第40話 帰らぬオサノ
本日2話目
「がんばれ!」
ダンジョンの最下層ではヒミカが両手を握りしめながら応援をしています。
「がんばれ!」
タキリもヒミカと一緒にスクリーンを見ながら応援をしています。
ヒミカ達はあまりにも一方的なオサノの進撃に、フロアマスターやモンスターたちを応援し始めたのでした。しかし、ヒミカ達の応援の効果はなく、オサノは100階層まであっという間に辿り着いたのです。
オサノは今、100階層のフロアマスターの部屋へと足を踏み入れようとしているのでした。
「タキリちゃん、がんばってくださいね」
ヒミカはタキリの手を握りしめ、応援の言葉をかけます。タキリはヒミカの目を見てしっかりと頷きます。
「が、がんばります!」
とタキリはうわずった声で返事をしたあと、部屋の外へと出て行きました。
「大丈夫でしょうか?」
ヒミカは心配そうにタキリが出て行った扉を眺めながら、ぽつりと呟いたのでした。
◆
100階層のフロアマスター、知恵の大樹であるカシコマルは部屋の中に入ってきたオサノに声をかけます。
「ふぉふぉふぉ、よく来たな、挑戦者よ」
「おお、木がしゃべっておる。ふむ、顔がある人面樹か。さすがはヒミカ姉上のダンジョンだな。
この階層には吾輩の行く手を遮るモンスターはおらぬのか?」
オサノは部屋の中央にどっしりと構えているカシコマルを見上げながら問いかけました。
「ふぉふぉふぉ、フロアマスターのことか?
それはこのワシ、知恵の大樹であるカシコマル、おい! 口上の途中で攻撃を仕掛けてくるでないわ!」
オサノは目の前の大樹がフロアマスターと聞いて、すかさず攻撃を仕掛けたのです。しかし、オサノの攻撃はカシコマルに当たる前にかき消えました。
「なんと!? 吾輩の攻撃が消えてしまったぞ!?
いったいどういうことだ!」
オサノの動揺を見て、カシコマルは得意げに説明を開始します。
「ふぉふぉふぉ、このフロアでは一切の戦闘行動ができないのじゃ。ヒミカ様に特別に設定してもらっておるからのう」
オサノはカシコマルの話しを聞いて感心したように頷きます。
「さすがは、ヒミカ姉上の力だな。
このフロアでは戦闘できないということは、吾輩はこのまま通ってよいのか?」
カシコマルの返事を待たないまま、オサノは次の階層に続く階段へと進みました。しかし、見えない壁によって遮られ、階段を下りていくことはができません。
「挑戦者よ、お前さんはまったく人の話を聞かぬな」
あきれたような表情をしたカシコマルが、オサノに声をかけました。カシコマルは「ゴホン」と咳払いをし、気をとりなおしてオサノに語りかけます。
「挑戦者よ、ここでは知恵を試させてもらうぞ」
「なに!? 知恵だと!?」
「うむ! 名付けてドキドキ早押しクイズじゃ!」
カシコマルがクワっと目を見開き、タイトルを宣言しました。しかし、オサノは首を傾げながらカシコマルに質問をします。
「早押しと言われても吾輩しかおらぬのだが?」
「うむ、心配するでない。
本来であれば複数のパーティーで競い合ってもらうのじゃが、ここまで来たのはおぬししかおらぬ。だからおぬしと一緒に知恵を試す者達は抽選で選んでおる。おぬしはそこの5つある回答席の1つに腰掛けるがよい」
オサノは素直に回答席の1つに腰掛け、訝しそうな視線をカシコマルに向けます。
「それでは、紹介しよう269階層のフロアマスター、カエッルのゲコベエ!」
カシコマルの横に発生した魔法陣の中から、ピョンとゲコベエが姿を現します。
ゲコベエはぷんぷんと怒りながら、カシコマルに文句を言いました。
「ゲコ!? カシコマル殿、階層を紹介されるのは困るであります! 情報は大切にしてほしいのであります!」
「ん? そうか、すまんな、言うてしもうた」
「ゲコゲコ、気を付けてほしいのであります!」
ゲコベエは尚も文句を言いながら、オサノの横の席にピョンと座ります。横目でちらりとオサノを見たゲコベエは、無意味に回答席の前に用意されていた机の上に置いてあるボタンを押しました。ピンポンという音がなりひびき、カシコマルから注意を受けたのは言うまでもありません。
「さて、次は、抽選会場に紛れ込んでいて、そして何故か当選してしまった名もなきネッコ」
カシコマルの横の魔法陣から、真っ白なネッコが現れます。
「にゃん!」(がんばる!)
ネッコはゲコベエの横の席に飛び乗りましたが、そのままではボタンを押せないので、机の上に飛び乗り、そして、そのまま回答ボタンを前足でポチッと押しました。ピンポンという音が鳴り響き、ネッコもカシコマルから注意を受けます。
「まったく、無意味にボタンを押でないわ。
さて、次は、ふむ、こやつはすでに突破された階層のフロアマスターじゃし、本人からも紹介して欲しいと言うことなのでよかろう。30階層のフロアマスターのタカマルじゃ」
カシコマルの横の魔法陣が輝き、イワトビペンギンのようなモンスター、タカマルが現れました。タカマルは鋭い視線をオサノに向けて羽をバサッと広げます。
そして、短い足をクロスさせスタイリッシュなポーズを決めてからオサノに向かってもの申します。
「クエー! 30階層では遅れを取ったが、ここで挽回してみせる!」
オサノはよくわからないので、「そうか」とだけ答えました。タカマルはネッコの隣の席になんとかよじのぼってすわります。
「最後は、ヒミカ様の眷属の一柱でもあるタキリ様じゃ」
カシコマルの横の魔法陣から、タキリが光と共に現れます。
タキリはあわあわしながらも、カシコマルやオサノ、ゲコベエ達に向かって頭をさげ、「よ、よろしくお願いします!」と挨拶をしました。
「おお、タキリではないか!
ヒミカ姉上は息災か?」
「は、はい。ヒミカ様はいつも元気です!」
オサノの質問に答えながら、タキリは残った最後の席に腰掛けます。
「それでは回答者も揃ったことじゃし、ドキドキ早押しクイズのスタートじゃ!
ルールは簡単。10ポイント先取した者だけがこの先の階層に進めるから、心して答えるがよい。
お手つきは1回休みになるが、失敗を恐れず回答することを期待するぞ。
最後にドキドキ早押しクイズは12時間に1度しか開かれないから負けるとなかなか先へは進めぬぞ」
カシコマルと回答者の間で空気が張り詰めます。
「それでは第一問!
本日はダンジョンオープン何日目でしょう!」
ネッコがすかさずボタンを押し、ピンポーンという音が鳴り響きます。
「名もなきネッコよ、答えをどうぞ」
「にゃん!」(3ヶ月くらい!)
「不正解! 何日目かで答えねばならんぞ」
「にゃーん……」(そんな……)
ネッコがしょんぼりしている横でタキリがピンポンと回答ボタンを押しました。
「78日です!」
「正解! さすがはタキリ様じゃ」とカシコマルがタキリを褒めると、えへへとタキリはうれしそうにはにかみます。
こうして100階層でドキドキ早押しクイズがスタートしたのです。
そして、オサノの進撃はこの100階層で止まったのでした。




