表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/78

混沌とする世界

「何のつもりだって聞いてんだ。答えろよ」


いまさら何をのこのこと現れたのか、尋賀には分からない。

しかも今度は訳の分からない者達を連れて大群で。


「異世界侵略者は無力化した」

「あんだって?」

「こちらの世界に来ていた騎士達。並びにこちらの世界に侵略しようと、あちらの世界で控えていた者達を無力化したと言っている」

「何しやがった……? こっちに来ている騎士どもは魔王様が異世界に返したはずだぜ?」

「その者達を我々が連れ去った」

「何……!?」


尋賀と同時にグレゴワースも表情を変える。


「我々の部隊を全員連れ去ったと言うのか?」

「その通りだ。異世界侵略を率いていた者よ」

「これがこの世界の人間のやり方か?」

「我はこの世界の人間ではない。世界を管理する者達」


相対するグレゴワースと『神託』。

そこに尋賀が割って入る。


「連れ去ってどーする気だ? 殺すのかよ?」

「異世界侵略の咎人とがびと達は、罪人として余生を我々が管理させてもらう。その中で我々の仲間になりそうな者は、新たな神になってもらう」

「……へっ! そうやって仲間増やしてたって訳か。ま、それはどーでもいいんだがよぉー」


どうでもいい話ではなさそうだが、尋賀はそれよりも大事なことがあった。

それはとても、大事で重要な話。


「一つ聞きてぇ。どうしててめえはこっちの世界の人間をジジィだけ残してみーんな消しちまった。それはどーゆーわけだ?」

「我々は明確な異世界侵略の罪がなければ動けぬ。ゆえに『蒼炎』は罪人の討伐を買って出てくれた」

「……へぇー。じゃあ、今は動けるってわけか。てめえがもっと早くに異世界侵略を止めりゃージジィは死なずに済んだってわけか」

「何ッ!? 『蒼炎』が死亡するハズなど……!?」

「やっぱボケ神様だな」


煽る尋賀の口調に、紛れもない敵意が混ざって来る。


「てめえが早く、異世界侵略の無力化をすりゃージジィは死なずに済んだ! 異世界侵略なんざぁー余裕で止めれただろうが!」

「……我々が欲しかったのは異世界侵略の罪。それまでは動けぬ」

「連れ去る理由が出来るもんな!? ンな事実のためにジジィは死んだんだぞ!」

「死なぬと信じていた。本人も死なぬと言っていた」

「嘘だったんだよ、そいつぁー!」


実際は死に場所を決めていたのだろう。

弟子の成長を見届けたかった。

そのために無謀な戦いを挑み、散っていったのだろうか。

『神託』は無謀とは思っていなかったのだろう。

それほど、尋賀の師匠は強い存在だったのか。

尋賀の師匠が時間稼ぎをしてくれたおかげで、寸前のところで騎士たちは異世界へと飛ばされ、尋賀達は大人数を相手にしなくても良くなった。

でも……もう、いない。


「……なんにせよ、異世界侵略の罪は明白。そこの罪人も連れて行くとしよう」

「…………」


グレゴワースは何も答えない。


「ちょっと! どうして逃げないんですか!」


優作は声を荒げる。


「控えていた第二部隊は連れ去らわれたのだろう? あそこには私の妻もいる」

「なっ!? そんな!?」

「ならば、会いに行かねばな」


完全に諦めた言葉。

だが、彼と戦っていた者達は、何も諦めていない。


「何のつもりだ?」


グレゴワースの前に立つ、美玲に優作。そして、渋々ながらもナゲリーナも立ち、仕方なくルシェールも立つ。


