鍵
「メイド長殿。もー帰ろうぜ」
「えー。道分からないのに?」
「もう寄り道なんざたくさんだ」
寄り道しつつノデランスノ家に戻るのはもうこりごりだと、尋賀はため息。
これ以上、彼女とデート(本人たちはそう思っていない)をしていたら、身が持たない。
「こんなことなら撒くんじゃなかったぜ。やつらがいれば迷うことなんざぁーなかったんだ」
「? 撒くって?」
「てめえを担いで走ったろ。あん時は野郎どもの視線から逃れるためと、優等生どもを撒くために走ったんだよ」
「でも優作たち、来てるよ」
美玲は指さす。
その先には双眼鏡を装備した者たちが四名。
「あのヤロー。しぶとく付いてきてやがったか」
尋賀は噴水の近くにあったベンチにドカッと座る。
どうせ付いてきているだろう、どうせ近くで笑っているのだろうと尋賀は思ってはいたが、四人が笑っている姿を想像すると、無性にイラッとくる尋賀だった。
「どうする? 尋賀?」
「ほっとけよメイド長殿。どーせ向こうからこっちに来るだろ」
尋賀の言う通り、四人は双眼鏡を下ろし、ゆっくりと彼らのもとに歩いてくる。
「なんでこそこそ付いて来てたのかな? みんなで観光すれば楽しいのに」
「デートになんねえからだろ。ついでにオレ達が何かやらかさないか監視ついでにデートを見て笑ってたんだよ、ったく」
「デートって言われてもご主人様とメイド長の……」
「それ、さっき聞いたんだけど」
尋賀は大きな欠伸をしながら優作達の姿を見る。
特にいつもと様子は変わらない。
顔以外は。
「やっぱ、にやにやしてやがって」
「……この顔のどこがにやにや何だろうね?」
優作以外は尋賀の言う通り、にやにやしているのだが、優作だけは何とも言えない引きつった笑顔だ。
「やたら店の人に怒られているように見えたけど……何してたの?」
「追い出されてた」
表情を変えずに言う尋賀。
溜め息を混じりに優作は呟く。
「やっぱり、美玲を大人しくすることはできなかった?」
「当然だろ。コイツが大人しくなるときゃー大人になるときだぜ」
「……ボク、美玲の将来が心配なんだけど」
「オレは知らねーよ。最低でも将来、コイツに絡まれっぱなしってまでは分かるけどな」
美玲は将来どうなっているのか。
大人になっても騎士を連呼する女性になっているのだろうか。
騎士を連呼しなくても、演技口調がなくても、彼女は暴走すると今回のデートで分かった以上、将来はかなり不安だ。
そんな彼女は将来など気にもせずにナゲリーナとルシェールと話している。
「尋賀とのデートは?」
「観光ならしたよ。お店はほとんど見れなかったけど、最後に決闘の噴水にお金入れたから満足だよ!」
「うげっなの! あの、カップルが絶対に喧嘩してしまう呪いの噴水に……なの!?」
にやにやとしていたナゲリーナとルシェールの顔色が変わる。
なぜ、そんなものにお金を入れたのだと。
「だって、決闘できるんでしょ!? 入れなきゃ損だよ!」
その理論を首を振って否定するナゲリーナ。
「いや、入れたら損をする」
ナゲリーナの言葉を美玲の頭は理解が追い付いていないようだ。
理解するも何も、難しいことも、長いことも言ってないはずなのに。
「ああ、お金、無くなっちゃうもんね!」
そして、理解されることもない。
「違う、そうじゃない……」
「シュヴァルツレーヴェ、言うだけ無駄じゃないの?」
「……確かに」
ルシェールに言われ、ナゲリーナはしつこく食いつくだけ何も得られない、むしろ色々なものが減っていると思い至り、これ以上美玲に真実を教えることを止めた。
「それよりもなの! デート、楽しかったの~?」
