第31話 びっくり
なんとか10階層を切り抜けたコヤネたち神々はそのままダンジョンの踏破を目指し、先へ先へと進んでいきます。
10階層からは、罠の周りを囲んでいた目印のトラ柄のテープがなくなりました。そのために、罠にかかって脱落する神の数が先へ進めば進むほど増えていきました。ダンジョン内のモンスターも階層が替わると種類が替わるため、なかなか攻略が進みません。
神々というモンスターたちとは圧倒的にステータスが違う挑戦者たちでも苦戦するダンジョンに、人間の挑戦者たちは10階層にも辿りつけない状況でした。
13階層からは、ダンジョン内が暗くなりました。月のない夜のような暗さです。
「暗いな」
コヤネは小さく呟きました。そして、通路の間に張られていた太いロープに気が付き、
「ここにロープが張られているから注意しろよ」
と最後まで言う前に、コヤネの横を何の考えもなく歩いていた神が通路の間に張られていた太いロープにひっかかりました。ロープに引っかかった神が「あぶねぇ」といいながら、壁に手をついたら、壁からカチッという音がしました。
壁に手をついた神は「えっ?」という声をあげた途端、壁から突き出てきた大きな石の柱に押しつぶされてしまいました。石の柱と壁の間からは光があわく立ち上り、消えて行きます。目の前で起きた悲劇にコヤネは愕然とした表情を浮かべます。
「な、なぜだ?」
コヤネはその場にしゃがみこみ、自分の手を大きく広げて、ロープと見比べます。
コヤネの手を広げたよりも太いロープを前に、呆然とします。
「こんなに太いロープなのだから、気付いてくれよ……」
しばらくその場でしゃがんでいたコヤネですが、両手で己の頬をぱちぱちと叩き、気を引き締め、立ち上がります。
「ここから先は暗い。みんな、たいまつを出して視界を確保するのだ」
コヤネは荷物の中からたいまつを出すように指示を出します。たいまつに火をともし、神々はダンジョンの奥へと進んで行きました。
コヤネを先頭にダンジョン内を進みますが、薄暗くなってからはモンスターが出てきません。コヤネは、疑問に思いつつも、先へと進んでいきます。コヤネは気が付いていませんでした。神々の数が減っていることに。
◆
神々の集団の中央あたりで、少し前の神と距離が開いたところがありました。
「ちょっと距離が開いているから、急ごう」
そう言って、遅れかけていた神は前へと急ぎます。しかし、突然前の集団の神々が掲げていたたいまつの光が見えなくなりました。
「えっ? なんで?」
驚いた神は、少し急ぎ足で前へと進み、がつんと勢いよく壁に当たりました。
「いてて、なんだ?」
落としたたいまつを拾って、前を見ると大きな石の壁があったのです。
挑戦者に危害を加えることはありませんが、道をふさぐモンスター、カベカベが現れたのです。しかし、神々にはそんなことはわかりません。突然行き止まりになった通路に困惑するばかりです。
「ええ? なんで、こんなところに壁があるんだよ!?
突然行き止まりになったのか? みんなはどこに行ったんだ!?」
神々の集団は統率者もいないため、右往左往してしまいます。
混乱している神々の集団の最後尾では、びくびくとあたりをうかがっている神がいました。
「はぁ、こわい。帰りたい」
弱音を吐いていると、「うわん!」という大きな叫び声と共に、天井から大きな目玉の化け物が現れました。「きゃ!」という大きな悲鳴と共に、弱音を吐いていた神は驚いて後ずさりました。すると床がぱかっと割れて、落とし穴の中に落ちてしまいました。落とし穴の中から、小さな光の粒が立ち上がっては消えていきます。
大きな目玉の化け物は、「うわん! うわん!」とうれしそうに鳴き声を上げながら、上下に揺れます。
突然現れた大きな目玉に向かって、近くにいた神が手に持っていた斧で殴りかかります。ブシュッという鈍い音と共に血しぶきが舞い散り、大きな目玉の化け物は光となって消えていきました。
「くそ、驚かせやがって」
斧で大きな目玉の化け物を倒した神の後ろで、また「うわん!」という大きな叫び声と共に大きな目玉の化け物が現れました。「うぉ!?」という驚きの声と共に、一歩後ずさった神は、ぱかっと割れた床の中に落ちていきました。
「ぐぅおお」といううなり声が落とし穴の中から最初は聞こえていましたが、しばらくすると、光の粒が立ち上がり、うなり声も聞こえなくなりました。新たに現れた大きな目玉の化け物は、「うわん! うわん!」とうれしそうに鳴き声を上げながら、上下に揺れます。「こやつめ!」という声と共に、他の神に殴られ、大きな目玉の化け物は光となって消えていきます。
分断された神々の後ろの集団はこうして数を減らしていき、コヤネという統率者もいなくなったために、バラバラとなって、ダンジョン内を彷徨うことになりました。
ある者たちはダンジョンからの脱出をはかり、またある者たちはコヤネに合流すべくダンジョンの奥へと進みました。こうして分断された神々の後ろの集団は、ダンジョンの踏破からは脱落してしまったのです。
◆
ダンジョンの最下層では、ヒミカとタキリ、ニミとクッチがダンジョンを踏破した報酬はどうすればいいのかを話し合っていました。ヒミカ達は13階層を進む神々の一団をスクリーンに映しながら、真剣に話し合っています。
「莫大な財宝や願いを叶えるというものが多いですね」
ヒミカがコトアマニュースに目を通しながら、むむむと悩んでいます。
「欲深い挑戦者をおびき寄せるために、そのような報酬が多いのでしょうね」
ニミが冷静に相づちをうちます。
タキリは突然暗くなったスクリーンを見ながらびくびくし、クッチはポリポリとせんべいを食べています。
「このダンジョンでは何を報酬とすれば良いでしょうか?
こう、ワクワクするような報酬がいいですよね」
ヒミカの言葉に、ニミは首を傾げます。
「ワクワクですか? ヒミカ様がダンジョン外に出られるだけでも十分な報酬だと私は思いますが」
「そうですかね?」
ヒミカとニミが報酬について話しをしていると、スクリーンを見ていたタキリがビクッと身体を大きく震わしました。タキリの様子に、ヒミカが驚いて声をかけます。
「タキリちゃん? どうかしましたか?」
驚いて目を見開いているタキリが、スクリーンを指さします。
そこには大きな目玉が映っていました。ヒミカも大きな目玉を見て、びくりと身体を震わせます。
「!? び、びっくりしました」
大きな目玉が挑戦者の神により倒されると、ヒミカとタキリはほっと一息つきます。
「驚きましたね。タキリちゃん」
「はい、ヒミカ様。やっぱり大きな目玉のモンスターは怖いですね」
すると、再びスクリーンの中で、大きな目玉が現れました。
「「!!?」」
ヒミカとタキリが声にならない悲鳴を上げて、また大きく身体を震わせます。ヒミカとタキリは、互いに見つめ合い、「びっくりしましたね」と苦笑しました。
「ヒミカ様も、タキリも、驚きすぎ」
最後に、せんべいを食べ終えたクッチがぼそりと呟きました。
こうして、ダンジョンの踏破報酬が決まらないまま時間だけが過ぎていきました。




