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怒り

「……そこで私は閃いた。そう、木の枝にぶら下がりながら狙撃する新技の開発したのだ!」

「はいはい、お前の武勇伝はすごいよな」

「ちゃんと聞いているのか!?」

「聞いてるわけねーじゃん」

「なんだとッ!?」

「もう家、着いたんだからその話は今度な」


尋賀と美玲は、他愛もない会話をしながら尋賀の暮らすアパートまでやってくる。

尋賀はアパートの一室、自分の部屋の扉を開ける。


「ほら、入れよ」

「相変わらず鍵を掛けずに不用心だな、坂巻 尋賀」

「んな事言ったって取られるもんなんて何もねえよ。それに鍵、かけてたらおめえら入って来れなくて不便じゃねえのか?」

「ふむ、相変わらず変わった考え方だな」


おめえに言われたくないんだけどな。尋賀はそう言いながら、家に入る。

本当に人が暮らしているのか疑いたくなるほど何も置かれていない部屋で、尋賀は座る。


「やっと帰って来れたな。ったく、今日は散々な目に会いすぎだっつーの」

「ふっ、私も狩りに連れて行ってはもらえなかったが憧れていた相手に勝てた。今日という日は素晴らしい!」

「そうかい。そいつは良かったな」


そう言うと尋賀は床に寝転ぶ。

尋賀は美玲にとっての憧れの相手だったという話は初耳だったのだが、そのことを気にとどめる余裕はなかった。


「んじゃ、しばらく寝てるから。起こさないでくれよ」


美玲がうむ、と返事すると尋賀は目を閉じる。

やがて、尋賀は寝息を立て始め、美玲が弓と今日放った弓矢の鏃を確認を始める。

二人が戦った時に使った矢をいつの間にか回収していたのだろう。

何も起きない、いつもの日常。さっきまで、尋賀が異世界にいたとは思えぬ日常。

そんな中、突然家の扉が開く。


「ひ、尋賀ぁ〜、いる?」


扉を開けたのは、ナゲリーナを連れて図書館に行った優作だった。彼はやつれた顔で、フラフラしながら家に入ってくる。

尋賀は目を覚まし、寝そべりながら片目だけ開いて優作の疲労の溜まった顔を見る。


「どうしたよ、優等生。今にも倒れそうじゃねえか」

「それがさ……」


疲労困憊ひろうこんぱいな優作とは反対に、後から部屋に入ってきたナゲリーナは、いつもの虚ろな目は変わらないものの、鼻息がやや荒くどこか興奮しているようにも、肌がどこかツヤツヤしているようにも見える。


「なにがあったんだよ。ガキがいらねー事してたら拳骨しなきゃダメだろうが」


尋賀はちゃんと両目を開け、寝転んだ姿勢から胡座をかいて座っている姿勢になると、優作に向かって言う。

優作は黙って首を横に振った。


「それがさ、図書館についたらこの子、急に本棚に向かって走り出してさ。それで、本を大体一冊三十秒ペースで読んで……。もっと効率良く読みたいからって、本棚から片っ端から本を持ってこさせられて……。一体なんなのさ、この子」

「おいおい、ガキにパシらされてたのかよ」


今度は優作が倒れるように床の上で横になる。その時、彼は美玲がいる事に気づく。


「あ、美玲。君も来てたの?」

「うむ。私は暇つぶしで来たのだが、天城 優作。貴様は?」

「ボクはその子を届けるためにちょっとね」


優作はナゲリーナに目をやる。

ナゲリーナに気づいた美玲は近寄り、自己紹介する。


「始めまして! 私は矢薙 美玲という! この国の騎士だ!」


優作が呆れた顔で、また言ってるよ、と呟く。その言葉に反応するように美玲は優作に対して、この子供をどこから連れてきたのか問い始める。

それはそうだ。見ず知らずの少女を連れているのに、疑問に思わないわけがない。

床に座りながら三人のやりとりを見ている尋賀には、騎士という言葉に反応してナゲリーナが微妙に眉を動かしたように見えた。


(そういや、あいつ、向こうの世界で騎士に対してあの時だけ大きな声で嫌いって言ってたっけな……)


