第22話 疑われるネッコ
ウスメはアイドルなのでファンが数多くいます。
街を歩けば声をかけられ、サインを求められることが多いのですが、ダンジョン内では誰も声をかけてきませんでした。ダンジョン内には数多くの挑戦者がいるにもかかわらずです。
「なによ、これ。
ウスメがいるのに、みんなネッコに夢中だなんて……」
ウスメは少しふてくされたように、頬を膨らませながらダンジョンの奥へ奥へと進んでいきます。
ダンジョン内にいるネッコと遊んだり、癒やされている挑戦者を眺めながら。
そんなウスメのそばにネッコが一匹やってきました。
適度な距離をとりつつ、ネッコはウスメの様子を見守っています。ときおり「にゃーん」と鳴き声を上げながら、ネッコは徐々にウスメに近づいていきます。
当然ウスメも近づいてくるネッコに気づいています。
「みんなはだまされてもウスメはだまされないんだからね」
ウスメはネッコに話しかけます。
ネッコはウスメの言葉をわかっているのかわかっていないのかわかりませんが、「にゃー」と鳴き声を上げます。そして、ウスメの横に近づき、一緒の歩調で歩き始めます。
ウスメは横で一緒に歩き始めたネッコをちらりと見ます。
「ウスメの方がかわいいんだからね」
ウスメはネッコになぜか張り合って、自分の方がかわいいと主張をします。
ネッコは、ウスメの方を見上げました。しかし、ネッコが「にゃー」と鳴き声を上げることはありません。ネッコは何を言っているのだといわんばかりの視線でウスメを見やり、首をこくりとひねりました。
驚いたのはウスメです。ネッコの様子に疑問がわき上がってきました。
「ひょっとして、あんたウスメの言葉をわかってる?」
ネッコはウスメの言葉を聞いて、目を大きく見開きます。そして、そんなことないよというかのように首を横に振りながら「にゃんにゃん」とかわいく鳴きました。
ウスメはネッコの様子を見やりながら、疑問がどんどん確信に変わっていきます。
ウスメは立ち止まって、ネッコの前にしゃがみこんで問い詰めます。
「やっぱり、あんたウスメの言葉をわかってるよね!?」
ネッコも立ち止まり、右前足を顔の前でぶんぶんと左右に振ります。
ネッコは焦った様子で「にゃんにゃんにゃん!」と鳴き声を上げました。
ウスメがジト目でネッコを見つめていると、ネッコの後ろから別のネッコ達が現れました。
そして、ウスメに問い詰められていたネッコに「ふぎゃー!」「ふぎゅあー!」「んがにゃ!」と何か怒ったような鳴き声をあげ、ウスメの前から連れて行ってしまいました。
「……やっぱり。
さすがはヒミカ様のダンジョンと言うことなのかしら」
1人取り残されたウスメはぽつりと呟き、下へと続く階段を探すのでした。
◆
ウスメが1人ダンジョンに挑戦している頃、オモカネとタヂカは他の神々と一緒にダンジョンの入り口の前へ集まりました。
その異様な雰囲気に、ヒミカのダンジョンに挑戦する者達が思わず顔をしかめ、そっと目線をそらします。
子供達が「なにあれー?」と疑問を口にすると、近くの大人がそっとたしなめました。
「おい、ボウズ。
こういう時は何も見なかったことにして、そっとしておくんだ。
決して関わっちゃいけねぇよ」
子供たちは、大人が言うことの意味が理解できませんでしたが、そうなのかと思い、神々の様子を見なかったことにしました。
周囲の視線に気づいているタヂカはオモカネに質問をします。
「おい、オモカネよ、このような恰好をする必要があったのか?
周りの者からの視線がこの上なく痛いぞ」
居心地が悪そうなタヂカに向かってオモカネは堂々と答えます。
「何を言う、まだ誰も5階層より下に到達していないのだ!
5階層まで1人もかけることなく到達するにはこうしなければならぬのだ!」
「しかし、だからと言って、これはあまりに」
タヂカは尚もオモカネに食い下がろうとしますが、オモカネの固い意志を変えさせるのは無理と思ったのか、それ以上は何も言いませんでした。
オモカネはダンジョンの前に集まった神々の方に向き直り、大きな声で話し始めます。
「皆の者!
ヒミカ様のダンジョンは100階層以上だ!
今回の挑戦でダンジョンを踏破するつもりで、心して進もうぞ!」
オモカネの言葉に、タヂカは「おお!」と大きな声をあげましたが、他の神々は誰も声をあげません。しかし、オモカネは気にした様子もなく、出発を宣言します。
「では、いざ行かん!」
こうして決意を新たにした神々の一団もヒミカのダンジョンへ再挑戦を始めたのでした。




