第26話 小鬼たちの戦い
オモカネと何名かの神が落とし穴に落ちましたが、タヂカは落とし穴の縁に何とか肩手を伸ばしてつかぬ事に成功しました。
「お、落とし穴だと!?
6階層に入ったばかりだというのに、何という恐るべきダンジョンなのだ!?」
目隠しをしているタヂカには見えていませんが、落とし穴の周りには、黄色と黒の虎模様のテープが貼られていて、誰でも気づくように作られていました。
ヒミカやタキリにしてみれば、看板でも告知をし、虎柄のテープでアピールしている落とし穴に落ちる者がいるとは思ってもいなかったのです。後に、ヒミカとタキリは相談をして6階層へと続く看板に音声で内容を読み上げる機能をつけました。
タヂカはあいていた方の手で目隠しを取り、落とし穴の底を確認します。
落とし穴の底には、何本もの先の尖った鉄の槍が埋められていました。誰も落ちないだろうからと、ヒミカとタキリが練習がてらにせっせと設置した鉄の槍です。
タヂカはゴクリとつばを飲み込み、落とし穴から這い出ようと自由になっている手を落とし穴の縁に伸ばしました。しかし、そこには小鬼たちが3匹いました。タヂカの顔をじっと穴の縁から見つめています。残りの神々はまだ目隠しをしているために、小鬼たちに気が付いていませんでした。
小鬼たちは、互いに何かを話し合い、手に持っていた木の棒に石をくくりつけた粗末な斧で、タヂカが落とし穴の縁を掴んでいた手をボカと殴りました。
小鬼たちの貧弱な力ではタヂカには対してダメージは与えられません。
しかし、塵も積もれば山となるというように、3匹の小鬼は、ボカ、ボカ、ボカと餅をつくかのように交互にリズムよくタヂカの手を殴り始めたのです。
「なっ、この小鬼どもめ!」
タヂカは小鬼たちに怒鳴ります。小鬼たちはびくりと身体を震わせますが、互いを見やり、頷きあいました。さらに3匹の小鬼を呼び寄せ、せっせとタヂカの手を殴り続けます。タヂカの手は無事ですが、殴りつけられていた落とし穴の縁が先に崩れました。
掴むところがなくなったタヂカは落とし穴の底へと落ちていったのです。
タヂカは落ちきる前に大声で叫びました。
「皆の者! 目隠しを取り外して、ダンジョンを先へ先へと進むのだ!」
タヂカの声を聞いた残りの神々は、はっとし、慌てて目隠しを取り外します。
タヂカは落とし穴の底にあった先の尖った鉄の槍に突き抜かれる直前、はっしと鉄の槍の先を掴みました。
小鬼たちは、落とし穴の縁からタヂカの様子を見て、驚愕し目を見開きます。
ぎゃぎゃぎゃと小鬼たちは何かを語り合い、一匹の小鬼が仲間の小鬼に親指を立てました。仲間の小鬼たちは神妙な顔で頷きます。
親指を立てた小鬼は笑顔で落とし穴の中へと飛び込みます。
そして、鉄の槍をふぬぬと掴んでいるタヂカの上にドシンと飛び乗りました。
「なっ!?」
タヂカは驚きました。しかし、小鬼もまだ持ちこたえているタヂカの力に驚いています。その様子を落とし穴の縁から覗き込んで見ていた小鬼たちも驚きましたが、すぐさま別の小鬼が親指を立てて、落とし穴の中へと飛び込みます。
「ぐぬ!?」
タヂカは今度もなんとかこらえました。
それから小鬼たちは何匹もタヂカ目がけて落とし穴に飛び込んでいきます。
中には、タヂカからそれてしまい、鉄の槍に貫かれて光となって消えた小鬼もいました。しかし、小鬼たちには後悔も恐れもありません。
なぜならば、あまりにも挑戦者が来なかったため、小鬼たちはダンジョンの特性をきちんと把握していたからです。ヒミカのダンジョンでは死ぬことがない。ならば、生命も武器の1つとして戦いに用いてやるのだと小鬼たちは思っていたからです。
その後、何匹かタヂカの上に乗っかかったことでようやくタヂカを鉄の槍で貫くことに成功しました。タヂカのぐぉおおおおという叫び声とぎゃぎゃぎゃといううれしそうな小鬼たちの叫び声が落とし穴の中に響きます。タヂカと小鬼たちは光となって消えていきました。
小鬼たちは目隠しをしていた他の神々にも襲いかかっていましたが、所詮は小鬼、大したダメージを神々に与えることが出来ません。なんとか2、3名の神を集中攻撃し、倒すことに成功しましたが、逆に目隠しを取った神々に瞬く間に倒されていきました。
神々から反撃を受けた小鬼たちはばらばらと逃げ出します。
残った神々は呆然としつつも、態勢を立て直し、ダンジョンの先へと進んでいくのでした。
小鬼たちは通路の影に隠れて、隊列の一番後ろに位置している神を集中攻撃して倒していくという嫌らしい戦い方をし、神々はその攻撃に四苦八苦するのでした。
◆
ダンジョンの最下層では、ヒミカとタキリが手に汗を握り、スクリーンを見ていました。オモカネが落とし穴に落ちて、真っ先に光となって消えたときには愕然としたヒミカとタキリですが、タヂカと小鬼たちのやりとりを見てぐんぐんとテンションが上がっていったのです。
「これがダンジョンなのですね!」
「はい、ヒミカ様! 互いの持てる力をぶつけ合う命がけの戦いがダンジョンの魅力だとコトアマニュースのインタビューにも書かれていましたから」
最初は飛び込んでいった小鬼のやり方に眉をひそめていたヒミカですが、悔いもなくうれしげに飛び込んでいく小鬼の様子を見て、応援をすることにしたのです。
タヂカを倒し、散っていった小鬼たちはダンジョン内で復活するとお互いにやったねと言わんばかりにハイタッチをしあっていました。その様子を見てヒミカは、うんうん、と満足げに頷きます。
「モンスターもみんなきちんと復活できていますね。
ばっちりです!」
「はい、ヒミカ様」
ヒミカとタキリは、小鬼たちがきちんと復活できてうれしそうに笑いあいました。
しかし、この時のヒミカは気づいていませんでした。
小鬼たちに限らず、ダンジョン内のモンスターは死んでも記憶が、経験が残っているということに。時間が経てば経つほど、自ら考えて行動するモンスターたちによってヒミカのダンジョンは強化されていくのです。




