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第13話 動き出す神々

 タカマノハラにある集会所には朝早くから、数多くの神々が集まっていました。

 ツクヨの眷属から招集がかかったからです。神々の多くは顔を青ざめさせながら、ツクヨの登場を待っています。


 緊張に耐えかねたのか、とある神が隣に座っている神に話しかけようとしたときに、集会所の前側の扉が開きました。集会所は緊迫した雰囲気に包まれます。


 大きく開いた扉から、ツクヨがコツコツというヒールの音を響かせながら、集会所へと入ってきました。その顔には冷たい笑顔を浮かべながら。


 ツクヨの冷たい笑顔を見た神々は、ツクヨの機嫌が悪いことにすぐに気が付きました。

 ツクヨは機嫌が悪い時や、怒っている時には笑顔になることを皆が知っていたからです。集会所は重苦しい雰囲気に包まれました。


 集会所の前方にある演台の上に立ったツクヨは集会所に集まった神々の顔を見回します。


「貴様ら、なぜ、呼ばれたかわかっているか?」


 ツクヨは神々に、静かに話しかけます。神々の中からは誰も返事をする者がいません。

 その様子に苛立ったのか、ツクヨはにこりと微笑みました。微笑んだツクヨを見て、多くの神々がブルリと身を震わせました。


「誰もわからないのか?

 オモカネ? 貴様もか?」


 知恵の神であるオモカネは、ツクヨに呼ばれたので、即座に座っていた席から立ち上がります。オモカネはゴクリとつばを飲み込み、おそるおそるツクヨの質問に答えます。


「それは、ツクヨ様のお手を煩わせたからでしょうか?」


 ツクヨは微笑を浮かべながら、オモカネを見やります。しかし、ツクヨの目は全く笑っていません。ツクヨに見つめられているオモカネは額に冷や汗を浮かべました。


「それもある。が、それだけではない」


 ツクヨは直立不動のオモカネから視線を外し、他の神々を見回します。オモカネはほっと胸をなで下ろしました。神々はツクヨと視線を合わさないようにそっと視線をそらします。ツクヨは、視線をそらしているウスメに問いかけます。


「ウスメ、貴様は?」


 突然指名された神々のアイドルでもあるウスメはビクッと身体を震わせ、即座に立ち上がります。

 不安そうに両手の指を絡めながら、上目遣いでツクヨを見つめます。


「え、えーと、ウスメは。

 その、えーと、よくわかんない。

 てへ」


 ウスメはかわいらしく舌をぺろっとだし、自分の右手で頭をコツンと叩きました。

 そのあざとらしい仕草を目にしたツクヨは、左手の人差し指をウスメに向かって弾きます。


 ゴッという音がウスメのおでこから鈍く響きました。

 そのまま、ウスメは3メートルほど吹き飛んでいきました。ウスメの後ろにいた神々も巻き込まれましたが、誰も文句はいいません。


「いったーい!」と、手足をばたつかせ、いたがるウスメにツクヨは再度問いかけます。


「ウスメ、先ほどはよく聞き取れなかった。

 すまないが、もう一度答えてくれないか?」


 ウスメはおでこを抑えつつ、ふらふらと立ち上がり、ぶすっとしながらツクヨに答えました。


「……すいません。わかりません」


 ツクヨは、ウスメから視線を外し、他の神々を見回します。その様子を見たウスメはおでこを抑えながら、ぼそっと文句を言いました。


「ヒミカ様なら、こんなひどいことしないのに」


 ウスメのつぶやきを聞いた周りの神々は即座にウスメから物理的に距離をとりました。

 ツクヨは、それはもう優しい笑顔を浮かべ、ウスメの顔を見つめます。ウスメはツクヨの優しい笑顔を見て、危険を感じたのか、逃げだそうとします。しかし、それよりも早くツクヨの手から、衝撃波がウスメに向かって放たれました。


