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短編

最後の一日

作者: 紙本臨夢

あらすじが短すぎますがネタバレになるかもしれないので、あまり書けませんでした。すみません。

久しぶりのまともな短編の投稿です。


メイン二人の紹介

・暗偽陰弥

容姿説明:髪も目も共に黒色。髪の長さは前髪が目が隠れるほどで後ろ髪は首の真ん中あたりまで。顔のパーツのバランスが非常に良い。一般的にイケメンという分類。

だが、本人はイケメンでは無いと思っている。

・明山陽奈

容姿説明:髪も目も共に黒色。髪の長さは前髪が眉毛が隠れるほどで後ろ髪は腰あたりまで。髪のパーツのバランスが非常に良い。一般的に大和撫子という分類。


もう少しキャラが居ますがメインでは無いので書きません。

読者方々のご想像にお任せします。


もしかしたら、ちょくちょく誰?と疑問に思うような人名が入っているかもしれませんがお気になさらず。こちらのミスです。

その人名はそのシーンよって名前を本当の方に脳内変換してくれたら助かります。

それでは、お楽しみください。

 俺は家で突然倒れたらしい。

 倒れて身動きができない俺を見つけて誰かが救急車を呼んでくれたらしい。

 あとから考えると倒れた日に色々とあり、舞い上がっていたから、自分の身体の異変に気付けなかったのが、倒れることになった重大な要因の一つだという考えに至った。


「突発的な心臓病ですね。しかも、その心臓病は貴方が初めての発症者だと思います。今すぐに入院をしてもらいます」


 若いうちは自分の身に降りかからないだろうと思っていたことを運ばれた先にいる病院の医者から淡々と言われた。すぐさま病室に連れて行かれるが、両親は診察室に残っていた。


 これが九ヶ月前の三月の出来事。



 入院をした翌日に両親は絶望仕切った顔で病室に訪れてきた。


「大丈夫……。大丈夫だから」


 両親は二人してなぜか、泣きそうな顔で俺の心を落ち着かせるついでに自分達の心も落ち着かせるように言っていた。それから二時間ほど経ったら、家に帰って行った。その入れ替わりで俺の彼女──明真陽奈(めいしん ひな)が病室に入ってきた。


 陽奈とは九ヶ月前の三月に付き合い始めた。


 ちなみに陽奈と付き合い始めたのは俺が倒

れた日。つまり、陽奈にしたら付き合い始めた翌日には彼氏が入院をしたという状況だ。そのためか陽奈は自分のせいだと勘違いをしてしまって「ごめんなさい」と何度も何度も繰り返し涙を流しながら謝ってきた。


 陽奈は何も悪くないので居心地が悪くなる。


 あの時はもしかしたら、翌日からは来てくれなくなるんじゃないのか不安に思っていたが、そんな心配をするのは間違えで普通に来てくれた。



 それから、何ヶ月も俺の病気が治ると信じて、筋肉や言語力が衰えないようにと毎日来て、色んなことに対して補助してくれていた。

 しかし、二ヶ月ほど前に喧嘩をしてしまった。


「大丈夫。いつかきっと元気になってデートとかできるようになるから頑張ろ」


 陽奈の前で弱音を吐いたところ励ましの言葉を言われた。それには別に気にならなかった。


 だが「いつかきっと元気になるから」という部分にだけ腹が立ち、怒ってしまって喧嘩になってしまった。


 入院をした翌日に両親が泣きそうな顔で大丈夫と言ってきたことで、この病気は治らないんだなと理解したために陽奈の「いつかきっと元気になるから」という二度と来ないであろう未来のことを言われたので、腹が立ってしまい怒ってしまった。そして、売り言葉に買い言葉で喧嘩をしてしまった。それでも翌日に陽奈は昨日の喧嘩が無かったかのような表情で病室に尋ねてきてくれた。


