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不屈

尋賀のアパートの屋上に上るナゲリーナ班。

大きな脚立を使い、優作が脚立を支えながらナゲリーナがゆっくり上っていく。


「あれ? ルシェは?」


脚立を支えながら、ふと、優作はルシェールがいないことに気付く。


「む? 私の後から付いてきたハズだが?」


屋根から乗り出し、顔を覗かせる美玲。

途中まで付いて来ていたということは、どこかではぐれたのかもしれない。

彼女は今どこにいるのか、初めての異世界の彼女が向かう場所などほとんどない。

ゆえに、彼女がどこに向かったか、見当がつく。


「……多分、大丈夫だよ。ルシェは、後から来る」


優作は彼女が今どこにいるのかすぐに勘付いた。

だが、その居場所は尋賀が心配していた……かどうかまでは分からないが、尋賀が避けようとしていた事態に自ら近づくことになる。


「……失敗した。ボクがちゃんと連れて行けば」


優作がぼそぼそ呟いている間に、ナゲリーナの手を掴み、引き上げる美玲。

ナゲリーナが屋上に立つと、今度は優作に向けて手を差し伸べる。


「ふっ! いかな事態であろうと坂巻 尋賀ならば解決してくれよう!」


美玲は尋賀を信じ切っている。

だが、優作の懸念点は、尋賀の強さでは解決できない問題。

精神的な問題だった。


(ルシェ。どうして尋賀のところに向かったんだ? 君は……かつての仲間が傷つくところなんて見れないハズなのに……)


