第24話 ごめんなさい
オモカネが率いる神々はゆっくりとダンジョン内を進みます。
オモカネ達は目隠しをしていなければ1日もかからない第一階層を丸一日かけてクリアしました。2日目には2階層を、3日目には3階層を、4日目には4階層という風に、1日1階層ずつ確実に進んでいきます。オモカネ達の挑戦を1日目はじっくり見ていたヒミカ達ですが、2日目からは見なくなりました。
ゆっくりと進むオモカネ達とは対照的に、ウスメはさくさくとダンジョンを下へ下へと進んでいきました。
時たま現れるネッコやイッヌには見向きもせずに、ただただ宿屋を目指して下へと進んでいったのです。そんな調子でウスメは1日目に5階層まで突き進みました。
5階層で宿屋を見つけたウスメはとりあえず1泊してみることにしました。
ナガミチ、サンタマ、オオヒツたちの話を聞いていたウスメは、まずはお風呂に入り、その後リラックスルームへと足を運びます。
そこには大きなクッションにぐでーっと沈み込んだオオヒツ達がいました。
「なっ、オオヒツたち!? もう来てたの?
ウスメもかなり急いで来たんだけど!?」
ウスメは驚いてオオヒツ達に声をかけます。
目を閉じていたオオヒツはウスメの声でゆっくりと半分ほど目を開け、ウスメの方をちらりと見ました。
「ん? ぉお、ウスメじゃん。
あんたもそこのクッションに座ってみなよ」
覇気の感じられない声でオオヒツがウスメにクッションに座るように勧めます。
オオヒツの横で、クッションに座っていたナガミチも、やる気なさげにウスメに声をかけました。
「しかり、しかり。気持ちよいぞ」
サンタマは何の反応もせず、クッションにぐでーっと沈んだままです。
ウスメはオオヒツたちの様子を見て少し不安げな表情を浮かべたものの、目の前にあるクッションの誘惑には勝てませんでした。
ウスメはゆっくりとクッションに右手をつきます。
「うわ!?」
思わず驚きの声をあげてしまったウスメです。
静かに沈んでいく右手にウスメは、目を大きく見開きました。
「な、なんなの!? このクッション沈んでいくよ」
驚くウスメの様子を、にやりとしながらオオヒツ達は見守ります。
「ふふふ、いいでしょ。
そのクッション、すごいでしょ!」
宿屋の備品ですが、オオヒツは自分の持ち物でもあるかのように得意げに言いました。
しかし、ウスメはオオヒツの言葉よりも、クッションに夢中です。
ウスメはゆっくりと身体全体をクッションに預けていき、その何とも言えない座り心地に「ふわぁあああ」と思わず声をあげてしまいます。
こうして、ウスメもクッションに魅入られたのです。
◆
ウスメはダンジョンの5階層の宿屋で4泊しました。
食事は美味しい、お風呂は広い、心安らぐクッションもある、そして価格もお手頃。とりあえず1泊と思っていたはずなのに、気づいた時には4泊していることに気づいたウスメは愕然としました。
オオヒツ達は何の疑問もなく宿屋に泊まってのんびりしていますが、ウスメにはアイドル活動という仕事があるのです。プロフェッショナルとしての自覚が強いウスメは、宿屋から鋼の意思でチェックアウトをすることにしました。
チェックアウトの際に、宿屋の管理をしている座敷童のマシュールが、ウスメの荷物が不自然に大きくなっていることに気づきました。
「ウスメ様。チェックインの際にはそのような大きな荷物はなかったと思うのですが?」
ウスメはマシュールの質問にドキリとします。
「えっ? そう?
ウスメが来た時も持ってたんだけど、気づかなかった?」
「そうですか?」
マシュールは首を傾げながら、カウンター内にある防犯モニターの映像を巻き戻していきます。
そしてウスメのチェックイン時の映像をモニターに映し出しました。
「ウスメ様、これをご覧ください。
やはり、そのような荷物はお持ちではないですよ」
マシュールはチェックイン時の映像をウスメに見せます。ウスメは慌てた様子で言い訳を始めました。
「カメラの位置が悪くて、ウスメの身体の後ろにあるから写っていないんじゃないの?」
「いえ、さすがにそれはないでしょう。
ウスメ様の身体よりも大きいその荷物がウスメ様の身体の後ろに隠れるはずがありません」
冷静にマシュールに反論をされ、ウスメは額に汗を浮かべます。
そんな時、別の座敷童がマシュールの近くにやってきました。そして、ウスメの大きな荷物をちらりと見てから、マシュールに報告をします。
「お話中にすいません。
備品のクッションが1つなくなっているのですが、どうしましょうか?」
「備品のクッションですか?」
マシュールの視線がウスメの大きな荷物に向けられます。
「はい、あの大きくて柔らかいクッションです」
報告に来た座敷童もウスメの大きな荷物を見やりながら答えます。
ウスメはそっと目をそらしました。
「ウスメ様、そちらの荷物を確認させていただいてもいいでしょうか?」
ウスメは大きな荷物を包んでいた布を広げました。
そこにはリラックスルームにあった大きくて柔らかいクッションがありました。ウスメは目をそらしながら、もごもごと言い訳をします。
「あ、あれ。なんでクッションがこんなところにあるんだろ?」
マシュールと報告に来た座敷童は目配せをしあい、クッションの回収を行いました。
マシュールはウスメに向き合います。
「ウスメ様」
マシュールに問いただされる前に、ウスメは頭をバッとさげ、「ごめんなさい!」と謝りました。
マシュールはウスメを見つめたまま、にこりと微笑みました。
「よく正直におっしゃってくれましたね」
「本当にごめんなさい!」
「はい、大丈夫ですよ。クッションさえ返していただければ」
ウスメは許してもらえたのかと思い、顔を上げましたが、マシュールの言葉は続きました。
「3日間、宿屋の手伝いをしてもらえば大丈夫ですからね」
マシュールはにこりと微笑んだままウスメを見つめています。
ウスメは何も言うことができず、こくりと頷くのでした。




