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決意の騎士・前編

 山の地主の所に行くと言っていた尋賀だったが、彼が向かっていたのは全く別の所。美玲の家。

 だが、それは美玲を追ってではない。

 尋賀には知りたい真実があった。

 美玲に一言言うつもりはない。

 このまま放っておけば、彼女は明日の作戦に付いてこないだろう。

 いや、彼女の場合は無理矢理にでも付いてくるかもしれない。

 その時、尋賀は置いていくつもりでいる。

 彼女を危険な目に合わせたくない。

 相手の考えがどうにもきな臭くなっている。

 もしもがあったとき、その時彼女を守れるのか。

 それの解決策は、そもそも置いていけば安心できる。だからこそ、尋賀はナゲリーナ以外の全員を置いていくことに決めた。 

 今まで十分に危険な目にはあっているというのにも関わらず。

「さてと……わざとジジィはいっかな?」

 そんなこんなで美玲の家の前。

 尋賀の知りたい事実は、美玲と話すことではない。

 全てを知るためには美玲の祖父と会う必要があった。

 矢薙家の門扉をくぐり、誰の許可も得ずに敷地に勝手に入る。

 縁側に一人、せんべい座布団の上に座り、お茶を啜っている老人が一人。

「よぉー。随分と忙しそうにしてるな?」

 皮肉交じりに。そして、年上を全く敬う気がない口調。

 老人は尋賀の顔を見ると、表情を変える。

「おー、五十嵐さん。将棋の対局ですかな?」

「誰だ。五十嵐」

 腕まくりをしている。

 将棋の対局相手と勘違いしているのだろうか。

 尋賀はこの反応をわざとだと知っているが。

「ぬっ! 美玲! 買い物は終わったか!?」

「オレ、騎士殿じゃねーよ。男だろーが」

「はやく家の家業を継ぐんだぞ!」

「継がねーよ。もっとも継ぐ必要がなくなるかもなぁ?」

 話が通じてない。

 それでも互いに態度を変えない。

「小林さん、まさか美玲を引き抜くつもりじゃ……?」

「誰だよ、小林。引き抜きでも何でもねーよ。美玲に何させるつもりかは知らねー。コネクターズカオス現象になんか関係のあることさせるんだろ?」

「……コネコネなんて知らん」

「すっとぼけんな。ジジィ……オレの師匠はてめえのこと知ってんだ。弓の名手だとさ。てめえが異世界とどう関連してるかは知らねえし、関連付けるにしてもちっと強引だ。でもおかしーンだよ」

 それは例え、この町では個人情報を書き換えるのが容易だとしても。

 例えどうあがいても異世界のことは人々に知られてしまう。

「ずっとこの町は異世界と繋がりっぱなしじゃねーのか? そんで異世界からやってくる人間や魔物、それから逆に異世界に行っちまう人間がいるんじゃねーのかって。現に魔物がこっちの世界に来たり、オレなんかも異世界に行った。でも向こうの世界もこっちの世界も互いの世界のことを全く知らねえ。でもそれはあり得ねえ」

「よく分からん。分からんがあり得るのではないか」

「おうとも。あるにはあるぜ? 例えば、異世界に行った者を連れ戻したりだとか、山の土地の所有者を作って、不法侵入禁止にしたりとか、魔物や異世界人を追い返したりだとか。一時的にこの町の住人ってことにも出来るよな? 最悪の場合口封じか」

「…………」

「異世界に行っても来てもすぐに引き返したり、生涯口外できねぇーようにすりゃー互いのことはちっとしか伝わらねえ。こんだけ言えば十分か? そんなことジジィ一人でできるわけねぇー。どっかの誰かがそんなことしてる協力者がいる」

 これだけ言えばわざとすっとぼけているのも止めるだろう。

 一人でずっと異世界と繋がってる山を監視できるわけがない。

 だから監視役などの協力者がいる。

 協力者ならば、山に狩りの名目で入る関係者。

 それが、美玲の祖父だと尋賀が考えたわけだ。

 尋賀の考え通り、お茶を一気に煽ると、真剣な眼差しで尋賀を見つめてくる。

「お前が山に行って魔物退治をすることになった時、わしは焦った」

「ちゃんと全部思い出せるか? そん時てめえは山の地主と話していたよな?」

 煽る尋賀。

「だが、お前はあの方の弟子だ。だからお前も異世界の守護者だと思っていた」

「へへ。生憎、ンな単語初めて聞いたぜ」

「そう。そしてお前は異世界人をこちらの世界に連れてくる始末。ナゲリーナという子供だったな」

「しゃーねーよ。オレ、異世界に行くなんて思ってねーし。魔王様は勝手に付いてくるし」

「我々一族はあの方の指示に従い、異世界とこの世界の両方が決して交わらぬようにすること。そのために存在していた。だがあの子供は異世界における最高研究者らしい。我々が危惧していた『異世界の物をこちらに持ち込む行為』を犯していた」