「ふっ。騎士たる者、弱き者を助けるのは当然だろう」

「殺すなら、お前は私が殺すの。他人に手出しさせたくないの」

「どんな人間だって生きないとダメだよ」

「……お前には罪を償ってもらう」


四人は確固たる意志で立っている。

だが、殺す殺さないの話だったか。

罪人として連れて行くという話だったハズなのだが。


「そーそー。勝手に諦めてんじゃねーよ。ちゃんと生きて償ってもらわねーとな?」


尋賀もまた、四人の前に立つ。


「つーわけだ。オレはてめえが気に入らねえから、てめえの仕事の邪魔させてもらうぜ?」

「退け。退かねば命は保証できない」

「てめえこそすっこんでろ。てめえの顔を見るのもうんざりだ」


尋賀の挑発的な口調に黙っている。

『神託』は手を尋賀に向けると、強烈な光を発生させる。

糸のような光が不規則に散る。

分かりやすい放電だ。


「もう一度言う。その者は異世界侵略の罪がある。退かねば命は保証しない」


『神託』は見せつけるように、手を近づける。

警告している辺り、恐らくは威嚇の一種だろう。

だが、尋賀は物怖じせず、『神託』に近づく。


「うっせー。早くすっこんでろ。オレは今虫の居所がわりぃーんだよ」


尋賀はそのまま、帯電しているであろう手を掴む。


「貴様、何を!?」


本人には予測できない行動だったのだろう。

だが、さらに予測できない事態が起こっていた。

光は急速に弱まり、何事もなかったように、消え去る。


「貴様!? 我の魔法を消し去ったのか!? 『黒獅子』の記憶を持つ者に何か力を……」


『神託』はすぐに気付く。

尋賀の持っている『それ』に。


「その棒は!?」

「あ? これ、魔王様からのプレゼント」

「我らの友情の証そのものではないか!?」


約束の鍵レーヴァテイン。

文様の上を青白い光が常時、走っている。

それは友情の証とほとんど同じ、というよりも剣からそっくりそのまま鉄棒に変わってしまっただけ、と言ってもおかしくないほど、全く同じ。


「その紛い物で我の魔法を消したのか。そこにいる、我の親友の記憶を持つ者から力を貰ったか」

「おう。前回は負けちまったが、今回はそーはいかねーぜ?」


やる気満々の尋賀に対して、彼の仲間たちは反対意見が多そうだ。

ただでさえ囲まれている。無理もない。

それに、連戦な上、今度こそ無用な戦いだ。

普通に考えれば避けられるなら避けるべきだろう。

尋賀はそんなことをこれぽっちも思っていなさそうだが。


「……我々はこれより、コネクターズカオス現象の解決に向けて準備を整える」

「待ってよ。こっちとらてめえらに好き勝手やらせるわけにはいかねーんだよ」

「我らはこの世界の住人共に時間をかけている暇はないのでな。邪魔をするのならば帰らせてもらう」


尋賀の静止も聞かず、『神託』や、アパートを囲っていた者達は全て一瞬にして姿を消す。

「助かった」と安堵の息を漏らす優作。

どう考えてもこのまま第二戦に突入しそうな勢いだった。

それを突然引き上げたのだ。

全て終わった、というような脱力感も同時に襲い掛かって来た。


「住人『共』だぁ?」

「どうしたの尋賀?」

「ちぃーっと気になってな。別に気にするほどでもねぇーけど」

「……? それの何が?」

「優等生。今ここにいるのはオレ、てめえ、そんで騎士殿のこっちの世界側の人間三人と、のの女、魔王様、カの字の異世界組三人だぜ? この世界の住人共って括りはおかしいだろ」

