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向けられた刃

勢いを持った振りと突きの二段。

絞められた鉢巻きが風と、勢いではためく。

レーヴァテインを、逆手に持ち、立てかけることで襲い来る刃を逸らす。


「こんなことしても意味ねえだろ」

「意味ならある。わしを超えて見せるのじゃ」

「だぁーもう!」


薙刀を弾き、レーヴァテインを両手に持ち、押し込む。

だが、師匠の方も薙刀を両手で持ち、ビクともしない。


「その超えるってのは今すぐじゃなくてもいいだろーが。なんでよりにもよって今ここなんだ!」

「これが最期だからじゃ」

「ジジィ……どうして……」


隣で見ていただけのルシェールはサーベルを抜き、切っ先を尋賀の師匠に向ける。


「お前……お前も死ぬ気なの!? どうして皆そんな考えするの!? 気を失わせてでもそんなことさせないの!」


皆……と、言っても彼女が指しているのは一人のみだった。

彼女の代わりに犠牲になったレングダ。

今、尋賀の師匠にその彼が重なって見えたのだろう。

一度、そういう経験をしたからこそ、働く虫の知らせのようなものだろうか。

だから、彼女は尋賀の下に舞い戻った。


「……のの女、ちぃーっとばかし待ってくれ。この大馬鹿野郎から理由聞かなくちゃなんねえー。話はそれから、な」


尋賀はさらにレーヴァテインに力を込め、上にあげ、下に下ろす。

つられる形で師匠の薙刀も地面に向く。


「冗談キツいぜ。最期ってなんだよ。別にてめえが犠牲になる必要なんてねえだろ? ほら、まだまだ余裕たっぷりだ」

「あのような大きな物を見せて居場所を知らせておいてじゃ。騎士団の連中が『黒獅子』の所に到着する前に『あれ』は完成するのかのう?」

「それは……分からねえ」

「ならば誰かが騎士団の時間稼ぎを行った方が得策じゃろうて」

「ンなことしなくてもいいだろ。魔王様の近くで護衛してりゃーいいだけだろ」

「それで『黒獅子』は無事かのう? それにどれほどの騎士を魔法で移動させることができるのか、どうすれば魔法で飛ばされずに済むのか答えてみるのじゃ」

「魔王様の魔法の詳細は知らねえ。でもオレらが力を合わせれば、多少のことなら問題ねーだろ」

「無理を言いおって。そんなことは出来ないと分かっておるじゃろうに」


レーヴァテインを薙刀から外し、鋭い横薙ぎの一閃。

強力な一撃を叩きこめるほどの……空振り。

それでも師匠は一歩だけ後ろに引いた。


「ここで留まって時間稼ぎなんて……どう考えても死ぬだけだろ」

「そうじゃ」


何一つ表情を変えない師匠。

薙刀は尋賀に向けられたまま。


「わしはここで時間を稼ぐ。じゃが、その前に弟子の成長を一目見たいからのう」


尋賀は……ただ首を横に振り、レーヴァテインを構えなかった。


「まだ、騎士団が到達する前に魔法が完成する可能性が」

「もはやそれは期待じゃろうて。嫌な現実から目を背けておるだけの」

「死ぬんだぞ?」

「わしは生き過ぎたからのう」

「生き過ぎもクソも何もねえ。死ぬことに意味なんてねーんだよ!」

「わしは魔物じゃ。ただ人の形をしておるだけの。最期には殺されなければならん」

「あんたが人外になったって言っても、あんたは人間だ。オレの親代わりなんだろ」

「……渋るのう」


そのまま尋賀は黙り込んでしまう。


「ほれ、喧嘩が好きなんじゃろ? さあ、早く構えい」

「…………」

「わしを倒したら親の居場所が聞けるのじゃぞ?」

「…………」

「倒したいんじゃろ? わしを」

「…………」


うんともすんとも言わない。

貝になって塞ぎこんでしまったかのように、何も答えない。


「覚悟を決められないとは。お主の今まではなんだったのかのう?」

「…………」

「荒れていた時も、あの空想娘に会い、お主が変わりたいと思ったあの時も、異世界で経験した時のお主も確固たる意志を持っていたハズじゃ。それがどうしてそうも容易く崩れ去る?」

「……ったりまえだろ」


黙っていた口を開く。

だが勢いはほとんどない。


「てめえが、オレの稽古づけて、そんでどこがどう悪いっていちいち文句言ってくれたあんたに……そんなことが出来るかよ。他にも方法なら幾らでもある、ぜ」

「じゃあ言ってみるのじゃ」

「それは、まだ分からねえけど……まだ幾らだって方法はあるはずだ」

「あったとしてもわしはその方法を取らんがのう」


逃げ場をなくす。

もう他に説得する方法はないのか。

もう何もすることは……止めることはできないのか。

答えは……出ない。


「じゃあ言い方を変えてみるとするかのう。わしの最期の願いじゃ。わしを倒せ」

「言い方を変えても……」

「千年も生き永らえ、人ならざる者として最期の気まぐれで取った弟子じゃ。これから世界を救うという前人未到の偉業を達成するのに不甲斐なかったら、わしは何も安心できないんじゃて」