「昨日はごめんなさい! 君の気持ちも知らないであんなことを言って」


 病室に入ってきていきなり叫ぶように言われた。


「いや、俺も悪かった。ごめん」


 俺の方も謝ったが、すぐに互いに謝ったことがおかしく思ったのか陽奈は笑い出し、俺はそんな陽奈の笑いにつられて笑ってしまった。


 幸い、俺の病室には俺以外の病人がいないので、誰にも迷惑はかけなかった。その後も俺達は笑い合いながら昨日のことを謝り合い、許し合い元に戻った。

 いや、喧嘩した分、前よりも仲良くなっているかもしれないな。


「や……。暗偽陰弥(あんぎいんや)!!」


 いつの間にか陽奈に名前を呼ばれていた。しかも、フルネームで。


「どうした? 俺の名前なんか呼んで」


「そっちこそどうしたの? ボッとして」


「悪い。ちょっと、九ヶ月前からのことを思い返していたんだ」


「そうなんだ。確かにこの九ヶ月間は色々あったからね」


 俺達は九ヶ月もの間、基本は一緒にいたので記憶を共有しているためそんな会話ができる。


 まぁ、そんなこと言っても俺は入院しているために高校を自主退学しているが、陽奈は今も高校で、優等生をキープしているだろう。


 入院した当初は学校に行かなくて済むと思い、嬉しかったが、今となっては学校に行きたいと思ってしまっている。そんな俺の気持ちに相反するかのように入院した当初は学校の生徒や教師達がお見舞いに来ていたが、今となっては学校の生徒達はもちろん、教師達もお見舞いに来ない。


 退学しているから当たり前だが。


 一年間お世話になった高校の生徒で今もまだ、来ているのは唯一、陽奈だけ。


「もう、こんな時間だし名残惜しいけど帰るね」


「あぁ、気をつけて帰れよ。もう、冬なんだから外も暗いし」


「わかった。でも、大丈夫。わたしにはこれがあるから」


 微笑みながら胸から取り出したのは、暇だったので俺が作った……いや、俺達が作った手作りのお守り。そのお守りは石を細工したもので、一つ完成するまでに一ヶ月ほどかかった青い石のことだ。


 お揃いのお守りを二人で持っている。そのお守りは二人でお揃いの物を持っているからこそ、ご利益があると勝手に決めて、二人でお揃いの物を持っている。


「それでも、本当に気をつけろよ」


「わかってるって。明日は学校が休みだから、朝から来るね」


「了解した」


「それじゃあ、また明日」


「あぁ、また明日」


 お別れの挨拶を交わす。

 陽奈は病室の扉に出て少しだけ俺の方を寂しそうに見てから、病室を出て行った。

 陽奈を病室から出られないが見送った後に俺はベットに身体を投げ出そうとする。しかし突然、病室の扉からノックする音が響いた。


「失礼します」と一言だけ言って、看護師が病室に入ってきた。


「点滴の替えの時間ですか?」


 陽奈が帰ってからすぐに点滴の替えの時間がいつもある。しかし、今回は俺の言葉に看護師が無言で首を横に振る。


「先生がお呼びです」


「ん? そうですか。わかりました」


 何だろうと思いながらもベットから立ち、いつもの診察室に向かおうとするが、看護師に止められた。


「今回はあっちです。まだ、暗偽さんは行ったことがないところですが、私がついていきます」


 看護師の声が妙に弾んでいる。

 あっ、これって、歩いている間に愚痴を聞かされる状況だ。そう思い心を決めた。

 俺と看護師は今回の診察室の前まで来た。

 今の看護師はかなり静かだが、さっきまで予想通りに愚痴を聞かされていた。

 まぁ、それはさておき俺は診察室を三回ほどノックした。中から反応が無かったが「失礼します」と言い問答無用で入ると俺の担当医の先生がジッと、レントゲンを見ていた。

 レントゲンを見ることに集中して俺のことに気付いていないようだ。


「あの」


 小さめだが声をかけると俺のことに気づいたようで俺の方に向き、雑談も無しにすぐに本題に入るようだ。


「率直に申し上げますけど病気が悪化しています。ここまで来る時に何か違和感がありませんでしたか?」


「少しだけ、息苦しくて足があまり上がりませんでした」


「やはり貴方が初めての発症者です」


「そうですか。っ!?」


「まさか!? 塩山さん!! 彼に酸素を!!」


 い……息ができない。


「準備ができました!!」


「よし、なら彼に酸素マスクを着けて、酸素を供給してあげてください!!」


「はい!! わかりました!!」


 そんなことを言っているが、酸素マスクを着けられても酸素を全く吸えない。


「っ……!? っ……!?」


「早くしたまえ!!」


「もう、送っています!!」


「なら、なぜだ!?」


「わかりません!! 一つだけ考えられることは自分で呼吸をすることすらままならないという状況です!!」


「なっ!?」


 い……意識が飛ぶ。


「がはっ!?」


「今なら呼吸できると思う!」

 

