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休みの終わり

「一体、ここで何が起きてるってんだ」


尋賀の疑問は誰にも答えられそうにない。


「それは……ボクも分からない。ナゲリーナは何か知ってる?」

「……わたしも。『神託』と同じ、神と呼ばれる者は異世界の……それも尋賀達の世界ともわたし達の世界とも違う世界の者……らしい」


ナゲリーナは消えた山があった場所、そこにゆっくりと手を伸ばす。


「どう? 何か分かる?」


優作が聞き、ナゲリーナはただ黙って首を振って、答える。

優作も同じように手を伸ばす。


「これは……?」


彼はパントマイムのように、手を動かす。

いや、本当に見えない壁のようなものがあるのだろう。

尋賀はその光景を腕組みして見ている。


「恐らくはこれも魔法の一種かと。詳細は不明だが」

「ふーん。見えなくして、壁作るだけの魔法ってか。神ってのは面倒な奴らってのは分かったぜ」

「油断はしないほうがいい。使用する魔法はわたしのものとは桁違い。あと、詳細は不明」

「例えば、記憶を改竄かいざんするとかか?」

「分からない……『神託』達が持つ力は、完全に異世界のもの。どんな力を持つのか、全く予測が出来ない。詳細は不明としか……」

「へっ! やりたい放題好き勝手できるんじゃねーの?」

「わたしはそうだと昔から思っている。詳細は不明だが」


尋賀ももとよりそれくらいは覚悟していた。

町から人の姿を消し、記憶を改竄し、山の姿を消し去る。

友情の証と呼ばれた剣も、元はといえば異世界の物だ。

これほど色々やってのける。

ならば、もはや出来ないことはないと割り切ってしまう方が早いかもしれない。

詳細は不明だとナゲリーナは連呼しているし、それでいいのかもしれない。


「一体、なんだと言うのだ? あの者達は……?」

「山がなくなってしまいましたわ」


グレゴワース夫妻もまた、困惑しているようだ。

異世界人と言えども、尋賀達ほど非日常に触れていないのだろう。


「気にすんな。オレ達がめんどーな連中に関わっちまった。そんだけだ」

「……その者達は一体なぜ我々の部隊を連れ去った? 異世界侵攻の罪だからか?」

「オレ達も詳しいことは分からねえ。でも最低でも言えることは、てめえらにはもう関係のねー話だ。もう二度とあいつらには出会わねえと思うぜ? 奴ら、もうてめえを連れ去ることには興味ねえらしいからな」


