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決闘

矢薙 美玲は妄想ばかりに生きる女性である。自身を騎士だと言い張り騎士はなんたるかを常に口にする。

彼女の性格に学校では多くの人から距離を置かれ孤立するのは時間の問題だった。

口を開けば騎士、騎士団の尊大な設定。またある時は魔法の設定や世界の設定を周囲に語った。

そして、彼女の祖父が狩りと弓の名手ということがさらに災いした。彼女は祖父から教えてもらった弓術を騎士団の戦闘術だと言い張り彼女の妄想はさらに加速して行った。さらに弓術をもっと実戦向きにと言い、独学で弓術を昇華させていった。


だがある時、学校で坂巻 尋賀と天城 優作に出会う。彼女は、白髪頭かつ不良で多くの生徒から悪い噂しか聞かない尋賀を始めて見た時はどこか恐ろしさを抱くも、そんな彼への評価がある時ガラリと変わる。


彼女は学校裏でカツアゲ現場を偶然目撃してしまった時、彼女は騎士としての自身の正義のために首を突っ込む。

他校の生徒なのか見慣れぬ制服を着た数人の不良の男達に立ち向かおうとする。その時は武器を持っていなかったために素手で挑まなければならなかった。いや、武器があっても女一人で数人の不良の男相手に勝てる見込みなどほとんどなかった。

彼女は虚勢で大きな声で名乗りを挙げる。数人の不良達は笑っていたが、すぐに笑い声が聞こえなくなった。

空から白髪の男が降ってきた、いや、飛び降りてきたからだ。白髪の男、不良だと恐れられていた坂巻 尋賀が美玲の声を聞いて、三階の窓から飛び降りて助けに来たのだ。

圧倒的強さで不良達を全滅させた尋賀を見て、美玲は本物の騎士を見たような気がした。


それからというもの、彼女は尋賀と優作の友人となり、彼女は何かと言うと理由をつけては喧嘩を売るようになった。

尋賀を超えるために、尋賀を自分の言う騎士団に入れるために。尋賀を超えることが本物の騎士になれると信じて。

そして現在。


「たぁっ!!」


美玲は掛け声と同時に矢を放たず弓で直接殴りかかる。

弓と言うよりは、メリケンサックやその辺りの殴る武器のように扱う美玲に対し、尋賀は弓を鉄パイプで受け止める。


「なあ、やめにしてくんない? オレ、今日は疲れてるんだけど」

「なら好都合! 今日こそ私の勝利だ!」


つば迫り合いになっている弓と鉄パイプ。

そんな状態であるのにも関わらず、空いた手で美玲は矢をセットする。


「なあ。この近距離で弓矢、放たれた日にゃーオレ、死んじまうんだけどな」

「ふっ、ならばその余裕気な表情をやめればいい」


弓を引き絞り、そして放つ。


「うおっ! マジで放ちやがった!」


鉄パイプで弓の角度を変えられ、放たれた矢は虚空へと飛んでいく。

やがて、矢は更地の土地の地面に突き刺さる。


「ふっ、私は貴様が躱す事を信じていたぞ!」


弓を両手で持ち、美玲は振り下ろす。

弓の角は尋賀の頭を目掛けて落ちてくる。

が、尋賀は頭を下げ、美玲の手首を掴む。


「うるせえよ。どこの世界に殺すつもりなしで人に向かって弓矢を放つ奴がいるんだよ」


尋賀は掴んだ腕をすぐに離し、大きくバックステップをして距離をとる。


「おかしいな、私は殺すつもりで弓を射たつもりだが」


再び美玲は背中から弓矢を取り出す。


「次は外さんぞ! どうせ貴様は殺したって死なない!」

「どういう根拠だっつーの。オレ、ゴキブリじゃねーんだけど」


美玲は、美玲の祖父から教わった弓術を近接戦闘でも戦えるようにと自己流で弓での殴打を加えた自称、格闘弓術で尋賀を追い込む。

友人相手に攻撃をするわけにもいかず、尋賀は防御の姿勢を続けるしかなかった。


「さあ、次だ!」


美玲は尋賀に詰め寄る。

足を踏み込み、弓を横薙ぎに振るう。

尋賀は鉄パイプで受け止めようと防御の姿勢をとるが、弓は虚空を切り裂いた。


(フェイントかよ!?)