「わかりました!!」


 意識が失う寸前にそんな会話が聞こえると突然、呼吸できるようになった。


「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ」


 呼吸ができるようになったので、急に酸素をたくさん吸うと突然の酸素で死にかけた。


「すみません。ご迷惑をおかけしました」


「いえ、これが私達の仕事ですからお気になさらずに」


 担当医の先生にそう言われる。その後に続いて担当医の先生は口を開く。


「やはり悪化速度が速すぎますね」


 担当医の先生は真剣な表情で俺を見て言う。


「先生が名付けた心音遅延はやっぱり、俺が初発症ですか?」


「そうです。そのため大変申し上げにくいですが治療法は」


「無いんですよね?」


「はい」


 俺の病気は病名通り心拍数がかなり遅くなる病気だ。

 心拍数は俺と同じ年齢だったら普通は一分間に50から100回なのだが、俺の場合はその半分から半分以下だ。一分間に25から40回なのだ。そのために心臓がちゃんと酸素を身体全体に供給できていなくて、身体の様々な場所が徐々に麻痺していく。

 そして、最後にはほぼ100パーセントの確率で脳が麻痺して死に至るらしい。

 俺が初発症だからこれはあくまで予想だ。

 もしかしたら、良い方向かさらに悪い方向に転がる可能性だってある。そして、今の俺は自分で悪い方向に着々と転がっていると気づいている。

 だから、二ヶ月前に陽奈と喧嘩をしてしまったのだ。


「少し心音を聞かせていただきますがよろしいですか?」


「どうぞ」


 服を上げると聴診器を当てられる。

 少ししてから、担当医の先生が顔をしかめる。


「やはり心拍数が低すぎます。しかも、前よりも」


 そう言われて、やはり病気が悪化していることが実感できた。


「余命は後どれくらいですかね?」


 短いだろうなと思いながらも興味本位で聞いてみた。


「このままいくと明日一杯で余命を使い果たすと思います」


「なっ!?」


 予想外にも少なかったのでそう言ってしまったが、まぁ、それぐらいだろうなと思い直す。


「一日ですか。なら、あいつと最初で最後のデートをして来ても良いですか?」


 許可を得られる訳が無いだろうなと思いながらもそう聞く。


「わかりました。なら、副作用が酷いですが少しは病気を抑える薬を用意しましょうか?」


 予想外にも許可を得られたことに驚く。


「わかりました。その薬の用意をお願いします。ちなみにこのことは陽奈にも家族にも秘密にしておいてください。なら、なぜデートをするのか聞かれた時にはこう答えてください。『今日は調子が良いらしく本人たっての希望で』と。それと俺が死んだ時に問い詰められたら『本人が言わないでと言われたので隠していました。それに彼は隠さなかったら病室を勝手に抜け出していました』と。これで言い訳はちゃんとできますよね?」


 担当医の先生と看護師さんは渋々といった感じで頷く。


「お願いしますよ。それでは病室に戻ってよろしいでしょうか?」


「よろしいですよ」


 担当医の先生に許可を得たので、一人で病室に戻る。

 いつもならこの後に様々なテレビ番組を観るのだが、今日は風呂に入り寝ることにする。

 もう、夕食は食べ終わったからだ。

 風呂は制限時間付きだ。

 病室の近くにある風呂に早く入り、制限時間以内に風呂を出て、病室に戻って、眠りについた。



 翌日、いつもよりもかなり早い時間に目が覚めてしまったので早めに身支度を済ませる。

 そして、昨日と同じ診察室に行き、担当医の先生から副作用が酷いらしい薬を貰い、その薬を朝食後に飲む。

 しばらくボッとテレビを観ていると勢いよく病室の扉が開き陽奈が入ってきた。


「陰弥聞いたよ! 今日、調子が良いからわたしとデートをするんだって!?」


 あの先生、普通にデートすることを言いやがったな。


「あぁ、そうだ。でも、この町は今、どういう状況かわからないからデートプランなんて立ててないぞ」


「わたしも突然だから、デートプランなんて立ててないし」


「なら、適当にぶらぶらで良いんじゃね?」


「それもそうね。陰弥、歩ける?」


「今日は調子が良いって言っただろ」


 調子に乗りながらも少し不安が残っているがベットから立ち上がり一歩を踏み出す。

 普通に歩けた。

 これも、副作用が酷いらしい薬のおかげかな?

