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第3話 ダンジョンに必要なものは

 ヤマタノオロ屋から帰ってきたヒミカ達は1時間の休憩を終え、再び、小さな4人掛けの円卓の周りに集まりました。


 円卓の上には、タキリが用意した午後のおやつの洋なしのタルトと熱い紅茶が用意されています。ヒミカは、小さなフォークで洋なしのタルトの先の方を口に入れやすい大きさに切り、そのままフォークでタルトを突き刺しました。小さく口を開けて洋なしのタルトを口に運びます。


 んん〜と幸せそうな表情を浮かべたヒミカは、タキリに笑顔を向けます。


「さすがはタキリちゃん、これは城郭印の城ウサギの洋なしのタルトですね!

 入手しづらい城ウサギの新作を用意してくれて、ありがとうございます!」


 タキリは少し照れながら、頬をちょっとだけ指先でかきました。


「ヒミカ様に喜んでもらえて良かったです!」


 クッチもニミもうれしそうに洋なしのタルトを食べています。

 どんなダンジョンを作るかの相談をすることもなく、その日はそのまま、日が暮れました。



 ◆



 翌日、ヒミカ達は、再び小さな4人掛けの円卓の周りに集まりました。


「昨日は、ダンジョンについての有意義な話合いをすることができました」


 どうやらヒミカは、洋なしのタルトを食べることに夢中で、午後はまったく相談ができなかったことをなかったことにしたようです。眷属の3柱も、そこについては細かいツッコミをすることはありません。


「本日も、引き続きどのようなダンジョンを作るかの相談をしていきたいと思います」


 ヒミカはそこで一呼吸おき、ニミたちの顔を見ていきました。

 ニミ達も異論はないと、静かに頷いています。その様子を確認したヒミカはゆっくりと語り始めます。


「ダンジョンには、どんなものが必要でしょうか?

 私は昨晩一人で考えていました」


 ヒミカは、座っていた席から静かに立ち上がり、窓際へと歩いて行きます。

 レースのカーテン越しに窓の外を眺めます。真面目なヒミカは太陽の自動運行に問題がないことを念のために確認したのです。問題のない様子を確認できたヒミカは、優しい笑みを浮かべて、ダンジョンに必要なものをあげていきます。


「私はね、各階層に2つはトイレが必要だと思います。男性用と女性用をそれぞれ2つずつは用意してあげた方がいいでしょう。もちろん、トイレの場所がわかるように案内板もつけておきます」


 クッチは、何を言っているのだと言わんばかりに、眉間にしわを寄せてヒミカを見つめます。

 そんなクッチの様子に気づかずにヒミカは、さらに言葉を続けます。


「長く、深いダンジョンになるでしょうから、5階ごとに宿屋は必要でしょう。美味しいご飯と、暖かいお風呂、そしてふかふかのお布団で、ダンジョンでの疲れを取ってもらうのです」


 タキリはさすがは優しいヒミカ様と言わんばかりに、何度も頷きながらヒミカを見つめます。

 そんなタキリの様子に気づかずにさらにヒミカは話し続けます。


「もちろん人手がかかりますから、座敷童協会に宿屋の従業員の手配を依頼します。今朝、いつも朝食を作ってくれている家政婦兼座敷童のチョコちゃんに聞いたら、私のダンジョンなら1000人単位の要望でも必ず手配するので是非働かせてくださいと逆にお願いをされました」


 ニミは、すこしだけノートを取っていたペンを止め、ヒミカを見つめます。その視線には、さすがは日の神様であるヒミカ様への信仰は大したものですと言わんばかりの尊敬の念が込められていました。そんなニミの様子にも気づかずにヒミカは話を続けます。


「そして1の位が3の階層には、ショッピングができるお店を用意します。これは太陽印のアマテラスーンの支店を用意する予定です。ダンジョン内の支店でしか買えないアイテムを用意することで、多くの挑戦者を呼び込みます」


