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最後の日常・終焉編

「うう……やっと終わったの……」

 うめき声に似た声を漏らすルシェール。と、同時に一斉に彼女は注目される。

 マントを着た外国出身の女生徒。注目されない要素などあるのだろうか。もちろん悪い意味でだが。

「授業中ずっと寝てやがった奴が何言ってんだ?」

「そんなこと言ってもサカマキも聞いてなかったの!」

「三時間目、問4!」

「仕事量は0。折角荷物を持ち上げて移動しても、下ろしたら仕事してねえ扱いだろ?」

 突然の優作の問題に、迷いもせずにすらすら答える。

「この通り、尋賀は授業の態度は最悪だけど話はちゃんと聞いてるんだよ」

「……何を言ってるかさっぱりなの。仕事したらどーして0になるの?」

「それは、上に持ち上げたという仕事がプラス、下ろした時の仕事がマイナスになるからだよ。計算すると合計が0になるんだ」

「……意味が分からないの!」

「また今度、基礎から教えるよ」

 尋賀は気の毒そうにルシェールを見つめる。

 優作の教える勉強は手厳しい。

 内容は分かりやすいのだが、本人が容赦しないのだ。

「そんじゃ、飯でも食いにいこーぜ?」

「うむ! ならば準備しよう」

 昼休憩、一つの苦労が過ぎた後の食事は大層旨いのだろう。

 尋賀は、購買部にでも行って簡単な物を買ってこようとしたが、それよりも出鼻を折られた。

「騎士殿、そいつぁ……」

「む? 鍋だが?」

「ちげーよ。ンなもん持ってきてどーするつもりかって聞いてんだよ」

 呆れしか出てこない。

 土鍋を鞄から取り出した日には。

「折角なので、ルシェールや魔王、ナゲリーナにこの世界の料理を振舞ってみたくてな」

「だったら弁当作ってこい」

 今更ながらも、彼女のテンションはかなり高い。

 もう誰にも止めようがないくらいに。

「ねえ美玲。そんなもの持ってきてどうするのさ」

「うむ。この矢薙美玲に抜かりはないぞ! 私の炎魔法があるのでな!」

 カセットコンロでも取り出すつもりか。

 そう思った尋賀だが、答えはもっとひどかった。

「ライター持って来ないでよ」

「バカッ! 放火する気か!」

 ガスを使う炎魔法は間違いなかったが、予想よりもひどかった。

「……ならばナゲリーナの炎魔法を使おう! もしくは自力でも起こせるが」

「起こすなって。一緒だ、ンなモン」

 アレもダメ、コレもダメ。

 言われ続けた美玲はどうにも納得いかないようでふくれっ面だ。

「ちぇー。この材料どうしようかな?」

 そう言って鞄から取り出すは野菜類。

 そんなものをどうして鞄の中に入れておくのか、どうしてそんなものが入っているのか、そもそも授業で使う教材はどうしたのか。

 疑問は尽きないが、一言言えるのは今日の彼女は授業を受ける気が全くなかったということだけだ。

「あーもう。今日、焼却炉でゴミを処分するらしいから、鍋の許可貰って来るよ」

 恐らくはこの鍋料理がなければ美玲は食べるものがないのだろう。

 生で野菜類を食べるのは気が引けるし、それに腐らせるのも勿体無い。

 鞄の中に入れているという時点でかなり怪しくもあるが、処理しなければならない物に違いない。

「はぁ……行ってきます」

 優作は今から言い訳を考えるのだろう。

 多分、何を言っても無駄なような気がするのか、尋賀は知らんぷりである。

 通ったとしても恐らくは今日だけ例外だとか言われるのだろう。

 そもそも、学校の焼却炉で鍋料理するなどと言うのがどうにかしているのだから。前代未聞だとか言われるのだろう。

 トボトボ歩いて行く優作に、尋賀は何も言えなかった。


ーーー


「さてと、とっととバカなことしに行くぞ」

 尋賀が先導し、ついでに煽る。

 バカなこと、つまり学校での鍋料理だが、彼も食べることに関しては乗り気だった。

 ちなみに、そんなことを知らない異世界人二人はナイフとフォークを持たされている。

「お腹空いたの」

「異世界の料理……興味がある」

 などと人の気を知らず、好き勝手に言う二人。

 ナゲリーナは待ちきれないようでフォークを口の中で咥えている。