 心の中で薬とこの薬を提供してくれた先生にお礼を言う。


「さぁ、行こうか」


 陽奈に近づき笑顔でそう言うと二人で病室を出る。その後病院を出る。

 陽奈からしたらそれは見慣れた光景だろうが、俺からしたら九ヶ月ぶりの外だ。

 九ヶ月ぶりの外は寒くて雪がかなり積もっていて、少し歩きにくそうだ。


「一日早いサンタさんからのプレゼントだね」


 陽奈は突然そう言い出す。

 思い出してみたら今日は十二月二十四日──つまり、クリスマスイブ。

 なるほど、確かに一日早いプレゼントだな。


「それじゃあ、ひとまずは学校に行きたいな」


「学校ね。わかった」


 会話を交わしてから学校に行くことになっていた。

 うちの高校は公立なのになぜか、終業式は二十二日にやる。それにこの地域では冬休みは必ずといっても良いほどに毎日雪が歩ける程度だが積もっている。そのために冬休みは毎日部活をやっていない。

 うちの高校はさほど部活に力を入れていないために夏休みでも春休みでも部活は少ないけど、大変なことに教師はなぜか冬休みは年末年始。夏休みはお盆しか休められないらしい。

 ちなみに教師がいるために長期休みの時は生徒も自由に入れて自主勉強ができるらしい。

 こんな風に今、向かっている高校をうちの高校と呼んで話をしているが、俺はもう、その高校に通っていない。

 心ではそんなことを考えているが、普通に陽奈と話しながら歩いている。

 自分で言うのは恥ずかしいが、俺の脳は様々な指示を一気に出せて、全てを何の(おろそ)かもなくこなせるらしい。

 普通の人は様々な指示を一気に出せるが、全てを何の疎かも無くこなせるということは普通は無いらしい。

 まぁ、そんなことを担当医の先生に言われたけど、俺も一つ疎かになっていることがある。

 もちろんそれは心臓機能だ。その心臓機能が疎かになっているせいで心音遅延なんていう初発症の病気にかかるんだ。

 この心音遅延は普通の心不全と違うということを説明して貰ったが全く理解出来なかったために、覚えていない。

 色んなことを考えているうちに学校に着いた。

 教師と勉強熱心な生徒が来ているために正門は普通に開けられている。なので、俺達はそこから学校の敷地内に入る。

 敷地内と言っても公立なので、私立や国立と比べたらかなり狭い。


「まずはどこに行く?」


「先生達に挨拶をしたいし職員室にしよう」


「オッケー」


 他愛もない会話の中で先生達に挨拶に行きたいという、いかにも優等生らしいことを言ったが、授業中は真面目だが休み時間になると不良みたいになるどこにでもいる普通の学生だった。

 周りから話されなかったら陽奈は授業中も休み時間も優等生だ。そんなことを考えいるうちに職員室前に着いた。

 まぁ、玄関口と同じ一階に職員室があるから当たり前か。


「どっちが挨拶をする?」


「俺はもう、退学しているんだし陽奈が挨拶をする方が普通なんじゃね?」


「それもそうね」


 納得できるようなことを言うと陽奈は職員室の扉を開けてすぐに一礼をして


「失礼します。2年3組の明真陽奈です。教師の方々は全員こちらに向いてくれませんか?」


 と挨拶をする。教師達は訝しげに全員が陽奈の方を向く。

 見えていないが何となく雰囲気でわかる。

 何を思ってか陽奈は職員室の扉を俺が見えるところまで開ける。

 俺の姿を見ると教師達が目を見開く。


「どうも。お久しぶりです」


 そう一礼をして言うと「おぉー!!」とよくわからない歓声が湧き上がる。


「暗偽君!! 退院できたのかね?」


 一年の頃の担任の教師にそう言われるとやっと、わからなかったであろう教師達が俺を誰だかわかったようだ。

 お、俺ってどこにでもいるただの生徒だったのにこんな有名人だったのか?


「いえ、退院は出来ていませんが今日は調子が良かったので担当医の先生から許可を得られたので、行く場所が無かったからここに来ただけです」


 思っていることとは別のことを言う。


「ということら明山さんとデートかね?」


 付き合ってすぐに入院したのにどうして俺達の関係を知ってんだ? ここの教師達は。


「どうして俺達の関係を知っているのですか?」


 珍しいことに思ったことがそのまま口に出てしまった。


「今じゃこの校内で有名だよ。優等生の明山さんが不良優等生の暗偽君と恋人同士だってこと」


 何だよ、不良優等生って。どっちか一つにしろよな。てかっ、陽奈は有名だとしても俺まで有名だとは思わなかったな。そんな会話を教師と交わしていると背後から「あっ!!」と聞いたことがある声が聞こえてきた。

