ラストエピソード2
『ねえ。織田信長と雑兵が立っていたらどちらを警戒する?』
昨日の夜の優作が尋賀に聞いたことだ。
当然、大将である織田信長の方を警戒するに決まっている。
雑兵なんて視界にすら入らない。
いてもいなくとも一緒だから。
『でも切り札はその雑兵だったりしてね』
顔も名前も知らない人物が歴史上の有名な武将よりも重要な立場だというのはおかしな話だ。
相手は取るに足りない人物だというのに。
『その雑兵はボクだ』
ナゲリーナの魔法を当然相手方は警戒している。
それに美玲やルシェール、尋賀なら実力や戦力面で警戒されることだろう。
だから、一番地味で一番戦力にならない優作が作戦を買って出たのだ。
交渉可能ならば、話で解決し、尋賀の言う通り交渉が上手くいかなかった場合、もしくは戦闘となることを察知した場合、早急に行動を開始する。
そういう手はずだった。
「流石優等生。作戦通り敵は全滅したぜ」
彼らの周りを囲んでいた者たちは全て消える。
ただ、全滅というと少し語弊がある。
一人だけ残っている人物がいるのだ。
「くっ! このような魔法もあるとは……!」
『神託』と呼ばれる男。
その男を囲むように、鱗のようなガラスができていた。
「お? カの字と同じ魔法じゃねーか」
「……これはわたしの魔法を通じなくする魔法でもあるから」
幾何学模様はないが、原理だとかが一緒なのだろう。
一人、異世界に飛ばされなかった『神託』は巨大な剣を軽々と持つ。
身長を遥かに超越し、どれだけ縦にも横にも大きい人間二人ほどが完全に隠れてしまいそうなほど巨大な剣。
「貴様らはこんな世界にまで来てこんなことをして一体何がしたい!?」
「ったりまえのこと聞くなよ。世界二つ救うためだからな」
「消える世界は寿命だ。延命させたところで劣化した世界は滅びるぞ」
「知るか。例えどんな惨めな暮らしをしていても死んでいい理由にはならねえよ」
「そのために世界を危険に晒すつもりか」
「ちげーよ。ここにいる連中は全員、失敗するなんて考えてねーよ。最後まで生きようと必死になって喰らいついてんだ。生きるために」
『神託』は巨大剣を片手で持つと、易々と振り回す。
その時の風圧で尋賀達は飛ばされそうになるが、必死に抗う。
「くっ!」
「力のない人間に本気を出すのは吝かではあるが、致し方あるまい」
「ただの人間舐めるなよ。生きるためならどいつもこいつも必死になるさ」
彼の一人で生きて、一人雨風凌ぎながら生きてきた経験がそのような言葉を言わせるのだ。
「そいじゃー、残ったてめえを黙らせるか」
尋賀はレーヴァテインを構えて走り出す。
目の前の巨大な剣に一切怯まない。
恐らく、剣で切るのではなく、剣の重さで押しつぶすことが前提の武器なのだろう。
鍔迫り合いなどすれば間違いなくぺしゃんこだ。
それでも、
「ふんっ!」
巨大剣が凄まじい速度で振り下ろされる。
腕の力と巨大な剣の重さを合わせて、そのような速度になるのだろうか。
いや、落下速度は物質の重さではなく初速度や重力加速度が関係してくる。そんな話は関係ないが。
尋賀はレーヴァテインを構える。
そんなものを受け止めればレーヴァテインは無事だとしても、尋賀の方が潰されてしまう。
例えどんなに力を持っていても尋賀の肉体自体が潰れてしまう。
「ほいっと」
だのに、気の抜けた声と共に、尋賀は受け止めた。
というわけではなく、受け流した。
巨大剣は斜めに走り、尋賀を潰すことができない。
これこそ尋賀の師匠から教わった受け流しの技術。
無理に正面からやり合わず、力を利用して受け流す。
力のベクトルを反対向きにするならば、相手の力以上の力で押し返す必要がある。
力のベクトル。その矢印の向きを変えるだけならば、横に力を加えればいい。
そうするだけで、余計な力をいれずにあらぬ方向に向きが変わる。
「どーした? 隙だらけじゃねー、かッ!」
レーヴァテインの一撃が『神託』の顔に直撃する。