「やめとけ魔王様。意地きたねえ真似すんじゃねえ」

「……尋賀も意地汚い」

「言ってくれるねぇ」

 だが、尋賀の言葉で咄嗟にフォークを離した。

「んじゃ、焼却炉なんだけど……」

 尋賀は窓の外から焼却炉を見る。

 その場所はかつて、美玲と不良たちが一悶着あった場所だ。

 以前、事件があった時と変わらず、死角になっている。

「あーあ。どーして面倒くせえことは連続すんのかねぇ?」

 以前と同じように、見知らぬ女子生徒一人に複数人の男子生徒が寄っていた。

「むっ!? どうしたのだ、坂巻尋賀よ!」

「ん? ちょいと面倒ごとがあってな」

 美玲も気付く。

「なっ!? 待っていろ、この正義の騎士矢薙美玲が助けに参るぞ!」

「騎士殿。てめえが苦労する必要はねえ。ちーっと待ってろ」

「むっ!?」

 待てと言われて、美玲は気に入らないようだが、彼女が文句を言う前に尋賀は窓から飛び降りていた。

 前回、三階の窓から飛び降りた際は、木製の棍棒を使って速度を落とし、着地していた。

 今度はレーヴァテインを布の中に入れながら、校舎の壁で摩擦を起こし減速。

 前回と同じように無事に着地できた。

「なっ……!?」

 男子生徒達はかつての不良達のように驚く。無理もない。

 空から人間が降ってくるなど、予測できるものはいるまい。

 美玲なら妄想で考えていそうだが。

「よぉー。何楽しいことやってんの? オレ様も混ぜてほしんだけど」

 冗談を言いながら、すぐに状況を分析する。

 女子生徒は暗くて地味な印象を与える。

 男子生徒、その内一人は写真を手に持っている。

「ふーん、なるほど……」

 尋賀にはそれだけで状況を見通せたようだ。

「あ、あの白髪は……」

「坂巻尋賀だ! 不良の!」

 尋賀の悪名は男子生徒達に広まっているようで、皆が顔色を悪くしている。

「なあ、その写真、オレに貸してくれよ」

 男子生徒達は一目散に逃げようとする。

 だが、それよりも先に尋賀は回り込んだ。

「話聞いてたか? その写真貸してくれよ」

 観念したようで、写真を持っていた男子生徒は震えながら渡す。

 その間、他の男子生徒もただ震えることしかできなかった。

「ふーん。いい写真じゃねえか。ぜひ、バックアップも一緒に貸してくれねーか?」

 さらに脅すように「なあ」と言うと、男子生徒は何度も何度も頷いた。

「よーし、ちゃんと貸してくれよ? じゃーな」

 そうとだけ言うと、再び男子生徒達は一目散に逃げだした。

 残された女子生徒は地面の上で膝をつく。

「……騎士殿、ライター」

「むっ? どうするのだ、坂巻尋賀よ」

「鍋するんだろ?」

「その通りだが……」

「ちょいと貸してくれよ」

 尋賀が投げるようにと手招きすると、彼女はライターを三階から投げ、尋賀はそれをキャッチ。

 ライターを数回カチッ、カチッと言わせると火を点けた。

 火をゆっくりと写真へと近づける。

「っと、手が滑っちまった」

 写真を燃やした。ライターを受け取っておきながら、手が滑ったはないだろう。

 炎が尋賀の手を焼こうと迫ったところで手放す。

 炎は消え、残されたのは原型を留めぬ焦げ炭のみ。

「どうして……?」

「ん?」

 助けた少女が一人、そのようなことを呟く。

 尋賀はその続きを待っているが、中々言葉は紡がれない。

 喋るのが得意ではないのだろう。

「ほら、立てるか?」

 尋賀が手を差し伸べるが、その手を握ることはない。

 ならばと、尋賀の方から座り込んだ。

「全く、世の中にゃーひでえ奴ばっかだよな。オレみたいにさ」

「…………」

「つれぇーんだろ? てめえは良く耐えた」

 尋賀が見た写真。それは目の前の少女が商品棚の物を鞄に入れている写真だった。

 恐らくそれをネタに脅されていたのだろう。

「何かあったらオレの所に言いに来い。何でもいい。何でも聞いてやる」

 少女は何も言わずに走り出した。

 その少女と優作が入れ違いになる。

「……? どうしたの、尋賀?」

「何でもねえ」

「坂巻尋賀が先ほどの者を助けたのだ!」

「言いやがった」

 三階から美玲が真相をぶちまけた。

「……なるほど。そうやっていれば尋賀を理解してくれる人がいっぱいできるさ」