尋賀がそう気付いたのも束の間、彼女は弓を振った反動を利用して背中を向ける。


「騎士団奥義!」


その掛け声とともに背中を向けたまま弓を引き絞り、矢を放つ。

一瞬の出来事だった。


「ちっ!」


放たれた弓矢は尋賀の顔を掠りかける。

咄嗟に躱そうとした尋賀は、足を滑らせ、尻餅をついた。


「ふっ。勝負あったな。何か言い残す事はないか?」


動けぬ尋賀の眉間に、弓を引き絞り、鏃を向ける。


「……オレの血でお前の制服、汚してやるぜ。洗濯しても落ちねーくらい大量にな」


尋賀が言ったのは、事実上の敗北宣言だった。


「……勝った? 私、勝てた……? 本気の坂巻 尋賀に……?」


弓矢を放たず、美玲は弓矢を地面に置く。

始めは驚いた表情をしていた美玲は、やがて歓喜の表情に変わる。


「やった! やった! やった! 勝った! 私、勝ったよ!」

「……ちっ」


突然、大はしゃぎで喜ぶ美玲に対して尋賀は小さく舌打ちするだけだった。

尋賀の舌打ちが美玲に聞こえたのか、すぐにいつもの調子に戻る。


「おっと、少々取り乱してしまった。今回の勝負、私の勝利でいいな?」

「その気になればオレ、死んでたしそれでいいんじゃねえの? よかったな、おめでとさん」


尋賀はそっぽを向いて答える。

その答えを聞いた美玲は笑顔でガッツポーズをする。

反対に尋賀が悔しそうな顔をしていると、道場から出てきた師匠が尋賀の元に歩み寄ってきた。


「今のは完全とは言えなくもないものの無様な敗北じゃのう」

「ジジィ、オレ達の喧嘩、最初から見てたろ。ありゃあ完全なオレの敗北だって。全く、マジで殺されると思っちまったぜ」


師匠は顎に手を当てる。


「そうは言うてもお主はあの者に一切攻撃をしておらん。そうなれば終わりのない戦いになって、いつかはお主が負けるじゃろうて」

「んな事言ってもあいつのスタミナを削ってこれまで何度も勝ってたから今回もそれで勝てるって思ってたんだよ。それに、あいつの弓、見たろ?」

「うむ。相当な訓練を積んだように見える」


一心不乱に喜び続ける美玲を指さし、尋賀は答える。


「あいつの弓、触らしてもらった事あるんだけどよ、あの弦、相当重てぇんだわ。射るためにすげえ力加えて、引き絞らなきゃなんねーのに、あいつは一瞬で放ちやがった。それも背中向けてながら変な姿勢でな」

「何度も何度も弓の練習をしたんじゃろうな。早く射る練習と弓を振り回しながら弓を射る練習を繰り返したんじゃろ。何時間も何千回もな」

「妄想だけでそこまでやるなんざーマジで変わってるよあいつは。殺したいほど憎いやつでもいるのかねえ?」

「何を言うておる。あやつはお主と違って夢に生きているだけじゃって」


尋賀がちげえねーやと呟く。

まるで尋賀には殺したい憎い人間がいるかのように聞こえる二人の会話。

そんな折、一人ではしゃいでいた美玲はこちらに振り返り、尋賀の師匠がいる事に気づく。


「おお、老中殿! 私の活躍、見ておりましたか?」


師匠は頷く。


「うむ、我流と既存の弓術をよく独学で混ぜ合わす事ができたのう。住む世界が違えばきっと功績を残せるじゃろう」

「はっ! 必ずや私は、誰からも憧れる騎士になってみせます!」


美玲は敬礼する。

尋賀は小さな声で、老中って意味分かって言ってるのかよ、と呟くが誰も聞いてはいない。

師匠は二人に対して背を向ける。


「それじゃあのう、若き騎士に尋賀。次に会うときまでに両者共に己を磨くのじゃ」


師匠はそうとだけ言って、道場の中に入って行く。


「さあてと、オレ達も帰るかな」


尋賀は自身の家の方角に向かって歩き出そうとする。

そんな尋賀の肩を美玲が掴む。


「待つのだ! これから騎士団の……そう、爵位贈呈式を貴様の家で行うぞ!」

「誰の爵位だよ、誰の」

「騎士団に所属する者は皆、形式上だけでも爵位贈呈式に参加しなければならないのだ」

「なんでおめえのその場で考えた妄想に付き合わされないといけねーんだ?

オレ、今日はショックで寝込みたいんだけど」


尋賀はそう言うが、表情は何一つ変わっていない。


「全然そうは見えぬぞ! とにかく貴様の家で爵位贈呈式を行う! 栄光ある新人の入団に欠かせないのだ!」


大きな声を挙げる美玲に尋賀はため息を吐く。


「あっそ。そんで本当のところは?」

「家に誰もいないから暇なのだ!」

「それが本音かよ……」


どうでもよくなった彼は、好きにしろと言うと再び歩き始める。

美玲は尋賀の隣を歩き、尋賀の暮らすアパートに着くまで永遠と騎士の設定を語り続けた。


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