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ラストエピソード1

「それじゃあ昨日の話通りに」

 尋賀達がたどり着いた先は、山があった場所。

 そこでは見えない壁があるだけで、山の姿など一切見えない。

「確か、山の前に魔法の壁があるからレーヴァテインでぶった切るんだよな?」

「恐らくは魔法の一種。上手くいくと思う」

「……なんで魔法でそんなことするんだ? 別の力でオレ達を通れなくすることもできるんじゃねーの?」

「さあ? 『神託』がレーヴァテインの存在を忘れてるか気づいていない」

 あり得そうなのが困る。

「うしっ! そんじゃーいくぜ?」

 尋賀がレーヴァテインを布から取り出す。

 相変わらずそれは発光している。

 わざわざ尋賀が手元で旋回させると、大層に頭上に掲げて振り下ろした。

 落ちた雷が、まるで景色が二つに割かれたかのように見えるのと同じ。空間が裂かれて、山が姿を現し、空には異様な景色が再び見える。

「異世界が広がってやがるな」

 空に広がる異世界は、空を完全に見えなくしてしまう。以前に見えていた異世界の光景はもっと狭かったはずだ。間違いなく空を完全に覆い尽くすほどではなかったハズだ。

 まるで、地球の上にもう一つの地球が落下してきたかのようだ。

 ただ、空にある逆さまの大地は、太陽の光を遮断しないようで、暗くならない。

「世界と世界がかなり近づいている」

「マズイんだよな? それ?」

「まだ十分猶予はあるが、消滅へのカウントダウンは近い」

 ナゲリーナは試験管を二本取り出す。

 魔法を使えなくなったナゲリーナの今の魔法の使い方。

 彼女が試験管を取り出すと同時に、どこから取り出したか美玲は漫画を取り出す……正確には漫画の切れ端をセロテープでくっつけたつぎはぎの紙。

「美玲。それはこの前見せてくれた漫画」

「美玲! 君のお気に入りの漫画じゃないか!」

 騎士の主人公を中心に、魔法と友情の王道少年漫画だ。

 かなり昔の作品だが、祖父からもらった初めての漫画だったらしい。

 小学生時代から今までずっと大事に何度も愛読してる物らしく、美玲の口調もその主人公のライバルの騎士の口調を真似たものだ。

 そんな大事なものをこんなに無残な姿にしているのか。

「ふっ! 大きな用紙が必要だと聞いたのでな! 世界のために必要ならばこれも本望だろう!」

 そうは言う美玲だが、実際の理由は、必要なくなったのだろう。

 美玲にとって。

「ンなことしていいのかよ」

「だって、私の騎士は目の前にいるから」

 その言い方ならば、美玲を守る騎士が尋賀みたいになっている。

 どうにも態度の急変に尋賀は付いて行けなさそうで困っている。

「なら美玲。それを広げて」

「うむっ! 任せたまえ!」

 美玲はお手製の大きな用紙を広げる。

 そのお手製の用紙は、今まで作ったお手製の物の中でひどい出来の物だ。

 どれも頭の悪いほど完成度が高いのに、これだけは普通に大きな用紙を購入すればよかったと思うほどに。

「いいのかよ……ンなことして。てめえは本当に」

 でも彼女は満足そうだ。

 今まで作った何よりも。

「それじゃあ始める」

 ナゲリーナは二本の試験管の蓋を開け、それをゆっくりと同時に漫画の用紙に垂らしていく。

 液体はやがていつものナゲリーナが描く陣となる。

「これを立てかけて」

 言われた通り、美玲はどこからかガムテープを取り出して、山にある木に貼り付ける。

「準備は完了。この陣を通れば狭間の世界に行ける」

 ナゲリーナが真っ先に陣を触れる。

 手は吸い込まれるように消える。

「さあ、皆も」

「行くぜ。魔王対神のど派手な喧嘩、しよーぜ」

 どっちも通称だけな、と笑いながら次々と陣に向かって歩く。


ーーー


 狭間の世界。

 ナゲリーナの言うには世界と世界の間にある次元。

「……盛大だな」

 空の360度。

 空を埋め尽くすほど地球がぎっしりとあった。

 空に輝く星にしては数があまりにも多すぎる。

「これが世界の狭間……空に浮かぶのは異世界……そしてこの数だけ世界の可能性が」

「まじかよ。これ全部異世界かよ」

 全てが地球だと言うのならば、ここから尋賀達の世界を探せばいいのだろうか。

「あれが我々の世界だろうか」

 自称騎士、狩人兼異世界の守護者はすぐに探し物を見つける。

 美玲の言う通り、二つの地球が重なっている。

