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決意の剣士

 再び尋賀は仲間たちを探す。

 何気なく彼は路地裏の前に来ていた。

 昔、彼は路地裏にいる不良を狩っては金を巻き上げる。

 そんな名残が、未だに心のどこかにあるのだろうか。

「こんなとこに何してんだか、オレは」

 こんなところ夕暮れ時の陽も当たらない薄暗い場所で三人ほどの人の気配。

 不良か何かか。

 絡まれたら面倒だ。倒せるけど。

 尋賀は引き返そうとした。

「こっちの準備はできてるの!」

「わたくしもできていますの」

 聞こえた声はよく知っている。知り合いだ。

 不良の方がよかった。

 尋賀はため息。

「何してんだよ、てめえら」

 剣と剣を互いに向けあう二人の女剣士。

 とんだドンパチに巻き込まれた。

 美玲なら喜びそうな雰囲気だ。ここから尋賀を主人公とした王道ストーリーの始まりを告げるのだろう。

「あっなの! サカマキなの!」

「坂巻なのじゃねーよ。こんなところで何バカなことしてんだよ。チャンバラごっこはよその世界でやりな」

「でも元の世界に戻れないの!」

「そーだけどここでは銃刀法とかあってだな」

 ついでに決闘罪とかも適用されそうな気がする。

 尋賀と美玲のは決闘という名目だが、尋賀は傷つけようとしたことがないから、たぶん決闘ではない。

「わたくしとルシェール。出来れば二人の決闘に入らないでほしいのです」

「しゃーね。分かったよ」

 相手はルシェールの師匠、グレゴワース夫人。尋賀はもう好きにしろと止める気も失った。

 一日経ったが、寝る場所や食事はどうしたのだろうか。

 雑草を食べたり野宿したりなど、女性の、それもまだ十分若い人妻がするようなことではない。

 ……そう考える尋賀だが、それ以前に雑草を食べたり野宿したりが普通だった尋賀の感覚はおかしい。

 金がなければ衣食住はままならないが、それでも野宿した以外の可能性はないのだろうか。

 尋賀は座って観ている夫の隣に座る。

「…………」

「黙ってねーで止めろよ旦那」

 その旦那の方は、アロハシャツを着ている。

 ……もう異世界に馴染んでいるのではないだろうか。

「昨日一日どうしてたよ?」

「まずは世間に馴染もうと、妻とともに記憶を失ったと縋りついてみた。親切な家庭で二人で家事を手伝っていた。我々はこの世界の文化は知らぬ。だからこの世界の文化の知識のなさで驚けば、記憶を持たないという話も真実味を帯びるだろう」

「異世界でも問題なく生きていけそうだな」

 外野が話し合う中、師匠と弟子はじりじりと互いの間合いを確かめる。

 共に二刀流。

 一方は細剣と短剣。一方はサーベルと短剣。

 緊張がその場を支配するが……尋賀は無視だ。

「その怪我、どーやって治療してもらったんだよ」

「一宿させてもらった家庭が医者だったのでな。治療してもらった」

「そーかい。そんで記憶喪失の夫婦が家から離れたら、その親切な家庭の奴らも心配するんじゃーねーの?」

「……妻の記憶を失い、彷徨う見事な演技に騙されぬ者はいるまい」

「けっ! 一生のろけてろ!」

 剣はその家庭で隠してたのだろう。

 バレたら記憶喪失の夫婦から一気に強盗。もしくは何らかの抗争組織の人間という烙印を押されるだろう。

 腕も普通あり得ない、弓で射られて貫通してできた怪我だ。

 現代日本で遭遇できる怪我の類ではない。

「…………」

 話すことがなくなる尋賀。

 あまり暇つぶしでも話したくない相手なのだ。

「ルシェール。来ないのですの? それじゃあわたくしには勝てないですの」

「誘っているのバレバレなの! 先生はいつだって攻撃の隙を突いて来るの!」

 尋賀はいつ終わるか、退屈そうに見ていた。

 喧嘩は好きだが、他人の喧嘩は好きじゃない。

 だから適当に見守っている。

(先生……師匠か)

