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第16話 号泣

 ダンジョン内のアマテラスーンで突然ヒミカに出会った子供達は、一斉に騒ぎ始めました。


「ヒミカ様だぁ!」

「いつ帰ってくるの?」

「なんでダンジョンを創ろうと思ったの?」

「今なにしてるの?」


 子供達はカウンターに詰め寄り、矢継ぎ早にヒミカへ質問をしていきます。

 子供達の質問にヒミカは笑顔で答えます。


「ふふふ、誰かがダンジョンをクリアしたら帰ろうと思ってますよ」


 まずは、キョウコちゃんの質問にヒミカは答えます。


「ダンジョンを創ろうと思ったのは、お休みの時にすることと言えばダンジョン作成だからです」


 キノスケくんの質問に、ヒミカは胸を張って答えます。

 キノスケくんは意味がよくわからずに首を傾げます。


「ダンジョンをがんばって創ってます!」


 最後にゲンタくんの質問に、ヒミカは腰に手をやって胸を張りながら答えました。


「ねぇ、ねぇ!

 ヒミカ様! このダンジョンって何階まであるの?」


 アスハちゃんがどのくらいまでダンジョンがあるのか質問をすると、ヒミカは内緒なんですけどねと前置きをしつつ、ひそひそと答えました。


「実は300階まであるんです。

 本当はもっと深くしようかとも思ったのですが、まだ誰も5階層にも到達しないので300階で止めておくことにしたのですよ」


「ひ、ヒミカ様。

 ダンジョンが何階層まであるかは秘密にしておいた方が良いのではありませんか?」


 タキリが心配そうにヒミカに問いかけます。

 そんなタキリの心配をよそに、ヒミカは胸を張って答えます。


「子供達には正直にありたいですからね!

 みなさん、このダンジョンが300階まであることは他の人や神々に話してはだめですからね」


「はーい!」

「わかったぁ!」


 子供達は大きな声で返事をします。


「それでお菓子を引き替えに来たのですか?

 この券1枚で2つまで交換できますから、好きなお菓子を選んでくださいね」


 ヒミカは優しく微笑みながら、アスハちゃんに声をかけます。

 キノスケくん、ゲンタくんもカウンターの上に、お菓子引換券を置いて、「僕たちも持ってます!」とヒミカに伝えます。


「はい、それじゃあ、君たちも好きなお菓子を2つ選んでください」


 みんながお菓子引換券をカウンターの上に置いている中で、キョウコちゃんだけがお菓子引換券をカウンターの上に置きません。キョウコちゃんは慌てた様子でポケットの中に手を入れています。


「キョウコちゃん、どうしたの?」


 心配したアスハちゃんがキョウコちゃんに問いかけます。


「お菓子引換券、落としちゃった……」


 キョウコちゃんは、俯きながらぽつりと呟きました。

 キョウコちゃんの目にはみるみるうちに目に涙が浮かび、あふれた涙が床にぽたりぽたりと落ちていきます。


「キョウコちゃん、泣かないで」


 アスハちゃんがキョウコちゃんに近より慰めます。

 慰められると辛くなったのか、キョウコちゃんは「うわぁあああああああん」と大きな声をあげながら、泣き始めました。


 キノスケくんとゲンタくんもキョウコちゃんに声をかけますが、キョウコちゃんは泣き止みません。

 タキリは泣き始めたキョウコを前に、あわあわと慌てふためきます。


「ひ、ヒミカ様。どうしましょう?

 あの子どもが泣いちゃってます」


 ヒミカはカウンターの中から外に出て、泣いているキョウコちゃんの前にしゃがみこみました。

 ポケットの中からハンカチを取り出し、ヒミカはキョウコちゃんの涙をやさしく拭いてあげます。


「ほらほら、泣かないでください」


 ひっく、ひっくとキョウコちゃんは目に涙を浮かべつつ、ヒミカを見つめます。


「びみがざまぁ」


「あなたはダンジョンに挑戦する強い子でしょう?

 だから、お菓子引換券を落としたからといって、簡単に泣いたらダメですよ。

 ネッコやイッヌに笑われちゃいますよ」


「にゃんちゃんに笑われちゃう?」


「そうです!

