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ラストエピソード3

この話で最終話となります。

「準備できたかぁー? てめーら」

 夕暮れの高校の教室。

 尋賀は手紙を片手でびらびらと振りながら、他の面子に言う。

「待ってよ。ここの問題が終わってからにしてよ」

 優作が、頭を押さえているルシェールの机の前で椅子に座りながら言う。

 ルシェールは机の上に乗っている用紙に頭を悩ませている。

「うぐぐぐなの! これ、私の知らない文字なの!」

 彼女が苦戦しているのは英語。

 それも、英単語の前の段階の英語の文字。

「bとdの違いが分からないらしくてね」

 英語習いたてならば、誰でも通る道だろう。

 そうでなくとも、うっかりbとdを逆に書いてしまうことならば経験したことはあるだろうか。

それにしても英語のできない外国人。怪しくないだろうか。

「ふむ。私ならば英語は得意だぞ! ノヴァとか、エクスプロージョンとか、カオスとかだな!」

 などという美玲だが、それらは全てゲームや漫画の創作物での必殺技の名称ではないだろうか。

「カオス……一か月前を思い出すな」

 一か月前。

 世界二つを救うための戦い。


 『神託』に勝った尋賀達。

 レーヴァテインから放たれた魔法弾を受けても、死んではいなかった。

 尋賀もそれを見越しての行動だ。

 間違いなく死ぬことはない、と。

 『神託』を無力化した一行は、手はずどおり、魔道砲を呼び寄せる。

 呼び寄せた魔道砲にレーヴァテインを差し込み、照準を尋賀達の世界とナゲリーナ達の世界、その真ん中ギリギリを狙い放たれた。

 そしてその結果は……見事に成功。

 大砲の上での死闘は無事に勝利で完結した。

 それが、一か月前の死闘の結論。


 そして、一か月経ったこの日、尋賀達は異世界に手紙を届けようという話になっていた。

「おい、てめえら。手紙になんて書いたんだよ」

 この手の話題には乗りそうにない尋賀が、真っ先に手紙を書いた。

 もっとも、適当な用紙の裏に書いて、適当な用紙で作った便箋である。

 帰りの夕暮れの道。

 そこに高校生四人。

 男女均等に二名ずつ。

 白髪の不良に、眼鏡を掛けた絵に描いたような優等生、ダークブラウンに染められた髪に人目を引きつける美人、金髪の外国人。

 同時に、世界を守った英雄、勇敢に立ち上がった勇気ある者、妄想から現実へと昇華させた妄想女子、異世界出身の人間。

「ボクは簡単な近況報告かな。こっちは元気にやってますって。ルシェールの勉強に困ってるとか」

「私はおじいさまのことをね。あの後すぐに本当に認知症にかかったって。……嘘つき始めた」

 相変わらずひどい祖父だ。

 孫娘が死ぬかもしれないというのに見殺し。

 謝るとか言っておきながら、結局謝る言葉が見つからずに認知症のフリで忘れる。

 しかも、診断書はなく、ステージ4だからと言い張るばかり。

 それはガンの話だ。間違いなく嘘。

 笑い事ではなく、尋賀は自身の左腕に巻いてある包帯が取れたら一発シバきに行こうと思う尋賀だった。

 老人だから手を抜くつもりでもいるが。

「私はユーサクの家に暮らしてるって書くの! 後は、この世界の人間の名前は上じゃなくて下だったの!」

「ずっと天城だとか、坂巻とか言ってたもんな。上と下、どっちが名前か分からずにいたってか」

 まあ、名前が下にある文化とは無縁な異世界で暮らしていたし、仕方ないと言える。

「それで尋賀は何を書いたの?」

 興味津々に聞いて来るルシェールに、尋賀はポケットから取り出した手紙をびらびら振った。

「ジジィの道場から金が出てきた。全部キレイな金さ。盗品でもなんでもねえ。とりあえず警察に落とし物だって届け出して、しばらくしたら全額貰う予定さってな」

 遺産のつもりだろうか。

 正式な遺産の手続きの書類などは見つからなった。

「それのせいで尋賀、一時有名人になったもんね? 新聞の隅っこにも載ったし」

 世界を救った英雄。

 それが新聞紙に載った。

 大金を拾ったことで。

 ……何かがおかしい気がする。


ーーー


 山の中。

