「フルーツと私と彼女」
「フルーツと私と彼女」
「ナシ狩りに行ったの。だから、これあげる。お土産。」
私は有子からメールをもらっていた。
ナシ食べる?と。
食べる。
じゃあ、出ておいで。
そんな数行のやりとりで今日の食事が決まった。今日は私がチキンの照り焼きを。有子はから揚げを食べている。
もらった袋の中をのぞき込んで言った。
「ありがとう!立派!でもどうして…。そうか、遠足の時期か。」
「そう!小学校の遠足で今年はナシ園。」
友人の有子は小学校に理科の先生だ。
「遠足かぁ。写真は残っているはずだけど、あんまり覚えていないなぁ。みんなでお弁当食べたとか、そういう記憶くらい?」
「行く年齢によって記憶の度合いって変わるわよね。この時期、質問が鬱陶しいの!『せんせー、バナナはおやつですかー』って。」
「今どきの小学生が聞く?」
私は目を丸くした。
「高学年になるとそんなことはないけど、低学年の子たちは違う。親が家で言っているのを子供がまねしているのよ。」
「たしかに、ずっと言われているよね。昔は高いものだったからかな?」
「いまの、親の親が子供のころならまだ高級品かもね。知ってる?いまでも世界の中でも四分の一は甘くもない調理用のバナナなんだって。そうなるとおやつっていうよりもおかずよねぇ。」
「そうなの?」
私は目を丸くした。
「私も教員になったばっかりのころは知らなかったんだけど、いつだったか、バナナの木を見に行く機会があって、その時知った。」
「へぇ。」
「バナナも梨も品種改良されて甘くなっていくんだから、いい加減にバナナはおやつ?のセリフも廃れればいいのに。」
有子の言葉に私は笑った。
「たぶん、有子が先生をやめるほうが廃れるよりも先だと思うよ。」
「そうよねぇ。」
有子は顔をしかめたまま、から揚げを一口放り込んだ。