顔に痣が出来ているのを確認した尋賀。
ビクともしなかった前回と違い、ちゃんとダメージが入っている証拠だ。
「我の魔法の加護が……!」
怯み、狼狽えているところに尋賀のもう一撃。
混乱してる今がチャンス――
「どこを見ている?」
不意の背後からの声。
瞬間移動だ。
「っ! くっ後ろかよ!」
振り向けない。
突然の事態に後ろにいる相手を確認できない。
だから――――
「受け取れ!」
振った勢いのまま、レーヴァテインを後ろに投げる。
レーヴァテインは『神託』の肩を超え、
「わわっ、わっ!」
優作が受け取り、慌てて受け取ったためか、そのまま『神託』の頭に振り下ろされる。
「なにっ!?」
突然、不意打ちを喰らった『神託』は瞬間移動で尋賀達から離れる。
頭を押さえながら、予想外の一撃で再び狼狽える『神託』。
「ははは。どーよ、レーヴァテインはオレじゃなくても使えるんだぜ?」
笑う尋賀。
これこそが優作の策。
尋賀の方へと完全に注意を向けさせて、他の仲間がレーヴァテインを受け取り、不意打ちをかます。
敵はレーヴァテインの一撃に弱いのならば、レーヴァテインを使って翻弄すれば敵は注意が全員に寄るはずだと。
もちろん、一番注意されるのはレーヴァテインを持つ人物だがそこは尋賀が中心に立ち回り、今のように不意を突く形でパスしながら戦うことで上手く立ち回れないかという作戦だ。
「はい。これ」
「よーく受け取ったな? 優等生」
「ボクのこともちゃんと警戒してもらわないとね」
この中で一番戦力にならないのは優作だ。
それを警戒させるには、彼にも有効な一撃が存在すること。
レーヴァテインさえあれば、優作だって立派な戦力になり得る。
「さぁーて、次は誰に渡そうか」
尋賀が、一人一人に指を差す。
こうして全員に警戒させれば相手もやり辛いだろう。
一本の武器の存在が、敗北を喫した相手との戦いで劇的に変わるものか。
いや、一本の武器だけではない。
彼にとって大事な守るべき仲間の存在と、仲間たちとの約束を交わし魔王の契りである約束の鍵レーヴァテイン。
この二つの存在が、前回手も足も出なかった相手に善戦させる要因となっている。
「次はどーする気だ?」
『神託』は指パッチンをする。
大きく響き渡る。
どんな魔法がきても尋賀にはレーヴァテインの魔法吸収がある。
無効化できるのだ。ゆえに通用しない。
……そう思っていた。
「うわぁー!」
「落ちるの!?」
明らかにおかしな動きをする仲間たち。
平らな地面の上を尋賀以外が滑っているのだ。
「てめぇー何しやがった!?」
「貴様ら全員の重力の向きを変えた」
全員。それは尋賀も含めた全員だろう。
レーヴァテインを持っている尋賀はその魔法を逃れることができたが、尋賀以外の全員にはその魔法を喰らってしまったようだ。
「美玲!」
尋賀の親友であり、相棒と呼ぶべき妄想騎士。
彼女は平らな地面を滑りながら、弓矢にワイヤーらしき線を括り付ける。
「いっけえ!」
ワイヤー付き弓矢を、尋賀の真横に射る。
すかさず尋賀はレーヴァテインを旋回させて巻き取り、弓矢が最後にがしっと止まる。
「皆! 私に捕まって!」
美玲の言葉で、必死になって這いつくばって美玲の元へと向かう仲間たち。
一見シュールだが、彼らには今、地面が傾いて見えているのだろうか。
美玲の体にしがみつくルシェール。美玲の太ももにしがみつく優作。美玲の足を持つナゲリーナ。
「尋賀! 私のワイヤーが持たなくなる前に!」
「アマギ、女性をなんだと思ってるの!? ヘンタイなの!」
「待ってよ! 緊急事態なんだってば!」
こんな時に場違いな話をしている二人はともかく、全員が美玲にしがみつく。
四人はその場に留まることができず、どんどん尋賀から離れていく。
美玲の言葉の意味。それはワイヤーがなくなること。
彼女のワイヤーは彼女の作ったお手製の釣りのリールのように巻き付いた物で、ワイヤーを切り取りながら使う。
