第27話 10階層にて待ちわびるフロアマスター
オモカネが早々に脱落したものの、残った神々は慎重にダンジョンを先に先にと進んでいきました。
小鬼たちは、自分たちの力が弱いことを理解しています。小鬼たちは神々にとって嫌らしく、生命も1つの武器としたやっかいな攻撃を仕掛けていきました。
そのために、神々は小鬼たちに比べて圧倒的な力の差がありながらもその数を少しずつ減らしていったのです。神々が小鬼たちに倒された数は少ないですが、繰り返される攻撃に神々は精神的に疲弊していきました。
「ようやく10階層か。たった10階層のはずなのに、ものすごく長かったな」
神々の1人が疲れた様子でぽつりと呟きました。
「ああ、6階層から出始めた小鬼たちの攻撃はたいしたことはなかったが嫌らしいものばかりだった」
「うむ、直接倒された者はほとんどいないが、罠にはめられて脱落する者がちらほらとでたからな」
「まったく、なんでモンスターなのにチームワーク重視で挑んでくるかね。
仲間の為に死ぬこともいとわないなんておかしいだろ」
愚痴をこぼしながら歩いて行く神々は、その口を閉ざします。神々はダンジョン内では見たこともないような巨大な門の前に辿り着きました。シンプルですが、重く過多そうな真っ黒な扉がその門を閉ざしています。門の上には「大鬼の間」と大きく書かれた看板が掲げられています。
「これは、特別なモンスターがいるってことだよな?」
「ああ、おそらくは強力な番人のようなモンスターがいるんだろう」
誰かがゴクリとのどを鳴らしました。先頭にいた神が振り返り、声をかけます。
「みんな、用意は良いか?」
神々は真剣な瞳で目の前に立ち塞がる門を見つめるのでした。
◆
第10階層の門の先では、とても広い部屋に整然と小鬼たちが並んでいます。小鬼たちは1匹1匹が同じような赤い色の鎧と兜を身につけており、身長以上の槍をその手に持っていました。
赤い小鬼の軍隊ともその一団の前に、小鬼たちとは一線を画す大きな鬼がいました。
その大鬼も小鬼たちと同じように赤い色の鎧と兜を身につけています。ただ1つ違うのは、巨大な太刀を背負っていることでした。
大鬼は門の外にあつまった神々の気配を感じ取り、にやりと笑います。
「ようやく、オレの出番か、長かったな」
大鬼は今日、この日が来ることを長い間待ちわびていました。
ダンジョンがオープンして以来誰も来なかったため、モンスターたちは訓練をするしかなかったからです。
ダンジョン内で時折開かれるフロアマスター会議でも、挑戦者が早くこないかという話題で持ちきりでした。一番浅い階層のフロアマスターである大鬼は、深い階層のフロアマスターからうらやましがられることも多かったのですが、その度に大鬼は同じ事を言っていました。
「どれほどうらやましがられようとも、オレのところですら、誰も挑戦者が来ないのだ。これではどうしようもあるまい」
フロアマスターたちは、はぁと大きなため息をつき、会議が終わるというのがいつもの流れでした。ヒミカに活躍する姿を見てもらいたいと思っている全てのフロアマスターたちは、挑戦者が自分の階層まで来ることを夢見ているのです。
「ふふふ、長かったが、ようやくオレの活躍をヒミカ様にご覧いただける」
大鬼は背後に控える小鬼の軍団の方を向き、大きな声で叫びました。
「小鬼たちよ! ようやく、ようやく! 初めての挑戦者が訪れた!」
小鬼たちは「グガガ!」と大きな声で大鬼の言葉に応えます。大鬼は続けて言います。
「オレを含めて、オレ達の力はあまり強くはない!
しかし、オレたちは長い時間をかけてこの日の為に特訓をしてきたのだ!
ヒミカ様のお役に立てるように力の限り戦おうぞ!」
「「「グガガ」」」と、小鬼たちは先ほどよりも大きな声で応えます。
大鬼は門の方を向き、背負っていた太刀を抜き放ちます。
そして、門に向かって太刀を掲げ、大鬼はやる気に満ちた声で叫んだのでした。
「いつでも来るがいい!
オレたちの力を見せてやる!」
◆
その頃、10階層の宿屋では、オモカネに代わって神々をここまで率いてきた占いの神コヤネが受付をしていました。
「ちょっと人数が多いのだが、泊まれるだろうか?」
「はい、何名様でしょうか?」
受付の座敷童がコヤネに質問をします。
「80名ほどだ。宿泊日数はとりあえず1日でお願いしたい」
「80名様ですね、大丈夫ですよ」
受付の座敷童にコヤネがチェックインを済ませている際に、残りの神々はほっとしていました。
「ああ、ようやく休める」
「ヒミカ様が5階ごとに宿屋を設置しておいてくれて良かったわ」
門の前まで辿り着いたものの精神的に疲弊していた神々は宿屋で1日休息を取ることにしたのです。こうして、10階層のフロアマスターである大鬼のところには、この日も挑戦者が来ることはなかったのです。
◆
大鬼は太刀を抜いたまま待っていましたが、いつまでたっても門は開かれません。
「気配が消えた……。
挑戦者は、いったいどうしたというのだ」
大鬼は呆然としながら、ただただ挑戦者が門を開けて入ってくるのを待っているのでした。




