第20話 帰還
(誤)ウズメ → (正)ウスメ
「まずい、まずいぞ」
顔色を悪くしたオモカネがとある部屋の中をぐるぐると歩き回っています。
部屋の壁際にもたれながらタヂカがオモカネに話しかけます。
「オモカネよ、落ち着いたらどうだ。まだ時間はあるのだ。
ダンジョンに挑戦した100名の神々の内3名はまだ帰ってきていない。1週間も経っているが帰ってこないところを考えれば、ダンジョンの奥深くまで行っているはずだ」
オモカネは腕組みをしつつ、首を横に振りました。
「かもしれないが、ツクヨ様と約束をした期限は3ヶ月だ。
ダンジョンがどのくらいまであるのかもわかっていないのに、この状態は非常にまずい」
オモカネが真剣な表情で焦りを語りました。
部屋の扉がガチャリと開いて、「やほー」と言いながら顔を出したのはウスメです。
部屋の中にあるソファにぽすんと音を立てて座りました。そして、テーブルの上にあったチョコレートに手を伸ばしながら、オモカネに軽い口調で伝えます。
「ダンジョンは100階層以上あるらしいよん」
チョコレートを口へと運んだウスメはもぐもぐと口を動かします。
オモカネは突然のウスメからの情報に眉をひそめました。
「は? 100階層以上?
その話はどこからの出てきたのだ?」
「えっとね、なんか子供達がダンジョンの3階層でヒミカ様と会ったらしいの。
そこで子供の質問にヒミカ様がダンジョンが何階まであるか教えてくれたんだって」
壁際でウスメの話しを聞いていたタヂカは驚きながら、ウスメとオモカネの会話に口を挟みました。
「なんだと?
それではヒミカ様に会った者たちがいるのか?
それなのに、ダンジョンに挑んだ神々は何をしているのだ!?」
ウスメは声を荒げ気味に話しかけてくるタヂカに眉をしかめます。
「うーん、たまたま入った第3階層のアマテラスーンにヒミカ様がいたみたいよ。
でも、そのあとに入った時にはすでにヒミカ様はいなかったって」
オモカネは疑問に思ったことをウスメに問いかけます。
「いや、それよりもなぜ、100階層以上ということなのだ?
子供達はヒミカ様に正確な階層数を聞いたのだろう?」
「えっとね、ヒミカ様との約束だから答えられないってことみたい。
100階層以上あるのって質問をしたら、子供たちが頷きかけたから100階層以上あるって話になったみたいだよ」
「100階層以上……。
これはこのままではダメだな。今挑んでいる神々の帰還を待たず、追加の挑戦者を送り込まねばダンジョンの踏破などできないと考えた方がよいな」
オモカネは顔色を悪くしながら、ウスメの正面にあった1人がけのソファに腰をかけました。
そんなおり、再び部屋の扉が開き、ナガミチ、サンタマ、オオヒツの3名の神が部屋の中へと入ってきました。突然の帰還に、オモカネ達は驚きます。そして、3名の姿を確認して、さらに驚きに目を開きました。
ナガミチも、サンタマも、オオヒツも、覇気のない、腑抜けた表情をしていたからです。
その割には肌のつやはよく、心なしかダンジョン内に潜る前よりも少しふっくらしているように見えました。
オモカネは、我に返りナガミチたちに話しかけます。
「おお、帰ってきたのか!
それで、1週間でどの程度までダンジョンを踏破できた?
20階層、いや30階層ほどまで行けたのか!?」
ナガミチ達はお互いに顔を見合わせ、少し困ったような顔をします。
そして、代表してサンタマが答えました。
「5階層」
「えっ、なんだって?
もう一度言ってくれないか?」
よく聞き取れなかったオモカネは聞き返します。
サンタマは先ほどよりも大きな声で答えます。
「5階層じゃ。
ワシらは5階層の宿屋に泊まっておったのじゃ!」
「あそこは良い宿だったね」
「しかり、しかり。
銀行からお金を引き出してまた泊まりに行きたいわい」
サンタマに続き、オオヒツとナガミチも言葉を続けました。
「なぁっ!?」
その返事を聞いたオモカネの声だけが部屋の中に響き渡りました。




