第30話 次に備えて
大鬼たち、モンスターが倒されるとダンジョン内の復活の間に復活します。
ヒミカが神龍を倒した際にダンジョンの外に復活してしまったため、モンスター専用の復活の間を作ったのです。
復活の間の中央で小さな光が集まって、大鬼のオニギリが復活します。
地面に片膝をついた状態で復活したオニギリは、ゆっくりと目を開けます。
「ふふふ、これが戦いというものか。
自らに与えられた役割をこなすというのは実に良いものだな」
オニギリは立ち上がり、復活の間に1つだけ備え付けられていた扉に向かい、復活の間の外に出ました。が復活の間の外にでると、パチパチパチと拍手する音が聞こえてきます。
そこにはヒミカとタキリ、それにゲコベエが待って、大鬼に向かって拍手をしていたのでした。ヒミカたちは一旦拍手を止め、大鬼に向かって話しかけます。
「オニちゃん、すばらしい戦いでした!」
「はい、小鬼さんたちも一生懸命で見ていてはらはらしました」
「げこげこ! オニギリ!
ヒミカ様に活躍をご覧いただけてうらやましいのであります!」
突然、ヒミカやタキリに会った大鬼は驚きの声をあげました。
「こ、これはヒミカ様にタキリ様!
どうしてこのようなところに」
ヒミカは微笑みながら、オニギリに声をかけます。
「はい、オニちゃんたちががんばっていたので、声をかけに来たのです。
ここは宿屋にもなっているので、ゆっくりと疲れを癒やしてからまた元のフロアに戻ってがんばってください!」
ヒミカに続いてタキリもオニギリに話しかけます。
「小鬼さんたちはもう宿屋の中に入っていますよ。オニギリさんも宿の中にどうぞ」
オニギリは感激した面持ちで、ヒミカとタキリに返事をします。
「ありがとうございます!
経験がつめたので、次回はもっと活躍してごらんにいれます!」
「げこ。オニギリは低階層なのだからほどほどに活躍すれば良いのであります。
下の階層にも挑戦者をまわしてもらいたいものであります」
ゲコベエは腕を後ろにまわしてオニギリに対して憎まれ口を叩きました。
「ふん、ゲコベエ、お前の階層まで行ける挑戦者など、ほとんどいるはずがないだろう」
「げこ。神々ならきっとゲコベエの階層まで辿りつけるはずなのでありますよ!」
「そうであればいいがな。
今回の挑戦者にそこまで圧倒的な挑戦者はいなかったぞ」
「げこぉ。見ていたので知っているのであります。
まだ来ぬ強大な力を持った挑戦者に期待するのであります」
ゲコベエとオニギリのやりとりをそばで聞いていたヒミカとタキリは、顔を見合わせてくすりと笑いあいました。その様子にはっとしたゲコベエとオニギリは、恐縮しつつ宿屋の中へと入っていきました。
ゲコベエとオニギリを見送ったヒミカとタキリは、満足げな様子です。
「タキリちゃん。この調子なら、他のフロアのモンスターたちにも近いうちに活躍する場が訪れそうですね」
「はい、ヒミカ様。
神々も徐々に真剣になってきているようなので、きっとダンジョンを踏破する挑戦者がでてきますよ!」
「そうですね。そう遠くない未来にダンジョンを踏破する者が出てくる……」
そこでヒミカは何かに気づいたようにハッとしました。
タキリは突然話すのを止めたヒミカのようすに首を傾げます。
「あの、ヒミカ様?
どうかされたのですか?」
「た、タキリちゃん。
ダンジョンを踏破した者には何をあげればいいのでしょうか!?」
わなわなと震えながら、ヒミカはタキリに自身が気づいたことを告げました。
ヒミカの言葉にタキリもハッとします。
「た、たしかに」
「ダンジョン内を作るのに夢中で踏破した者に与える賞品を考えていませんでした」
ヒミカは頭を左右に振りながら、しまったぁという表情を見せます。
その様子を見たタキリは、カバンの中からコトアマニュースを取り出します。
「ヒミカ様! 困ったときにはコトアマニュースを見て、他のダンジョンのことを参考にしましょう!」
タキリが持っているコトアマニュースを「それです!」という言葉と共に指さました。
「さすがはタキリちゃんです!
では、さっそく最下層に戻ってコトアマニュースをチェックしましょう!」
「はい、ヒミカ様!」
ヒミカとタキリは、最下層へと戻っていき、ダンジョンの踏破者への賞品を考え始めたのでした。
◆
宿屋の中に入ったゲコベエは、オニギリの背中を見て首を傾げます。
そこにはいつもオニギリが背負っていた太刀がなかったからです。
「げこ? オニギリ、自慢の太刀はどうしのでありますか?」
「太刀ならばここにあるだろう」
オニギリはゲコベエの言葉を聞いて、右手を背中に回します。
しかし、どれほど右手を動かそうと右手に太刀が触れることはありませんでした。
このあと、オニギリは脂汗を流しながら太刀を探しましたが結局見つけることができませんでした。ゲコベエは落ち込むオニギリの肩をポンポンとたたきながら、慰めました。
こうしてフロアマスターたちの間では、武器はなくなることもあるという教訓が広まったのです。




