったく、何をやっているんだい!」

「だれも一階層目すら突破できなかったそうじゃないか」

「なんでもネッコが出て、その魅力にやられたそうだよ」

「ネッコですって?

 ネッコなんかよりも、ヒミカ様に早くダンジョンから出てきてもらうことの方が重要でしょう!」

「ふがいないね! これはあたい達が、ダンジョンをクリアしてやるしかないね」

「ええ、その通りです」

「それじゃ、明日、みんなでダンジョンに潜ろうじゃないか!

 それでヒミカ様に戻ってきていただこうよ」

「ええ、そうしましょう」


 こうして、ネッコ達に骨抜きにされた挑戦者達には任せてはおけないと思った新たな挑戦者達が、ヒミカの作ったダンジョンに挑戦することになったのでした。



 ◆



 ネッコにうつつを抜かさないと言っていた女達が4人でヒミカのダンジョンに潜ります。

 すでにダンジョンには子供達が入って、ネッコ達と遊ぶのに夢中になっています。


 ネッコと戯れている挑戦者の横をすたすたと女達は歩み、奥へ、奥へと進んでいきます。

 何度も現れるネッコ達には見向きもしません。ヒミカとタキリに注目されているとも知らずに、女達はダンジョンのクリアを目指して下へと続く階段を探しました。


 女達は、しばらく探索をすることで、なんとか下へ続く階段を発見することが出来ました。


「おし、行くよ」

 と、先頭を歩く女が階段を下りていきます。


「この調子なら、なんとかダンジョンをクリアできそうですね」


「気を抜いたらダメですよ。

 ここはヒミカ様の作られたダンジョンなのです。

 何が待ち構えているかわかりませんよ」


 女達は気を引き締めながら、2階層へと足を踏み入れました。

 そんな女達を出迎えるのは、新たなモンスターです。


 ようやく出番が来たかと言わんばかりに、「ハッハッハッ」と荒い息をしています。

 そして、勢いよく女達の前へモンスターが飛び出しました。女達はまたネッコが出てきたのかと油断をしていましたが、出てきたモンスターの姿を見て固まってしまいます。


 女達の目の前に飛び出してきたのはイッヌだったのです。

 それもただのイッヌではありません。モデル・シバのイッヌです。


 イッヌはまるで笑っているかのように目を細めると、見ていろよと言わんばかりに、シバイッヌドリルを繰り出しました。あまりにも早く身体を震わせるために、回転しているように見えます。この技は、害のない幻覚スキル・シバイッヌドリルと呼ばれています。


 突然のイッヌの登場、そして、シバイッヌドリルによって、イッヌ派だった3人の女がその魅力にやられてしまいます。


「はわわ」

「イッヌだよ! それも、モデル・シバだよ!」

「ドリルだ! ドリルが発動された!」


 ネッコには見向きもしない、イッヌ派の女達はあっという間にイッヌのかわいさにやられてしまい、テンションがぐんぐんアップしました。


 唯一イッヌ派でなかった女は、仲間の女達のいきなりのテンションアップについていけません。


「あ、あんた達どうしたんだい?

 ダンジョンの奥を目指そうよ」


 女はダンジョンを進もうと促しますが、イッヌの魅力にやられた女達にはその言葉は伝わりません。


「ごめん。今は無理」


 女のひとりは、しゃがみ込んでイッヌをなでながら先へ進むことを断ります。


「おー、よしよしよし」

「良い毛並みですね。つやつやですね」


 残りの2人も、イッヌの魅力にやられて、先に進もうとはまったくしません。

 その後も、イッヌ派でない女は、ダンジョンの奥へ進もうと促しますが、誰も動こうとはしませんでした。女は仕方なく、1人だけで先に進むことにします。


 こうして、数少ない2階層への到達者も、イッヌというかわいいモンスターの魅力にやられてしまい、多くの者が先に進むことができませんでした。



 ◆



 ダンジョンの最下層では、ヒミカとタキリがスクリーンを見つめています。


「ふふふ、見ましたか、タキリちゃん」

「はい! イッヌたちのおかげで、あの挑戦者達も骨抜きになったみたいです!」

「そうです。1人だけイッヌの魅力にも、やられなかった女性がいましたが、彼女がどこまで行けるか見物ですね」


 ヒミカは悪そうな優しい笑みを浮かべています。タキリもヒミカを見習って悪そうな笑みを浮かべようとしましたが、苦笑いをしているようにしか見えません。


「タキリちゃん? どうしたの?」


 引きつった笑顔を見せるタキリに、ヒミカは心配そうに問いかけます。


「いえ、何でもありません!」


 タキリは慌てて照れ笑いをします。

 こうしてヒミカの作ったダンジョンは、挑戦者達を簡単に下へと進ませないのでした。

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