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騎士団長グレゴワース

大量に現れたグレゴワース相手に、尋賀達は五人で背を合わせて立っている。


「どうなってるの!? グレゴワースが増えたの!」

「これは幻」

「どれが本物か見分ける方法はないのかな?」

「この矢薙美玲! 例え相手が束になって掛かって来ても全員倒せる自信があるぞ!」

「てめえはすっこんでろ」

「どれでもいいの! 全員ぶっ潰すの!」

「無論、そのつもり」

「ねえ、ナゲリーナ。その試験管って爆発するの?」

「今こそ魔王、ナゲリーナの魔法の出番ではないだろうか!?」

「てめえはすっこんでろ」

「シュヴァルツレーヴェ! なんとかできるのならなんとかするの!」

「わたしじゃなくて尋賀が何とかしてくれる」

「え? 尋賀が?」

「私に対して後ろに下がれと言う坂巻尋賀など信用出来ぬ! ここはこの矢薙美玲に任せるのだ!」

「てめえはすっこんでろ」


順々に答えていく尋賀達。

尋賀に至っては「てめえはすっこんでろ」としか言っていない。


「全員倒すの!」


真っ先にルシェールが駆け出した。

二刀を携え、複数のグレゴワースを斬る。


「むぐぐなの! 斬れないの!」


だが、高速の剣はすり抜けるだけで何も変化を起こさない。


「話聞いてたかよ。そいつら幻だって」

「幻って何なの?」


どうやら話を聞いていなかったようだ。


「あー、幻ってのはな。光の加減とかで、そこにはいないのにまるでそこにいるかのように見えることだ」

「?」

「つまり本物じゃねえ。斬っても意味ねーんだよ」


いや、そもそも幻という言葉を理解していなかったようだ。


「じゃあどうすればいいの!? 倒せないの!」

「だから尋賀に任せる」

「まーたオレか」


尋賀が、騎士団長の幻目掛けてレーヴァテインを振る。

ルシェールの時とは違い、歪んだ残像のように幻は簡単に消えさる。


「どうしてサカマキの時は消えるの!? 卑怯なの!」

「へへへ。オレの方が強ぇーからな」

「私の方が強いの!」

「おい、のの女。後ろ」


尋賀に言われなくても彼女は既に振り向いており、数人のグレゴワースを斬っていた。

やはり幻で、ルシェールの剣もグレゴワースの剣もすり抜けた。


「こっち来い! のの女!」


現状、どれが本物か分からない以上、下手に動き回るのはマズイと判断しての発言だろう。

だが、


「嫌なの!」


すぐに断られる。


「何ダダ捏ねてやがる!」

「全員ぶっ潰してやるの! 何度も何度も斬ってやるの!」

「冷静さ失くしてらー……」


頭に血が上っているナゲリーナとルシェールを鎮めておけばちゃんと話を聞いただろうか。

冷静さを取り戻さなかったことが早速裏目に出ていた。


「しゃーねえ。てめえの身はてめえで守りやがれ。散開ッ!」

「え、ええっ!? ちょっと待って!」


尋賀の言葉と同時にナゲリーナと美玲も駆けはじめる。


「ふえ!? つ、掴むでない、天城優作!」


自身の身を守る術をほとんど持っていない優作は美玲の腕を掴んで、彼女を止めた。


「良くやった優等生。そのまま掴んどけ」


特にそういうつもりで掴んだわけではないとありありと分かるのだが、なぜか尋賀に褒められる優作。

全員に散開と言っておきながら、実際に散開してるのはナゲリーナのみである。

ルシェールは初めから単独行動をしていたし。


「ええい! ならばこのまま攻撃する!」


優作の手を振りほどくと、美玲は弓と矢を構えて、グレゴワース目掛けて矢を二発、三発と射る。

だが、それら弓矢は次々とすり抜けていく。


「こっちが危なくなるからてめえはすっこんでろ」


矢が味方に当たるとでも言いたいのだろうか。

言いつつも騎士団長の剣を躱しながら次々とレーヴァテインで消していく。


(くそ、やりづれえ)


