決意の優等生
「よぉー。優等生、買い物か?」
残された優作、ルシェール、ナゲリーナと話して明日の作戦決行時に付いて来るかどうか尋ねることにした尋賀。
どうせ尋ねたところで地獄の果てまで一緒に同行してくれそうな気もする。
そんなこんなで、尋賀は適当に優作達を探していたのだが、スーパーから出てきた優作しか見つからなかった。
ちょうど見つかって良かったと。
尋賀は携帯電話などの通話機能を持った文明の機器を持っていない。
持っているのは美玲が作った糸電話だけ。
苦労して探さずに済んだということだ。
「うん。今晩の食材を買って帰らないと。人数が急に増えたから材料が足りなくてね」
「だったらちょうどいい。今晩、オレの家で作戦会議すっから、晩飯用意してくれっと助かる」
「助かるって、君の家、ガス止められてるでしょ?」
「細けぇーことは気にすんな」
細かくないと思うんだけどな。
そう呟く優作だが、尋賀にとって食事とは、口にさえ入れば何でもいいものだ。
雑草を食っていた時期もあるくらいだし。
「明日の作戦会議か。ボクは付いていけないけど、せめて話くらいは参加させてもらうよ」
「なんだ? 付いて来ねーのか」
「付いて来ないって。君が付いて来るなって言ったんでしょ?」
「考えが変わった。付いて来たいなら付いて来てもいいことにした」
「何それ?」
尋賀が言っていることが理解できないのだろう。
まるで尋賀の我が儘で物事が決定されているみたいだ。
「どうして急に考えを変えたのさ?」
「騎士殿と喧嘩してたら、気づいちまった。それだけだ」
「……何があって、何を気づいて、何でそうなったの?」
疑問が三つに増えた。
流石に捻くれ者の相手は苦労するが、優作はいつものことなので無視することにした。
「まあいいよ。ボクは最後まで付いて行くよ。ここまで行動を共にしてきたんだ。いまさら待機なんてなしだよ」
「ま、言うと思ってたけどな」
付いて来るか待機しているか。前に一度答えを聞いている以上、もう一度問うても同じ回答が返ってくるだけだ。
時刻は夕焼けが見える頃。
もう時間帯としてはまっすぐ帰らないにしても帰宅するにはちょうどいい時間帯だ。
まだ寄り道するなら話は別だが。
「そーいやー魔王様とのの女はどーしたよ」
おかしいのだ。
優作が一人で行動していることが。
なぜ、異世界人コンビがこの場にいないのか。
「二人はいつの間にかどこかに向かったよ」
「……優等生。こういう時は呑気に買い物するんじゃなくて、必死になって探せよ」
「たぶん、大丈夫じゃないかな? 尋賀の家に向かうようには言ってたし」
「本当に大丈夫か? 魔王様が魔王になったのは、不審者に声かけられてホイホイ騙されたからだろ?」
「大丈夫だよ……捕まらないという意味で」
「明日の朝刊が楽しみでしょーがねえー」
今の二人なら間違いなく声を掛けられても薙ぎ倒しそうだ。
もちろん、不審者も警官も。
「それじゃあ、これからルシェールやナゲリーナを探す?」
「ま、そーだな」
「……それじゃあ、これからボクは買ったものを家に置いて来るよ」
「そしたら晩飯がなくなるぞ?」
「別のものを用意するから。君の家でも食べられるものを人数分買い揃えるよ」
ということはきっと奢ってくれるのだろうか。
「君の分と美玲の分は徴収するからね」
尋賀の心を見透かしたかのように、優作は言った。
ぼちぼち尋賀の心理も読めるようになってきたのだろうか。
心の内面を読まれるほど単純ではないハズなのだが。
「そうだ。ボクの方でこの町のことを調べておいたけど、聞く?」
「……頼むぜ。どーにもこの町は普通じゃなかったみたいだしな」
尋賀と優作は歩き始める。
尋賀は、ルシェールとナゲリーナを探す目的だが、探す当てもなく、どうせどこか遠くには行かないだろうと思い、適当に歩き。
優作は一旦帰宅するために駅に向かっている。
ならば、尋賀は探すついでに優作に付いて行けばいい。
そうすれば気になる話も聞ける。
「まずは尋賀の師匠さんだけど……」
「何か分かったか?」
「あの道場の所有者の名前を調べてみたんだ。でも、あの道場の持ち主、一々名前が変わっていて……」
「そうやって、次の奴から次の奴へと持ち主を変更してたんだろ。でも実際はジジィ一人だった」
「恐らくは尋賀の言う通り、土地の所有者の名前が変わっていなかったら、人とは生きている時間が異なることがバレる可能性があるからね」
「そんで不審に思う奴が出てくるからな。んで、現在の土地の所有者の名前は?」
優作は言い淀む。
それだけで尋賀は察した。
「坂巻尋賀。違うか?」
黙ってはいるが、肯定の意だろう。
「今まではダミーの名前が使われたんだ。でも今の持ち主に関しては……違う」
「完全にオレの所有物になってたってわけか。遺産のつもりかよ」