その疑問を心の中で留め、優作は脚立を上る。


ーーー


「さあ、始めようぜ! 喧嘩祭り!」

「未だに血気盛んとは。何も成長しておらんのう」

「しゃーねえだろ。不良は喧嘩が本分だからな」


尋賀は約束の鍵レーヴァテインを頭上で旋回させる。

師匠は薙刀を両手で持ち、構える。

二人を発見した異世界出身の鎧を着た騎士団達。

それぞれが剣を構え、二人に向かって走り出す。


「団体様も喧嘩、やる気満々だぜ? どうして血気盛んになってんのかね?」

「お主と同じ理由じゃろ?」

「オレ、そんな野蛮人じゃねえって」

「何を言っておる?」


捻くれた尋賀らしく、自分が野蛮人だと自覚しているにも関わらず、否定する。

笑ってるあたり冗談なのだろう。


「まずは二匹」


尋賀の眼の前に、剣を振りかざす鎧を着た男二人。

そのまま剣を振り下ろし、二本の剣は交差する。

獲物を、斬ることが出来ずに、そのまま地面に。


「よっと」


両手を二人の騎士の頭に乗せ、前転をしてみせる尋賀。

地面に綺麗に着地すると、振りむき、二人の騎士の頭をぶつけあう。


「で、三匹目」


尋賀の背にはもう一人の男。

だが、尋賀は振り返らない。

にも関わらず、男は倒れた。

男の頭には、いつの間にかレーヴァテインがぶつかっていた。

尋賀は、倒れる二つの内、レーヴァテインをかかとで蹴ると、くるくるとレーヴァテインは空中で回転し、そのまま尋賀は華麗にキャッチする。


「今のはそれなりに器用だったろ?」


尋賀は、すぐ隣にいる師匠に、そして今の光景を見て圧倒されている騎士達両方に言う。

騎士たちが圧倒されているのも無理はない。

剣を振り下ろした相手が頭上を越え、その際に投げた鉄棒が見事に仲間にヒットし、三人を一瞬のうちに倒した。こんな動きが可能なのか、と。


「そうじゃのう……。猪突猛進じゃなくなった分、マシじゃろう」

「素直に褒めてくれりゃーいいのに」

「まだ一週間の成長を見せてもらってないぞい。評価するのはそれからじゃ」


レーヴァテインをくるっと回転させて肩に乗せる尋賀。

尋賀の師匠はその鉄棍に直接触る。


「この鉄棍は業物じゃのう? 異世界で手に入れたのかのう?」

「へへ。いい玩具だろ? 魔王様からのプレゼントさ。名は約束の鍵レーヴァテインだとさ」

「約束の鍵……?」

「ま、正直名前なんて付けなくてもただの鉄棍なんだけどよ」


二人が話し合っている間に、騎士団の男たちは警戒しながら近寄って来る。

周りを囲まれているのにも関わらず、二人とも表情に変化がない。


「約束の鍵、とは。まるでわしらの友情の証のような名じゃのう」

「オレ達五人の約束の証だとさ。二つの世界をコネクターズカオス現象から救うっていうな」


二人は互いの背中にいる騎士の男にレーヴァテインと薙刀の柄の部分をぶつける。

尋賀の片手で持った突きと、薙刀を両手で持ち、刀身を逆にして突いている師匠。

交差する二人は、すぐにそれぞれの動作に移る。


「それが、コネクターズカオス現象解決の鍵になる、というわけじゃな?」

「らしいぜ? ただ、解決するためには友情の証を破壊しないといけねーらしい」


次の標的の足を払い、低い姿勢からレーヴァテインを持ったまま倒立し、その勢いで蹴る。

薙刀を一度旋回させ、柄の部分を軸にした蹴り。

また、騎士の男が吹っ飛んだ。


「友情の証を破壊じゃと?」

「何でも破壊して、初めてこいつは完成するらしい」


その未完の武器を両手で持ち上げると、その上に師匠が乗る。


「破壊することがどれだけ困難か分かっておるのかのう?」


師匠が乗っているというのにも関わらず、とくに重くはないと尋賀がいつもの調子でレーヴァテインを振り、その勢いで師匠は飛び、そのまま師匠は男たちの頭を次々と踏んづけていく。

踏んづけては沈み、また踏んづけては沈み、抵抗出来ずに地面に伏していく。


「おうとも。騎士団長はぶっ潰さなきゃーいけねーし、その騎士団長は魔法が使えるんだろ?」


少し、表情に変化が表れた尋賀。

しかし、それは強敵相手の不安などではない。

獲物を次々と倒されていることに対する現在の、数に対する焦りのようなものだった。

対抗心が燃え盛っていた結果だ。


「こっちとら弱かねーんだよ。そのこと見せてやりゃー」


レーヴァテインを袈裟切りのように振り下ろし、そのまま振り払い、からの回転切り。

怒涛の勢いは止まらず、バク宙し足を広げて二人蹴り。

着地すれば座った状態から、振り上げながら飛び上がって一人を倒し、その状態から落下に向けて振り下ろしでさらに一人。

一瞬のうちに七人ほど倒れた。鮮やかに。


「異世界旅行は一週間ほどじゃろう? そんなに急に変わるものではないじゃろう」

「そーでもないぜ。かなり濃密な一週間だったな。土産話でも聞くか?」

「聞こう」


尋賀と師匠は背中を合わせる。

二人はその場に留まって武器を振り、時に互いの場所を変えながら戦う。

だが、騎士の男たちに攻撃は当たれど、二人に武器は当たることはなかった。


「オレ達の仲間になった騎士と喧嘩したり、魔王様と壮大な喧嘩をしたな」

「それまでに何があったのじゃ?」

「騎士団を追い出されて未練たらたらなのに死刑にされちまったり、魔王様の中にいる旧魔王様が大暴れしたんだよ」

「他にもあるのかのう?」

「決して無意味な一週間じゃなかったな。異世界で大暴れして、覚悟決めて、ボケ神様に会って、魔王様の昔を見て、そんで親とかも……まあ全員が全員ひでえ奴じゃねえって思えるようになった」