 優作は状況を飲み込んだようだ。

「君が悪人じゃないって」

「そーだな。ま、オレみてえな不良を理解する稀有な奴らはバカばっかだけどな」

「ひどいよ、尋賀」

 その稀有な連中が全員集合した。

 これから焼却炉を使って鍋パーティである。


ーーー

 鍋パーティは問題なく行われた。鍋パーティ自体が問題だが、苦労して許可はゲットしてある。

 まな板と包丁まで用意していた美玲がその場で調理し、尋賀が騎士殿改め武士殿と言えば美玲が暴れ出す。フォークと箸がそれぞれ獲物の奪うために乱闘し、そのまま一部の人間はタックルまでして奪い合う始末。

 これが問題ないと言えるのは、すでにその光景が基本だからである。

 かくして、焼却炉でゴミを燃やしつつ鍋パーティをするという学校からしてみれば前代未聞の出来事は無事に終了し、午後の授業に入る。

 ……のだが、授業が終わったと思っていたルシェールはだらけ、授業開始前に教科書を全て読み終わっていたナゲリーナだったが、話を聞きつつ教科書をまた凄い勢いで読んでいく。もはや何回読み返しているか分からない。

 そのせいで美玲の教科書はどんどん痛んでいくが、当の本人はノートに新たな設定を書き込んでいくことに夢中で、全然気にしていない。

 尋賀は話を聞いているだけ。

 一体、ここに何しに来ているのかと、問いたくなる優作。

 しかし、彼にはもう分かっていることなのだ。

 この面子で真面目な態度で授業を受けるのは自分だけだと。

 彼は密集した席の中、一人真面目に授業の内容をせっせとノートに書いていた。


 やがて授業は終了し、放課後になる。

 初めての授業を体験したナゲリーナは満足そうだが、ルシェールは全くの真逆で面白くなさそうだ。

「さてと。そんじゃーオレは出かけるとするか」

「出かけるってどこに?」

「山の地主。金、貰ってねえから」

「でも、それは……」

「確認も兼ねて行ってくる」

 尋賀が歩き出そうとした時、美玲やルシェール、ナゲリーナまでもがついて来ようとする。

「一人で行くからてめえらはついてくんな」

 ええ!? という不満げな声をする者もいるが、尋賀は無視する。

「そうだ、一人で、で思い出したんだがよぉ。明日は魔王様以外ついてくんな」

 突然何を言い出すのか。

 明日……世界を救うという話の最終日ではないか。

「ちょっと待ってよ!? ここまで一緒に来たのに、最後まで一緒にいるのはダメってどういうことさ!?」

「どういうこともねえ。どーもボケ神様がきなくせぇ。神様に意見しようってんだ。実力のねえ奴が居たらオレでも守れねえっての」

「危険な眼なら何度も合ってるよ!」

「だから今回も大丈夫ってか? 運が良かっただけだろ」

「待つのだ! 坂巻尋賀!」

 やはりとでも言うべきか、彼女は、矢薙美玲は黙っていない。

「騎士殿。てめえも留守番な」

「断る! この間から貴様は……!?」

「オレが……どーしたんだ?」

 美玲は言いにくそうに、口元を歪める。

 続きを聞くため、尋賀は待つ。

 しばらくすると、美玲はやっと口を開く。

「貴様は、このところ変だ」

「てめえに変って言われたらオレもお終いかねぇ?」

「……もういい!」

 美玲は教室を出て行く。

 その背中を尋賀は追わない。

「尋賀?」

「あん?」

「追いかけないと」

 ナゲリーナは美玲のことが心配のようで、尋賀のカッターシャツを引っ張り、追うように促している。

 でも、首を横に振る。

「いいんだよ。放っといても」

「でも……美玲は怒る」

「どーせ、これから顔を合わせることになるんじゃねーか?」

「……?」

 どういうことなのか。

 優作やナゲリーナは考えているが、肝心の解答は返ってこない。

「てめえらも解散。そんじゃ、学校登校前に二つ、世界でも救ってこようか」

「尋賀……明日は学校の創立記念日なんだけど」

 優作には都合よく、皆勤賞は狙えそうだ。

 だが、そんなことが重要なのではない。

 なのにそんな言葉しか出なかったのだろうか。

 尋賀もまた、教室から出て行く。







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