 その中でナゲリーナと初めて会った場所と大体同じ辺り。

 山に入っても異世界には行けず、ナゲリーナと出会った場所も景色がかなり違う。

「そいじゃーどうすっかねえ?」

 尋賀はそう言いながら手紙をぽいっと投げ捨てた。

「ちょっと待ってよ! 聞いておきながら捨てるの!?」

「魔王様への手紙はこっち」

 などと言いながらもう一枚の手紙を取り出す。

「あれ? それじゃあ今の手紙は何で?」

 と気の抜けたことを言う美玲。

 一か月前の出来事からずっと彼女はこの調子が続いている。

 尋賀にだけ、こういう態度になるのだ。

 ずっと続けるものだから尋賀は慣れてしまった。

「今の手紙は気にすんな」

 優作にはバレバレのようだ。尋賀の師匠へと宛てた手紙だと。

「さぁーて、魔王様に届くかねぇー?」

「君が言い出したことじゃないか。今になってどうしてそう言うのさ」

「魔王様ならちっとは異世界とのやり取りできると思ってたんだよ。魔王様、異世界とは繋ぐことは出来るらしいしな」

 尋賀と優作が話している間に、一流の狩人の能力を発揮している美玲。

「皆の衆! 手紙を発見したぞ!」

 彼女は木の枝に引っかかっている手紙を発見し、引き抜いた。

 封を外し、中の手紙を読む。

「報告書。著者ナゲリーナ・フォン・シュヴァルツレーヴェ。旧姓ナゲリーナ・フェルト」

「旧姓って結婚かよ」

「……あと、報告書?」

 尋賀と優作が突っ込む。

 異世界の人間の手紙が、こちら側の世界にあるという事実よりも先にそっちの方が気になったようだ。

「本文。二つの世界の両方を救うための戦い、かっこ、以下これを異世界戦争とする、かっことじ」

「騎士殿。書いてあることを正確に伝えるんじゃなくて、書いてある大体の内容を伝えろ」

 美玲には難しい要求らしく、目を細めて見ている。

 書いてある内容を正確に伝えようと、書いてあることをそのまま読んでいるのだが。

「異世界戦争終結後、わたしは元の世界に無事に帰還。帰還後、ノデランスノ家の協力により学校の建設が進み、現在は少数の受講者に危険性の少ない魔法の勉強を行っている。また、それに並行して魔法の利便性の大幅な向上や、コネクターズカオス現象を利用せずに異世界に渡る方法を模索中。本報告書はそのために必要なプロトタイプの実験も兼ねて提出を行う。本報告書の規格であれば問題なく世界の橋渡しができると判明」

 学校を建てるという話はこの一か月の間に進んでいるようだ。

 美玲のナゲリーナの物まねは上手く、抑揚のない声は彼女が喋っているようだ。

「学校建設の際、わたしの前に神託が現れた。友としての謝罪の言葉と、結果論ではあるが世界を二つ救ったことで、異世界戦争関係者を無罪放免を決定されたという報告だった」

 無罪放免じゃなかったら尋賀達はどうなっていたのか。

 尋賀は考えたくないと考えることを止めた。

「同時期、騎士団の戦力の多くを失った国では反乱が起きる。残された騎士団は戦力も騎士団長も失った今、王を守るための行動が出来ず、強味であった団結力も独裁力も全て失い、混乱のまま守るべき王は捕らえられ、牢獄に幽閉。新たな国、新たな政治が始まりを告げる」

 ルシェールが悲しそうにするが、たぶん大丈夫だろうと、前向きに彼女は立ち直った。

「最後に、美玲の作った服がかわいいと思ったので学校の制服に採用。以上」

 最後の一文が一番引っかかる。

 かわいいなどと言うナゲリーナの姿が想像できないのだ。

 もしかして、皆、高校の制服の上に白衣と片眼鏡か。

 想像したくない光景だ。

 そんなものを現代日本の文化だと言って広めないでほしい。

「ねえ尋賀。これならもうじき異世界に行き放題になるね!」

 美玲が調子よく言う。

「あったりまえだ。この混沌の繋がりは断ち切れねえーよ」

 混沌の繋がり。

 コネクターズカオス。

 二つの世界を跨いだ、混沌の物語は終わりを告げた。









今まで読んでいただきありがとうございます。

一年以上連載しておりました本作ですが、今回で最終回とさせていただきます。

また、新作が出来ればまたその時はよろしくお願いします。

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