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第12話 姉弟

「母上は一体どこにいるのだ。

 姉上達が知っていると良いのだが」


 オサノは、はぁと大きくため息を吐きつつ、嵐の中を歩んで行きます。

 嵐はタカマノハラに甚大な被害をもたらしていますが、オサノは気にせず歩いています。


「母上〜!

 母上はどこにおられるのですか〜!」


 オサノが大声で母親を探しながら歩いていると、前から白く丸い光が近づいてきていることに気が付きます。


「ぬ? なんだ、あれは?

 もしや!? あれは母上なのではなかろうか!」


 オサノは丸い光に急いで近寄ります。


「母上〜!

 母上なのですか!?」


 丸い光に手が届かんとした時、光の中から出てきたのは白く美しい汚れ1つ感じさせない手でした。

 いえ、正確にいうと、固く握りしめられ、オサノの顔を狙って繰り出された右の拳でした。


 ひねりも加えられた右ストレートがオサノの顔面を捉えます。


「ぶへらっ!?」


 叫び声とも言えない声をあげて、オサノはゴロゴロと吹き飛ばされました。鼻血が出てきたのでオサノは手で鼻をおさえて問いかけます。


「なっ、は、母上ではないのですか!?」


 白く丸い光の中から、今度はキックが繰り出されました。

 そのキックはオサノのこめかみを捉えており、かなりのダメージをオサノに与えます。


「!?」


 声にもならぬ叫び声を上げ、オサノは地面の上にどしゃっと崩れ落ちました。

 オサノがぷるぷると震えながら、顔だけを白く丸い光に向けると、光の中から、ツクヨが現れます。


 辺りは嵐のため、風と雨が激しく吹き荒れていますが、ツクヨには一切の影響が見受けられません。倒れているオサノを冷たい視線で見下ろしながら、凍えるような声で話しかけます。


「だれが、お前の母だ」


 驚いたのはオサノです。いつもはタカマノハラに着いたらヒミカがやって来てくれていたのに。なぜ、ヒミカではなく、ツクヨがやってきたのか理解できません。


「つ、ツクヨ姉上・・・ヒミカ姉上は?」


 ツクヨはオサノの質問には答えず、冷たい視線を向けたままオサノに命令をします。


「質問はいいから、とっととこの嵐を止めろ。バカが」


 生命の危険を感じたのか、オサノは顔を蒼白にし、慌てて嵐を止めました。

 オサノが嵐を止めたことで、辺りには静寂が戻ります。しかし、嵐によってもたらされた被害は直りません。


 辺りを見回し、惨状を確認したツクヨは「チッ」と舌打ちをします。

 その舌打ちを聞いて、オサノは身をブルリと震わせました。オサノは質問をしたいのか、ちらりちらりとツクヨの顔を見上げますが、ツクヨの表情が厳しいため話しかけることができません。


「いつまで寝転んでいるつもりだ」


 ツクヨが冷たくオサノに言い放ちます。オサノがおずおずと立ち上がろうとすると、ツクヨの右手がオサノの顔を掴みました。力を入れているのか、ぎしぎしという音がオサノの顔から聞こえてきます。


「ぐぁあああああ! イタイイタイ!

 ツクヨ姉上! イタイ!」


 オサノの叫びを気にした様子もなく、ツクヨは静かに語りかけます。


「誰が、立って良いと言った?

 悪いことをしたバカは正座をするのが当たり前だろ?」


「は、はい!

 その通りです!」


 ツクヨはオサノの顔から手を離し、オサノはその場に正座をしました。


「バカは何で帰ってきた?」


「バカとは吾輩のことですか?」


 ツクヨからオサノに強烈なケリが見舞われます。

 オサノは横に吹き飛びました。


「質問をしているのは私だ。

 質問に質問で返すな、バカ」


 オサノは余計な質問をしてはダメだと思ったのか、再び正座に座り直して、ツクヨの質問に返事をします。


「は、母上から姉上達のところに連絡が来ているやもしれぬと思い、タカマノハラに帰ってきたのです」


「母からは連絡はないよ」


「そ、そうですか。

 それでは吾輩はまた母上を探す旅に出ます」


「あぁ!?」


 オサノはその場から逃げだそうとしますが、ツクヨに押さえつけられ、動くことが出来ません。

 ツクヨはオサノの背中を足で押さえながら、ゆっくりと語りかけます。


「なぁ、バカよ? 辺りの惨状を見てみな」


 ツクヨの言葉を聞き、オサノは辺りに目を向けます。

 木々は倒れ、屋根が吹き飛んだ建物も数多く見られます。遠くでは、山もくずれているようでした。ツクヨはさらに声のトーンを落としてオサノに語ります。


「自分の言葉と行いには責任を持たなければならない。

 神ならばなおさらだ」


「は、はい。その通りです」

「バカ、お前はこの辺り一帯をめちゃくちゃにしておいて、責任を取らずにどこかに行っていいと思っているのか?」


「えっ、えっと、いつもはヒミカ姉上が、しかたないですねと言いながら直してくれていたの、ぐえ」


 ツクヨがオサノを踏みつけている足に力を込めたため、オサノは続きの言葉を言えませんでした。


「ヒミカ姉様は今、ダンジョンとやらを作っているからいらっしゃらない。

 いつもいつもヒミカ姉様に後始末をしてもらって恥ずかしいとは思わないのか、お前は」


「お、思います! ヒミカ姉上に頼ってばかりではダメです」


「なら、お前がタカマノハラをきちんと元通りに直すんだ。

 それが終わったら、私のところに来な」


「えっ、吾輩は母う、ぐえ」


 ツクヨはオサノを踏みつけている足に再び力を込めました。


「わかりました!

 タカマノハラを元通りにした後、ツクヨ姉上の元に参上します!」


 ツクヨはオサノから足を離し、その場から離れていこうとします。オサノはようやく解放されたので、もぞもぞと身体を起こしながら、ため息を吐きました。ため息を聞いたツクヨはオサノをにらみつけます。


「おい、お前は力をきちんとコントロール出来ていないんだ。

 嘆くな、ため息を吐くな、泣き言を言うな。

 お前の感情が負の方向に揺れる度に嵐が起こるのを忘れるなよ」


「はっ! わかりました!」


 オサノは身を起こし、辺りの修理をしなければならないのかと「はぁ」とため息を吐きました。

 何もわかってなかったオサノにツクヨは右ストレートを繰り出します。


「ぐぶらっ!?」


 オサノはよくわからないうめき声をあげて吹き飛びました。

 ツクヨはオサノを放っておいて、自身の部屋へと向かいます。

 タカマノハラは夜が明けようとし、東の空が明るくなりつつありました。

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