「…………」

「最期の願いじゃ。もう二度と会うことはないじゃろう」

「……オレは」


振り絞るように声を出そうとする。

答えが出るのに、やけに時間が掛かる。

頭の整理が上手くできない。

それでも、彼は何としても説得したかった。


「オレはまだ、てめえが囮にならなくても勝てるって信じてる」

「信じるじゃダメじゃろ」

「ならオレが」

「それはダメじゃ」

「てめえが良くて何でオレがダメなんだよ」

「お主の口調を真似て言うなら、それが親ってものじゃからのう」

「親の心子知らずとでも言いてえのか?」

「親の記憶のないお主は親の気持ちなど分からぬじゃろうが」


尋賀は異世界の出来事を思い返す。

初めてナゲリーナの母親に出会った時のこと。

初めてルシェールの父親に出会った時のこと。

どちらも子を思い、どちらも子を守ろうとした。

尋賀は、それを見て、自身の親というものの偏見に少し、変化が現れた。

全員が全員、子を捨てる存在ではないと。


「……異世界で、二回ほど見てきた」

「ほう?」

「例え娘が変わってしまっても、例え娘が重罪人扱いされていても、守ろうとしてた」

「じゃったらわしの心も分かるじゃろ」

「ああ。……今なら良ぉーく分かるぜ」


今まで、彼を縛っていた何かが解けるかのように、彼の表情は戻っていく。


「命がけで守りたいってか」

「そうじゃ。そしてその前に……」

「オレに任せていいのか……オレの成長を見て、安心して旅立ちたい、か」

「そうじゃ」

「どうせ……止めても、行くんだろ? オレがてめえと喧嘩しようがしまいが」


ゆっくりと深呼吸。

眼を閉じ、師匠とぶつかりあった毎日を思い返す。

ただ倒せばよかっただけであり、力を手に入れられればそれで良かっただけの毎日。

そこから、自分の間違いに気づけた。

そのきっかけである師匠を超える。

最期の手向けとして。

本来ならばぶつかり合うことで時間も体力も無駄にしてしまう。

だが、それを分かっていても、覚悟を決めた二人は止められない。

覚悟を決め、瞳を開け、レーヴァテインを力強く握りしめ、尋賀は、構える。


「……あんたの願い、叶えさせてやる。他人を傷つけることしかできなかったオレの成長を。あんたに弟子の成長を見せてやる。それがあんたの望みだとしたら……オレに後のことを全て任せてもいいって言わせてやるぜ! この不良、坂巻 尋賀様の不良道を見せてやる!」

「その意気じゃ。力を見せてもらうぞい!」


二人は各々の武器を構える。


「止めるの! どうして戦うの!? どうして犠牲になるの!」


そして、ルシェールもまた、武器を構える。


「止めろ、のの女」

「サカマキ!? 止めるなら私も手伝うの! だから止めるの!」

「こいつの思いはおっさんと同じだ。だからこそ……オレも覚悟を決めなくちゃならねぇ!」

「止められるなら止めるべきなの! 助かる命なの!」

「止まらねーんだよ。こいつの思いは。だからこそ、オレが全力で答えてやらなくちゃ、弟子失格だろ」


ふと、彼女にレングダが斬られる光景が蘇る。

その時の彼と同じで……止まらない。

だからこそ、彼女は尋賀の師匠をレングダと一緒だと思ったのかもしれない。


「……見てられないの!」


眼を伏せる。

だが、その場からは動こうとしなかった。


「悪ィ、のの女。てめえばかり辛い思いばっかだ」

「……っ! そう思うなら……せめてもの幸せだったなって思わせるの!」

「はは、いつだったかな。殺した分の幸せか。ったりまえだ、覚悟決めたその時から……そのつもりだっつーの!」


睨みあう尋賀と師匠。


「待たせたな。やっと覚悟が決まったぜ!」

「さてどこまで成長したか、あの大馬鹿者がどれほど変わったのか見るかのう?」

「おう。異世界行く前のオレと、帰って来てからのオレがどこまで違うか……見せてやる! 始めようぜ、師匠と弟子の最後の大喧嘩を派手にな!」


振り下ろされたレーヴァテインと薙刀がぶつかり合う。

響いたただの音が、まるで爆発音を連想させるかのように、周囲に響き渡った。








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