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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

裄瀬家シリーズ。

刻の環は巡りて ~とある古い古い御伽噺のこと~

作者: 十叶 夕海

一応、裄瀬家シリーズに入るんだけども。入るんだけど、ほぼ無関係。

  昔々、遥か遠くの御伽噺。

  まだ、此方にも、神様や魔族、幻獣達が人の隣にいて。

  良き友人であった頃の昔のお話。

  そんな一つの御伽噺をしましょうか?



 此の世界ではないけれど、同じ様な世界。

 世界樹には、一番年長の《世界樹の翁》。

 その前には、清らかな水鏡があり《守護する龍》と《泉の乙女》がいました。

 世界中を放浪するのは、ボクと同一にして別人の、一応の兄《賢しき愚者》。

 そして、世界樹から程近い場所に《片眼王》が治める国がありました。

 隻眼であり、希代と詠われた爆炎の魔法使い《片眼王》。

 彼は、太陽のように輝く髪と褐色の肌を持っていた長身の美丈夫でした。そんな彼がたくさんの配下の中で、特に信頼していたのは三人。

 兄妹にして、恋人同士の二人が《龍殺ノ英雄》と《戦乙女》。

 兄の【龍殺ノ英雄】は、金髪碧眼で、太陽のようでした。

 妹の【戦乙女】は、銀髪に紫色の瞳で月のようでした。

 《片眼王》が横に侍らせ、彼にに比肩する風と氷の魔法使いで歌の名手は《歌乙女》。

 彼女は、青く輝く髪に淡い水色の瞳の儚い容貌の美女でした。

 《歌乙女》について、皆が不思議に思うことがありました。

 彼女は、【片眼王】と同クラスの希代の魔女ということを知っていました。

 なのに、何故、【片眼王】に従うのだろうかと。それは、【片眼王】以外の二人と僕・【道化師】だけが知っています。

 【片眼王】は、三人が大切が、それぞれに大切で。

 【戦乙女】は、【龍殺ノ英雄】に恋慕を、【片眼王】には忠誠を、【歌乙女】に友愛を。

 【龍殺ノ英雄】は、【戦乙女】に恋慕を、【片眼王】には忠誠を、【歌乙女】に友愛を。

 【歌乙女】は、【片眼王】に恋慕を、二人に友愛を。

 長い間、この四人は、四方神のように、バランスのいいまま穏やかに暮らしていました。

 他の部下が、それこそ、ヤキモチを妬く位に。

 一つの絵を見ているようだ。とも。

 だけど、その平穏は、あっけなく崩れました。

 【龍殺ノ英雄】が死んだのです。

 【戦乙女】は、嘆き悲しみました。

 嘆きが深いせいもあり、日に日に【戦乙女】は、やつれていきます。武術にこの人あり!!と言われた【戦乙女】は、見る影も在りません。

 【歌乙女】も、歌にそれまでの艶がありません。

 【片眼王】も、退屈です。

 毎日みていた【歌乙女】の歌と楽器の音色に合わせて、演舞も見れなくなりました。

 それから、何度季節が巡ったでしょう。

 それから、何度太陽と月が逢瀬を繰り返したことでしょう。

 まだ、【戦乙女】も【歌乙女】も、【龍殺ノ英雄】がいた頃のように輝きが戻りません。

 (どうしたらいいだろう。)そう、【片眼王】は、考えます。

 それから、また何度か季節が一巡しました。

 僕から、こんな提案をしました。

 その名前は、【道化師】と言いました。

 僕は、カツラとメイクのせいで、髪や瞳の色はもちろん、性別もろくに解りませんでした。

 曰く、『それならば、どちらかを【片眼王】様のお妃にしては如何ですか?』

 その提案を受け入れた【片眼王】は、考えました。

 僕の意図を引く謀略の弦とは、露知らずに考えました。

 さらに、二つの季節が巡る頃・・・・・。

 【片眼王】は、【戦乙女】に、求愛しました。

 曰く、『【龍殺ノ英雄】よりも、君を愛するから。私の妃になって欲しい。』と。

 それに対する【戦乙女】の返答は、曰く、『私は、貴方には、《忠誠》しか感じない。私が必要とするのは、【龍殺ノ英雄】だけだ。』

 そうです、いまでも、【戦乙女】は、【龍殺ノ英雄】を思っていたのです。

 だから、幾ら深い忠誠を誓う【片眼王】からの求愛であっても。

 一番、この時愛おしく思っていたあの人を裏切っては行けないのです。

 だけど、もしかしたら、崩壊のレクイエムは、この時始まっていたのか知れないのです。

 【片眼王】は、それでも、諦めずに毎日のように通いました、求婚の為に。

 悋気りんきを起こしたのは、【片眼王】では在りません。

 【歌乙女】も、悋気・・・嫉妬をしていました。

 しかし、その悋気は、【戦乙女】へではなく、【片眼王】に。

 僕・【道化師】だけは、微笑んでいました。

 自身が、望む通りに三人が動いていましたから。

 自身が、意図したとおりの破滅へ向かっていましたから。