噴水にお金を入れたことを頭の中で消去して、ルシェールは尋ねる。
美玲は納得がいかない、といった表情で返す。
「デートじゃないし、ご主人様とメイド長の観光だし」
「……ご、ご主人様って何なの……?」
ルシェールは深読みし、尋賀に殺気を込めた視線を送る。
尋賀は弁明もせず、反応もせず優作と話し続けている。
「何なの!? サカマキが言えって言ったの!?」
「何を?」
「そのご、ご主人さまって言えって、なの!?」
「だって、メイド長だし」
「やっぱり言わせてるの!?」
再び殺気のこもった視線ビーム。
もはや死線ではないだろうか。意味は違うが。
ちゃんと物事を説明しない美玲がこんな状況を生み出しているのだが、尋賀はやはり弁明しない。
ここは美玲が「だって、メイド長だし」ではなく、「今はメイド長の格好をしているから、だから私から尋賀をご主人様って呼んでる」という説明が妥当か。
だが、そんな説明をする気配を微塵も感じさせない。
勘違いされたまま放りぱなしのルシェールはさておき、とナゲリーナは美玲に対して面白そうに言う。
「尋賀と美玲の子供はきっと、年中反抗期」
「おい」
優作と話していたはずの尋賀が会話を中断してツッコみを入れる。
勝手に尋賀の嫁にされてしまった美玲はそのことに対してしばらく考える素振りだけ見せると、淡々と呟く。
「尋賀とルシェールの子供」
「我が儘な語尾に『の』が付く男の子」
今度は尋賀とルシェールが「おい」「止めるの!」とツッコみ。
だが二人は止まるところを知らない。
「尋賀とナゲリーナ」
「犯罪」
だろーなというツッコみが入るが、やはり止まらない。
「尋賀と優作」
「特徴のない、地味な子」
ありえない組み合わせに、尋賀は無言で二人に迫っていたが、ルシェールと優作に止められた。
つい先ほど、(今までと言っても間違いはない)怒っていたルシェールも態度を変え、同情を込めつつも、静かに比べ物にならない殺気を出している尋賀を何としても止めようと奮闘している。
「私とルシェール」
「すごい騎士」
ガッツポーズする美玲。
だが、その組み合わせもやはりありえない。
彼女にとって、騎士であるかそうでないかが重要なのだろう。
「私とナゲリーナ」
「犯罪」
尋賀と同じときの反応をする。
だが、ありえない組み合わせである以上、犯罪もくそもない。
単に、ナゲリーナが答えたくないだけであった。
「私と優作」
「知らない。未知の化学反応」
そこまで大げさに言うものだろうか。
「じゃあ、最後! 私と尋賀!」
「声のでかい子供」
最初の組み合わせを反対にしただけのはずだ。
年中反抗期ではなかったのだろうか。
もしくは、前後を入れ替えると診断結果が変わるのだろう。
「つーかなんなんだ? 今のは?」
「産まれてくる子供の遺伝診断」
「おう、そうか。次やったらガキ相手でも容赦しねーけど、どーするよ?」
何でもないかのように言う尋賀だが、威圧感がすさまじい。
ナゲリーナはただただ首を横に振るだけだった。
「ちなみにぼくとあなたのこどもはどのようなこになりますかな」
「子供風情がそんなことを考えるな」
居たのかという言葉がどこからか聞こえてきそうなテールノに、冷たく接するナゲリーナ。
もとから無表情で冷たい感じだが、普段の彼女が水がキンキンに冷えてる状態の冷たさで、テールノと接する時は絶対零度だ。
好感度が氷河期状態とも言える。
尋賀はもう何回目になるか分からないツッコみを入れる。
「てめえもガキだろうが」
「……そんなことよりも帰るべき」
「……そーだな」
ナゲリーナがテールノの無表情のまま背中を蹴り、早く案内するように促す。