 そして、そいつに肩を組まれて


「久しぶりだな! 退院してこの高校に復学するのか?」


「先生達にも説明したことをもう一度言わないといけないか?」


 俺の高校で初めて話しかけてきた友達の田中太郎が話しかけてきた。

 こいつの名前は何の特徴も無いが、性格や外見はかなり特徴的だ。性格は誰にでもフレンドリーで外見というか表情はずっと、どんな時にでもニコニコしている。


「俺とお前の仲だろ。説明してくれよ」


「い・や・だ」


「ちょっとタナちゃん早いよ!」


 また、聞いたことがある声が聞こえてくる。


「あっ!? インちゃん!? 久しぶり! 退院して復学するの?」


 田中の彼女の山田花子が話しかけてきた。

 こいつの名前も何の特徴も無いが、性格や外見は特徴的だ。こいつの性格も表情も田中と全く同じだ。


「はぁ、お前にもか……。先生こいつらに説明お願いします」


 うんざりしながらそう言うと先生は説明を始めてくれた。


「陽奈。もう、行こうか?」


「あれ? もう行くの? 二人と話さなくて大丈夫


「あぁ、大丈夫だ。元々何も思い付かなかったからここに来ただけだしな。商店街にでも行こうか」


「わかった。陰弥がそう言うなら」


 俺の意見に納得してくれて、俺達はその場を去る。

 もう、同じ世界なのに戻れない別世界のような場所にはいられないな。

 もう、死ぬことに納得したのに、まだ、生きたいと思ってしまう。

 俺の余命は今日が精一杯なのに。


 俺達は商店街に来た。

 この商店街は誰もが想像するような商店街では無い。

 装飾が派手で眩しく、全体的に洋風みたいな感じだ。

 全ての店が閑古鳥が鳴くかのようではなく、繁盛している。

 しかも、今日はクリスマスイブということがあってか、いつもより繁盛している。

 この商店街は入院する前からあったので、俺でもどんな感じか知っているから、いつもより繁盛していると断言できる。


「それじゃあ、どこかで軽く昼食でも食べるか」


 商店街に設置されている時計を見るともう、正午を過ぎていたのでそう言う。

 この商店街は見た目とは裏腹にかなり様々な良品が安い。

 だから、学生の財布にも優しい。

 俺は病院のATMで最後の一日なので全額引き出す。

 俺の貯金は十万ほどある。

 これはお年玉などをこまめに貯めた結果だ。

 俺達はそんな様々な店が並ぶ商店街の中からMのマークが特徴的な全国にチェーン店があるファーストフード店のムックドマルドを選ぶ。

 そのムックドマルドに入り普通にハンバーガーとポテトのセットを買う。

 そして、歩きながら食べる。


「入院中なのにジャンクフードを食べて大丈夫なの?」


「大丈夫だ。普通に栄養がどうたらこうたらとかいうのが原因じゃないしな」


「本当に大丈夫なの?」


「あぁ、だから普通に食べているだろう」


 久しぶりのジャンクフードを食べて美味いと思っているといつの間にか食べ終わっていた。

 なので、商店街の道中にゴミ箱があったので捨てる。

 すると、陽奈も食べ終わっていたようでゴミ箱に捨てる。

 俺は副作用が酷いらしい薬を飲む。

 もちろん、自販機で買った水でだが。


「さて、次はどこかの洋服屋に行こうか」


「まぁ、見るだけなら」


 提案するとなぜか、嫌そうに言う。

 もしかして、洋服屋は嫌だったのかな?