 他の地球は重なってはいないというのに。

「床は金属かな? ……あれ?」

 優作が急に眼を大きく見開いた。

「あれは家なの?」

 ルシェールは遠くに見える何かに額に手を当てて見ている。

「……なあ優等生。てめえの考えは?」

「そうだね。変わった建物があって、そこに金属の『棒』が伸びてるって何があったっけ?」

「……煙突とかか?」

「現実逃避しないでよ。家の壁に煙突はないよ」

「そーゆー家なんだろ」

「家という発想から離れようよ」

 わざとの現実逃避に呆れた優作は、動揺がすぐに消え去ったようだ。

 彼は眼鏡のブリッジを押し上げながら答える。

「例えばだよ。例えば、戦艦ってさ。管制塔があって大砲があるよね」

「管制塔じゃねえ。変わった家だ」

「もしもだよ。もしも、大砲がついてある建物ってさ。戦艦の一部じゃないかな?」

「……砲塔がねえなら関係ねえ話だ」

「遠くて小さく見えてるだけじゃないかな? あの管制塔。そしてボクらは巨大な大砲の上に立っているってことは考えられない?」

「考えたくねえ」

「認めてるんじゃないかな。それ」

 地球はなぜ丸いか。

 丸いのならばなぜ湾曲していないのか。

 それは地球に対して人間が小さいから。

 だからもしも。

 尋賀達の金属の床が実は巨大な大砲だったとしたら、その上に乗っているのだとしたら。

 それは地球のように巨大。少なくとも湾曲して見えずに、まっすぐな床に見えるほど巨大な大砲。

 彼らはそんな場所の上に立っていることになる。

「その通りだ。お前たちは我らが所有する兵器の上に立っている」

 尋賀の背中に突如現れた男。

 その男に対して尋賀はレーヴァテインを振る。

 レーヴァテインは虚空を切る。

「ここに来るとは」

 その男。ナゲリーナが『神託』と呼ぶ男が離れた位置に出現する。

 瞬間移動の類か。

 どんな魔法でも使えるなら相手はもっと何でもありかもしれないとは昨日の話の中ですでにしていた。

「そーかい。だったらオレ達がやることにも見逃してほしいねえ?」

 尋賀は優作を確認する。

 彼は合図を見せない。

 まだ大丈夫。交渉できる範囲内。

 とのことだ。

「見逃すわけにはいくまい。ここまで来てしまったら拘束しなければな」

 『神託』が指パッチンをすると、二日前のように囲むように人が現れる。

 しかも、その時よりも人数が多い。

 尋賀達の世界にやってきていた騎士団よりは少なく見えるが、数えきれないほどの人数はいる。

「せめてものの友人の関係者のよしみだ。貴様らは拘束した後に、元の場所に戻そう」

「そいつぁーありがてぇ交渉だけどよ。オレは断るぜ。なんならオレ達を二日前の騎士団みたいに連れて行くか殺せよ」

「死を望むか」

「ちげぇーよ。そんくらい言ってくれたらこっちとら張り合いが出るからな」

 以前の戦いの時は手を抜かれた上で遊ばれた。

 戦闘狂で、好戦的な彼にとってそれほど屈辱的で腹の立つ行為はない。

 だからこそ殺す気の本気で来てくれることを望んでいるのだ。

「そのようなことを言うと事前に想定していた。要望通り、今戦える戦力を全てこちらに用意した。後は全てが終わる」

 戦艦があって、全てが終わる。

 不穏な言葉だ。

「『神託』聞いてほしい。わたしの大事な人間がまだいる」

「ならばその者達も助けてやろうではないか」

「わたしの大事な人間は、世界の人間。わたしの魔法を、研究成果を勉強し役立ててくれる人間全て」

「……譲歩を断るとは残念だ」

 片方の世界の人間を、もう片方の世界に全てに避難することも許されないらしい。

 なおさら『神託』たちの考えは止めなくてはならない。

 それが正義でも。

 尋賀達はその考えでいるからこそ、その正義を是か非か問われたときに非ととらえている。

「安心するがよい。先ほど言った通り、我は特別に親友の関係者である貴様も生かしても良いと考えている」

 ナゲリーナに手を差し伸べる『神託』。

 彼女の前に立ち、壁となって彼女を守ろうとする優作。

「何が安心するがいいだ! 生かしてやるってあなたに何の権利があるんですか!?」

「我は世界を管理する神だ」

「そんなことは関係ない! あなたは世界を壊して世界中の人間を殺そうとしている悪魔だ!」

「これはもう片方の発展した世界を救うためだ」

「あなたはそう言っている! でもあなた達は、人々を避難させるだけの力がある! どうしてそうしない!」