幻の癖に地面を蹴る音や空を裂く音までもが全員同じだった。

剣を持つ誰もが本物のグレゴワースにしか見えない。

本物が特定できない以上、全ての剣を本物と仮定して剣を躱さねばならない。

しかも、脅威はそれだけではない。


「くっ……ホントやりづれえなぁ!」


尋賀の前後左右に幾何学模様が現れる。

グレゴワースの、すぐに発動する魔法も脅威だった。

だが、魔法を尋賀に向けられたのは幸いだった。


「おらッ!」


全てを巻き込むように大振り。

結果、幾何学模様もグレゴワースの幻も数人消え去った。


「随分とセコイ真似しやがって」


尋賀はレーヴァテインをグルグル回しながら周りを見回す。

次々と軽快に斬っていくルシェールに、試験管を持ちながらも、投げることも蓋を取ることもなく躱すことに専念しているナゲリーナ。

何も出来ずにいる優作。

彼らにはその脅威である魔法が使われていない。

しかも、幻の多くは尋賀の方に集まって来ていた。


(ま、そうするわな)


独り納得する尋賀。

何かを納得し、彼はアパートの上を駆けはじめた。


(全く、楽しいことで)


心の中で皮肉めいたことを言いながら、ルシェールに負けじと、幻をレーヴァテインで消していく。

そのついでに幻を発生させている幾何学模様も消すが、別の場所に新たな幾何学模様が現れる。


(くそ、だりぃーことしやがって)


楽しいのかだるいのかはよく分からないが、とにかく彼はグレゴワースの意図に気付いていた。

だから、焦っていた。


(レーヴァテインに警戒させてる間になんとかしねーと)


尋賀は気付いていた。

魔法が尋賀にしか来ないこと、幻が尋賀に集中的に集まっていること、そしてなによりも本物のグレゴワースが先ほどから現れないことに。

恐らく、グレゴワースは約束の鍵レーヴァテインの力を探りを入れているのだろう。

探り、警戒し、その力を見極めてから行動を開始するつもりか。

尋賀に警戒している間はいいが、レーヴァテインの力と出来ることを知ると、真っ先に仲間たちが狙われるだろう。

そうなれば全員を守りながら戦うなど不可能にも等しい。

だから、それまでに決着をつけねばならないのだが、そうは問屋が卸さない。


(どうする? さっきから動いて来てねえ奴を狙うか?)


尋賀は様子を見ているだけで、攻撃してこない相手を探す。

だが、該当する相手が多すぎた。

本物を見切られないために攻撃してこない偽物すら居たのだ。


(くそッ! だりぃ! なんか手はねえのか!?)