「……! 確かに尋賀一人に言うにしても『共』はおかしい」

「わざわざオレと優等生と騎士殿だけを括って言うのもおかしな話だろ。てめえら特に絡んでねえのに」

「……でもそれはどういう意味を持つんだろ?」

「さぁーて? 言葉の誤かもしれねえ」


そうやって二人が話し合っている間に、扉が開く音がする。

下を見ると尋賀の良く知る女性。

このアパートの大家が空き部屋から出てきたのだ。

彼女は大きな欠伸をしながら外を見回す。

視線の先はアパートの庭。

ナゲリーナが魔物化の薬品を取り出し、一悶着あった場所だ。

荒れるに荒れまくった庭を、異世界に行く前日に尋賀は適当に言い訳しながら埋めなおしたなと、遠い昔の出来事のように思い返す。

語るような出来事は何もなかったが、時間だけはかかった。


「騎士殿、はしご下ろせ。異世界組はここで黙って待機してろ」


美玲は言われた通りにはしごを下ろし、大家は何事かとアパートの屋上を見る。

尋賀は下にいる大家に軽く手を振ると、そのまま飛び降りた。

……どうしてはしごを下ろさせたのか。必要ないではないか。

美玲は文句をぶつぶつ言っている。


「尋賀ちゃん? 屋上で何をしていたのさね?」

「ん? 一週間ぶりにアパート帰って来たからな。留守にしてた分掃除してやろうかと思ってさ」

「一週間ぶり? 何を言っているんだい?」

「あ? オレ、一週間前に長い間出かけるって言ったハズだけど?」

「出かけるって、ずっと部屋に居たじゃないかい」

「……へぇー」


そんなハズはない。

彼は一週間もの間、異世界という遠い地に居たのだ。


「こんにちは」


優作が白々しく挨拶をしながら、はしごを下り、続いて美玲も降りてくる。


「あら、優作君に美玲ちゃんじゃないかい。こんにちは。そしていらっしゃい」

「最近、調子はどうですか? 眠そうな印象を受けるのですが」

「うん? すこぶる快適さね。でもさっき買い物から帰って来てから、ちょっとの間寝てたみたいでね」

「そうですか。健康なら何よりです」


でも空き部屋で寝ていたのはどういうことなんだろ。と、言いたそうに尋賀に視線を送る。

口に出せばマズイ情報かもしれない、なら不用意に喋らない方がいい。

異世界のことも、異世界人のことも。

そして、何よりも今までどうしていたのかも。


「あら? そういえば尋賀ちゃん。あの二人はどうしたんだい?」

「あの二人だぁー?」

「ええ、っと? こう……うまく思い出せないけど……なんだったかしら……嫌だわ、歳かしら。……あら?」


こめかみを押さえながら何かを必死に思い出そうとしていた大家は、何かに気付く。

尋賀が視線を追うと、はしごを下りようとしているルシェールと、彼女に止まれと必死に伝えているのか、首を勢いよく振っているナゲリーナがそこには居た。

ルシェールは異世界組の括りに入っているのだが、彼女はそれに気づいていない。


(あのバカ。人の話聞かねーで何してやがる)

(ルシェ……。自分が異世界人だって分かってる?)

(さっきの人達、テレポートの魔法かな? テレポート……後ろから颯爽と登場……当たったフリをして……うーん)


美玲だけ違うことを考えている。

それはそうと、早速、喋らない方がいい情報が流出してしまっている。

とんだ情報漏洩じょうほうろうえいだ。

尋賀が彼女に関する嘘を言おうとしているが、大家の様子がおかしい。


「あら、来てるじゃない。ええっと、名前は……やっぱり歳かね?」


ふと、アパートの屋上のさらに上、上空に『神託』が現れる。

その手には紙が握られており、それを一度確認してから、視線を尋賀達に向け、寂しそうな表情を一瞬だけ見せると、大きな指パッチンの音が鳴り響く。


「そうそう! ルシェールちゃんに、ナゲリーナちゃんだった! 人の名前を思い出せなくなるなんてあたしもいよいよさねェ」


思い出せる方がおかしい、というのに気づかない大家。

どう考えても、『神託』が彼女に何かをしたようにしか見えない。


「ふえ、なの? 私の事知ってるの?」


はしごを下りたルシェールは、初対面の相手の顔を見て、自身の記憶の倉庫を探る。

探したところでここは彼女にとっての異世界。見つかる方がおかしいのだが。

優作は再び不用意に思ったことをすぐに言い出さないよう、ルシェールの口元を押さえる。

彼女は嫌がって暴れ始める。


「え? 知ってるも何も、外国からの留学生だって言ってたじゃないかい。ねえー?」

「おう。確か、フランスとドイツだったっけか?」


不審に思われてはいないようで、安心している優作。

だが、彼は気付いていない。殺気に。


「ナゲリーナちゃんがドイツ出身だったかしら。初め出会った時は小学生かと思ったんだけど、尋賀ちゃんと同じクラスだって聞いて驚いたわ」

「ま、ガキにしか見えねーもんな」


本当に驚いているのは尋賀の方だ。

留学生だとか、ナゲリーナが同じクラスだとか、色々おかしな事になっている。


「これから晩御飯の準備しないと」

「だったら、オレ達は退散しますかっと。こいつら家に送り届けないといけねーしな」

「早く帰って来るんだよ?」

「へいへい。今日もご馳走になりますか。……いつもすまねえな」

「……どうしたんだい? 尋賀ちゃん?」

「いつも飯食わせてもらってんだ。感謝したりないくらいだけどな」


大家は、心配そうに尋賀を見つめる。

その眼差しは変なものを食べたのか、という疑いの眼差しだった。

反対に尋賀の方は、久しぶりに元の世界に戻って来たという安堵感から出た言葉だが、そんな反応をされるとは思わなかったらしい。


結局、ルシェールとナゲリーナは、この世界の住人扱いになっているらしい。

その、ルシェールは、優作の手を振りほどき、頭を数回、叩いていた。


今、何がどうなっているのか。

騎士団との戦争が終わると、謎の集団が現れる。

謎の集団が何かをしたのか、消えていた住人達が再び現れ、何事もなかったように話し、都合がいいように話がすり替わっている。

彼らは、ひとまず、山の方へと向かうのだった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