 ヒミカのダンジョン構想が次々と語られ、その全てをニミがノートにまとめていきます。

 クッチは、こんなダンジョンでいいのかと疑問を浮かべ、首を傾げています。


 その日も夜遅くまで、ダンジョンの構想が練られました。



 ◆



 翌日は、考えてばかりいても仕方がないと早速ダンジョン作りに取りかかりました。


 ヒミカは、昨夜、妹のツクヨに当てて1通の手紙を書いて送ったので心配することは何もありません。心置きなく、休んでダンジョン作成に取りかかることができるのです。


 ヒミカ達は、アメノイワトを訪れ、ステージを兼ねている大きな巨石の前にやってきました。


「さぁ! ダンジョンを作りましょう!」


 ヒミカは、やる気十分に声を張り上げます。そして、どうやってダンジョンを作れば良いのか知らないことに気がつきました。


 ゆっくりと、眷属の3柱の方へと振り返り、首を傾げて質問をします。


「どうやってダンジョンを作ればいいのでしょうか?」


 タキリはあわあわと慌てふためき、返事をしようとしましたが、あわあわとするばかりで返事ができませんでした。そんな時にクッチがバレーボールくらいの大きさの七色に輝く宝玉をヒミカへ手渡しました。


「これはなんですか?」


 ヒミカがクッチに質問をします。


「コトアマ通販で買った。ダンジョン作成キット。神様なら、これでダンジョンを作れる」


「ありがとう、クッチ。さすがはコトアマ通販ですね。何でも手に入る恐るべきお店です。本当はアマテラスーンのライバルなので、売り上げに貢献したくないのですが、こればかりは仕方ありませんね」


 ダンジョン作成キットを手に、ヒミカはダンジョンの作成に取りかかりました。



 ◆



 この世界の最高神でもあるヒミカの神力はとてつもなく膨大で無尽蔵でした。


 通常は、力が足りないために、できないことも多いダンジョン作成ですが、ヒミカの神力を持ってすればダンジョン作成キットでできないことはありません。


 思うがままに、ヒミカたちはダンジョンを作り続けます。


 1週間くらいでダンジョンの中が変わった方が、何度も挑戦できるというクッチの意見を採用したり、力だけではなく知恵も必要なダンジョンにするべきですというニミの意見も採用しました。暗いのは怖いですと怯えるタキリの為に、ダンジョン内は常に明るくすることにしました。


 こうしてどんどんとヒミカたちはダンジョンを深く、広く、複雑に作っていきます。

 ダンジョン内の宿屋やトイレ、アマテラスーンの支店の作成にも抜かりはありません。


 ダンジョン作成に疲れたら、宿屋に行って、美味しい食事を食べ、暖かいお風呂に入り、ふかふかな布団でしっかりと疲れを取りました。


 宿屋を任されたチョコ達、座敷童はヒミカ様の為にと精一杯のおもてなしをします。心のこもったおもてなしにヒミカは感動しつつ、ダンジョンの作成に励みました。



 ◆



 真面目なヒミカは、3日の内に300階層までダンジョンを作り上げました。

 一仕事をやりおえ、満足げな表情のヒミカが、ニミ達に話かけます。


「とりあえず、300階まで作りました。

 そろそろ挑戦者を募ってもいいのではないでしょうか?」


 ヒミカの言葉に、おずおずとタキリが手を上げて意見を言います。


「あの、ヒミカ様、ダンジョンにはモンスターがいたり、宝箱があったり、ボスがいたりするそうなのですが、このダンジョンにはそれらがいませんし、ありません。これでオープンしてもいいのでしょうか?」


 ヒミカはハッとしつつ、動揺しているのがタキリ達にはバレバレでしたが、動揺を必死に隠してタキリに返事をします。


「さ、さすがはタキリちゃんね。

 あなたたちがそれにいつ気が付くかと思って、さっきの質問をしたのです。

 さぁ、それではモンスターや宝箱を準備しましょう!」


「は、はい! わかりました、ヒミカ様」


 タキリが、動揺しているヒミカの様子に気づかないふりをして、元気に返事をします。

 ニミにクッチも、ヒミカが動揺していることに関しては何もいいません。それが眷属である彼女たちの優しさなのです。



 ◆



 こうして「ヒミカさまの優しいダンジョン」がオープンを迎えるのはさらに4日後のことでした。

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