それを見ていた尋賀曰く、教育ママとしての才があるらしい優作がナゲリーナと尋賀に怒る。
尋賀は直接は関係ないにせよ、普段からの態度の悪さがナゲリーナに移ってる、と言いたいのだろう。
「それじゃあ、あんないしますゆえ……」
テールノを先頭に、歩き出す。
ルシェールも道が分かっていそうだったが、案内をするつもりはないらしい。
ーーー
再びノデランスノ家に戻ってきた尋賀一行。
現在、一行とテールノは庭で騒いでいる。
当然、自身の服を取り戻した美玲はいつもの自称騎士に戻り、喋り方も元通りだ。
「魔王様、てめえは騒いでこなくていいのかよ」
尋賀は庭に置かれたベンチに座り、その隣にちょこんと座るナゲリーナに声をかける。
「特にはそう思わない」
「そーかよ」
二人は庭の方で鬼ごっこをしているらしい美玲、優作、姉弟の姿を見ている。
先ほどから、優作から鬼が変わらないのは彼の身体能力が低いからか。
もうすでに息切れしているようにも見える。
「ははは。子供相手に情けねぇ」
「優作なら間違いなく子供だけを狙ったりはしない」
「そりゃーそーだな」
それで、と尋賀が口を開くと、話題が変わる。
「魔王様が学校作るなんて言ったときは驚いちまったぜ」
「驚いているようには見えなかった」
「驚き過ぎて頭の中真っ白になっちまった」
「……頭の中も外も真っ白」
「ひっでえこと言いやがる」
尋賀は冗談のつもりで言い、頭の中は真っ白くらいで返されると思っていたが、髪のことまで言われるとは思わなかったようで、表情に曇りをみせる。
白髪のことはコンプレックスらしく、触れることは彼にとってタブーのようだ。
「つーかなんで今更学校なんだ? 前からそんな構想でも練ってたのか?」
「違う。これはわたしの意思」
「……つまり、旧魔王様の意思じゃなくて新魔王様、てめえの意思だな?」
「そう」
彼女は一言簡潔に言って頷くと、立ち上がり、大げさに手を広げる。
「この世界の者たちは魔法という概念を全く利用できていない。魔法具もこのノデランスノで売り渡した物と奪われた友情の証のみが人々に広まっているのみ」
「……異世界来たときから、本当に異世界か? って思うほど現実離れしてなかったしな」
「そう。だからわたしは魔法を広め、次に尋賀達が来たときにビックリさせられるようにする」
「でもコネクターズカオス現象、止まっちまったら世界なんて越えられないだろ? てめえの魔法だとどうなるか分からねえし」
「たしかに、現状は予測不能で、このままだと様々な世界に四肢をバラバラにして渡ることになる」
でも、と彼女は呟き、続ける。
「わたしは魔王、ナゲリーナ・フォン・シュヴァルツレーヴェ。近い将来、世界の壁を破って安全に行き来できるようにする」
「そーかよ。それなりに期待して待ってやるか」
「……それなりには余計」
尋賀が軽く笑うと、つられてナゲリーナも軽く笑う。
「へへ。じゃ、やりたいことが出来ねえまま終わる……なんてならねえようにしねえとな」
「そんなことはさせない」
彼女の決意にも似た口調に、やはり尋賀は軽く笑うだけだった。
「だったらオレも体力をつけねーとな」
「これ以上つけて何になる?」
「まだまだ上、目指せるからな」
立ち上がり、軽く手首足首を動かす尋賀。
「さて、オレも混じるとしますか?」
「……ならわたしも」
「んだよ。さっき、しないって言ったろ」
「特には騒ごうと思ってない、の間違い。今は騒ぐ気満々」
「あっそ。オレ、ガキ相手の鬼ごっこでも容赦しねーぜ?」
そこから尋賀とナゲリーナの混じった鬼ごっこは凄まじいものだった。