 と不安に思いながら、洋服屋に入る。

 すると、テンションを上げながらある洋服屋に入っていった。

 なんだ、嫌だったんじゃ無かったのか。

 まぉ、それなら一安心。

 と思ったらなぜか、一着の服をジッと見ている。

 そして、泣きそうな顔になりながら元の場所に戻す。

 それで、陽奈はなぜ嫌そうに言ったのか理解できた。

 お金が無いのか。

 俺は陽奈が戻した服をレジに持っていき、会計をする。

 予想外に一着税込で千円と安かった。

 俺は袋をレジから取り、陽奈に渡す。


「はい、プレゼント」


「えっ? あ、ありがとう」


「どういたしまして」


 そう言い、テンションが少し入る時よりも下がっていたが、高いテンションで店を出る。


「あっ⁉︎ 陽奈じゃん⁉︎ こんなところで会うなんて奇遇じゃん⁉︎」


 ギャルと呼ばれる分類の女性に話しかけられている。

 陽奈はそのギャルと楽しそうに話す。

 へぇー意外だ。陽奈にこんな友達が居たなんて。


「もしかして、そちらの人が陽奈の彼氏?」


「暗偽陰弥だ。よろしく」


「暗偽って入院で退学した?」


「そうだ」


「あたしは下坂紀良(しもさかきら)って言うんだ。よろしく。それにしても、陰弥ってイケメンだね」


 紀良だけにキラキラネームかとつまらないことを思いっていると続いてそう言ってきた。


「そうなのか?」


 自分ではイケメンということが全くわからないので、そう聞き返す。


「やっぱ、イケメンじゃん。自分でイケメンってわかっていないところとかー」


 そう言ってくる。

 そうなのかともう一度思いながら、陽奈を見ると満面の笑顔だった。

 あぁ、怒ってらっしゃる。

 陽奈は喧嘩以外のことで怒ると満面の笑顔を浮かべる。

 しかも、陽奈が満面の笑顔を浮かべると怒りの限界に近い。


「まぁ、俺達は適当にぶらぶらしておくから」


「りょーかい」


 そう言い、俺は陽奈の腕を引き商店街を出る。


「ごめんなさい」


 商店街を出るとすぐに謝る。

 誰でも目の前で自分を無視して別の異性と恋人が仲良く話していたら心地良く思わないだろう。

 すると「いいよ」と言ってすぐに許してくれた。


「それじゃあ、空も暗くなってきたし十時くらいまで陽奈の家に行くか」


 そう提案すると「わかったよ」と言い頷いてくれた。


「この並木道スゴイね」


 商店街から陽奈の家に向かって歩いているとイルミネーションがスゴイ並木道に出た。


「この並木道を見たらあの時のことを思い出すな」


 そう言い思い出したのは、一目惚れしていた陽奈に告白された時のことだ。


 朝に学校に向かい靴を上履きに履き替える時に靴箱に入っていた一枚の紙を見つけたのだ。

 その紙にはこう書いてあった。

【暗偽陰弥さんへ。

  放課後あなたに伝えたいことがあります。

  校舎裏の桜並木道に来てください。

  あなたに恋心を抱いている者より】

 その紙を見て俺はその誰かわからない少女を振ろうと考えていた。

 自分には好きな人がすでに居るからだ。

 同じクラスの明山陽奈。

 彼女は才色兼備で性格も良い。

 そのためクラスメイトいや、下手したら同学年の男子生徒全員が付き合いたいと思っているだろうと予想したため、俺には希望が無いとわかっておきながらも諦められないでいた。