「しゃーね。こっちとら意図してなかったんだ」

「幸いにも異世界の存在や異世界の技術がこちらの世界に広がることはなかった。そして、子供と美玲が異世界に行くと言った時……わしは歓喜した」

 どうにも話がきな臭く感じる。

 だが尋賀は話を中断させるわけにはいかない。

 例え、それがどのような結末に繋がっていても。

「わしが、美玲をそそのかした。きゃつが好きな騎士の話も織り交ぜて」

「……騎士殿は自分の意思で異世界に行く気じゃなかったのかよ」

「もちろん、眼鏡の若造も異世界の話をしていた。あの若造も異世界へと行くお前が心配だったようだからな」

 きっと美玲ならば、簡単にコンロトロールできるだろう。

 あの山は異世界に通じていて、異世界では騎士団が活躍してるとでも言えば。

「そして騎士殿は異世界に行く気満々になったってわけか」

「異世界で永遠と暮らせば我々の目的は達成だ」

「……ちょい待て」

 今、不自然な気がした尋賀は止めずにはいられなかった。

「つーことはあれか? オレ達を一生異世界で暮らさせる気だったてわけか?」

「その通りだ」

「おかしな話もあったもんだぜ。オレ達が異世界に行ったら、てめえらの『異世界とこの世界が交わらないように』って話が矛盾しちまう。オレ達がこの世界の技術を教え込むこともできるし、この世界の知識も教えることができる。そんな連中をほっといてどーする気だ?」

「わしは知っていた。コネクターズカオス現象はもうじき異世界の消滅で終わると。だからあえて無視することにわしの独断で決めた」

「……そーすりゃ、オレ達は勝手に死んでくれるもんな! こいつはお笑い種だぜ。自分の孫すら見捨てるなんざぁー」

 美玲が見殺しにされていた。

 その真実を知った尋賀は、どうにも負の感情が込み上げてくる。

「あの方は異世界に行った弟子は帰ってくると思っていたようだが、わしは好都合だと思った」

「何が好都合だぁ? 言ってみろよ」

 尋賀の声音がどんどん冷たく、暗く、攻撃的なものに変化していく。

「美玲は異世界の守護者としての使命を全うできる。そして異世界を知るものを皆殺しにできれば初めての任務は達成。あの子は我が家の誇りになるだろう」

 老人相手に怒りを露わにするのも気が引けるのだろうか。

 尋賀は冷静に冷たく話を整理する。

「つまりだ。騎士殿は異世界の守護者で、異世界でもたもたしている間にオレ達は世界の消滅で死亡ってわけか」

「そうだ」

「随分と笑わせてくれる話じゃねーか。あんまりにもおかしくてどうにかなっちまいそうだ」

 目的のために自身の孫娘を捨て駒にしようとした。

 とんでもないお年寄りだ。

「……あの子には申し訳のないことをした」

「どの口が言いやがる」

「あの子が友達と騎士ごっこを始めた時、そしてきゃつの妄想が激しくなった時、わしもあの子の親もそれを止めようとしなかった。むしろ、それを利用すれば彼女の異世界の守護者としての役割を果たしやすくなる。そう思っていた」

「おかげさまで騎士殿はすげー妄想好きになっちまいやがった」

「でもあの子は半端にそれを克服した。だから我々は焦った。異世界の守護者として、時には暗殺をせねばならぬ時もある。そんなものを受け入れられる者は少ない。だから何としてもあの子には異世界の守護者としての使命を、と思った」

「そんでてめえはジジィから異世界がもうじきなくなるって話を聞いたってか」

「だからあの子には最後の仕事を全うさせようとした」

「けっ! 何をどう謝ってもてめえは許されることはねえ。そんなことを思い続ける限りな」

 なあ、騎士殿。

 尋賀の一言で隠れていた美玲が現れた。

「……美玲。買い物はどうした」

「……今の話はなんなのだ、おじいさま」

「お茶が切れてしまって」

「とぼける気か!? 何のために私に弓の技術を教えていた! 狩りのためではなかったのか!?」

「……そう、狩りのため。動物を狩る表向きの仕事と、異世界の秘密を守るための狩りをするための裏向きの仕事のために」

 それを聞いた美玲は、飛び出した。

「おい、待て、騎士殿!」

「追いかけてくれ……頼む……わしはあの子に何も言うことは出来ない」

 老人は縋りつくように訴える。

 ひどいことを言ったのは自分であるにも関わらず。

 そんな話は虫が良すぎる。

 しかも、反省の色が見えているのか見えていないのかはっきりとしない。

「てめえがあのバカにひどいことしてたって自覚あンのなら、何千回でも頭下げやがれ! それが育ての親ってモンだろーが!」

 ちっと舌打ちをする。

 それでも尋賀は彼女の後を追わねばならない。


「どーしてここに……」

 少し、美玲の家を出るのが遅すぎた。

 彼女を何とか追って追いかけて、見失ったら町歩く人に聞いて。

 やっとのことでたどり着いた先は、尋賀の師匠の道場。

 こんなところに何の用が?