 まるで、聖書の蛇のようにほくそ笑んでいました。

 さらに幾年かが過ぎました。

 相変わらず、【片眼王】は、退屈で。

 相変わらず、【歌乙女】は、憂鬱で。

 相変わらず、【戦乙女】は、悲嘆で。

 相変わらず、【道化師】は、愉快で。

 でも、この頃から、ある変化が在りました。

 【戦乙女】に一つの変化が在りました。

 彼女の家に、一人の男性が、訊ねてくるようになったのです。

 【歌乙女】と【戦乙女】の妹分・【境乙女】の兄でした。

 彼は、白く羽毛のようなふわふわの長い髪と海のような深い蒼の瞳の青年でした。

 また、彼は、髪の色と同じような二対の翼を持っていました。

 彼は、【妖鳳王】と言いました。

 彼もまた、【戦乙女】に求愛しに訊ねて来ているようでした。

 だけど、【妖鳳王】は、最初の1日は、求愛はしたけれど、それ以降は、匂わせるだけでしようとはしなかった。

 曰く、『無理矢理求婚よりも、まずは笑顔を戻そうってほうかな。【戦乙女】の笑顔って、可愛いと思うんだ、きっとさ。』

 そんな、少し困ったような微笑を浮かべ言いました。

 ある日には、野花のブーケを。

 ある日には、拙い木彫りの人形を。

 ある日には、花の冠を。

 ある日には、穏やかな月の歌を。

 ある日には、季節の果物を。

 そうして、また幾年かが過ぎました。

 また一つ変化が在りました。

 【戦乙女】が、数百年ぶりに家の外に出て来たのです。

 そして、【片眼王】の元に向かいました。

 いつもと変わらず、【歌乙女】も、僕も、その側にいます。

 【妖鳳王】の手を取って、彼女は向かいました。

 そして、【片眼王】に、言いました。

 曰く、『私は、【妖鳳王】の故郷に行きます。

     今まで、ありがとうございました。

    【片眼王】様も、ご息災であられますように。』

 もちろん、【片眼王】は面白く在りません。

 曰く、『ならぬ。』

 そこで、初めて、【歌乙女】は、言葉を紡ぎました。

 曰く、『王よ、我が王よ。愛とは、縛るモノではございません。

     包むものでございます。

     ・ ・・・【戦乙女】の新地への門出を祝うのが・・・』

 しかし、【片眼王】は、【歌乙女】の言葉を遮りました。

 曰く、『我のことを捨てる輩は、いらぬ。』

 【片眼王】は、言葉をさらに重ねました。

 曰く、『我は、【戦乙女】がおれば良い・・・・』

 その言葉に、元々、憂鬱そうな表情だった【歌乙女】にさらに哀しみの色が上乗せされました。

 【歌乙女】の表情を見た【戦乙女】は、全てを悟りました。

 【歌乙女】の表情を見た僕【道化師】は、嬉しさと哀しさと寂しさを等分に混ぜたような表情をしていたのでしょうね。

 そして、『自分のモノにならないのなら。』という風に、上級クラスの炎魔法を【戦乙女】と【妖鳳王】に向けて、【片眼王】は、放ちます。 

 パキン・・・という軽く透明な音がしました。

 【歌乙女】が、リュートを核にするようにして、呪文を崩壊させたのです。

 そして、自分と後ろの二人を包むような結界を張ります。

 曰く、『私は、貴方様をお慕いしておりました。

     されども、貴方様はお変わりになられました。

     私は、二人が、羨ましく思えるのです。

     どうかどうか、【片眼王】よ我が王よ、二人を送り出して上げてください。』

 曰く、『五月蝿い。

     我は・・・・・我は・・・・・』

 曰く、『逃げなさい、【戦乙女】【妖鳳王】。

     ・・・・・幸せになってください。』

 【歌乙女】は、【戦乙女】と【妖鳳王】に、顔を向けるとそう言いました。

 その顔は、とても美しかったのです。

 僕に向けられたわけではないその顔は覚悟を決めた者の高潔なまでの美しさに彩られていました。

 昔の彼女からは想像もできない類いのものであったが。

 そこから、二人は、立ち去ります。。

 【歌乙女】の覚悟を無駄にしては行けないと思ったから。







 【片眼王】と【歌乙女】は、対峙しました。

 ただ、【歌乙女】は哀しそうで。

 【片眼王】は、先ほどとは違い、どれかと言えば、困惑で。

 【道化師】は、その二人からちょうど等分の距離に立ち、哀しさと嬉しさが同居した微笑みで。

 それぞれ、立っていました。

 僕自身、【歌乙女】を欲していましたが、どうすればいいのかわからずに、ただ居ました。

 先に口を開いたのはどちらだったでしょう。

 恐らく、【歌乙女】なのでしょう。

 曰く、『【片眼王】、諦めてくださいませ。』

 曰く、『諦められるものか。そこをどけ、【歌乙女】。』

 自嘲の意味合いを込めて、【歌乙女】は、【片眼王】に、囁く。

 曰く、『私如きなど、潰して行けばよろしいでしょう?