 師匠と弟子。

 グレゴワース夫人とルシェール。

 尋賀の師匠と尋賀。

 それぞれ教える立場と教えられる立場。

「絶対に先生に勝つの……!」

「わたくしに勝てなくとも、腕に覚えのある者には勝ってきたじゃあありませんの? 騎士団でも実力だけなら隊長クラスという話でしたのに」

「でも先生には勝ってないの!」

「と言っても最後に戦ったのは四年前。今は分からないですの」

「それでも……私は超えないといけないの!」

 剣尖を向ける。

 弟子が師匠を超えることは弟子の務め。

 それを実行しているのか。

 考え方を変えれば、今この状況は尋賀の師匠と尋賀。

 この二人のやり取りに似ている。

(最後の戦い、ってか)

 尋賀の師匠は、果てるつもりでいた。

 ルシェールの先生は、この世界で暮らすのに剣を握るつもりはない。

 どちらも、最後の対決。

(……だからてめえは、決闘申し込んだのか)

 師匠を超えることは師匠の喜び。

 だからこそ、ルシェールは剣を捨てる前に戦いを挑んだのだろう。

 成長を見せつけるために。

「……妻の剣は私よりも早い。ルシェール殿でも勝てまい」

「随分とかしこまった物言いだが、妻贔屓かよ」

 でも。

「のの女は勝つぜ」

「なぜそう思う?」

「相手がのの女の師匠だからだ」

 尋賀の言葉と同時に二人は激しい剣と剣の応酬。

 高速の突きをグレゴワース夫人が繰り出し、対するルシェールは短剣で受け流す。

 高速の剣閃をルシェールが繰り出し、対するグレゴワース夫人は短剣で受け流す。

「妻が……押されている?」

 剣と剣の対決はグレゴワース夫人が劣勢だった。

「――――っ!」

 ルシェールのサーベルが、グレゴワース夫人の目の前で止まった。

「……降参ですの」

 その言葉を聞いて、ルシェールは背中の鞘に剣を戻した。

 マントがやや邪魔そうだが、ちゃんとつけていないと剣を持った女子高生逮捕という朝刊の一面に飾ることになる。

「馬鹿な。妻の剣はそう易々と敗れるものではない。剣の速度で私に劣るルシェール殿では」

「逆よ。ルシェールはわたくしよりも早い剣技を持つのです。幼少から磨かれた剣技がさらに磨きが掛かり、さらなる剣技へと昇華させたのよ」

「ならば、昨日の戦いでは」

「なにせ、剣が変わったばかりで上手く馴染めてなかったんですもの」

 違いますの? そう尋ねられたルシェールは頷く。

「おかげで苦戦したの! だからアマギの家で特訓したの!」

「特訓すんなバカ」

 強くなるのは大いに結構。

 でも訓練する場所くらいは選んでほしい。

「これで教えられることは何もないですの」

「先生……」

「ルシェールは騎士として、仲間のために戦ったって聞いたの。例え騎士じゃなくてもその心だけは忘れないでほしいですの」

「はい、先生なの! ありがとうございましたの!」

 自身の胸を叩くルシェール。

 騎士の敬礼だろうか。

 それに笑顔で答えて剣と短剣を捨て、その場を去るグレゴワース夫人とグレゴワース。

「おい、待て! ンなとこで捨てるな!」

 水を差すようだが、仕方がない。

 尋賀は捨てろとは言ったが、もっと捨てる場所を選んでほしい。

 尋賀だって地面に埋めるなりの努力はしたのだ。

 そうでもしないと、剣不法投棄事件とでも見出しを飾り、連日連夜犯人探しのニュースが始まるだろう。

「しゃーね。のの女、こいつも持ってろ」

 仕方なく尋賀はルシェールのマントで隠すことにした。

 ルシェールはその剣を大事そうに受け取る。

「……捨てろよ?」

「やーなの」

 もうどうでもいいや。

