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決意の騎士・後編

 尋賀はレーヴァテインを取り出し、美玲は弓を取り出す。

 尋賀が繰り出す重い攻撃の一撃一撃を美玲は弓で受け止める。

 道場の主を失い。

 今、この場所は二人だけの空間になる。

(ぼちぼち頃合いか)

 レーヴァテインの一撃が美玲が持っている弓を弾く。

「おらッ!」

「たあっ!」

 両者同時に拳繰り出し、拳は両者共に相手のほほにヒットする。

 交差する腕。

 そして、二人は同時に倒れた。

「……おい、騎士殿」

「……どうして?」

「バカだろ。わざと緩いパンチしたのに倒れる奴がいるかよ」

「そんなこと言ったら尋賀だって! 私のパンチで倒れるわけないじゃん!」

「けっ! 考えてること同じかよ」

「どうして同じになっちゃったんだろ?」

「どっちも勝つつもりねーからだ。オレがてめえを傷つけられるわけねーだろ」

 尋賀は胡坐をかく。

「一体、何のつもりで喧嘩売ったんだよ、てめーは」

 おかげで全く無駄な時間を過ごしたではないか。

 一体彼女は何のつもりだったのか。

「私は尋賀が最強だって、思いたかった」

 どういうことだろうか。

 今までの話と全く合点がいかない。

 まあ、元から話は合ってはいないのだが。

「でも尋賀は、ここのところずっと様子が変だった。たぶん、老中殿が亡くなったからだと……」

 老中殿。つまりは尋賀の師匠。

 確かにショックな出来事だった。

 でもまだ繋がらない。

 そのことが今回のことにどう関係してくるのか。

「だから。だから私は傷ついたフリをしてここに誘い込んだ」

 まさか。

 まさか、異世界の守護者の話は全て関係なかったのか。

「おい、騎士殿。それはどういうつもりで」

 今なら気が済んだことだろう。

 きっと話が分かる。

「私の騎士は妄想。そして演技。さっき、私が逃げ出したのはきっと尋賀が追ってくれると信じたから。だから私は傷ついた演技をして逃げた。私が異世界の守護者かどうかなんてどうでも良かった。本当に知りたかったのは弱気な発言をする尋賀だった。だからここに誘い込んだ。そうすれば尋賀から真実を聞ける。そう思って」

 今まで美玲に下がれだとか言っていたのは、彼女が傷つかぬため。

 これ以上大事な人間を傷つくのを見たくなかった。

 それだけなのだ。

「ジジィがあんなことになっちまった。だからてめえが同じことにならねーようにって思って言ってただけだっつーの。てめえは無茶しでかすからな」

 そうだ。

 彼女は無茶をしでかしてケガをしたではないか。

 尋賀が撒いた種。

 尋賀にお礼参りしに来た不良たちに挑んで。

 女であるにも関わらず、ボコボコにされて。

「そっかー。それでずっと尋賀は私に下がれって言ってたんだね」

 少し気恥ずかしいのか、尋賀はそっぽを向く。

「ったく。てめえはそれが聞きたいからこんな真似しでかしたのかよ」

 やっとわずかながらも話が繋がってきた。

 美玲の異世界の守護者は関係のない話で。

 その話で傷ついたフリをすれば尋賀を誘き寄せることができる。

 誘き寄せ、そこで尋賀が今まで美玲を突っぱねていた理由を聞く。

 そして、尋賀は間違いなく強いということを美玲が再認識する。

 それが真実か。

 そんなことのために、こんな茶番劇を繰り広げたわけだ。  

「だって私は尋賀を守りたくて。だって尋賀はあの時私を守ってくれて。だから私はいつだって騎士になる。騎士の演技をする。そうやって本物の騎士である尋賀に追いつこうって思ったんだ。……ちょっとやりすぎちゃうけど」

「なんだそりゃ?」

「私の知ってる本物の騎士は尋賀だけ。その騎士が弱くあってほしくなかった。だから……」

 あの時。美玲がグレゴワースの腕を弓で射た時の言葉。『尋賀が辛いものを背負うなら、私も背負う。だって私は……。だって尋賀は……』という言葉。

 その言葉の続きを彼女は答えているようだった。

 そんなことよりももっと重要なことを言っていなかったか。

「全部妄想だって、今まで自覚してたのかよ」

「あはは。流石に尋賀でも気づかないよね? 尋賀はいつだって私のことを侮ってるんだもん」

 侮ってはいない。

 単純にめんどくさいだけだ。

「ったく。あん時カの字を弓で怪我させたのも、オレを守るためかよ」 

「ああしないと尋賀を守れないから」

「余計なお世話だって言いたいところだが、助けてもらわねーとオレはこの場にいねえ。でも分かってるよな?」

「うん。私も尋賀と同じように傷つけた分の罪、背負うから」

「ちゃんと責任の一つくれぇーは持てよ? ま、あん時は殺される一歩手前だったから仕方ねーとは言えるけどな」

 結局のところ。

 話は終わった。

 もはや、異世界の守護者がどうという話が関係ないのであれば、もはや長居する必要はない。

(また今度……ジジィの墓の一つでも建てるか)

