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第4話 ダンジョンを作り込みます

 ヒミカが両手を胸の前で組み、うーんとうなっています。

 そんな様子を心配したタキリがヒミカに声をかけました。


「ヒミカ様、どうされました?

 何かお困りですか?」


 ヒミカは、うーんとうなりつつも、ぽつりぽつりと話をし始めます。


「タキリちゃん。あのですね」


 タキリは、ヒミカの顔を見つめ、一言も聞き漏らすまいという真剣な表情でヒミカの声に耳を傾けます。


「私は今、どんなモンスターを配置すれば良いのか迷っているのです」

「モンスターですか?」

「はい。モンスターです」


 タキリの質問に少し上の空でヒミカは返事をします。そして、自分に言い聞かせるかのようにさらにぽつりぽつりと語るのです。


「このダンジョンはですね」

「はい」

「小さな子供達にも楽しんでもらいたいと思っているのです」

「はい」

「だから、低階層にどんなモンスターを配置するべきなのかを悩んでいるのです」

「子供相手だとかわいいモンスターがいいんじゃないんですか?」

「かわいいモンスターですか?」

「はい。怖いモンスターが多いところだと、私だったら入ろうと思いません。

 だから、かわいいモンスターが多いとうれしいです!」

「なるほど! タキリちゃんの目の付け所は素晴らしいです!

 そのアイディアをいただきます!」


 ヒミカはタキリの両手を手に取り、うれしそうに笑いました。

 タキリもヒミカから褒められたので、うれしそうに笑います。



 ◆



 ヒミカは早速、ダンジョン作成キットでモンスターを生みだし始めます。


 1階から5階までは、子供たちでも楽しめるかわいいモンスター達だけにすることにしました。さらに1階から5階の宝箱の中からは、お菓子やおもちゃが出てくるように設定します。


 真面目なヒミカは、最下層のひとつ上の階層である299階で、かわいいモンスター達を集合させ、どのようにダンジョンの挑戦者たちと対峙すればいいのかの指導を施します。この指導にはヒミカとタキリが当たることになりました。クッチとニミは別の仕事を担当しているために、この指導には関わりませんでした。


 かわいいモンスターたちは、ヒミカとタキリによって熱い指導を受けています。

 

「違います! もっと目を潤ませるのです!

 そう! そうです! やればできるじゃないですか!」


 ヒミカが声を張り上げながら、かわいいモンスターたちに熱く指導をしていきます。アメとムチを使い分け、モンスターたちの実力はめきめきと上がっていきました。


 タキリは、ふにゃっと顔をにやけさせながら、かわいいモンスターたちにブラッシングをしていきます。


「はー、かわいいですねぇ。良い子達ですねぇ。

 はいはい、一列に並んでくださいね」


 顔はふにゃっとしていますが、タキリのブラッシングの手際は素晴らしく、あっという間に数多くのモンスターたちのブラッシングをやり遂げていきます。


 ヒミカとタキリのかわいいモンスターたちに対する訓練は丸一日かかりました。



 ◆



 翌日、ヒミカとタキリは朝礼台を用意して、広大な299階にびっしりと並んだかわいいモンスターたちの前で、送り出す前に最後の言葉をかけます。


「あなたたちは、私とタキリちゃんの辛く厳しい訓練によく着いてきてくれました」


 ヒミカの言葉に、かわいいモンスターたちのあちこちから鳴き声があがります。タキリは目にうっすらと涙を浮かべ、そっと人差し指で涙をぬぐいました。ヒミカはさらにモンスターたちに語りかけます。


「ダンジョンにいるからには、辛い時や苦しい時があるでしょう。

 ダンジョンに挑戦してくる挑戦者たちから、暴力を振るわれそうになることもあるでしょう。

 そんな時は、私たちとの訓練を思い出してください! そして、共に苦しい訓練を成し遂げた仲間がいることを思い出してください!」


 かわいいモンスターたちからは、先ほどよりもさらに大きな鳴き声があがります。タキリはあふれる涙を止めることができません。


「危ないときには逃げてください!

