少女の胸に灯される謎
達也のクラスメイトに夏子がいた。
家が近く幼なじみの子だ
彼女は体が大きく小学校6年生なのに160cm近くある。
幼い頃から柔道を習っており、喧嘩で男の子に負けたことがない。
まるでジャイアン女版のようだが正義感が強く、彼女のお陰でクラスにいじめっ子はいない。
達也は彼女を気に入っていた。初恋だった。
ある日夏子の左胸に何かが見える。
それが何なのか良くわからず思わず彼女の左胸を触った。
「なにするのよ」
バシーン、夏子が達也の頬を叩いたのだ。
当たり前だ。大人しい女の子でも反射的に叩くだろう。
日ごとに夏子の胸にある文字が見えるようになった。
5.09と読める。
なんの意味だか全く分からなかった。
もちろん、自分以外の者には見えていない。
5月9日になると夏子に何かが起こるのか。
もしかして、交通事故で死んだり、殺されたりするのか。
そんなこと起こるはずない。
大型台風が近いていたが、運良く達也の町には上陸しなかった。
達也は眠たい目を擦りながら階段を降りた。
ソファーで父が新聞を広げていた。何ヵ月か前に起きた殺人事件の記事を読んでいるようだ。
父はかぶりをふった。
「いやいや、今更ダガーナイフに銃刀法の規制をかけても無意味なんだよ。不審者ならともかく普通の人間がナイフを隠し持っていても職質かけないんだ。これで犯罪が減ると本気で思っている霞ヶ関の連中はアホばかりだ」と父は嘆いた。小学生の達也には意味が分からなかった。
今日は台風の影響で朝から暑い日になるとお天気お姉さんが解説している。
カレンダーを見ると今日は5月9日だ。
急いで学校に向かった。汗が目に入る。夏子のことが気になっていた。
教室へ向かうと窓際に夏子の姿があった。
友達と昨夜あったテレビの話をしている。
「Mステ観た?」「嵐の二宮かっこ良いよねぇー」
普段の明るい夏子と変わりはない。
これから何か不吉な事が起きるのか。
変わったことといえば夏子の胸にあった5.09が消えていた。幻だったのか?
その日は何も起こらなかった。
6月になった頃、夏子の胸にまた文字が見えだした。
近くで良く見ると6.13に見える。
「あんた、どこ見てるのよ」
バシーン、夏子にビンタをくらった。
文字を凝視するあまり回りが見えていなかった。
日曜日、達也が昼御飯を食べに家に帰ると従姉の聡美が遊びに来ていた。
聡美は勉強ができた。来年有名な公立高校を受験するようだ。
彼女に会うたびに聡美の脳と自分の脳を交換出来ないものかと考えた。
嫌いな勉強をしなくて済むからだ。
「よぉ、達也久しぶり、元気そうやね」
「なんだか顔つきが伯父さんに似てきたね。あら、ヤバい、あんたイケメンになるよ」
達也は「はぁ、去年会ったときはサブちゃんて呼んでいただろ」
達也の鼻が北島三郎の鼻に似ていたため、サブちゃんと呼んでいたのだ。
低い鼻がコンプレックスになったのは、この女のせいだ。
イケメンになると初めて言われ悪い気はしなかったが聡美の言葉は信用出来なかった。
聡美は「伯母さん、達也の成長が楽しみですね」
母は笑いながら頷いた。子離れできない自分を責めることもあった。
聡美は小さなポーチを持って席をたった。
「トイレ借りるね」 ポーチにはテディベアのシールが張っていた。
トイレから出てきた聡美に達也が聞いた。
「そのポーチは何なの?」
聡美は戸惑った。初めて受けた質問だ。
「学校で習ってないの」 達也はポカーンと口を開けている。
「そのうち学校で習うわよ」
ハンカチとポケットティッシュが入っていると思うが、それ以外に何かあるのか。
聡美が大人の女性に見えた。
7月になると胸の文字は7.12に変わっている。暑い日が続き体育の授業で水泳が始まる。
7月12日は午後から水泳の授業だった。みんな水着に着替えプールへ向かう。
そこに夏子の姿は無かった。
彼女は体操服に着替え、一人で日陰の中に居る。
風邪を引いたのか、それともクラスメイトには言えない大病を抱えているのか疑問だった。
翌日は朝から保健体育の授業があった。
女子は大人の体になると生理というものが始まるらしい。
先生の説明ではピンとこない。赤ちゃんを産むために必要のようだ。