尋賀は優作が鬼になる度に、わざと鬼に近づき、タッチされる。
彼は底なしの体力で逃げ惑う者達を執拗に追いかけ、本当に『ごっこ』で済む内容か怪しいものだった。
また、ナゲリーナは自身の服装や体力から、同年代のテールノにすら追い付けず、紳士を自称する彼がわざと近づいたことを皮切りに、本気を出すと試験管を取り出し、他の者達も各々が本気……というよりもやりたい放題を始め、鬼ごっこをやがて『鬼との戦争』と語ったのは優作の談である。
ーーー
「うう、散々な目にあったよ……」
やつれきった優作の一言。
ナゲリーナと美玲はやり過ぎたと反省し、尋賀は特に聞いていない。
一行は夕食を取り、明日に向けて早めの就寝に着こうとしていた。現在は客間のベットの上である。
ちなみにルシェールは、今も存在する自身の一人部屋でゆっくりと休息をとっている。
さらに補足すると、彼らはルシェールの部屋の前に「弟禁止」と書かれた用紙を見るが、それぞれがどう思ったかまでは、もはや余計な蛇足だろう。
「そんでどーするよ。まくら投げでも始めよーか?」
鬼ごっこを戦争にまで昇格、あるいは降格させた張本人が枕を装備。
すでに投げる準備ができている。
「むっ! その勝負、受けて立つぞ!」
それに乗る妄想騎士。
溜め息と同時に止める優作。
「さすが戦闘狂。周りに迷惑じゃないと判断したら即喧嘩だもんね」
「……優等生は不満そうだな」
「当然だよ。ここはもっと大人しいゲームにしなよ」
チラリと美玲を見る優作。
すでに彼女も枕を構えている。
「んじゃ、しりとりな。燐。終わり」
始まって一手目で終わってしまうしりとり。
尋賀は布団を被ると、ものの数秒も経たずに寝てしまう。
うるさくされるのが嫌だったためにしりとりを提案したのだった。
考え通り、一番うるさいことになりそうな美玲は枕を下ろしてやる気満々だ。
「……じゃあ、しりとりの『り』からで、りんご」
確かにまくら投げよりも平和そうだと、尋賀の初手投了を呆れつつもしりとりを再開する。
ここまでは平和的だった。
美玲は嬉々として自分の作った造語を登場させ、ナゲリーナの許可を貰いガッツポーズ。
優作も固有名詞ではなく、動詞だとか、別名称や俗称の使用もまた、許可。
そんな条件縛りがほとんどないしりとりが結果として、
「量子力学!」
「クロム」
「無尽蔵!」
「漆」
「硝酸カルシウム!」
「霧視」
「臭化カルシウム!」
「無機物」
「番い!」
熱くなる優作に、それをいなすように淡々と答えるナゲリーナ。
この二人の数時間に及ぶ一騎打ちとなっていた。
ちなみに美玲は途中で眠たくなったためにリタイア。
すでに多くの単語が使用不可能になっているあたり、かなり白熱している。
どこまでが異世界の住人であるナゲリーナに通じるのか分からない優作だったのだが、臭化カルシウムだとか、量子力学が出ている辺り、もはや何でもありになったようだ。
というよりも、それをいいことにカルシウムを二連続させた優作は案外大人げないかもしれない。
それとも、こういった頭脳戦には負けたくないプライドのようなものでもあるのだろうか。
この終わりなき対決は、尋賀のやかましいという声で終わりを迎えたのだった。
ーーー
「たく。オレの睡眠の邪魔にならねえようにしりとりにしたハズなんだけどな」
「ちょ、ちょっとムキになっちゃた……」
「ちょっとのつもりがなんで寝不足になってんだよ」
優作とナゲリーナは大きな欠伸を手で隠す。
途中で起こされた尋賀は、そのまますぐに寝たため寝不足ではないようだ。
現在、ノデランスノ家前。