ルシェールのように次々と斬っていくか。

いや、それでは本物を発見する前に見切られてしまう。

それとも本物のみを叩き潰すか。

いや、そんなことを出来るならばとっくの昔に悩みはしない。


「ちぇー。暇だなぁー」

「ぶちのめしてやろーか? ああ?」


脅すように言う尋賀。

緊張感なく、なぜか指を一本空に向けて上げ、三角座りの美玲が居たからだ。

なんだか最近すごく空回りしている騎士だ。

普段は自分が暴走しているのに、自分以外の人間が暴走してると大人しくなるのか。

尋賀はそんな人物はこの世界にはいないと思っていたが、今暴走しているのは間違いなく自分たちだった。


「つーか何やってんだよ! 騎士殿!?」


当然と言えば当然だが、美玲は何度も斬られている。

幻だからすり抜けるだけで済んでいるものの、本物の刃ならば間違いなく一発昇天だろう。

だというのに妄想騎士は幻で出来た騎士団長たちを相手にしていない。


「だってだって、本物の騎士団長分かったのにさー。ずっと『てめえはすっこんでろ』しか言わないし」

「てめえが一番危なっかしンだよ」

「ああ、そうだ! 今から私が騎士団長ってことで!」

「バカも休み休み言えっての。なりたきゃー勝手になってやがれ」


矢薙美玲は毎度今更ながらも中二病だ。

生きるために略奪カツアゲを繰り返した尋賀や、騎士としての仕事で鍛えたルシェールと違い、彼女は妄想から我流で戦闘方法を鍛えたのだ。

確かに、学校が突然異世界にでも飛ばされたとき、彼女はサバイバル能力が高い方だ。

だからと言って、ただの人と言うことには何も間違いはない。

ナゲリーナはともかく、尋賀とルシェールもただの人だが。


「ん?」


尋賀は何かが引っかかった。

今、何かしれっと重要なことを言ってた気がする。


「ねえ! 美玲!? 本物が分かったって!?」


優作は気付いていたようで、美玲に問いかけるがそっぽを向いてしまった。


「やーだ。教えなーい」

「ンなこともう一度言ってみろ。一生スタメン落ちにするぞ」

「うむ! あの騎士団長はそこにいるぞ!」


勢い良く立ち上がり、多数いる騎士団長の内一人を指さす。

スタメンどころか、二軍落ちを回避しようと全力で手の平を返す。


「うしッ! 嘘だったら化けて出るぜ」


尋賀は駆けはじめ、剣を一切躱さなかった。

美玲の言う通り、尋賀は真っ二つにはならず、指さした騎士団長へと駆けていく。


「分かるわけない。あの幻は限りなく本物なのに」


戸惑っていたのはやりとりを聞いていた味方のナゲリーナ。

異世界の魔法は全て彼女、もとい彼女の記憶の研究者が作っており、幻の魔法も当時の彼が作ったのだろう。

ほぼ完ぺきと思っていたものをなぜ見破ることが出来たのか、と顔に書いてある。


「頭からつま先、それに音から細かいところまで本物そっくりにしているのに」

「ふはははは! それならば理由は容易い!」


大きな声で笑う。気分は最高潮みたいだ。

真っ先にこのことを言っておけば誰も苦労もしなかったというのに。


「おらッ! 消えろッ!」


尋賀がグレゴワースに向かってレーヴァテインを振り下ろすと、友情の証で受け止められる。

美玲の言う通り、本物だった。


「やはりな! 本物かどうかなど匂いと風で容易く見破れる!」

「そんなの無理」

「無理だよ」


優作とナゲリーナはツッコむ。

しかもナゲリーナは膝から崩れ落ちた。そんなにショックだったのか。

そういえば、美玲は一度、同じ方法で猪を発見したことがある。

伏線とは思いたくないが、中二病が魔王に勝利した瞬間だった。

やはり、尋賀の言っていた通り、彼女は何をやらせても完璧なようだ。

場合によってはパーティー1、できないことがないのかもしれない。

知らない異世界に突然飛ばされても、彼女なら対応できそうな気さえもしてくる。ただの中二病なのに。


「このままアパートから落としてやるぜ」


そんな妄想完璧女子の美玲はさておき、尋賀とグレゴワースは鍔迫り合いの状態で、全力で押し合っている。

互いに足と腰に全ての力を集約させ、見る者によってはアパートの屋上をそのまま抉ってしまいそうな迫力。


「本物が分かれば――」

「こっちの番なのッ!」


両手いっぱいに試験管を持つナゲリーナと、二刀を持ちながら飛び斬りを行うルシェール。


「ふん!」

「うおっ!?」


尋賀の持つレーヴァテインが弾かれる。飛ばされはしなかったものの、彼が押し負けたのだ。