 捕まりたければ捕まりやがれ。

 尋賀は考えるのを止めた。

「そんで、勝てて嬉しかったか?」

「うんなの!」

「そいつぁー良かった」

 ルシェールは満足気だ。

 それは立ち去る時のグレゴワース夫人と同じだ。

「これできっと心残りはないの」

「心残りだ? なんの? 剣士としてのか?」

「そうなの! 異世界への心残りと先生としての心残りはないの!」

 心残りとはグレゴワース夫人のことか。

「てめえはどうなんだよ」

「何がなの?」

「心残りだよ。あるんじゃねーの?」

「そんなこと考える必要はないの!」

 元からないのか。

 彼女の家に着いたとき、彼女は残るという選択肢もあったはずだ。

 でも彼女はそうはせずに尋賀たちと異世界にやってきた。

 もう戻れなくなるというのに。

 彼女は何も考えていないのか。

「今は戻れなくてもいいの! いずれ戻れるの!」

「なんでぇー? コネクターズカオス現象が終われば異世界とは行き来できねーだろ」

 と、そんなことを言っても彼女の場合どこか理解していない節がある。

 彼女は今まで、指名手配を受けて異世界で暮らせなくなったからこっちの世界で暮らしていけるように仲間になった。

 尋賀はそう思っていた。

「シュヴァルツレーヴェが言ってたの! 異世界を行き来できるようにするってなの!」

 だがそうではなかった。

 彼女は理解していた。

 彼女は単純だが、思いは強い。

 そんなこと、彼女と決闘した時から分かっていた。

 仲間のためにすべてを擲つ。

 騎士団の考え方に染まった考え方をずっと持っている。

「なあのの女。てめえは何のためにこの世界に来た?」

 答えなどすぐに分かる質問。

「当たり前なの! サカマキのため、アマギのため、ヤナギのため、シュヴァルツレーヴェのためなの!」

 彼女は世界のために戦っていたわけでもない。

 世界のためについてきたわけでもない。

 自分のためですらない。

 ただ、守りたい仲間のために。

 もう元いた世界に戻れないかもしれないのに。

 これが、グレゴワース夫人の言った仲間のために戦う。

 それを今も実行しているのだ。

「のの女」

「それやめろなの!」

「ルシェール」

 どうも尋賀が彼女の名前を言うとむず痒いようだ。

 普段から他人を挑発するような呼び方をするが、逆にそうしなければ彼らしくない。

「明日、オレ達のために手ぇ貸せ」

「当たり前なの!」

 清い返事。

 彼女ならきっと頼もしく言ってくれるだろうと。尋賀にはもう分かり切ったことだが。

「よぉーしのの女! 後でオレの家で集合な?」

「だったら、私は色々なところに入ってみるの! 色々とピカピカしてて面白いの! ……それやめろなの!」

 のの女という呼ばれ方にかなり慣れてしまったようだ。

 気づくのに時間がかかった。

(のの女は不審者で捕まって来ねえかもしれねえ)

 マントを羽織った人間がそこらのお店でうろちょろする。

 おまけにそのマントの裏側は剣が二本。

 果たして彼女は逮捕されずに済むのか。

「ま、大丈夫だろ。後は魔王様か」

「? 何が大丈夫なの?」

「こっちの話だ」

「シュヴァルツレーヴェは少し山を見て来たら、サカマキの家に行くって言ってたの」

「そーかい。あんがとな」

 尋賀とルシェールは路地裏を出る。

 と、同時にルシェールは走り出した。

 マントが少し翻っているが、多分大丈夫だろう。

 ……たぶん。

「さてと、探す手間が省けたな」





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