「うぐぐぐぐっ!」
彼女はいつの間にか釣りのリールのようなものを取り出し、これ以上回転してワイヤーがなくならないように必死に止めている。
それだけではない。
レーヴァテインに掛かる重さから、彼女らは滑り落ちるどころか、落下しそうになっていることに尋賀は気づく。
当然、美玲が顔を赤くしているのは、かなり踏ん張っているからだろう。
「ち、千切れるぅー!」
彼女は相当苦しそうにしている。
それこそ本当に腕が千切れそうなくらい。
しかも、今、四人分の体重を美玲の腕二本で耐えていることになり、さらにはもう片方の手には弓を持っている。
「美玲! すぐに助けてやる!」
「無理無理無理ィ! 持ーたーなーいィ!」
「騎士だろーが! 踏ん張りやがれ!」
「そんなこと分かってるッ!」
「……尋賀はどうして平気そう?」
どさくさに紛れてナゲリーナは気の抜けたことを言う。
確かに尋賀も四人を必死に一人で引っ張っている状態だが、口からは余裕さすら伺える。
後、危機的状況なのに、ルシェールは吹き出しそうにしている。
普段の美玲とはかけ離れた言葉に笑いそうになっているのだろう。
後はあわあわしてる優作だ。
「さて。これでその友情の証の紛い物も、貴様の仲間も封じたな」
どれだけ余裕そうな口ぶりでも、尋賀は四人分の重さで動けない状態だ。
「くっ! ちょいと待ってくれねえかな?」
「容赦はせぬ。殺す気で行くぞ」
美玲の方を見ると、宙に浮いていた。
正確に言うと、まるで絵を真っ逆さまにした状態ではなく、絵を九十度反転させたかのような状態で宙吊りになっている。
「ひ、尋賀ぁ!」
美玲の声は、助けを求める声ではなく、尋賀を注意を呼びかける声だった。
(バカ野郎が。自分の心配しろよ)
そんな言葉を出している暇が尋賀にはない。
なぜなら頭上には巨大な剣が迫っているから。
こればかりは躱しきれない。
レーヴァテインを放さない限りは。
でも尋賀にはそんな選択肢はない。
手放すことは、仲間たちを見殺しにすることだ。
そんな選択肢は尋賀にはあり得ない。
あり得ないからこそ、彼に巨大な剣が迫る――
「うおっ!」「くっ!」
尋賀と『神託』。
その両者が素っ頓狂な声と共に、両者共にのけ反る。
『神託』の目の前に弓矢が通り過ぎ、尋賀に至ってはのけ反るどころか、尻もちをついている。
だがそれはおかしいのだ。
美玲は両手が空いていない。
弓矢など、当然射れないのだ。
「じゃあね。尋賀」
弓を持ちながら、仲間たちと共に地面と垂直に飛んでいく……落ちていく美玲。
尋賀を守るために手を放し、それだけにとどまらず落下中に弓矢を射たのだ。
「――――――――」
それからの尋賀の動きは無駄などない。
瞬く間に立ち上がり、
「ルシェール!」
落ちていく仲間の一人の名を呼びながらレーヴァテインを放り投げた。
旋回しながら飛んでいくそれは高速で飛んでいく。それも落下中の仲間たちに追いつきそうなくらい。
レーヴァテインには魔法を吸収し、無力化する力がある。
それなら美玲達に掛かっている魔法も無力化できるというのだろう。
「ヤナギ! 諦めるななの!」
ルシェールは美玲から手を放すと、足を地面につける。
地面をずずずず……と言わせながら減速を図る。
ルシェールの意図に気づいたのか、今度は美玲がルシェールにしがみついた。
空中でしがみつく方から、しがみつかれる方への交代。
さらなる曲芸は続く。
その状態からルシェールは剣と短剣を抜き、それらを地面に押し付けたのだ。
「うぐぐぐぐぐなーのー!」
二つの剣から火花が散る。
地面は金属。
普通の剣では斬ることも適わない相手だ。
それでも減速くらいはできる。
「これなら取れ――」
近づくレーヴァテインの前に立ちはだかる一人の男。
「させん!」
例えレーヴァテインが弱点だとしても、レーヴァテインが飛ぶ進路を妨害することは出来る。
『神託』が、レーヴァテインの前に立っていたのだ。