「ふばっは!?」


 独特の叫び声を上げて、ウスメは吹き飛んで行きます。

 ウスメから距離をとっていた他の神々には被害はでませんでした。


 ツクヨは優しい笑顔を浮かべたまま、神々を見やります。力自慢で大柄のタヂカもツクヨの前で縮こまっていましたが、その大柄故にツクヨの目にとまり問いかけられます。


「タヂカ、貴様は?」


 タヂカは、「ハッ!」と大きな声をあげ、即座に立ち上がります。


「ヒミカ様がダンジョンにこもられたからでしょうか?」


 タヂカは、なんとか考えた答えをツクヨに伝えました。


「近いが、それではない」


 ツクヨは、笑顔を浮かべて神々を見回します。



 ◆



「ヒミカ姉様がダンジョンとやらにこもられた事は別によい。

 太陽はいつもと変わらず昇り、昼が訪れているからな」


 ツクヨは、一旦そこで言葉を句切り、神々を見回しました。冷たい笑顔を浮かべて。


「だが、オサノが嵐と共に帰ってきたとき、貴様らは誰もオサノを止められなかった。

 数多くの神がいるのに、誰ひとりとしてだ」


 三貴神であるヒミカ、ツクヨ、オサノは、他の神とは圧倒的な力の差がありました。

 そのことを思い浮かべた神々は、心中でムリムリと思ったのですが、誰も口には出しません。ツクヨを前に異議を唱えることが出来る者は、ヒミカ以外にいないからです。


 集会所に集められた神々は、『ヒミカ様に帰ってきていただかねば』と思いを強くします。


「そこでだ、私が貴様らに試練を与えることにした。

 ヒミカ姉様や私に頼ってばかりで己を鍛えない貴様らには試練が必要だろう」


 ツクヨは、優しい笑顔を浮かべています。しかし、目だけは笑っていません。

 ツクヨの顔を見た神々は、戦慄を覚えました。


 立ったままのオモカネが、挙手をします。

 ツクヨは、「なんだ?」とオモカネに発言をするように促しました。


「ツクヨ様。ツクヨ様のお考えはわかりました。

 我らの怠慢のために、ツクヨ様のお手を煩わせるのは心苦しいばかりです」


「気にするな。私は情け深いからね。

 死んだ方がいいと思える程度の試練を与えるだけだ。本当に死なせたりはしない」


 ツクヨの言葉を聞いた神々は、その身を震わせます。

 ツクヨも一度やると言ったら、必ずやり遂げる神であることを知っているからです。オモカネは慌てて言葉を続けます。集会所に集められた神々は、『がんばれ、オモカネ!』と泣きそうな視線をオモカネに向けます。


「つ、ツクヨ様! それには及びません!

 今ヒミカ様が作られているダンジョンに、我らが挑戦し、ヒミカ様にお帰りいただきたいと思います!

 ダンジョンとは、罠やモンスターもいるとのこと、我らが自らを鍛えつつ、ヒミカ様にも帰ってきていただける。さらにツクヨ様のお手も煩わせない。

 どうか! どうか、我らがダンジョンに挑戦することをお許しいただけないでしょうか!」


 ツクヨは笑顔を収めて、冷たい視線をオモカネに向けます。

 ツクヨが真剣な表情になったので、神々は少しだけ安心しました。


「ヒミカ姉様のダンジョンにか?

 ふむ、結局は誰かがクリアしないとヒミカ姉様は帰ってこないということだったな?」


「はっ、その通りでございます」


 ツクヨは少しだけ考え、オモカネや他の神々に考えを伝えました。


「いいだろう。オモカネ、お前の意見を採用しよう」


「はっ、ありがとうございます!」


 オモカネは深々と頭を下げました。神々の多くはほっと安堵をしました。


「ただし、期日は3ヶ月とする。

 3ヶ月以内に誰もヒミカ姉様のダンジョンをクリア出来ないようであれば、やはり私が鍛えてやるからな」


 ツクヨの言葉に、オモカネをはじめとした神々は、大きな声で「かしこまりました」と声をそろえました。ツクヨはさっそうと集会所を後にします。



 ◆



 ツクヨが去った集会所では、オモカネの周りに神々が集まり、オモカネの勇気ある行動を褒め称えました。


「さすがは、オモカネ。

 ツクヨ様の試練を受けずにすんでよかった。本当によかった」

「知恵の神は伊達ではないね!」

「ああ、だが、早くヒミカ様に帰ってきていただかねば」

「うむ、ヒミカ様以外に、ツクヨ様をお止めできる方はいらっしゃらないからな」

「しかし、ヒミカ様のダンジョンを3ヶ月以内にクリア出来るのか?」


 ダンジョンをクリア出来るか心配した神の言葉に、オモカネが自信を持って答えました。


「その点は心配いらないと思う。

 人間達がいまダンジョンに挑戦しているけれど、ネッコやイッヌばかりで、心が癒やされるダンジョンらしいからね。我らにかかれば、ダンジョンのクリアなどたやすいことさ」


「まぁ、そうか。あの優しいヒミカ様が作られたダンジョンだしな。

 さほど、難しいダンジョンは作られるはずがないか」


「ああ、その通りさ。それでは、明日からダンジョンをクリアするために、我ら神々もダンジョンに挑戦し始めようじゃないか! 今日は景気づけに宴会だ!」


「「「「「おお!!」」」」」


 こうして神々もヒミカのダンジョンへと挑戦することになりました。

 たやすくクリアできるだろうという甘い見積もりで……。

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