第43話 凍るボス部屋
ヒミカが姿を現したことにより、ネッコとイッヌは身体の震えが止まり、うれしそうにシッポを振ります。
「にゃん!」(ヒミカ様!)
「わんわん!」(本当の主がやってきた!)
ヒミカはあらあらと言いつつ、ネッコとイッヌを優しくひとなでして、ツクヨの横の回答席に座ります。
「ヒミカ姉様、お久しぶりですね」
ツクヨは冷たい微笑を浮かべながらヒミカに挨拶をします。
「ええ、3,4ヶ月ぶりくらいですかね」
「ヒミカ姉様、そろそろ地上に戻ってくれませんか?」
「太陽は自動運行しているし、私がいなくても特に問題はないと思いますが?」
ヒミカは唇に指を当てながら首を傾げます。
その様子にツクヨは首を左右に振りながら、ジトッとした視線をヒミカに送ります。
「催事の際にヒミカ姉様がいないと私がでないといけないのですよ。笑顔で手を振ったり、挨拶をしたりするなど私はやりたくありません。それに私が出ると気を失う者もいますからね」
「ツクヨちゃんは、いつもツンツンしてますからね。いつのまにかプレッシャーを与えているんでしょうね」
「ツンツンとかどうでもいいので、ヒミカ姉様、地上に戻ってきてください」
「でも、私は誰かがダンジョンをクリアするまで帰らないって言ってしまいましたから、帰ることはできません」
「どうしても帰っていただけないので?」
「はい。誰かがクリアするまでは帰りません」
ツクヨはこめかみに指先を当てながら、ふぅと小さくため息を吐きました。
「わかりました、それでは私が最下層まで行き、ヒミカ姉様を地上に連れ戻しますわ」
冷たい微笑をヒミカに向けたツクヨからは、凍てつくようなプレッシャーが周囲に放たれます。
ツクヨの横にいたオサノは半分凍り付き、カシコマルもしおれていた葉がぴきぴきと凍っていくのかと思いきや、ダンジョンに攻撃と判断されたようで凍り付くことはありませんでした。ツクヨの冷気もヒミカには影響が全くありません。ネッコとイッヌはヒミカの影に隠れていたおかげで凍結しないですみました。
「ぶぇっくし」
オサノが大きくくしゃみをすると、はりついていた氷がばらばらと落ちていきます。
「ツクヨ姉上、凍り付くので鎮まって欲しいのである。
そして、ヒミカ姉上、お元気そうで何よりだ。母上はどうしているかご存じないだろうか?」
「お母様?
お母様は私たちが私たちが生まれる前に死んでしまったじゃないですか?
もしかしてオサノちゃんはまだお母様を探しているのですか?」
「なぁ!?
母上が死ぬはずがないのである!
まだまだこの世界のどこかにいるはずなのである!」
ヒミカの言葉に、オサノを中心としてぶぉおおと激しい風が巻き起こります。
しかし、すぐさまツクヨがオサノにグーパンチで殴り飛ばされたことで風は止みました。
「お前もむやみに風を巻き起こすな」
ツクヨの言葉に、オサノは頬を押さえながらおずおずと立ち上がり、ボソリと呟きました。
「ツクヨ姉上には言われたくないのである」
「なにか言ったかしら?」
「いえ! 何も言っておりません!」
オサノは素早くもといた席に座ります。ツクヨとオサノのやりとりを見て、ヒミカはうれしそうに微笑みました。
「2人とも仲よしね」
ヒミカの言葉に、ツクヨとオサノは声をそろえて「「そんなことない」」と言ってしまし、ヒミカに「ほら、仲良しじゃない」と笑われたのでした。
こうして三大神が揃い、ドキドキ早押しクイズに臨むことになったのです。
◆
ピンポーンという音と共にヒミカが答えを言ったことにより、三大神によるドキドキ早押しクイズは開始から3分も経たずに終わりを迎えました。
「くっ、なんで問題の最初の3音しか聞いてないのに答えがわかるのよ!」
ツクヨは、いつになく感情をむき出しにしてヒミカに詰め寄りました。
「なんでって、このダンジョンを創ったのは私ですよ。
知恵の樹のカシコマルが考えていることくらい想像がつきます」
ヒミカはふふと誇らしげに胸を張りました。そんなヒミカを見つめながら、ツクヨからは非常に強い冷気が辺り構わずまき散らされます。フロアマスターのカシコマルは気まずげに、そっと目をそらしました。
「そ、それでは、今回の早押しクイズはこれにてお終いじゃ!
12時間後に再び開催されるまでこのフロアは通ることはできないぞえ」
カシコマルは目をつむりながら、半ばやけっぱちで叫びます。
ヒミカは席を軽やかに立つとツクヨとオサノに「それじゃ、私は最下層に戻りますね」と手を振って魔法陣の中に消えて行きます。
「にゃにゃん!」(ま、まってヒミカ様!)
「わわん!」(お待ちください主様!)
ネッコとイッヌもあわててヒミカの後を追って魔法陣に消えて行きました。
残されたツクヨとオサノとカシコマルの間には気まずい沈黙が訪れます。動くことのできないカシコマルは目をつむり、口をぐっと閉ざし早く時間が過ぎることだけを祈り始めました。オサノは凍える身体をさすりつつ「さすがはヒミカ姉上。仕方ないのである、また宿に行こう」と回答席を立ちました。
「ヒミカ姉様……絶対最下層まで行ってあげるんだから!」
カシコマル以外はすべて凍り付いてしまった部屋の中心でツクヨは力強く叫んだのでした。