「『神託』!」
年端もいかぬ少女が声を荒げる。
自分の出せる声の限界を超えるために、腹の底から出したかのような声。
「ナゲリーナ!?」
『神託』の正面で叫ぶ尋賀だが、『神託』は背後を向いた。
背中から試験管が飛んできたからだ。
「爆破ッ!」
先ほどと同じ声量。
普段の彼女から聞けない、怒鳴り声にも似た声。
枯れそうなほど勢いよく叫んだ声に、『神託』は姿を消す。
だが、その試験管はよく見ると蓋は空いておらず、中身もあらず。
ブラフ。はったりだ。
試験管も重力の向きが変わってるらしく、そのままナゲリーナの方へ戻っていく。
「シュヴァルツレーヴェ!」
目の前までやってきたレーヴァテインにルシェールは叫ぶ。
ナゲリーナが目の前にやってきたレーヴァテインを落としそうになりながらも掴む。
すると、今まで急速で落ちていくように見えていた四人が、速度が急にゆっくりになり、そして、四人はゆっくりと地面の上に立った。
「腕痛い!」
「文句言うななの! 皆痛いの!」
「脱臼とかしてないよね? 美玲?」
「私には聞かないの?」
ゆっくり肩を動かす美玲にホッと一息吐いている優作。
「なんとかなったか」
それらのやり取りを声が聞こえるギリギリのところで聞いている尋賀。
「それが最後の言葉で構わぬな?」
そんな話に茶を入れるかのように、背中で立っている『神託』。
首元には宙に浮いている刃物。
三角形のそれは、以前の戦いで出したクナイのような物。
「ボケ神様。オレの仲間に手ぇー出すとはやるじゃねーか」
「周りの者から排除すれば楽だ」
大きな問題が存在し、それを取り巻くように厄介な存在があれば、先に厄介な方を片付けるべきだ。
誰だって、宿題をする前に机の上が埋め尽くすほど邪魔な物があればそれを片付けてから宿題や勉強をする。
これとそれとは話が違う気もするが、尋賀にとっては同じようなものだろう。
「ナゲリーナはてめえの親友だろうが」
「あれは親友の記憶を持った別人だ」
「反対にあいつは親友だと思ってんだぞ」
「そんなことは知らぬ」
首に武器を突き付けられている尋賀の姿に動揺する仲間の姿。
だが、一番動揺していないのは他でもない尋賀自身だった。
「さて、話は終わりだ」
容赦なくクナイのようなものが動く。
だがどんな状況でもやられない方法がある。
「ほいっと」
簡単だ。
当たらなければいい。
「この距離を躱したか!」
ならばと頭上から振り下ろされる一撃必殺の一撃。
それの答えも簡単。
「どーしたどーした? 外してんぞ?」
ポケットに手を突っ込んだまま、笑う尋賀。
振り下ろす直前に横に動いて躱した。
「我の動きを見切ったというのか?」
「かもな?」
「なるほど。『蒼炎』の弟子ということだけはある」
金属の……大砲の地面がへこんでしまうほどの重い重い一撃。
巨大な大砲ならばその金属の厚さも相当分厚いのだろうが、それすらもへこますほどの一撃。
そんな人外の力を見せつけられても尋賀は一切動揺を見せない。
「ほら。喧嘩は始まったばっかだろ。もうちょい頑張ってみろよ」
煽る尋賀。
巨大な剣を持ちあげる。
「ならば容赦なく潰してくれる」
巨大な剣を易々と片手で持ち上げ、振り回す。
「ほい、ほい、ほいっと」
巨大な剣による攻撃を一つ一つ、ポケットに手を突っ込みながら軽快に躱していく。
その上、尋賀はにやにや笑っている。
「へへ。でっかい剣は動きが単純になって分かりやすいな」
そんなことを言う。
実際はかなりの速度だが、相手を焦らせる口撃としては十分だ。
「ならばこれでどうだ」
剣の平の部分を見せる。
巨大剣は縦にも横にも大きい。
縦にも横に大きな男が二人は隠れそうな剣の平打ち。
例えるならば巨大なうちわかラケットを持っているかのよう。
それが金属。
そんなものが普通の剣と同じ速度で振られれば。
破壊力はバカにならないはずだ。
その上、面積が増えるということは当然命中率も上がるということ。