 そして、放課後になったので、靴箱に入っていた指示に従い校舎裏の桜並木道に来た。

 だが、来た時には誰も居なかった。

 だが、この手紙の差出人にしたら一世一代のことかもしれないので、五時の完全下校時間まで待つことにした。

 校舎裏の桜並木道はほとんど人が通らないため、校内のカップルがイチャイチャするところなのだ。

 だが、その日はそのイチャイチャするカップルすら来なかったので世界に俺一人しか居ないのではないかと錯覚するほど静かだった。

 そのため、たまに聞こえてくる校舎の反対側で部活をしている人達の声が俺はこの世界で1人じゃ無いんだとわからせてくれた。

 三月なのにその年は比較的暖かかったため桜並木道には桜が満開だった。

 完全下校時間の五時を知らせるチャイムが鳴り響いた。

 だから、俺は帰ろうとした。

 すると、目の前からある一人の少女が姿を現した。

 それは一目惚れしてずっと、好意を抱いていた明真陽奈だった。

 そのためもしかして、俺のことが好きな人は明山さんなのかもとあり得ない妄想をしていた。

 だが、彼女は俺の顔を見て口を開く。


「わたし、あなたのことがずっと前から好きでした‼︎ だから、わたしと付き合ってくれないでしょうか‼︎」


「え……?」


 彼女の言葉を聞いて、身体が固まった。

 まさか、妄想が現実になるなんてと思っていなかったからだ。

 すると、彼女は返事が無いことを答えだと受け取り


「そうですよね。わたしみたいなの。このことは忘れてください」


 と涙を微かに流しながら走り去ろうとする。

 だが、俺は「待って‼︎」と言い彼女の腕を掴む。


「情けは良いです‼︎ もう、放っておいてください‼︎」


 彼女は完全に泣き出した。

 ここで自分の気持ちが言えなくて何が男だ‼︎


「お、俺もあなたと一緒でずっと前からあなたのことが好きでした‼︎ 一目惚れです‼︎ こちらこそ付き合ってください‼︎」


 そう意を決して言うと、俺と彼女の立場が変わった。

 彼女は告白する立場から告白される立場に。

 俺は告白される立場から告白する立場に。


「はい、喜んで」


 彼女──明真陽奈はそう涙を流しながら笑顔でそう言う。

 その背景には夕陽でキラキラと光る桜と夕陽が見えた。

 それに彼女が流している涙も桜と同じように夕陽でキラキラと光った。


 俺も陽奈もあの時のことを思い出していた。

 そのため二人共静かになっていた。

 気がつくと周りにはカップルしか居なかった。


「わたし、陰弥と出会い恋人同士になれて本当に良かった」


「こっちこそ、そうだよ」


「陰弥」


「陽奈」


 そう俺達は見つめ合ってどちらからともなく顔を近づけて、唇を重ね合う。

 そして、三十秒近くもの間、唇を重ね合った。

 これまた始まりと同じく、どちらからともなく唇を離す。

 今度は見つめ合ってから抱きしめ合う。


 俺達は今、陽奈の家に居る。

 だが、俺達は背中を向けあっている。

 なぜなら、二人の間に変な空気が流れていることが俺でもわかるほどだからだ。

 あの時にあの場所に雰囲気に流されたからだ。

 そして、唇を重ね合わせた時と抱きしめ合った時とのことを思い出す。

 は、恥ずかしい。

 そう思いながら、なんとなく時計を見るともう、九時半になっていた。

 楽しい時間は本当に過ぎ去るのが早いな。


「あのー陽奈。もう、こんな時間だし風呂に入ってこれば?」


 しまった⁉︎ 声が上ずってしまった‼︎


「わ、わかった」


「お、俺は陽奈が風呂に入っている間に病院に戻るから。きょ、今日は楽しかった」


「そ、そう。わかった。ま、また明日」


「……」


 その陽奈の言葉に返せる言葉は今の俺には持ち合わせていなかった。

 陽奈はそんな俺を見て首を傾げているが、風呂に入っていった。

 俺はそれから三十分後の十時に病院に帰路に着く。

 道を歩いている最中、突然、何か支えるもの無しでは歩けないようになる。

 もしかして、これが薬の副作用か?