「それはきっといい経験になったじゃろうて。……きっとお主の価値観を変えられる出来事だらけじゃろうて」


あれよあれよという間に、騎士の男は数名のみ。

その数名すら立っていられた時間は一瞬だけだった。

最後の一人は蹴りと薙刀の柄による突き、その両方を受けて倒れた。


「オレ達に勝てる奴なんていねーよ」

「それはどうかのう?」


まるで自分たちよりも強い人間がいる、とでも言っているような口調だが、尋賀は口の端をニッと持ち上げる。


「そいつぁー嬉しい話だな」

「……相変わらずの戦闘狂じゃ。わしがいなくなってからが不安じゃ」

「千年生きてる初代騎士団長様が寿命でも来るってか?」

「……どこまで知っておるのじゃ?」

「さあ?」


倒れた騎士団の男たちで埋め尽くされた道路の上でとぼけて見せる尋賀。

たったの一週間で、尋賀が産まれる前の遥か彼方の話を見つけている。

例え、それが千年来の友人がそばにいるとはいえ、なぜその真実を知る機会が生まれたのか。

彼の捻くれた性格をよく知っている尋賀の師匠は、これ以上言及しなかった。


「それで、のの女。何しに来やがった」


不意に尋賀は電柱に向かって言った。

電柱の物陰に隠れていたルシェールは気付かれていることに気付いていたかのように、特に驚きも何も見せない。

だが、不自然なほどに無反応だ。

険しい表情でただただ尋賀と師匠を見ていた。

その視線を、外さずに。


「……どうしたよ。随分と切羽詰った顔してやがるな」


目の前に倒れている元仲間たちを見て、そんな表情になっているのか。

そう思った尋賀だったが、それは半分の正解でしかなかった。


「重なって見えたの……!」

「何が?」


ルシェールはその一言で顔を伏せて、塞ぎこんでしまった。


「何も言いたいことがねえならとっとと行くぞ」


尋賀はルシェールの手を引っ張り、彼女はそれに従って歩く。

後ろを歩く尋賀の師匠は困り果てた顔で口を開く。


「なんじゃ? 新しい恋人かのう?」

「ちげー。新しいも古いもあるか」

「じゃったら今の彼女を大事にせねば」

「だから美玲は彼女じゃねーよ。本当に寒いんだよ、オレ達そーいうのはよぉー」


二人の会話にも全く参加しないルシェール。

なぜ彼女がここに来たのか。

答えを聞かないまま尋賀は自分のアパートへの道を歩く。


「結構派手にやってんのな、魔王様」


自分のアパートの上に広がる巨大な幾何学模様。

それがちょっとずつ、ほんのちょっとずつ描かれていっている。

だが、それは尋賀の眼から見ても、未完成で、完成にはまだまだ時間が掛かりそうに見える。


「あんなもん、居場所を教えているようなモンだろ」


今尋賀達が迎撃したのは先遣隊。

たしかに先遣隊にもそれなりの人数がいたが、本隊はきっと大規模な人数になるだろう。

その上、騎士団長までいる。

もし、先遣隊のすぐ後に本隊が来れば、流石に尋賀と師匠であっても厳しいものがあるだろう。

尋賀も一度、大人数相手は無理だと自分で言っている。

それらに居場所を教えるのは、どれほど無謀なものか。


「ふむ……。やはりこうするしかないのかのう……」


一人呟き始めた師匠。

その言葉に反応し、顔を上げるルシェール。


「止めるの!! ダメなの!! 意味ないの!!」


責めるように、初対面であるハズの尋賀の師匠に向かって言うルシェール。

急に表情と態度を変えるルシェールに、尋賀は何があったのか、状況を飲み込めずにいる。


「と、言われてもやむを得ないじゃろ」


何の話だ?

そう言いかけた尋賀の言葉は、師匠の予想外の行動によって止められる。


「尋賀よ」


首筋に薙刀を向けられた尋賀に向かって、師匠はゆっくりと口を開く。


「ここにもう一人倒さねばならぬ騎士がいるじゃろ?」


何を言っているのか、尋賀は理解できない。

したくなかった。


「何……血迷ったこと言ってやがるジジィ?」


それでも、唐突に突きつけられた目の前の出来事を無視はできない。

なぜ? どうして? 何をどうしたらこんなことに?

尋賀の眼の前にある現実は、非情で、理解が出来ない展開。


「わしを倒してみせい」


一瞬、何を言われたか分からなかった。

それでも、遅れて言葉の意味を頭が理解する。

だが、なぜそうなるのかが尋賀には理解できなかった。


「なんで、そうなるんだ?」


無表情。

だが、装った無表情の仮面は、何かの拍子で簡単に壊れそう。

厳しい環境で育ち、怒りの矛先を誰彼かまわず振る舞いていた過去から成長した彼は達観した面を多く見せていた。

それなのに。

簡単に、それが、

崩れ去りそうな、現実。


「弟子の成長を見るのが師匠の役目じゃろ? 最期に成長を見ようとおもってのう?」

「何も……ここでする必要……ねぇーだろ?」


自分で言った言葉が、通じるとは思えなかった。

例え自分が言った言葉が正論だったとしても、師匠の覚悟の伴った言葉の前では、全ては妄言にも等しく感じられた。


「わしはこれから騎士団の本隊の囮として向かう。その前にお主の成長をわしに見せてもらおう」


右手に持ったレーヴァテインに力を込める。

だが、思った以上に握りしめることが出来ず、ほとんど立ち尽くしたままだった。







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