「さらばだ」
などという『神託』に、まだ笑う尋賀。
「楽しくなってきやがった」
戦闘狂としての本能からか。それとも底が見えぬ尋賀の強大さからか。
『神託』の動揺の色が、顔に色濃く出ている。
「ただの人間に何ができる!」
全てを巻き込むように振られた巨大剣の一撃。
それすらも尋賀は、地面に伏して躱した。
「ほぉーら、巨大な剣って振り回すもんじゃねーんだよ」
重いハンマーはどちらが順手か。
重たいヘッドか。それとも持ち手の部分か。
少なくとも尋賀は持ち手の部分が順手だ。
重たい武器は威力が出る。
そのかわり振り回すのに、大きく振りかぶる羽目になるし、無駄な動きをする羽目になる。
しかも、そんなものを振り回すならば、それこそ小さな武器を持って振り回した方が強力だ。
だから重いヘッドではなく、軽く、そして必要に応じて強力な一撃を放てる上に、重たい部分をすぐに振り回せる持ち手の方が武器としての正解だと。
尋賀は今、それと同じように予備動作を完全に見切り、それに合わせて躱しているだけに過ぎないのだ。
「がら空きだ!」
『神託』は動揺を言葉で隠しているが、行動の節々に焦った無理な行動をしてしまっている。
一番大事で警戒しなければならないレーヴァテインを忘れてしまうくらいに。
「ぬおおおおおおおおお!」
「くーらーえーなーのッ!」
美玲とルシェールが声を挙げながら走る。
尋賀の真上をレーヴァテインが通り過ぎる。
二人がレーヴァテインの端と端を持って走っているのだ。
「ぐおっ!」
ラリアットでも喰らったかのように、『神託』は倒れ、巨大剣の落ちる音が響き渡る。
「尋賀!」
「サカマキ!」
二人が息を合わせて尋賀にレーヴァテインを投げる。
「くっ、貴様ら! なぜ人間がそこまで我らに抗おうとする!」
「抗うに決まってんだろーが!」
レーヴァテインを手に取ると同時に動く。
『神託』も動き、巨大剣が手元に現れた。
「一体、何がそうさせる!」
『神託』は剣を一閃させる。
さらには四方八方からクナイが現れる。
それでも尋賀は怯まない止まらない。
それらを躱しながら進んでいく。
「世界なんて規模がでけえけどなッ!」
レーヴァテインの一撃が『神託』に届く。
それでも尋賀も『神託』も止まらない。
「そンでも守りたい理由がこっちとらあるんだよ!」
「貴様には関係のない話ではないか!」
一撃、二撃。
怯む『神託』。
大剣は動かない。
それでも反撃を繰り出す。
「散れッ!」
尋賀に向かって飛ぶクナイ。
尋賀は……躱さない。
「尋賀っ!」
鮮血が飛ぶ中、美玲や優作やルシェールが何が起きたのか理解する前に、ナゲリーナは叫んだ。
「こんくれぇーじゃ止めれねーぞ」
受け止めたのだ。
尋賀は、左腕を犠牲にして。
「そんなにまでしてなぜ――」
「大事な人間が、ただの一人でもいるからだッ!」
美玲にとって大事な尋賀。
ルシェールにとって今でも大事な騎士団や仲間たち。
優作にとっての家族や友人。
ナゲリーナにとっての両親に魔王軍。
そして、尋賀にとって大事な守りたい人間。
美玲、優作、ルシェール。そしてナゲリーナ。
大事な人間を守りたいから、世界を救う。
大事な人間を傷つけたくないから、彼は立ち上がる。
「だからオレ達は止まりはしねえ!」
尋賀の重い一撃が『神託』に入り、男は吹き飛ぶ。
「尋賀! レーヴァテインが暴発する!」
ナゲリーナの言葉通り、レーヴァテインが強烈に発光している。
脈が走っていたかのような光は潜め、完全に光を放つ鉄棒となったそれを、尋賀は旋回させる。
「おらッ! トドメだ!」
レーヴァテインから光弾が放たれ、『神託』の前で小規模な爆発を起こした。
「ぬぐああああああああああぁぁぁッッッ!」
爆発音をかき消すような断末魔が響き渡る。
「くっ……ここまで、やるとは」
地面に倒れた『神託』は地面にひれ伏した状態で、絞り出すかのような声で呟いた。