尋賀がそう思っていた矢先、案の定、ナゲリーナは白衣のポケットに手を突っ込み、ポケットの中から蓋のされた試験管を取り出す。

美玲は優作の方に向いてナゲリーナの事を問い出しており、ナゲリーナに気づいていない。

尋賀は急いで立ち上がり、狭い部屋の中を走ると、ナゲリーナのその腕を掴んだ。慌てていた尋賀は少し力加減を間違えて、ナゲリーナの腕を強く握ってしまった。


「痛い」

「なにしてんだ? 魔王様?」


尋賀は彼女が何かお茶目なイタズラでは済まされない何かをしようとしていたことは目に見えていたがために、力んでしまった。

だが、何も知らない二人。その光景を見ていた美玲と優作は黙っていなかった。


「尋賀! 小さな子供相手になにやってるのさ!」

「坂巻 尋賀! 貴様、私の前で暴力を行うとは! それになんだ!? 魔王とは!?」


二人から言葉で責められる。

尋賀は黙って家の扉を開け、奪い取った試験管を家の外に投げ捨てる。


「いーや別に。ちょっとガキに対して意地悪したくなっただけさ。魔王に関しても言葉の誤りな」


尋賀はやや苦しげな言い訳をする。だが、二人は納得した顔をしていない。

空気が冷たくなっていく中、その空気を壊すかのように、ナゲリーナが呟いた。


「……また薬をダメにされた」

「……うるせえっての。次は何しようとしやがった」


その尋賀の問いにナゲリーナはすぐに答えた。


「浴びせた相手を魔物化させる薬品。注射せずに皮膚に浴びせるだけで魔物化させれる薬品は貴重。でもまたダメにされた」

「ッ!? てめえ!!」


尋賀は、身体中の体温が急速に上がっていくのを感じた。もし、気づくのが遅ければ、美玲は今頃魔物に。そう考えるとさらに怒りが大きくなっていく。

事態をうまく理解できていない二人は尋賀の突然の大きな声にただただ唖然としている。


「くそガキ、いい加減にしねえと怒りでてめえを殺しちまいそうだぜ!」


自我を保とうと左手の拳を握りしめて、食い込んだ爪から床へと血が滴り落ち始める。

その異様な光景に優作は先ほどとは異なり、怯えた表情になる。


「ひ、尋賀? 突然どうしたのさ!?」


優作は尋賀の事をよくわかっているつもりだった。

普段の尋賀は、どこか達観していて、滅多に怒る事がない。昔の彼なら些細なことでも怒ったのだが、今の彼はよっぽどの理由がなければ怒ることはない。それなのに彼は理性が飛ぶ一歩手前まできているように見えた。


「悪りい。オレにも耐えられねえことがあるんだよ。美玲!」


急に呼ばれた美玲は、口を開いたまま、ただただ驚いた表情のまま固まってる。


「オレがこのガキをぶん殴りそうになったらおめえの弓矢で止めろ! オレが怪我しても、死んでも構わねー! とにかく止めろ!」

「えっ? ああ……」


早くしろと叫ばれた美玲は、言われるがままに確認作業中で床に置きっ放しの弓と、矢を手に取り尋賀に向けた。

彼女は弓を引き絞りはしないが、異様な雰囲気に飲まれている。


「……もう一度聞くぜ。あの薬品はなにで、なんであんな薬品を取り出した」


僅かに残った理性で、尋賀は冷静になろうとする。

その尋賀をあざ笑うかのように、ナゲリーナはいつものように答えた。


「あの薬品は魔物化の薬。わたしは騎士という人種が嫌い。だから薬品を使おうとした」

「言い訳するつもり、ねえみてえだなぁ!」


尋賀の怒りが最高潮に達したところで突然、落石でもあったかのような大きな轟音が鳴り響く。


「な、なに!? 地震!? 災害!?」


普段聞きなれぬ大きな轟音に優作は一人、パニックになる。


「……なあ、魔物化の薬品ってのはどんなものに有効なんだ?」


尋賀は、よぎった嫌な予感が自身の熱を急激に下げていくのを感じた。

怒りがはるか彼方に飛んでしまった尋賀をよそにナゲリーナは淡々と答える。


「なるべく有効範囲を増やせるように研究した。弱点を減らしたり、生物同士で融合させたり、活性を繰り返させることなどの強化と工夫を重ねた」

「いや、そうじゃねえっての。どんなのにかけたら魔物化するんだって聞いてんだ」


ナゲリーナはさらに淡々と答える。


「大体の動植物に有効」


その言葉を聞いた瞬間、尋賀は部屋に置いてある布に包まれた鉄パイプと、美玲の弓矢の入った袋を手に取り、美玲に弓矢を押し付けて外に出る。外に出た尋賀は、上を見上げて、現実逃避したくなった。


「へへ、こいつは笑えねー冗談だわな」


尋賀に続いて美玲と優作、最後にナゲリーナが外に出てくる。


「な、なんだよこいつ……」

「一体これは……!?」


四人は見上げる。

普通の人の数倍の大きさの草と触手のような草で体が構成された巨人か、竜か。とにかく魔物化した植物を。


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