フェルデファンに一日滞在した彼らは、早朝にフェルデファンを出るようナゲリーナに言われていた。
……のだが。
「アマギとシュヴァルツレーヴェがすごい眠そうなの」
見かねたルシェールが尋賀に言う。
「自業自得だっつーの」
と、尋賀の素っ気ない返答。
ナゲリーナは眠そうな顔で、横から入る。
「帰りの馬車で寝る」
優作も頷き、二人は揺れる馬車の中で寝ることを決定していたようだ。
「お金、持ったよね」
「当然。貰った分は後で返す」
一歩、ナゲリーナは足を前に出す。
それを呼び止めるのは、ナゲリーナからの好感度最低の少年。
「まってください。もういかれるのですか」
テールノ少年はどこからともなく花束を取り出し、彼女に向ける。
「燃やす」
有無を言わさずに燃やす宣言。
テールノはそのまま美玲に花束を向ける。
「……むっ!? …………」
特にコメントは思いつかなかったようだ。
がっくりとうなだれた後に、そのままルシェールに。
「おねえさまのためによういしました。どうぞ」
「私のためじゃないの! 明らかに違うの!」
その光景を見ていたルシェール父が笑う。
「はっはっは。二人は長い間、離れて暮らしていたが、こんなにも姉弟仲が良いとは」
「違うの!」
否定するルシェールに、肯定するテールノ。
「そんで、てめえらは見送りに来たってか?」
尋賀はどうでもよさげに確認する。
親子が二人同時に頷く。
「ルシェール。どうしても行かないといけないのか?」
「当然なの! ここまで来て付いて行かないって選択肢はないの!」
一週間足りずで、ここまで信頼されるとはな、と笑う尋賀。
「そこまで言うのなら行きなさい。ただ、昨日言った通り、いつでも帰ってきなさい」
「ぼくはかえってくるのをいつだってまっています」
優作は尋賀のカッターシャツの裾を引っ張り、小声で話し始める。
「ルシェールはここに残った方がいいんじゃないかな」
「……そいつぁーいいけど、やっぱ指名手配されてる分危険だろ」
「……でもそれはナゲリーナだって一緒じゃないか。もうボク達の世界で暮らす必要なんてないんじゃぁ……」
「そりゃー本人は気付いてるだろーぜ。あとは本人次第ってわけだ」
もしも、ナゲリーナの言うように学校をこの街で作るとすれば、騎士団から狙われており、危険な身であるナゲリーナが近くにいることになる。
ナゲリーナは自分の身を安全にするハズ。そこに指名手配されているルシェールが一緒に住んでいても、危険は及ばないのではないか、というのが二人の考えである。
そこから、優作はルシェールは家で暮らすべき、という考えと、尋賀の本人の好きにすべき、という考えに二分されている。
「つっても、本人、働くのかねえ……」
「うーん……」
尋賀のその一言で優作も考え込む。
なにせ、商売の才がないらしく、本人が持っているもは剣の才能だけだ。
父親も「働かない」「頭を抱えた」と言っている辺り、完全なお荷物状態になるのではないか、と悩む二人。
他人の将来を勝手に考えられているルシェールには二人が有難迷惑らしく、二人を刺すような視線で睨み付けている。
「だーまーれーなーのッ! とっとと行くの!」
ずがずがと憤慨しながらルシェールは歩き始めた。
置いて行かれた一行。
「今は戦力がいる。ルシェールを戦力から外すのはマズイ」
と、ナゲリーナが二人に向かって言うと、ルシェールの後に続く。
「そっちじゃない。フォーゲロンのところへ」
ナゲリーナの静止を聞かず、ルシェールの歩みは止まらない。
「しゃーねえ。オレ達も行くか」
「うむっ! そうだな!」
「あ、ありがとうございました。お邪魔しました」