     それとも、自分に『情』を向ける相手など倒せませんか?

     子どものように、臆病なオウサマ?』

 言葉通りでは、嘲っているようにしか聞こえないでしょう。

 でも、この場では、僕だけが、【歌乙女】のことを知っています。

 彼女が、【片眼王】のことが好きだから、『配下』に甘んじていることを。

 でも、【道化師】は、【歌乙女】のことが好きなのです。

 それでも、今の【片眼王】には、他の声は届きません。

 曰く、『・・・そうしてまで、お前が、我を阻み、【戦乙女】を逃がそうとするのは解らん。

     これが、最後だ、どけ、【歌乙女】。』

 曰く、『いいえ、退きません。』

 こうして、高級魔法使いハイ・ウィザード同士の闘いは始まりました。。

 ただし、最初は、刃を交えない闘いなのです。

 曰く、『刻が過ぎれば、我も、お前も、【戦乙女】も、【妖鳳王】も、朽ち果てる。

     輪廻の輪の中で、相見えれば、その時こそ、【戦乙女】を手に入れる。』

 曰く、『あら、【片眼王】は、今世は諦めるのね?

     【歌乙女】の名と魔力ちからにおきて、運命の因果律を固定する。』

 《言霊》でもなんでもない、言葉に力をのせ、魔力を暴れさせるのです。

 それだけで、一から十どころか、一から百まで編まれた魔法のように、その言葉通りになりました。

 その余波が、二人を中心に、嵐のように吹き荒れます。

 だけど、そんな中であっても、【道化師】は、身を守る術以外使おうともせずに、ただ微笑んで、その場にいます

 曰く、『ははっは、では、同じ結末で終わらせない。

     我【片眼王】と【戦乙女】を宿命が一対とする。

     我と【戦乙女】を手に入れし者が、世界を手に入れさせよう。』

 曰く、『哀しい人ね。

     私は、自らを【戦乙女】の『守護』と成さん。』

 そして、幾度目かの言葉の交わりが、終わった時、二人は動いた。

 【歌乙女】は、彼女の細腕には似合わないバスタードソードを。

 【片眼王】は、素手に『力』を纏わせて。

 そして、交錯した。

 曰く、『何ッ!!』

 曰く、『ふふふふふふ、避けると思ったのでしょう?

     ・ ・・私は、大切な誰も傷つけたくはないの。

    だから、こういう方法が、最善と思いましたのよ?』

 バスタードソードは、鍔元まで【片眼王】の胸に刺さり。

 【片眼王】の手は、腕の付け根まで、【歌乙女】の胸に刺さり。

 それを気にしなければ、二人は、恋人同士に見えたでしょう。

 しかし、ゴフッと、二人は血を吐いてしまいます。

 そして、さらさらと互いの身体や服が、端の方から、崩れて行きました。

 人で言う心臓・・・我らの『核』を貫かれたのですから、滅びるのです。

 子どもが作った砂の城が、波打ち際でゆるゆると削られるように崩れて行きます。

 曰く、『うふふ・・・こういう終わり方も悪くないかな。

     ・ ・・絶対に、貴方の思う通りにさせないわ、【片眼王】。』

 曰く、『最後まで、小憎たらしいな、【歌乙女】。』

 そうして、二人は、完全に崩れました。

 ・・・人間風に言うならば、死んだのだです。

 後に残ったのは、【片眼王】のマント留と【歌乙女】のリュートだけ。

 それをただ、無感情に、【道化師】は、拾い呟きます。

 曰く、『やれやれ。あれでは、心中カップルですね。

     ・・・・私が、崩れるまで話して回りましょうか。

     吟遊詩人・・・・くふふふ、悪くないですね。』




 【片眼王】の国と隣国の境に、【戦乙女】と【妖鳳王】はいました。

 そこで、【戦乙女】は、気付きました。

 姉のように慕っていた【歌乙女】が、滅んだことを。

 それでも、この後の【戦乙女】と【妖鳳王】は、幸せに暮らしました。

 少なくとも、普通の平凡だけれど、温かな幸せを手に入れて・・・・・。





 時は巡りて。

 幾度と無く、この六人や他の《御伽噺の幽霊》は、人のせいの中で、巡り会います。

 そのなかで、このお伽噺のような人生を形を変え、理由を変え、繰り返します。

 その出会いの中で、【片眼王】と【戦乙女】を手に入れようとする輩二も引き裂かれます。

 しかし、数十年前。

 【歌乙女】ディスティアや【戦乙女】アリエスの一世代前の時のことです。

 その代の【片眼王】が、完全に死なずに、次の世代へ流れが受け継がれてしまったのです。

 このことが、幾多の歪みを生みます。

 そこから、彼らの今生の物語は、始まったのかもしれないです。







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