「一部の人間に特別な待遇はしてもよい。だが、基本我らは無干渉。世界のことを知られてはならない。そして我らは避難させられる人間は避難させたぞ?」

 二日前の騎士団を連れ去ったという話。

 それが一部の特別だろうか。

「私の仲間を……騎士団の仲間をどこにやったの!?」

 いつの間にかルシェールが剣を抜いている。

 そういえばおかしかった。彼女が。元とはいえ仲間である騎士たちが連れ去らわれたという話を聞いて黙っていたのは。

 理解していないと思っていた尋賀だが、そんなことはなかった。

「騎士団は世界の管理者となる者に永遠の命となる術を覚えてもらい、そうでない者は捨てる」

「捨てるって何をする気なの!?」

「元の世界に戻す」

 捨てるという言葉から物騒なものが連想されるが、それよりもマイルドに感じる。

 言葉の選び方だけは。

「そんなことをしたら死んじゃうの!」

 ルシェールも気づいており、彼女はさらに怒る。

「お前たちは単純に自分たちの都合だけで動いてるの! 仲間を取り返すの!」

「我らに勝つというのか? 面白い」

 徐々に両者の臨戦態勢は整っていく。

 一触即発の空気の中、美玲は問う。

「貴様らはなぜ世界を滅ぼそうとする! なぜそんなことをしようとする!」

 いつもの演技口調だが、その言葉で雰囲気を壊すことはない。

「優れた世界を生き残らせる。それだけだ」

「それだけの理由で滅ぼすというのか!?」

「そうだ。劣っている方が消え、優れた方を残す。そう決めたのだ」

「確かに異世界は魔法で満ち溢れたものではなかった! だがそこにいる人間を犠牲にし、その上貴様らから人々を救う正義を微塵に感じない! 貴様らは人間の命をただの物としか思っていない悪だ!」

 美玲は袋から弓を取り出す。

「なるほど。我らに立ち向かおうというのか」

 『神託』が指パッチンをすると、宙に剣が現れた。

 剣、と一言で言っても様々な物が存在する。

 ルシェールが持つ短剣に、サーベル。そして以前の細剣など。

 だが、宙に現れたそれは巨大な鉄の塊。

 人間が持てる長さも幅も超越し、刃物の恐怖よりも巨大さの威圧感の方が大きい剣。

 人間が持つことを明らかに想定していない、巨大剣。

「さて。我としては譲歩したのだが、貴様が死を望んでいるのならば、加減はせぬ。すぐに葬って見せよう」

 優作が動き出す。

 交渉決裂の合図だ。

 それに合わせてナゲリーナも動きはじめる。

 白衣のポケットに手を入れる。

「させん」

 巨大な剣を持たず、手から炎の塊が発射される。

 紅く燃えるその塊は一直線にナゲリーナのもとへと飛んでいく。

 当のナゲリーナは、最後まで話し合いで解決できると信じて反応が遅くなっていた。

 そして、ナゲリーナの魔法は真っ先に潰したい事情が敵にはある。

「しんた――――」

 友の愛称を呼ぶ悲しげな声は、大きな爆発音でかき消された。

 全てを灼熱の炎で包み、一瞬で灰塵かいじんにしてしまう爆発。

「……あっけなかったな」

 『神託』が呟いた途端、黒煙から幾何学模様が広がる。

「なに!?」

 魔王を語るナゲリーナを守る、最強の不良。

 坂巻尋賀は、ナゲリーナを片手に掲げてレーヴァテインを前に突き出していた。

「簡単に終わるかよ。こっちとら世界救うって言ってんだ! こんなザコい攻撃で沈むか!」

 そして、『神託』たち、異世界を管理する者たちは足下に広がる幾何学模様に怯んでいる。

 何が起きているのかと。

「聞いたぜ。てめえら、ボケ神様しかこの魔法を知らねえーんだって?」

 五人で作戦会議をしたとき、ナゲリーナが言ったことだ。

『わたしの魔法を知る者はわたししかいない。なにせ、知識を独占していたから。わたしの魔法を扱える人間はわたしと、友情の証を持つ者しかいない。つまり、知れる確率は限りなく低いと考えている』

『超マイナーってわけか。だったら――』

 だったら決まっている。

 知識がないということは、何が起きるか分からない。

「そいじゃーさいなら」

 尋賀がにやりと笑う。

 それに合わせてにやりと笑っている優作の姿が。

 試験管を、逆さまにしながら。

「みんな! 作戦通りに!」

 優作の言葉に従い、皆が行動する。

 一斉に尋賀のレーヴァテインに集まったのだ。

「それじゃあ、異世界旅行楽しんで来い!」

 強烈な光が辺りを包み込んだ。












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