グレゴワースの妻は夫を心配そうに見つめる。

夫の方は無表情で、妻の肩を寄せる。


「そうか。ならば安心だ」

「つーわけだ。話は終わり。とっとと失せな」

「そうさせてもらう」


その言葉にグレゴワースの妻は頷き、ルシェールに細剣と短剣を鞘ごと取り出し、握らせる。


「せ、先生……? どうして私に渡そうとするの……?」

「これはわたくしには必要ありませんの。あなたが持つの」

「ちょっと待つの! 剣を捨てるの!?」


捨てないとダメだと尋賀は言ったはずだ。

ルシェールの剣は


「ええ。もう必要ないですもの」

「捨てないでほしいの! 私に剣技を教えてくれたのは先生なの!」

「あなたは十分にわたくしの実力を超えてるのです。わたくしの役目は終わりですの」

「先生……そんなの……」


ふと、尋賀にはこの二人が、自分と尋賀の師匠のやり取りのようにも見えた。

弟子が師匠を超える。

師匠はそれを望んでる。

この二人も尋賀と尋賀の師匠と同じなのだ。


「だったら最後に手合わせしてほしいの!」

「……本気ですの?」

「本気なの!」

「なら……」


彼女は、ルシェールに手渡した剣と短剣を受けとると、そのまま抜刀するのかと思いきや、腰に戻した。


「今は結果が見えてますの。明日、手合わせしますの」

「今ここで十分なの!」

「夫との闘いで疲労の溜まっているあなたに、勝ち目はないの」

「うぐぐ、なの」


ルシェールは腰から自身の剣を抜く気ではあったようだが、結局、その手はだらりと揺れる。


「分かったの。明日決闘するの」


渋々納得したと、決闘の約束を飲むルシェール。

しかし、不用意に決闘と言う言葉を使うべきではなかった。

美玲が反応している。

尋賀はそれをすぐに抑え込んだので、面倒ごとにはならなかったが。


「では行くぞ」

「おうとも。てめえは一生許さねえ。街中で出くわすなよ? オレ、張っ倒してやっから」


去ろうとするグレゴワースに、敵意むき出しの声。

殺さなくとも、憎い相手だ。

それを殺さないと言い、一度はどうしようもない程に膨れ上がった憎しみと怒りを彼は鎮めている。

ほとんど和解とも言える状態だが、実際には彼は何も許してはいない。

親しみなどない。話している間中も常に殺気を出していた。

それでも死ぬなと言った手前、今更殺すこともしないし、ここで殺せば本末転倒だ。

強い理性を持って、尋賀は何でもないフリをする。

そんな彼の心中を察する優作は、彼の心を代弁するように言う。


「あなたのしたことは許されることはありません。例え、それが戦争だからと言っても、人を殺したという事実は一生消えません」

「戦争でそのようなことを言っていたら勝てぬようになるぞ?」

「止むを得ないとしてもです。心からの謝罪と亡くなった命への罪滅ぼしをするべきです。法があなたを裁くことはなくても、罪には変わりません」

「謝罪は今はせぬ。戦争だからな」

「でも今後は亡くなった人たちに出来ることを考えてください。いずれは尋賀やルシェールに面と向かって謝罪してもらいます。異世界であなたが殺した人も、全ての顔を忘れずに謝罪し続けてください。ここにいる皆はそれを怠ったら、あなたを地獄の果てまで追いかける位の恐ろしい人間ですよ」


