第28話 脱落する神々
コヤネたちは10階層の宿屋に一泊した翌朝、宿屋の入り口に集合しました。
コヤネは横にいた神に話しかけます。
「さすがはヒミカ様のダンジョンにある宿屋だな。
料理も美味しかったし、風呂も広くて疲れがとれた」
「ああ、これで気力・体力共に万全の状態で進んでいける。
それにしても他の者達は遅いな」
「うむ、集合時間を過ぎているのに、来ていない神々が多すぎる」
コヤネはまだ来ていない神々の部屋の前に訪れ、扉をノックします。
「おい、どうした?
何かあったのか? もう集合時間は過ぎているぞ?」
コヤネが扉の前で部屋の中へ語りかけますが、部屋の中からは返事がありません。コヤネは再度、扉をノックしましたが部屋の中からはやはり何の反応もありません。まだ来ていない他の神々の部屋もコヤネは回ってみましたが同じように反応がありませんでした。
「これは何かあったのかもしれないな。扉を開けてもらおう」
コヤネは受付の座敷童に依頼して、部屋の扉を開けてもらいました。
「今回は、お客様たちが一緒に来られたので特別にお部屋をお開けします。
ただお客様の部屋からは誰も出ていないはずなので、まだお部屋にいらっしゃると思いますよ」
「わかった。だが、集合時間になっても集まってこないし、返事もないのだ。
何かがあったとしか思えない」
コヤネは座敷童に開けてもらった扉の中へと入っていくと、その部屋に泊まっていた神がベッドで気持ちよさそうに寝ていました。それを見た座敷童が微笑みながら、コヤネに話しかけます。
「気持ちよさそうに眠っていますね」
座敷童の言葉に、気まずげにコヤネは頷きました。
コヤネはベッドで寝ている神の身体を揺さぶり起きるように伝えますが、「あと5分」や「うーん」というばかりで、まったく起きる気配がありません。コヤネがしびれを切らし、掛け布団をはぎ取ると寝ていた神が「何をするのだ!?」とキレました。唖然とするコヤネから掛け布団を奪うと、ベッドで寝ていた神は再び寝始めます。
座敷童は呆然としているコヤネに声をかけます。
「あのお客様、どうされますか?」
「もういい、こやつらは好きに寝させておいてくれ」
「はい、わかりました」
コヤネは宿屋の入り口へと戻ります。
そこに集まっていた神々の方を見て、コヤネは語りました。
「30名ほどが起きてこないが、あいつらはもうダメだ。
待っているわけにはいかない。……先に進もう」
こうして、10階層の宿屋で神々はさらに数を減らしました。しかし、残りの神々が立ち止まることはありません。神々はフロアマスターが待つ大鬼の間を目指して進んで行ったのでした。
◆
大鬼の間では、フロアマスターである大鬼が挑戦者が来るのをソワソワとして待ちわびています。
「昨日の挑戦者たちは何をしているのだ?」
「グガガ?」(帰ったのでは?)
「グググガ」(さすがに1日経っているし)
「グーガ、グーガ」(あーあ、残念だな)
大鬼の問いかけに、小鬼たちが答えます。
「いや、ようやくここまで来たのだぞ?
そのまま帰るとかありえぬだろう」
「グガガガ」(今日はどうしますか?)
「グッガッグ」(訓練をしようぜ)
「グググガ」(おっし、チーム戦をすっか)
小鬼たちは、今日も挑戦者が来ないと思い、訓練の準備を始めます。それを見た大鬼は、はぁ、とため息をつきました。
「うーむ、仕方ない。者共、抜刀!
死ぬ気で戦うが良い!」
「「「ガー!」」」
(((応!)))
小鬼たちは大鬼の号令を合図に、チームに分かれて戦い始めました。死んでも復活できるため、小鬼たちの訓練はとても激しいのです。
大鬼の間からは、小鬼たちの戦いの音が響きわたるのでした。
◆
その頃、ヒミカたちはダンジョンの最下層で、朝食を食べながら会話をしています。醤油をかけた目玉焼きを食べながら、ヒミカがニミたちに話しかけます。
「今日は、挑戦者たちが10階層のフロアマスターに挑戦しますかね?」
「宿屋に泊まって疲れを取ったのですから、さすがに今日は大鬼に挑戦するでしょう」
ニミが今日は挑戦するだろうと言い、
「挑戦者の神々、情けない」
クッチは挑戦者の神々のふがいなさを嘆き、
「大鬼や小鬼たちの訓練の成果が出せると良いですね」
タキリが大鬼たちの活躍を期待しました。
ニミたちの言葉を聞いたヒミカは、うんうんと頷きながら、お味噌汁に手を伸ばします。具がたくさん入ったお味噌汁を二口食べると、お椀を机の上に置きました。
そして、真剣な表情でぽつりと呟きます。「お味噌汁にサツマイモを入れるのはどうなのでしょうか?」と。