 生命はひとつしかありません。決して自分の生命を無駄にすることなく、昨日でも、明日でもない、今を大切に、後悔のない人生を歩んでください!」


 ヒミカは自分の言葉に違和感を覚えたのか、斜め上に視線をやりました。


「ごめんなさい。間違えました!

 人生ではなく、モンスターなので、モン生ですね」


 かわいいモンスターたちとタキリが少しだけ笑いました。

 ヒミカの長い訓示はさらに続き、訓示が終わったあとに、かわいいモンスターたちは1階から5階へと転移門をくぐって散らばっていきます。ヒミカの訓示を聞いたことで、モンスターたちのやる気は十分な様子でした。


 最後の一匹を見送ったヒミカとタキリは淋しさを感じつつ、そっと転移門を閉じます。


「ヒミカ様、みんな、良い子達でしたね」

「ええ、タキリちゃん。あの子達ならきっと立派に役目を果たしてくれるはずです」


 ヒミカとタキリは、朝礼台を二人で倉庫に運びこみ、300階へと戻っていきました。



 ◆



 ニミは一人で、30階層以降に罠を設置していきます。


「死なないのだから容赦は必要ないわね」と冷たい表情でニミが独り言を呟きました。


 もしもこの場にヒミカがいたのであれば、「ニミちゃん、怖いです」と言って慌てて止めていたでしょう。しかし、歴史にもしはありません。


 ニミの容赦のない罠が30階層以降にはびっしりと設置されました。

 挑戦者を必ず殺すというニミの意気込みを感じさせる罠の配置です。


 30階層以降まで潜ることができる挑戦者があまり出てこなかったために、このダンジョンは「ヒミカさまの優しいダンジョン」と呼ばれ続ける事になったのです。


 ダンジョンに挑んでくる挑戦者たちの活躍をワクワクしながら、モニターで見ていたヒミカとタキリが、ニミの罠にどん引きするのはまだまだ先の話です。



 ◆



 クッチは、普段はヒミカの護衛も兼ねています。

 単なる刀好きではありません。


 ヒミカの実力は最高神だけあって、クッチの何倍も強いのですが、皆に崇められる神様はきれいでなければなりません。その手が血に汚れてはならないのです。


 そんなヒミカの側にあって、汚れ役を一身に引き受けているのがクッチです。ヒミカ自身に気づかれぬように細心の注意を払いつつ、その役目をこなしています。かつてヒミカに生命を救われたクッチは、ヒミカの為に行動できることに喜びを感じます。


 クッチがヒミカ達と離れて一人訪れたのは、ダンジョン内に特別に作ってもらった修練場です。

 修練場にはダンジョンのどこにでもつながる扉がありました。


 クッチの部下達が赤色で統一した鎧でその身を包み、クッチの前に一列に並びます。

 普段は半眼のクッチがこの時ばかりは、燃えるような瞳をきらめかせ、目を見開き、部下達に指示を出します。


「このダンジョン内で、非道なことをする者には容赦するな」


 クッチの身から放たれる闘気により、修練場の空気が張り詰めます。


「生かす価値のない者は、ヒミカ様の目に入らぬうちにその生命を刈り取れ」


 部下達は、物音ひとつさせずに首を縦に振り、受命しました。



 ◆



 ニミとクッチがそれぞれ個別の仕事をこなしている間に、ヒミカとタキリは二人でさらにモンスターを配置していきます。6階からはダンジョンらしいモンスターを配置することにしました。


 ダンジョン作成キットに付属されているモンスター図鑑から、気に入ったモンスターをどんどん配置していきます。


「ヒミカ様、この巨人なんて、深い階層にぴったりじゃないですか?」

「いいですね。20階層くらいに、その一つ目巨人を配置しましょう」


 こんな調子でヒミカとタキリはパラパラと図鑑をめくりながら、二人で相談をしつつ、適当にモンスターを配置していきました。きりがいいからと100階層に神龍という強力なモンスターを100体配置してしまい、ニミとクッチから、かなり力のある神様でも100階層を突破できないと言われて、慌ててモンスターの配置を見直したりもしました。



 ◆



 こうして慌ただしく、宝箱の設置、モンスターの配置、罠の設置をやりきり、ダンジョンのオープンの日を迎えることになりました。

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