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第11話 ツクヨ

 ある日の夕暮れ、ダンジョンから外に出た挑戦者達は、西の空が暗いことに気が付きます。

 風も心なしか強くなってきたように感じます。


「こりゃあ、明日は荒れるかもな」

「もしかして、オサノ様がこっちに向かってきてるのか?」

「かもしれねぇ。早く帰って、嵐に備えよう」

「おう」


 挑戦者達は、急ぎ足で帰り始めました。



 ◆



「母上〜!

 母上〜!

 母上はどこにおられるのですか?」


 オサノは嵐と共にタカマノハラに近づいてきました。

 

「はぁ、母上はどこにおられるのだ」


 オサノがタカマノハラに近づくにつれ、どんどん嵐が強まります。

 さらに、オサノの気分が沈むにつれて天候は加速度的に悪くなっていきました。



 ◆



 オサノがタカマノハラに着いたのは夜でした。

 ゴー、ゴーと風が吹き荒れ、雨がザー、ザーと横殴りに降りしきります。


「母上〜!

 母上〜!

 母上はおられますか〜?」


 オサノの周りはとてつもない風が吹き荒れ、人はもちろん、神ですらたやすくは辿りつけません。

 木々は倒れ、川は濁流となり、ところどころで土砂が崩れていきます。


 いつもならヒミカが即座に駆けつけ、オサノを止めるのですが、ヒミカはダンジョン内の為オサノが来たことに気が付きません。


 人々はオサノを恐れ、家の中に閉じこもり、神々はなんとかオサノを止めようと近づこうとしますが、風に吹き飛ばされ、雷に打たれてしまいます。


 被害が拡大していく一方の状況で、神々は「ヒミカ様がいてくれれば」と嘆き、ダンジョンに挑戦してヒミカに戻ってきておいてもらえば良かったと語り合いました。

 そんな中である神が他の神々に提案をします。


「ツクヨ様にオサノ様を止めていただくか?」


 ざわめき、嘆いていた神々はぴたりと動きを止め、誰も言葉を発しません。

 重苦しい雰囲気が神々の間に立ちこめます。


「ツ、ツクヨ様にか?」


「ああ、誰もオサノ様を止めることが出来ないのだ。

 ヒミカ様もいない今、ツクヨ様に止めていただくしかないだろう」


「そうだな。誰がツクヨ様に頼みに行く?」


 神々はまたも動きを止め、誰も言葉を発しません。

 自分がその役目を担わされるのを恐れているかのような静寂が神々の間を覆っていきます。嵐の風の音だけが辺りに響きました。



 ◆



 神々がツクヨにオサノを止めてもらうことを願い出るまでに丸一日の時間を要しました。

 誰もがツクヨに頼みに行くのを恐れ、陳状に行く者を決めるのに時間がかかったからです。その間にも嵐の被害は広がっていました。


 陳状に訪れた神の言葉を、ツクヨの眷属の神が聞き届け、ツクヨに伝えます。ツクヨに直接会わずにすんだ神はほっと胸をなで下ろしました。役目は終わったとばかりに、そそくさと帰って行きました。


 ベッドに横になって銀色の長い髪を広がるままにしていたツクヨは上半身を起こしました。

 オサノが暴れ回ってると聞いたツクヨは眷属の神に質問をします。


「ヒミカ姉様がいつも止めていただろう?

 ヒミカ姉様はどうしたのだ?」


「ヒミカ様は今、ダンジョンに閉じこもっておられるので、オサノ様を止めることはできません」


 ツクヨは眷属の神の言葉に目を細めます。


「ダンジョン? ヒミカ姉様がか?」


 眷属の神はツクヨにヒミカからの手紙を手渡します。ツクヨは手紙の封を切り、ヒミカからの手紙に目を通します。


『お休みをしてダンジョンを作ることにしました!』


 ツクヨが手に持っていた手紙はサラサラと消え去っていきます。

 ツクヨは目を細め、冷たい笑みを浮かべました。眷属の神は冷や汗を額に浮かべつつ、徐々にツクヨから距離をとります。


「太陽は動いていているし、昼もいつも通りに訪れている。

 ヒミカ姉様が仕事を休まれてダンジョンを作る事は、まぁ、良いだろう。

 ヒミカ姉様は働き過ぎだからな」


 ツクヨは立ち上がり、部屋の外へと向かいます。


「しかし、オサノのバカを自分たちで止めることもできない神々には試練が必要だろう。

 そう思わないか?」


 部屋の外に向かいながら、ツクヨは眷属の神に問いかけます。


「思います!」


 眷属の神は、即座に返事をします。


「嵐が収まったら、集会所に集まるように神々に伝えなさい」

「はっ! わかりました!」


 ツクヨは、冷たい笑顔を浮かべて、眷属の神に指示を出すと部屋の外へと出て行きました。

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