 そう思う尋賀だが、間違いなく美玲の気配がする。

 道場の中にゆっくり入る。

 中では美玲が、弓を持って、待ち構えていた。

「こんなところでどーしたんだよ騎士殿。つーか、弓まで持ってきやがって」

 家から飛び出す際に弓と矢、両方を持ってきたのだろうか。

「尋賀。あの話は?」

 あの話。つまりは尋賀と美玲の祖父との話だ。

 彼女は演技口調を止めて、尋賀に問う。

「あー、喜べよ騎士殿。てめえは異世界の守護者なんだとよ」

 良かったな。そんな大層な役割があって。

 そう軽く言う尋賀に、美玲は少しも嬉しそうな表情を見せない。

「……私はそんな役割ほしくないよ。私は騎士なのに、皆を守る、騎士なのに」

「いい加減、妄想はやめとけ騎士殿」

「……妄想なんかじゃない」

「てめえのじいさんが言ってたろ。ちょうどいいやってさ。だから家の中でも色々吹き込まれたんだろ? かっこいい漫画買い与えたりだとか。変な風に騎士について教えられたりだとか。仕組まれてたんだよ、全部」

「妄想なんかじゃ……ない!」

 何を言い出すのか。

 それでも簡単に彼女の妄想は治らないというのか。

「私のこれは……妄想なんかじゃない……そうじゃない。あの時……」

「いい加減にしとけよ、騎士殿。いーじゃねーか、ここらで騎士を卒業しようぜ」

 軽く、そう言った尋賀の白髪を、美玲の弓矢が掠めた。

「何のつもりだぁ? 騎士殿」

「私の騎士は、妄想なのではない! よもや貴様の口から何度も府抜けた言葉を聞くことになるとは!」

「府抜けだー? てめえにそんなこと言われる筋合いはねーよ」

「府抜けている! 貴様は……尋賀は……どうして私を必要ないみたいに言うんだよ!」

 美玲の演技口調が取れた。

 ならば、また何かあるのだろう。

「尋賀! どうしてそんなに弱気なの!? あの騎士団長の時もそう! 私にすっこんでろって! 今日もそう! あの生徒を助けるのに私に待てって言うし! 明日だって、私を置いていこうとするし!」」

 何か話がズレてはいないか。

 尋賀がどうこうの話ではなく、美玲が信じていた妄想が仕組まれた偽りだったという話ではなかったのか。

 しかも考え方を変えれば美玲は異世界の守護者という特別な存在だ。

 それこそまさしく美玲が求めていたものではないのか。

 なぜ、騎士にこだわる。

 なぜ、尋賀にこだわる。

 なぜ、彼女は気に入らない。

 なぜ、このような行動をしている。

 騎士でなければ嫌だからか。尋賀は倒したい相手だからか。腹を立てているのは騎士という妄想は両親や祖父が進んで大きくしていったものだと知ったからではないのか。そして、真実を知って捨て駒になったからこそ、美玲は腹を立てているのではないのか。

 関連性が全く見当たらない。

 行動も言動の意図も分からない。

 尋賀が考えても、それを遥かに超越してぶっとんだ考え方。それが矢薙美玲。

「騎士殿。とりあえず落ち着いて、てめえのジジィのところに戻ろうぜ? な?」

 どう返答してくるのだろう。

 きっと、尋賀の思いもよらない返答が待っているのだろう。

「決闘だ……! 私と決闘するのだ! 一対一で、この場で!」

 尋賀の思った通り、案の定そのような返答が戻ってきた。

 どうして、自身が親や祖父から捨て駒にされたら、尋賀との決闘に繋がるのだろうか。

 関連性を見いだせない。

「決闘は全てのことが片付いてからって話だろーが。忘れちまったか?」

 そうだ。異世界で約束したことだ。

 でも尋賀はその約束を果たすつもりはなかった。

「ダメだ! でなければ私は……私は……納得できない!」

 ……何を?

 尋賀も何も納得できない。

「あー……分ぁーたよ。喧嘩すりゃーいいんだろ?」

「その通りだ! あの時の続きだ!」

「……あの時の果たせなかった決闘ってか?」

 あの時。

 尋賀と美玲が出会った次の日、保健室。

 尋賀と美玲。

 二人が変わった日。

「あン時は確か、オレが勝ったらてめえは死ねって話だっけか。バカなこと言ってたな、オレ」

「あの時の私は貴様に……尋賀に変わってほしいって願った。もっと素直になってほしいから」

 尋賀はやれやれと言いながら頭を掻く。

 結局、彼女が何をしたいのか分からない。

「ま、いっか」

 それで気が済むというのならば、とことん暴れさせればいい。

 それだけの話だ。

「勝負だよ! 尋賀!」

「いいぜ? オレに喧嘩売ったんだ。覚悟はできてるんだろーな? 美玲!」












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