達也は今までコウノトリが赤ちゃんを運んでくると信じていた。
「あっ、そういうことか」
わかったぞ夏子の胸に出る数字の意味が。
大人になると好きな子の生理日が見えるようになるんだ。
それはきっと赤ちゃんを作るうえで凄く重要なことなんだ。
他の男友達も見えてるに違いないが好きな子がバレるのが嫌で口に出さないんだな。
そういう達也も誰にも言っていない。
保健体育の授業ではその説明はなかったのは当たり前すぎて先生も話さなかったのだろうと解釈した。
夏は子供達の気持ちが高鳴るイベントがある。
地元の神社で毎年催されるお祭りが子供達にとってこの上ない喜びなのだ。父からおばあちゃんに手を引かれお祭りに行った思い出を聞いたことがある。お祭りの規模は小さいが歴史ある神秘的ものだ。
車がすれ違うにはどちらかが一時停車しないと通れない道は、お祭りの際は車両通行止めとなり歩行者専用道路になる。
電車の指定席に座って旅行するような優越感を味わえるのだった。
お祭り当日になると朝から落ち着かない。
達也は洋服ダンスの上から下へ順番にさぐり、お気に入りのTシャツを探すが見つからない。
「お母さん、お母さん僕の好きなTシャツはどこにしまったの」
母はここに在るでしょと一瞬でTシャツを取り出した。
笑顔に変わる達也の顔を見ながら、私が甘やかすから12才にもなって服の一枚も探し出せないのだと思うと母は自分を責めた。
一人っ子の達也は夏子と二人で祭りに行くのが恒例となっている。日が落ち懐中電灯を手にして夏子の家を目指す。歩きなれた道だが夜歩くと怖かった。全速力で夏子の家へ向かう。
夏子も達也と祭りに行くことを楽しみにしていた。
5年生の終わりに急激に身長が伸びた彼女は昨年着た浴衣では寸が足らない。
母にお願いして浴衣を作ってもらうことにした。どの模様にするか迷っていたが朝早く起きて達也と二人で学校へ行き朝顔の水やりをした記憶が甦る。見かけによらず可愛い花が好きなのを知り、その食い違いが達也への思いを大きくした。
玄関から朝顔がちりばめられた浴衣を着た少女が出てきた。
達也は唾を呑み込んだ。
気持ちを悟られないよう平然を保つ。
いつも学校帰りは夏子と一緒だ。近くでセミの鳴き声が聴こえる。
ツクツクボウシの鳴き声だ。リズムがだんだん早くなる。
鳴き終える間際のリズムが一番大好きだ。
達也は夏子に言った。
「家に帰りついたらセミを取りに行こうぜ」
夏子は怒った顔でこちらを見た。
「あんた、私がセミを嫌いなのを分かって言ってるでしょ」
達也「そうだよ、セミをいっぱい捕まえて家で飼うんだ。セミは何食べてるのかな」
夏子「バカじゃないの、気持ち悪いからセミの話はしないでよ」
「俺って大人になったらイケメンになれるかな」
「もてなかったら私がお嫁さんになってあげる」
「うん」
交差点の角まで歩いたとき事件は起きた。
銀行から赤ちゃんを抱いた婦人が出てきた。
その時だ、懐からダガーナイフを出して強盗が婦人に近づいた。
僕は足がすくんで身動きできない。夏子は危険を省みず強盗へ飛びついた。
ナイフが夏子の胸に突き刺ささると道路は赤く染まり悲鳴が響いた。
すぐに強盗は捕まったが、僕は両手を地面につき、ひざまづいた。
けたたましいサイレンが鳴る。
パトカーのサイレンなのか救急車のサイレンなのか分からない。
達也は号泣した。もう夏子は戻ってこない。
あの数字は夏子に危険が迫っていることのサインだったのだ。
達也とセミの鳴き声がいつまでも響いた。
号泣(509)している達也は父の言葉を・・・
「ナイフ(712)に規制をかけても無意味(613)だ」
夏子と最後に交わした言葉を思い出す。
「俺って大人になったらイケメンになれるかな」
「もてなかったら私がお嫁さんになってあげる」
「うん」
朝顔の花言葉は「はかない恋」「固い絆」「愛情」
瀕死状態で病院へ向かった夏子の意識が回復する。
達也が夏子を思う深い愛情と固い絆が奇跡を起こしたのだ。
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最後まで読んでくれて有り難う。
スマホをなくした竹野内豊が暗号を・・ air5567