体勢が崩れる尋賀、その間にグレゴワースはルシェールの二刀を躱す。


「グレゴワースは私が潰すの!」


ルシェールのサーベルが数多の軌跡を描く。細剣の突き主体から完全にサーベルの斬り主体になっていた。


「ルシェール・ノノ。確かに剣の腕は一流だ」

「こいつッ、なの!」


だが、高速の剣をいなされ、その上で反撃される。

彼女はマンゴーシュでいなしサーベルで反撃。またいなされ攻撃。

高速対高速。眼にも止まらぬその対決は手数が二十に三十に膨らむ。

あまりにも激しい剣と剣のぶつかり合いに、ナゲリーナは入る余地なく立っていた。

それでも余裕そうに話すグレゴワースに対して、切迫した声のルシェール。


「ノデランスノの縁故と王族の血縁を抜きにしても剣の才は非凡だ」

「むぎゃーなの! 非凡じゃないの! 天才なの!」


互いに剣を振りながら口を開く。

ちなみに非凡は褒め言葉である。


「どうして貴様が出世できず、役不足な地位に留まるか知りたいか?」

「どこまで悪口言うの! 私の実力は高いの!」


ちなみに役不足は褒め言葉である。

言い争い……いや、一方は褒めているのだが、そんなことをしている最中も何度も何度も金属と金属がぶつかり合う音が響き渡る。


「貴様も、レングダ・シェハーも陛下への忠誠が足りない。命じられた命を絶対遂行できぬ者達に用はない」


カチンと音が鳴った。

金属のぶつかる音ではない。

元騎士の沸点に達した音だ。


「グレゴワースッ!!」


叫ぶルシェールの一閃に合わせて、尋賀は叩き付けるようにレーヴァテインを振り下ろす。

その両者の攻撃は躱され、二つの武器は十字を描くように交差する。


「来い! のの女ッ!」


尋賀が言うと、ルシェールはレーヴァテインの上に乗る。


「飛べッ!」


レーヴァテインを振り上げると、ルシェールは高く跳び上がった。

尋賀と師匠がやっていたことだ。

彼女はその光景を見ている。

だからこうして連携することができたのだろう。


「…………」


動じないグレゴワースに、地上の尋賀と空中のルシェールが二方向から迫る。

グレゴワースは黙って友情の証を構えると、宙にいるルシェールの前に幾何学模様が現れ、突風が彼女を襲う。


「ふぎゃ、なの!」


奇声と共に、彼女は飛ばされ、ごろごろと地面を転がる。


「ルシェ!?」


飛ばされたルシェールに近寄る優作。


「くうぅなの! 魔法、厄介なの! 誰かどうにかするの!」


優作の心配を意に介さず、彼女はすぐに立ち上がる。


「ちょい、待ってろ!」


レーヴァテインを振り回す尋賀。

だが、その攻撃を躱すだけで、友情の証で全く受け止めないグレゴワース。


「そんなに聖剣の魔力を消し去りたいか」

「……もうこっちの狙いに気付いてたのか」


グレゴワースはただ黙って、友情の証を鞘に戻し、もう一本の剣を鞘から抜いた。

ただの、普通の剣を。


「これで消されまい」


グレゴワースは鞘に戻した友情の証の柄を握りながら、剣を構える。


「チャンスなの! 魔法使わないなら勝てるの!」

「待って!」


これを機に駆け出そうとするルシェールに、優作は腕を掴んで止めた。


「離すの!」

「違うよ! あいつは尋賀のレーヴァテインに警戒してるんだ!」

「? どういうことなの?」

「レーヴァテインで友情の証の魔力を消されないためだよ」

「今なら使えないの! 魔王の魔法具をしま……あっ、なの」

「気づいたかぁー?」


今、グレゴワースは剣を納刀したが、その手は未だに友情の証に触れている。

つまり、まだ魔法が使える。


「……流石にジジィを殺せるだけの実力も洞察力もあるってか」


もうヒントを与え過ぎていた。すでにレーヴァテインの力を何度も見せつけている。

しかも、実力も桁違いに高い。

尋賀以上の力。

ルシェール以上の高速剣技。

ナゲリーナ以上の魔法。

優作のような洞察力。

強敵だ。

それも、かなりの。


「けっ! 厄介なこって」


しかも、こちらの持つ切り札の能力を見切られている。

その上で対策されている。

尋賀達、全員。

敵の強大さから、その場から動けないでいる。

ただ。

ただ、尋賀とナゲリーナは口の端が僅かに上がり、どことなく悪い顔をしていた。








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