第17話 強化
子供達を見送ったヒミカとタキリは、アマテラスーンの視察を終わらせて300階層へと戻りました。
「ふふふ、なかなか良い視察でしたね、タキリちゃん」
「はい、ヒミカ様」
ヒミカとタキリはスクリーンの前にソファに腰掛けています。
そんなヒミカとタキリの前に、チョコがバームクーヘンとコーヒーを持ってやってきました。
「ヒミカ様、タキリ様、お茶とお菓子をお召し上がりください」
「まぁ、バームクーヘンですか。
いつもありがとう、チョコちゃん」
ヒミカに笑顔でお礼を言われて、チョコも自然と笑みがこぼれます。
チョコはテーブルの上に、バームクーヘンとコーヒーを置いて一礼して下がりました。
ヒミカとタキリはバームクーヘンを食べながら、スクリーンを見ています。
スクリーンには、ダンジョンの2階層に戻って芝生の上で座ってお菓子を美味しそうに食べている子供達の姿が映っています。子供達の周りには4匹ほどのイッヌがおり、子供達はイッヌにもお菓子を分けていました。
「さきほどの子供達はイッヌたちと仲良くやっているみたいですね」
「はい、アマテラスーンのお菓子も美味しそうに食べています」
「ふふふ、味にはこだわって作っていますから当然です」
ヒミカは得意げな表情で、コーヒーカップに手を伸ばし、一口コーヒーを口に含みました。
何か物足りなかったのか、コーヒーカップを机の上に置きます。甘い物好きなヒミカが糖分を取りすぎないように家政婦のチョコはあえて角砂糖を1つしか入れなかったのです。
しかし、その心遣いにヒミカが気が付くことはありませんでした。ミルクも砂糖もコーヒーには入っていたのですが、ヒミカはさらに角砂糖を2つ入れ、ゆっくりとスプーンでかき混ぜます。
そして、もう一度コーヒーを口に含み、満足げに微笑みます。
「でも、あの子供達もダンジョンの深い階層に潜るんでしょうか?」
タキリは心配そうにヒミカに質問をします。
質問の意図がわからずにヒミカはタキリに聞き返します。
「? どういうことですか、タキリちゃん?」
タキリはおずおずと両手の人差し指をくっつけながら、ヒミカに自分の考えを説明をします。
「えっと、あの子供達が5階層より下に挑んでいくとなると必ず死んじゃうくらいのダメージを受けてしまうと思うんです。
6階層からはモンスターも強くなっていきますから」
「なるほど、そういう事ですか。
たしかにタキリちゃんの言うとおりですね。
挑戦することは良いことですが、6階層に挑むのは子供達にとっては無謀ですね」
タキリの話しを聞いたヒミカはうーんと悩み始めました。
「さて、どうしましょうか」
「年齢制限を設けてみるのはどうでしょう?」
悩むヒミカにタキリが提案をします。
「年齢制限ですか、それもいいかもしれないですが、来るモノは拒まずがダンジョンですからね。
制限を設けるのは最後の手段にしましょう」
「それでは6階層へ降りる階段の前に、ここから先はモンスターが強くなりますという看板で注意を促すくらいでしょうか?」
タキリの言葉を聞いて、ヒミカはキリッと表情を引き締めます。
「そうですね、それくらいでいいでしょう。
進むも退くも自分の決断ですから」
キリッと表情を引き締めたまま、バームクーヘンをフォークで小さく切り、口に運びます。
「わかりました。
わたしは看板を設置してきます!」
「あら、タキリちゃんがやってくれるのですか?
それではお願いしますね」
「はい、任せてください!」
ヒミカに頼まれたタキリはやるぞと両手を握りしめました。
タキリはバームクーヘンを急いでぱくぱくと食べきろうとします。そんなタキリをヒミカは少し心配そうに見つめてます。
「タキリちゃん。
あまり急いで食べるとのどに詰まらせますよ。
看板作りはそんなに急がなくても大丈夫ですから、ゆっくりと食べて」
ヒミカが言葉を最後まで伝える前に、タキリはバームクーヘンをのどに詰まらせ、自分で胸をトントンと叩きます。ヒミカは慌てて、コーヒーカップを手に取り、タキリに落ち着いてと声をかけながらコーヒーを飲ませました。
はぁ、はぁ、と荒い息をしているタキリの背中をなでながら、ヒミカは少し額に汗を浮かべています。
「ほら、言わないことではありません。
食べ物はゆっくりと噛んで味わって食べないとダメですよ」
「はい、わかりました。ヒミカ様。
それでは、看板を設置してきます!」
「はい、行ってらっしゃい。
よろしくお願いしますね、タキリちゃん」
タキリは元気よくヒミカに声をかけて部屋から出て行きました。
一人きりになったヒミカはこのあとどうしようかと考えます。ダンジョン内の大部分はすでに完成の域に達しています。
「あっ、そうです。最後の仕上げに、10階層毎にゲコベエみたいなフロアマスターを配置していきましょう!
コトアマニュースにも、適切な強さのフロアマスターを配置するのがダンジョン作成の醍醐味だと書かれていましたからね!」
ヒミカはソファに座ったままダンジョン作成キットに手を伸ばします。
ダンジョン作成キットを操作し、スクリーンにモンスターのカスタマイズ画面を表示させ、フロアマスターの作成を始めました。
「最初はダンジョンの299階層のフロアマスターを作りましょう。
この子を一番強くして、あとは徐々に力を弱めていけばちょうどいいバランスになるはずです!」
ヒミカは1人でフロアマスターの作成を始めました。
フロアマスターの強さや能力は、ヒミカがこのくらいかなとおおざっぱに決めていきます。
こうしてヒミカのダンジョンは、挑戦者の力量を把握しないままドンドン強化され始めたのでした。