 どこかひっそりと墓の一つでも建てれば、亡くなった命は報われるだろうか。

 たぶん、尋賀がその存在を忘れなければ報われるのだろう。

「行くぞ、騎士殿。もう要件は終わりだろ……いや、もうひとつあったな」

 残されたもう一つ。

「明日……付いて来るか?」

 付いて来るなと突っぱねた明日の最後の作戦。

 二つの世界の内、片方が終焉を迎える日。

 尋賀はどことなく、明日は危険だと感じていた。

 『神託』が明日、世界の片方を潰そうとしている。

 こちらは両方の世界を救おうとしている。

 対立する二つの意見がある以上、どこかでぶつかり合うのは必至だろう。

 平穏無事に終わる保証がないどころか、双方の円満な話し合いがかなりきな臭くなっている。

 だから尋賀は、作戦に重要なナゲリーナと、自分の実力に自信がある自身以外は付いて来るなと言ったのだ。

 特に、美玲は付いてきてほしくなかった。

 美玲は。

 尋賀にとっての大事な存在だから。

「どーするよ?」

 尋賀にとって美玲は、自身のあり方を大きく変えてくれた人物だ。

 彼女の無茶や暴走が尋賀にとって他人が傷つくことをその身をもって教えてくれた。

 だから尋賀は、彼女を傷つけたくない。

 もう二度と同じように傷つく姿を見たくない。

 でも……明日の作戦の決行日。

 もしものことがあれば。

 そんなことを考えていた尋賀だったが、先ほどその考えは止めた。

 彼にとって、大事な親とも呼べる師匠の死。

 そのことが彼を消極的にさせていたのだ。

 傷つけたくなければ、危険な目に合わせないといい、と。

 でもそんなことよりももっと自分らしい考えがある。

 危険な場所に連れて行っても、自分が守ればいいのだ。

 怪我させなければいいのだ。

 単純なことだ。

 力さえあれば、そのようなことは容易だ。

 尋賀は今までそう言ってきたではないか。

 美玲にそのことを思い出させられた。

「もちろん」

 美玲にとって、尋賀は大事な人物だ。

 それは自身の妄想から、暴走から友人を失くし、そんな自分でも出来た新たな友人。

 そして、敵だと、悪人だと思っていた。

 でも、実際は坂巻尋賀は正義の人間で助けてくれた。

 その時、美玲には本物の正義の騎士に見えた。

 妄想なんかじゃない。誰かを守る強さを持った人間の姿が、確かにあったのだ。

 その時、美玲の偽りの騎士は消えた。

 自身が築き上げた騎士は所詮、偽物の妄想でしかない。

 でも目の前にいる、保健室まで連れてきてずっと目が覚めるまで見ていてくれた男こそ、本物の騎士だと。

 美玲は、その日から憧れている坂巻尋賀を超えることを決めた。

 どうすればいいか分からなかったが、とりあえず騎士っぽく今まで通り振舞った。

 妄想は好きだった。

 変なことを言っても尋賀と優作は受け入れてくれた。

 ある日、異世界からナゲリーナという子供と出会った。

 尋賀が連れてきたその子供は魔王を語った。

 異世界があると聞いた。

 魔物を見た。

 心が震えた。

 そして、尋賀が異世界に行くと言う話を優作から聞いた。

 尋賀が自分を鍛えなおすために異世界に行くように、美玲は尋賀のようになるために異世界に付いていった。

 美玲は、尋賀のようになりたかったのだ。

 強くて、誰かを守れる憧れの存在。

 憧れの騎士。

 だから、弓の努力をした。

 だから、弓だけではなく、様々な努力をした。

 だから、暴走する。……のは自身の調子の乗りやすい悪癖だが。

 それは誰かに意図して仕組まれたものではない。

 自分の意思で憧れに辿り着くためにやったことだ。

 祖父や両親は異世界の守護者としての使命を全うできる人材に育ったことを喜ぶだろう。

 自分には全く関係のない話だが。

 ただ、憧れの尋賀を。

 特別な存在の尋賀に追いつきたくて。

 そして尋賀は特別な存在であってほしくて。

「私も付いていく!」

 尋賀が最強であってほしい。

 いつまでも。

 その願いを持って、尋賀に挑んだ。

 尋賀が勝てば、尋賀は最強であり続ける。

「そーかよ。ンじゃ、他の奴らにも言ってくる。後でオレの家で作戦会議な」

 尋賀が出ていく。

「尋賀。私のライバル。私の憧れ。私の……一番の親友!」

 だから、いつまでも一緒に。

 信頼しあって、背中合わせの絆で。







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