尋賀は頭の後ろで手を組んで気楽な感じで、美玲はいつもの演技口調とともに、優作は頭を下げてから先に行ったルシェールの後を追う。
ーーー
「完成した。持って行け」
フォーゲロンの鍛冶場前。
フォーゲロンは手渡しもせず、視線だけを地面に放置されたものに向ける。
「私の剣、直ったの!? 鞘が変わってるけど、なの」
勢いよく自身の剣を掴み、鞘から剣を取り出すルシェール。
喜びに満ちた顔は、一瞬にして絶望色に染まる。
「と、刀身が別の物になってるの!」
鞘の大きさの違いから、彼女は中身が異なっていることに気付いていなかったようだ。
「私の剣は細剣なの! 今すぐ作り直すの!」
「まあ、待てよのの女。細剣だったらまた折れるからやめとけって、優等生が」
「ボクは言ってないよ!」
彼女は唇を尖らせ、不満そうにしているが、渋々、剣を鞘に戻し、腰に刺した。
「そんで、騎士殿の弓矢にオレは鉄製の棍棒か?」
美玲は弓矢の一本を手に取ると、注意深く眺める。
そんな彼女をよそに、ナゲリーナの注文を思い出す尋賀。
一つがルシェールの剣、一つ謎だったものが美玲の弓矢。
ならば後一つ、ナゲリーナの依頼の物がこの鉄製の棍棒なのだろう。
「それがわたしがもっとも手に入れたかった物資」
「ああ? これが?」
鉄製の棍棒がそんなに大事なのか。
流石に武器ではない鉄パイプより、戦闘用に作られた棍棒の方が尋賀にとって戦いやすいだろう。
だが、重要重要言っていた割には、さして重要な気配は感じられない。
「それは鍵」
「鍵? これがか?」
「そう、世界を救う、魔導砲起動の鍵」
色々と触ってみる尋賀だが、やはりただの鉄製の棍棒としか思えない。
いや、鍛冶屋が叩いて作った棍棒なので鋼製が正しいか。
なんにせよ、ただの鋼の棒でしかない。
「まだわたしが陣を描いていない。だからまだ未完」
そういうことかと、尋賀が頷くと、グルグルと回転させ、自身の肩に乗せる。
優作は危ないなと言いつつも注意をせずに、ナゲリーナの話を真剣に聞いている。
「それを使う前にわたし達に約束してほしい」
「……今更どんな約束だ?」
ナゲリーナが一間置くと、全員が彼女に注目する。
関係のないフォーゲロンも。
「それの正式名称は『約束の鍵レーヴァテイン』。わたし達の友情の証とは対になる物」
そう言った瞬間、美玲の態度が変わった。
「レーヴァテインだと!? ならば私にもく――」
「レーヴァテインって言ったら北欧神話の杖だよね」
突如口を開いた優作に、ナゲリーナは頷き、美玲は落ち込む。
美玲は現実を突きつけられるのがどうやら嫌らしい。
「そう。そっちの世界に渡った時に、図書館で読んだ名称を借りた」
「まーたパクりか」
「そう、パクり。でも強力な物には違いない」
そう言って彼女は、尋賀の眼を真剣に見つめる。
「わたし達に約束して。どんな困難が前にあっても二つの世界を救う、と」
救うの部分だけ尋賀には強調しているようにも尋賀は聞こえた。
ナゲリーナに集中していた視線は、今度は尋賀に集中し、反対に尋賀は一行の全員を見回す。
「オレだけ約束するってのはちと荷が重いかもな」
「わたし達、みんなも約束」
一行はナゲリーナに続く。
「ボク戦えないし、役に立たないかもしれないけど約束するよ」
「この最強の騎士、矢薙 美玲! 必ずや二つの世界を救うと約束してみせよーぞ!」
「私も約束してやるの!」
「へへ。そんなに言われちゃー仕方ねーな」
軽く笑い、そして真剣な面持ちで。
「いいぜ――約束してやる。てめえらの信頼を裏切らねえ、必ず世界を救ってやる。この鍵……か? に誓ってやる」
尋賀は、鋼の棍棒を前に持ち、宣言した。