 これは確かに酷い副作用だな。

 だけど、今日の約一日はいけたし俺みたいに余命が一日の人にしたら良い薬かもな。

 そう思いながら、かなり苦労して病院に着くと担当医の先生が慌てて駆け寄ってくれた。


「大丈夫ですか⁉︎」


「……」


 大丈夫と言葉を出そうとしたが、口が動かなかった。

 これも副作用かと思いながら、歩けなくもなったので担当医の先生にもたれかかる。


「お疲れ様です。ゆっくりして、また、明日に余命なんて打ち破れることを証明してくださいね」


 そう言われたが、無理そうだなと思い眠気に身を委ねる。

 翌日、目を覚ますが、身体が全く動かなかった。

 そして、景色がいつもの天井と違う。

 首を横に向けると陽奈と目があう。

 声を発しようとしたが、声が出なかった。

 というか呼吸すらできていなかった。

 それなのに全く苦しくない。

 それで、俺は今の自分の容態を察した。

 今の容態は息ができなくても苦しくないということから、身体が酸素を求めていないということだ。

 つまり、もう、死ぬ寸前だ。

 陽奈から少し目を横にずらすと、両親と目があった。

 少しは悔いはあるものの、個人的に親しいと思っていた人、全員が死を看取ってくれるので、これで満足することにした。

 さよなら。


 ピィーと二、三秒くらいのはずなのにとてもとても長い時間心肺停止したことを知らせる機械から音が鳴っている気がする。

 陰弥の近くにある機械を見ると、全てが0を示していた。

 すると、陰弥のご両親が泣き崩れる。

 それを見て、わたしも泣き崩れる。

 いや、見なくてもきっと泣き崩れていた。

 なぜなら、恋人が死んだからだ。

 わたしは陰弥と恋人らしいことなんて全然できていない。

 それなのに陰弥はもう………。


「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ──‼︎」


 涙が自然と流れてきて、声も自然と出してしまう。


「わたし……陰弥に何もしてあげれてないのに‼︎」


「子供が親より先に死んでどうすんだよ‼︎」


「ぁ……ぁ……陰弥ぁ……」


 わたし以外にも陰弥のご両親が涙を流しながら言葉を発している。

 それから時間が経つのが早かった。

 今はもう、陰弥が死んで三日経っている。

 今日は、陰弥のお葬式と告別式の日。

 陰弥が死んだ翌日には、お通夜をするのだが、今回はしなかった。

 理由は簡単。わたしも陰弥のご両親も悲しみのあまりにすぐには外を出歩くことができなかったから。

 陰弥はわたしと家族以外の人とは深い関わりを持っていなかった。

 お葬式に来たのはわたしの家族と陰弥の家族を含めても九人しかいなかった。

 わたしと陰弥の家族以外で来た人は、陰弥の友達だった田中君と山田さんと紀良さんと一年の時に陰弥の担任の先生だけ。

 わたしも含めてみんな、気持ちが沈んでいるため、静かだった。

 それにお葬式では泣かないと決めていたのに、結局泣いてしまった。

 それに来た人全員が泣いていた。

 お葬式が終わり告別式も終わった。

 今日はそれで家に帰ることになった。

 帰り道の途中で陰弥が死んだ日のことを思い出す。

 朝に目を覚まして、朝食をとり、身支度を済ませ終わりさて、陰弥の病院に行こうかと思い外を出ようとした瞬間に、携帯電話が鳴ったのでその電話を出ると看護師が


『陰弥君の容態が急激に悪化しました! 出来る限り早く来てください!』


 と焦りながら言い、すぐに電話を止めた。

 電話が終わった瞬間は何を言われたかわからなかった。

 別に声が聞こえずらかったとかではなく、理解ができなかったからだ。

 いや、正確には理解はしていたがそんな現実を受け入れたくなかったから立ち止まっていた。

 だが、そんな現実を受け入れて急いで陰弥の元へと行くともう、すでに陰弥のご両親が居た。

 容態が悪化したと言われたのでいつもの病室ではないと理解して、看護師に聞いてすぐさま言われた通りに行き、立ち止まると突然、陰弥と目があった。

 それから数十秒後に突然、心肺停止した。

 そう思い返していると涙が溢れてきそうになったので、丁度もう、家に近かったので急いで玄関に入りカバンを放り投げて、玄関で泣いた。

 そして、ひとしきり泣いて涙が枯れると放り投げたカバンの中身が飛び出ていたので直す。

 だが、直していると見たことがない封筒がカバンに入っていた。

 なぜか、妙にその封筒が気になったので封筒の中身を出す。

 すると、そこには手紙らしき紙が入っていた。

 その手紙の差出人を確認すると暗偽陰弥と書いてあった。


「っ⁉︎」


 っ⁉︎

 心の中でも声でも、息を飲む。

【明山陽奈へ。

  お前がこの手紙を読んでいる頃にはすでに俺は死んでいるだろう。

 まぁ、手紙と言ってもあまり書くことが無いが許してくれ。

 俺が入院していた時にずっと、毎日お見舞いに来てくれてありがとう。それで、どれほど俺の心が救われただろうかわからない。

 でも、これだけは完全に言える。

 お前が居てくれたおかげで苦しいはずの入院生活が全然苦しくなかった。

 さて、話は変わるが、俺達が初めて出会ったのは高校一年の夏頃だろう。

 俺が廊下で走っている時に足を滑らせてお前を巻き込んだんだったな。あの時にもちゃんと謝ったが、もう一度謝らせてくれ。ごめん。

 さて、最後にお願いを言って筆を置こう。

 俺が死んでも父さんと母さんに関わってやってくれ。それも、娘のように。

 それともう一つは、俺より良い人を見つけたら迷わないでくれ。俺のことなんて忘れて良い。まぁ、俺よりも良い人なんて世の中にはたくさん居て、お前はモテるからすぐに良い人ができるだろう。

 最後に一言。73億分の1で陽奈と出会えたことに感謝を。

  暗偽陰弥より】


 陰弥が書いたであろう手紙にはそう書いてあった。

 そのせいでまた、涙が溢れてきた。

 その涙を誤魔化すために陰弥が書いたであろう手紙の内容の違う点を訂正することにした。

 わたしと陰弥が初めて出会ったのは高校一年生の夏頃と書いてあるが、それは違う。

 陰弥からしたら、そうかもしれないが違う。

 わたしが陰弥と出会ったのは小学二年生の冬頃。

 わたしは転校することになった。

 そして、転校の挨拶が終わってから正門から出ようとしているところでふと、グラウンドを見ると野球をしていて、その中にかなり上手くて目立っている一人の男の子が居た。

 その男の子は同じクラスだけど全く話したことが無い男の子だった。

 名前は暗偽陰弥。わたしと真逆そうな漢字ばかりの名前だったため、覚えていた。

 正門から出ようとしたところで、陰弥と目が合った。

 すると、陰弥はわたしのところまで来て


「確か、転校するんだったな。他の学校でもがんばれよ。それじゃあな。また、いつかどこかで会うかもな」


 と言う。

 わたしは「それじゃあね」と言いながら手を振ると、陰弥も手を振ってくれた。

 その後、陰弥の予想した通りに高校一年生で再会した。

 陰弥は全くわたしのことを覚えていなかったけど、それでも陰弥はわたしに優しくしてくれた。

 それで完全に陰弥のことが好きになっていた。

 涙を誤魔化すためにとそんなことを思い返していたら、もっと涙が溢れてきた。


「陰弥………会いたいよ……」


 もう、二度と会えないことを知っておきながらもそんなことを言ってしまった。

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