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第32話 静かに進む

「ようやくここまで来たか」


 コヤネは疲れた様子で呟きました。

 現在、コヤネたち、神々の挑戦者はその数を60まで減らしつつも第20階層のフロアマスターがいると思われる部屋の前まで来ていました。


 コヤネの後ろにいる神々もその表情は疲れている者が大半です。

 20階層の宿屋で一泊し肉体的な疲れはとれているのですが、精神的な疲れは十分にとれていないのでした。


「みんな、行くぞ」


 コヤネは目の前にある巨大な黒い鉄の扉に手を触れます。

 10階層の門と同じように鉄の門が自然に開いていくのかと思っていたコヤネは、しばらく待ちますが門が開いていく様子がありません。


「……開かないな」


 10分ほど待ったコヤネはぽつりと呟きました。

 コヤネは扉を開けるべく、扉に両手をついて押していきます。


「ふぬぬぬぬ」と力を入れながら巨大な扉を押していきますが、なかなか扉が開きません。コヤネの様子を見た何名かの神々が一緒に扉を押し始めたことにより、ようやく扉が少しだけ動き出しました。さらに多くの神々が一緒に扉を押し始めたことで、巨大な扉が完全に開きました。


 力を合わせて巨大な扉を開けた神々は、歓声をあげます。

 しかし、その歓声はコヤネの「静かに!」という低く鋭い声によって静まりました。


「コヤネ、どうしたのだ」


 コヤネのそばにいた神が質問をします。

 コヤネは部屋の中央を指をさしました。


「見ろ、巨人が寝ている。幸い、気づかれてはいないようだ」


 コヤネが指さした先には、とても大きな巨人が寝ていました。20階層のフロアマスターである一つ目の巨人、ガンリキです。ガンリキはあまりにも挑戦者が来ないので退屈して寝てしまっていたのです。


 さらに10階層のフロアマスター、オニギリとは違い、ガンリキには共に戦う部下がいませんでした。そのため、ガンリキは挑戦者に気づかなかったのです。本来であれば、ガンリキが巨大な扉を中から開けるはずだったのですが、寝ていたためにそれもできませんでした。


「みんな、巨人を起こさないように壁の近くを通って階段まで行くぞ」


 コヤネの指示に神々はしたがい、足音を忍ばせてゆっくりと下に続く階段まで歩いて行きました。そして、そのまま階段を下りていったのです。


 こうして神々は20階層のフロアマスターの部屋を誰も脱落することなく切り抜けたのです。



 ◆



 ダンジョンの最下層では、ヒミカとタキリとクッチが20階層の様子をスクリーンで見ていました。


 巨大な扉を神々が開けようとしていた時、ヒミカが「ガンリキを起こした方がいいかしら」とタキリとクッチに相談しましたが、クッチが「そのままでいい」と答えたのでガンリキを起こしませんでした。


 結局、ガンリキが寝たままで神々がその横をすり抜けて下の階層へと進んだ時には、ヒミカは少しあきれながら、「こういうこともあるのですね」と苦笑しました。


 その後、ガンリキが寝たままで挑戦者を知らぬ間に通したことは、フロアマスター達に広まり、フロアマスター会議でほとんどのフロアマスターから叱責されることになりました。フロアマスターたちはこれ以後、同じようなミスをしないように気をつけることになりました。



 ◆



 ガンリキは、コヤネ達、神々の挑戦者が第20階層を通過してしばらくして目を覚ましました。コヤネ達に開けられた扉から入ってくる風が寒くて目が覚めたのです。


「ふあぁーあ。寒いな」


 ガンリキは頭をボリボリとかきながら、上半身をむくりと起こします。

 ガンリキがきょろきょろと部屋の中を見回すと、扉が開いていることに気が付き、扉を両手でバタンと閉めました。


「寒いと思ったら、扉が開いていたのか」


 ガンリキは立ち上がり、うーんと大きく背伸びをします。ガンリキの両手は高い天井に届きました。そのままガンリキは上半身を右や左にひねりながら、身体をほぐしていきます。


「さてさて、挑戦者はいつ来るのやら。

 オラもオニギリのように、ヒミカ様からお褒めの言葉をいただけるようにがんばるだ!」


 こうして、ガンリキはすでに20階層を突破されたことを知らずに、挑戦者が来るのを待ち続けるのでした。ガンリキが挑戦者に通過されていたことを知るのは、次回のフロアマスター会議の時でした。

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