尋賀は「ひでぇ」と漏らし、優作は「間違ってないと思うんだけど……」と呟く。

尋賀達なら間違いなく地獄の果てまで行く。というよりも「地獄まで文句を言いに行く」だとか言っていた。

地獄の果てまで追いかける程度の表現は正しいものではないのだろうか。


「うむ……」


グレゴワースに向けられる視線は、それぞれ怒りや憎しみがこもっている。

ルシェールは騎士団の上司を殺され、ナゲリーナは友人を殺された。

尋賀も師匠であり、彼の育ての親とも呼べる存在が殺された。

美玲や優作にとっても、彼ら彼女ら友人が傷ついたと怒る理由になる。


「まずは……この世界に馴染まなくてはな」

「それじゃあ、ルシェール。また明日に会いに来ますの」


納得したのだろうか、分からない。

それでも夫妻は右も左も分からない異世界の町を歩き始めた。

でもまずは、腕の治療が真っ先ではないのだろうか。


「……うし。そんじゃ、一旦帰るか?」

「帰るって、ルシェにナゲリーナはどうするのさ?」


異世界からきたばかりの二人が泊まれる場所。

それを聞きたかった優作。

夫妻はこれ以上関わらないと考えて、異世界人二人が寝泊まりする場所がないなら誰かの家に泊める必要がある。


「オレの家はダメだぞ」

「なんでさ?」

「入れたくねーから。うるせぇーし」


尋賀のアパートならば、異世界から来た人間を泊める際、説明が不要になる。

その点、同居人がいないし、尋賀なら間違いを犯すことはないだろう。都合がいい。

という優作の意図も、尋賀には伝わらない。


「私の家も無理だ!」

「……でもナゲリーナが前回こっちの世界に来たときは美玲の家に泊まったんじゃなかったっけ?」

「うむ! 思った以上におじいさまが面倒だったのだ!」


ナゲリーナが疲れ切った表情で沈み込む。

そのおじいさまが何をしたのだろうか。

でも美玲も暴走していた。それでナゲリーナは疲れ切った表情をしているのだろうか。

美玲か美玲のおじいさまか、どっちが何をしでかしたのだろうか。

とにかく、美玲の家は避けといた方が良さそうだった。


「じゃあ、ボクの家だね」


尋賀と美玲が駄目なら必然的にそうなる。

彼は嫌な顔一つせずに言う。


「えっと……ナゲリーナ。確認だけど、コネクターズカオス現象の解決は明後日だっけ?」

「そう。魔導砲を送り込むのに後二日」

「そういえば、どうしてそんなに時間がかかるの? 騎士団の人達はすぐに送り込めたのに」

「送り込む場所の問題。原理の説明もいる?」

「今はいらない。また時間がある時に聞かせてもらうよ」


詳細も原理も不明な以上、そういうものだと納得せざるを得ない。

聞くこともできたが、優作は長くなりそうで、大量の説明が必要そうで、今は止めた。


「確認はそれだけ?」


優作は答える。


「うん。だったら明日、登校の準備しないと」

「ああ? 非常時に何言ってんだ? 優等生」

「明日で長期休暇は終わりだよ?」

「そうだっけか? でも世界が終わるって時に授業受けるのかよ、てめえは」

「うん」

「さすが優等生」


世界が終わると言うのに平常運転。

多分、彼ならば地球に隕石が落ちてきて、明日地球が滅びると言われても、授業が行われているならば受けるのだろう。

融通が利かない真面目人間とも言えるわけだが、そこまで頭が凝り固まっているわけでもない。


「尋賀。お願いがあるんだけど」

「ああ? どーしたよ?」

「ルシェとナゲリーナをボクの家まで送ってほしいんだけど。交通費はボクが出すから」

「いや、歩きで送るからいらねーよ」

「時間かかるよ?」

「公共の交通機関使わせてみろよ。オレ、はしゃぐガキの面倒見る自信ねーんだけど」


子供扱いされた二人は文句を言う。そういうところがガキだと尋賀は言うかもしれない。


「で、てめえはどうすんだ? オレにそんな面倒なこと頼んでおいて何するつもりだ?」

「ちょっとだけ調べに行こうと思ってね。もしかしたらナゲリーナもルシェもこの世界の住人になってるかもしれないし」


大家のありもしない記憶のルシェールとナゲリーナを思い出した。

ならば他の人達の記憶も、果ては住民登録だって改竄されてるかもしれない、と優作は踏んだわけである。

つまりは二人はこの世界にごく自然に溶け込んでいる状態にされ、生まれも育ちも日本になっている可能性である。

異世界の存在を知られないために。


「個人情報をどこまで調べられるかは分からないけどね」

「さぁーて。どうだか」

「え?」


意味深な尋賀の発言に、思わず優作はきょとんとする。


「この町は個人情報を好きにいじれるらしいぜ? もしかしたらすんなり情報が手に入るかもな?」

「ど、どういうこと? 個人情報を好きに弄るって? それに、個人情報がすんなりと?」


動揺を隠せない優作。

そんなことを知ったら、自分たちの個人情報がどうなっているのか怖くて眠れなくなる。


「ジジィ曰く、コネクターズカオス現象と関係してるらしい。おかげで死亡扱いになってたオレが、こうして学校に通えるんだからな。簡単に情報公開されるかもしれねーって思っただけさ」

「死亡扱い? ……とにかく調べてみるよ」


優作は走って行く。

調べるにも色々時間が掛かる。その上でどこまで情報が手に入るか。

後のことは優作に託しつつ、大きな欠伸が一つ。


「そんじゃ、帰るか」


長かった異世界の旅。

そして、戦争。

失った悲しみ。

それらの記憶を伴いながら、尋賀はため息混じりに言った。


ーーー


「ど、どうして?」


個人情報を調べていた優作。

彼が可能な限り調べることができた情報の中に、ルシェールとナゲリーナの名前があった。


「え、ええっと……このままだと時間が掛かるから……そうだ! 美玲に電話すれば何とかしてくれるかも!」


彼女なら何でもできる。

どことなく不安で、かつ偽物を用意しても大丈夫かと二重に不安を感じていたがそうは言っていられない。

なにせ、緊急事態なのだ。

早くどうにかしなければならない。


「と、とにかく準備しないと」


慌てる。とにかく慌てている。周りの眼が気にならないくらいに。

尋賀がその慌てている理由を知ることになるのは明日のことだった。









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