 あの子は簡単に泣いちゃう弱い子なんだとネッコたちに笑われちゃいますよ」


 キョウコちゃんは、目をごしごしと手で涙をぬぐって「じゃあ、泣かない!」と、泣き止みました。


「えらいですね!」


 ヒミカはキョウコちゃんの頭を優しくなでます。

 そんな横からタキリがおずおずと、お菓子引換券を差し出してきます。


「あの、ヒミカ様、これは予備のお菓子引換券なのですけど、その子にあげたらどうでしょうか?」


 キョウコちゃんは、「もらえるの?」と目を輝かせてタキリを見つめます。

 ヒミカもタキリとキョウコちゃんを優しく見つめて、一言伝えました。


「ダメです」


 ヒミカの言葉を聞いたタキリは、「えっ」と驚き、キョウコちゃんは、再び目に涙を浮かべ、「うわあああああああん」と大きな声で泣き始めました。



 ◆



「ほらほら、泣かないでください」


 ヒミカはハンカチで再び、キョウコちゃんの涙を拭きつつ、なだめています。


「ヒミカ様、ひどい!」

「引換券をくれたらいいのに」

「なかないで、キョウコちゃん」


 アスハちゃん達はヒミカに不満をぶつけつつ、キョウコちゃんを慰めます。

 そんな子供達をやさしく見つめつつ、ヒミカは静かにしゃべりだしました。


「私は別に意地悪をしてお菓子引換券をあげないわけではありません」


「じゃあ、なんでくれないの?」


 アスハちゃんがヒミカに質問をします。


「子供であろうと大人であろうと、自分の行動には自分でできるだけ責任を取る必要があるのです。

 残念ですが、お菓子引換券をなくしたのは、この子の責任です。

 これから先、困ったことがあっても泣けば誰かが助けてくれるという風に思って欲しくはありません」


 アスハちゃんが難しい顔をして、ヒミカに一言伝えます。


「難しくてわかんない!」


 ヒミカはがくっと頭を垂れ、頬をちょいちょいと指先でかきました。


「わかんないですか? 困りましたね」


 ヒミカは、うーんと少しだけ考えた後、別の言葉で伝えました。


「困ったときに助けてくれるのは、神様ではなくて仲間や友達だということです」


「仲間や友達?」


 アスハちゃんは首を傾げつつ、ヒミカを見つめます。


「そうです。

 あなたたちは、この子の友達ですよね?」


「うん!」

「もちろん!」

「そうだよ!」


 ヒミカの問いかけに子供達は元気よく返事をします。

 ヒミカは子供達をやさしく見つめつつ、さらに言葉を続けます。


「あなたたちが持っているお菓子引換券は、みんなで一緒に使っても良いのですよ?」


 ヒミカの言葉にアスハちゃんとキノスケくんは首を傾げました。

 ゲンタくんが、何かに気づいた様子でヒミカの顔を見つめます。


「えっと、じゃあ、6個のお菓子をみんなで選んでもいいの?」

「あっ、そうか!」

「わけあったらいいんだ」


 ゲンタくんの言葉に、アスハちゃんとキノスケくんも分け合えばいいことに気が付きました。

 キョウコちゃんは目に涙を浮かべながら、みんなの顔を見ています。ここでヒミカは少しだけ意地悪な質問をします。


「もちろんです。

 ただ自分の食べる分が減りますし、2つとも自分の好きなお菓子を選んだ方がいいかもしれませんよ?

 アマテラスーンのお菓子は美味しいですからね。それでも、みんなで分け合いますか?」


 そんな意地悪な質問にも、アスハちゃん達は笑顔で答えます。


「うん、わけあう!」

「みんなで食べた方がおいしいもんな」

「そうだよ、キョウコちゃん、みんなでお菓子を選ぼう」


 子供達の答えを聞いてヒミカはやさしく微笑みました。

 まだ涙のあとがついていたキョウコちゃんの顔をハンカチでやさしく拭きます。


「こういう時はなんて言えばいいのかわかりますか?」


 ヒミカから質問をされたキョウコちゃんは、うんと頷き、他の子供達の方を向きます。


「みんな、ありがとう!」


 と言って、お辞儀をしました。子供達はみんな笑顔になり、お菓子を選び始めます。

 ヒミカは再びカウンターの中に戻り、お菓子を選んでいる子供達をやさしくほほえみながら見つめました。


「さすがは、ヒミカ様です」


 タキリはヒミカの横で、ヒミカを褒め称えます。

 ヒミカは子供達を見守りながら、タキリに話しかけます。


「いいですか、タキリちゃん。

 助けるのは私たちにとっては簡単です。でも、簡単に助けてしまっては子供達は成長しません。

 だから、私たち神が手助けをするのは、本当に困ってどうしようも出来ないときだけにしないといけないのです。

 子供達は私たちが思っている以上にたくましいのですからね」


「わかりました!」


 ヒミカはキリッと表情を引き締めて、タキリに神の心得を伝え始めました。


「心を鬼にしてでも見守る!

 辛くても神にはやらなくてはならない時があるのです」


 キリッとしていたら、子供達がお菓子を選んでカウンターに持って来たので、ヒミカはすぐに笑顔になり、お菓子を袋につめました。


「はい、それでは、たしかにお菓子を6個確認しました。

 美味しいですから、みんなで仲良く食べてくださいね!」


「ありがとう、ヒミカ様!」


 子供達は元気よく返事をし、店の出入り口へと向かいます。

 最後にヒミカは子供達へ声をかけました。


「みんながネッコやイッヌに優しくしていたら、

 ネッコやイッヌも優しくしてくれますからね」


 子供達はヒミカの言葉の意味がよくわからず、首を傾げつつ、店の外へと出て行きました。

 タキリもヒミカの言葉の意味がわからなかったので、首を傾げています。すると店の外から子供達の声が叫ぶ声が聞こえてきました。


「あああ! それ、わたしのお菓子引換券だ!」

「ワン! ワワン!」(落ちてた! 届けに来た!)

「ありがとう! わんちゃん!」


 そんな声を遠くで聞きつつ、ヒミカはタキリに「ほらね」と優しく微笑むのでした。


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