永遠の命を与えられた尋賀の師匠は、尋賀一人分の一生如きで死ぬとは考えられない。
だから優作は言えなかった。
もっと前の段階から尋賀の師匠は死ぬつもりがあったという可能性が。
「元から死ぬつもり……か」
「どうして死ぬつもりでいたんだろう?」
「長く生き過ぎたんだとよ」
「長くても死んでいい命なんてないよ」
「当たり前だっつーの。てめえまで死ぬなんて言うなよ? 死なせねーからな」
「ボクは死んだりしないさ」
戦えないくせに言いやがると、尋賀は笑った。
むっとする優作だったが、彼は気づく。
「話がずれたね」
「ま、そーだな。他に分かったことあるだろ?」
「うん。次にこの町の特異性だね」
「どうだった?」
「ナゲリーナとルシェールはあの神様って人が勝手にやったことで、それ以外の人たちの中に存在しない人がいるみたいだ」
存在しない人。
字面だけ追えばどうなるのだろう。
透明人間とでも想像できそうだ。
「明らかにおかしい人がいるんだよ。二日三日で消えた人がいたり。しかも失踪届けも死亡届けもでてない人とかもいるし」
「……そいつはどーなったと思う?」
「異世界出身者のことだと思う。長い間、異世界と繋がっていたんだ。尋賀よりも以前にこの世界に来てる人がいると思うんだ。でも、ボク達は異世界のことはこの間知った。そこから考えるに、尋賀の師匠さんが隠していたんじゃないかな?」
「ああ。オレも同じ考えだ。でもな、さっき知っちまった。ジジィ以外にも協力者がいたんだよ」
「協力者、か。確かに一人だけで四六時中異世界の見張りなんてできないからね」
「おうとも。そんで異世界の見張り役として異世界の守護者がいたんだよ」
「異世界の守護者?」
「聞いて驚くなよ? 騎士殿が異世界の守護者だったんだよ」
「み、美玲が?」
尋賀はそうとだけ伝えると、それ以上は伝えなかった。
これ以上余計な説明をして、優作を混乱させたり怒らせたりしても無意味だと。
どうせ異世界の守護者の役目は終わりを告げるのだ。
そんな役割の話を詳しく話す必要もないと判断してだろう。
特に……暗殺すらやってきたことなど特に。
「じゃあ美玲が騎士だって言ってるのは異世界の守護者だから……? 本当はボク達よりも異世界を知っていた?」
「…………」
説明を省くから、優作の勘違いが進んでいく。
恐らくはこの後、普段の妄想は、異世界の守護者という特別な存在であることが彼女の中二病に繋がったのだと言うのだろう。
だけど、尋賀は話を中断させた。
「そーいや、山の方はどうなったんだよ」
優作ならきっと調べているのだろう。
案の定、すぐに調査結果を聞けた。
「それが、山なんてなかったって皆言うんだよ」
「じゃあ、昨日までの出来事は?」
「もちろん、皆答えたよ。普通に生活してたとか、出かけていたとか」
「それは町の中の連中だろ?」
「そう。そして外の人間はこの町に来た人はいなかった。ボクが調べた範囲内での話だけど」
「記憶の改竄してたんだろ? だったら他にもやりたい放題やりそうだよな?」
「世界中の人間にこの町の存在を忘却させるだとか、やりそうだよね」
あくまで想像。美玲のように言えば妄想。
相手はやりたい放題出来るのだ。
たぶん、尋賀の考えつく範囲は全てやってのけるのだろう。
「ったく。相手強過ぎじゃねーか」
「ねえ、尋賀。ずっとあの神様って人、敵みたいに言ってる気がするけど……」
「ったりめーだ。ボケ神様は敵だ。明日盛大に喧嘩する羽目になるぜ?」
「その根拠は?」
「ねえ。でも意見が対立したら……」
「……勝った方が正義」
そうだ。
戦争の歴史と同じだ。
勝てば官軍負ければ賊軍。
勝てば正義負ければ悪。
そして、二つの意見を無理やり通そうとすれば対立となり、戦争となる。
「話を聞いてくれるかもしれないよ?」
「オレはそう思ってねえ。どうにも話を聞いてくれなさそうだぜ」
「……分かった。ボクも覚悟するよ」
そうこう話しているうちに、駅に到着した。
「ねえ尋賀。ボクがいたら邪魔だった?」
「ンな訳ねーよ。オレみたいな不良の親友だろーがてめえは」
「親友、か。ボクは昔、不良に絡まれたボクを助けてくれた君を……更生の余地がないと見放そうとした。そんなボクなのに君は親友だという」
「てめえを蹴ったりして傷つけた大バカ野郎だ。いつだって文句言ってくれよ」
「ううん。ボクがすべきことは謝ることだ。ごめん」
「一度聞いたからそりゃー終わった話だ。そんなに謝りたいならオレも謝らねーとな? すまねえ」
「いやいや、それも一度聞いたから」
「そっか。じゃあ終わった話をほじくり返すのはやめよーぜ。いつまでも終わらなくなる」
「……うん、そうだね」
「てめえは胸張って、前向いて明日の作戦考えりゃーいい」
「うん。任せてよ」
優作を見送り、尋賀は残る異世界人を探すために歩き始めた。




