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第37話 オサノ、ダンジョンに向かう

「最近、仕事が多いわ」


 ツクヨは机の上に乗せられた書類を見ながら呟きました。


「そ、それは、ヒミカ様がダンジョンにこもられているために、最高神に決済していただく書類がすべてツクヨ様のところに回ってきているのです」


 ツクヨの眷属の神が慌てたように説明します。ツクヨは下唇に指を触れながら、ふぅとため息をつきました。


「まだヒミカ姉様は帰ってこないのか。

 ダンジョンに挑戦している神々は何をしているのかしら」


 眷属の神は言いにくそうに、ダンジョンに挑戦している神々の現状を伝えます。


「その、ダンジョンに挑戦している神々は、30階層まで辿り着いて全滅したようです」


「30階層? ヒミカ姉様のダンジョンは、100階層以上あるのよね?」


「はい。少なくとも100階層はあるそうです」


「すでに1ヶ月以上経っているのに、30階層すらも突破できていないのでは、期限までのクリアは無理なのじゃないかしら」


 眷属の神はダンジョンクリアは自分に関係ないことながらも、ツクヨから発せられるプレッシャーに冷や汗を流します。


「オモカネ殿率いる神々は、神器を持ち出し、さらに前回以上の数でダンジョンの踏破を目指しているようです。期限までにはダンジョンの踏破に成功できるのではないでしょうか」


 ツクヨは眷属の言葉を聞きつつ、手に持った書類にサインをし、処理済みの箱に入れました。再びふぅとため息をつきました。


「オモカネには荷が重かったのかしら。あら、これは」


 ツクヨは次に手に取った書類に目をやりつつ、しばし思案します。ツクヨが手に持っている書類には、オサノの修理に対する陳情書でした。


 陳情書には多くの困った実情が書かれています。


 ・オサノ様の修理がおおざっぱすぎて困っています。家を直してくれたですが、扉がないので窓から出入りするしかありません。


 ・メロン農家だったのですが、オサノ様がスイカが好きと言うことで全てスイカを植えられてしまいました。スイカはメロンより安いので収入面で不安です。


 ・オサノ様が近くに来られると動物たちが騒いで落ち着いていられません。私は牧場を運営しているのですが、オサノ様が牧場の近くに来るだけで、乳牛が牛乳を出さなくなりました。


 ・オサノ様が料理を振る舞ってくれましたが、料理を食べた村人がおなかを壊しました。それだけならば我慢できたのですが、オサノ様が料理を作りすぎて備蓄していたお米の8割が消費されました。冬が越せそうにありません。


「ふむ、ヒミカ姉様がオサノに修理をさせなかったのは、これが理由なのかもな。しかたない、オサノには別のことをやってもらうことにしよう」


 ツクヨは陳情書を眷属に渡して、オサノの修理に対する後始末をしておくように指示します。


「食料などの補填はどうしましょうか?」


 書類を受け取った眷属から問いかけられたツクヨは、自身が管理している月読宮から出しておきなさいと答え、席を立ちます。


「あの、ツクヨ様どちらに?」


「オサノに別の仕事を与えてくるのよ」


 ツクヨはそのまま颯爽と部屋を出て行きました。



 ◆



 オサノは良い笑顔でクワをふるっています。


「えっさ、ほいさ、えっさ、ほいさ」


 オサノは荒れていた森に木を植えるよりは畑にした方が良いのではないかと考えクワをふるっているのです。その様子を見ていた村人達は遠くから見守るしかありません。


「なんで、オサノ様はクワをふるってるだ?」

「荒れた森を畑にするらしいべ」

「だれがその畑を管理するだ?」

「さぁ? ワシが知るわけねぇだ」

「あんなところに畑があっても困るだけだべ」

「んだんだ。お前、オサノ様に教えて差し上げろ」

「むんりだ。恐れ多くてオサノ様にものを申せねぇだ。おめえこそ教えて差し上げろ」

「いやいや、無理だっぺ」


 村人達がそんなことを考えているとはつゆ知らず、えっさ、ほいさとクワをふるっていたのでした。そんなオサノの元に白い衣装を着た黒髪の美人が突然現れます。


「オサノ」


 突然、ツクヨから声をかけられたオサノはびっくりした様子で「ツクヨ姉上!?」と叫びました。オサノが驚いた様子を気にすることもなく、ツクヨは当たりを見回して眉をひそめました。


「お前は何をやっているのだ?」


「はっ、吾輩は今、森を開墾しておりました!」


 オサノはツクヨの質問に胸を張って答えます。


「誰かから開墾してくれと頼まれたのか?」


「いいえ。吾輩が木を植え直すよりも開墾した方がいいだろうと思ったから、開墾をしております!」


 オサノは自信満々に答えます。何か問題でもと言いたげな表情をしているオサノにイラッとしたのか、ツクヨから不機嫌なオーラが沸き立ちます。遠くから見ていただけの村人も、不穏な空気を察したのか蜘蛛の子を散らすようにその場からいなくなりました。


 しかし、オサノはツクヨの変化に気づかないため、自信満々に説明を続けます。


「ふふふ、見てくだされ。この広々とした畑を。

 この調子なら、すぐに森をなくして畑にして、ぐは!?」


 ツクヨはオサノに向かって小さな気弾を放ちました。オサノは我慢できずに、その場にうずくまります。


「あ、姉上、いきなり何をなさるのです?」


「お前に壊したところを直すように指示したのは私のミスだったようだ」


 オサノは理解が追いつかないのか、混乱をした様子でツクヨを見上げます。ツクヨはオサノを見下ろしながら語りかけます。


「オサノ、お前、ヒミカ姉様をダンジョンから連れ戻してこい」


「はい? ヒミカ姉上をですか?」


「ああ、ヒミカ姉様が作っているダンジョンの最下層まで行けばいい。そうすればヒミカ姉様は戻ってきてくださるはずだ」


「なんで吾輩が、はっ!? いえ、喜んでダンジョンに行ってまいります!」


 ツクヨの険呑な雰囲気をようやく察したのかオサノは鍬を持ったまま、ヒミカのダンジョンへと向かいました。ただオサノはどこにヒミカのダンジョンがあるのか知らないため、アメノイワトとは逆方向に走っていきます。


 ツクヨは気弾をオサノに向かって放ちます。ぐへと言いながら倒れたオサノの元にツクヨが優雅に近寄りました。


「ヒミカ姉様のダンジョンはアメノイワトにある。

 お前はどこに向かっているのだ?」


「アメノイワトですな! わかりました!

 吾輩におまかせください」


 そういうなりオサノはアメノイワトに向かって走り始めます。

 遠ざかるオサノの後ろ姿を見つめながら、ツクヨはそこはかとない不安を感じるのでした。

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