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謎のデート・暴走編

「はぁ……」


尋賀はため息を一つ。

トボトボと歩く彼の後ろには自称騎士、現在は自称メイド長の矢薙 美玲が付いてきている。


「どうしたのだ、坂巻 尋賀よ! 食事を終え、元の調子に戻ったこの私に相談するが良いッ!」

「悩みの種がてめえなんだよ」

「む?」


美玲が食事を摂れる場所まで行ったところまでは良かった。

お店で豪勢な食事を満足するまで食べた。

昼食を食べた身である尋賀も食事を共にした。

問題はそこからだ。

美玲が観光したいと言い出し、メイド服姿で街中を歩いたのは。

……それも、帰り道が分からなくなるまで。


「どーすんだよ。帰り道分かんねえぞ」

「いや、この最強の騎士、矢薙 美玲。山に入って迷うような方向音痴ではない!」

「……本当に道順分かるのかよ」

「山であればな!」

「ダメじゃねえか!」


完全に迷ったことになる。


「……だって、今の私騎士じゃないしー。メイド長だしー」


美玲はいつもの演技口調を止めて言い訳をし始める。

言い訳になっているのかはよく分からないが。


「……メイド長殿。不毛なデートもどきなんて止めて帰りたいんだけど」

「デート? ……何で?」

「知らねーよ。優等生が勝手に決めやがった」

「おかしーね。今の私はメイド長だからご主人とメイド長が歩いてるだけなのにね」

「ご主人様の前を歩いて迷子になるてめえはメイド長なんかじゃねーよ」

「むぅ。だって、私は元々、騎士だし」

「だったら調子狂うし、いつもの感じで居てくれよ。騎士だっつって暴れるのがオレの中では普通なんだよ」

「……うーん」


美玲は何かを考え始める。

どうせまたロクでもないことなんだろうな、と思った尋賀は歩き始めたが、腕を美玲に掴まれた。


「ふっ! 今のこの姿は世に忍ぶ仮の姿なのだ。普段の二人はメイド長とご主人様という関係だが、その正体は共に戦う最強の騎士なのだッ!」

「オレ、ただの不良なんだけど。ご主人様でも騎士でもなんでもねーんだけど」

「よしッ! これならしっくり来るぞ! ……おっと、秘密にしないとね、ご主人様」

「秘密も何もねーし、ご主人様言うなら敬語使えよ」

「えー、尋賀も使わないのに?」

「だからオレ、不良だって言ってんだろ……。つーかやりづれーよ……」


いつもと全く異なる美玲に、完全に調子を狂わされる尋賀。

それはそうだ。

尋賀すら美人だと言っている美玲が、メイド服を着て、女性らしく振舞い、ご主人様と呼ぶ。

その気にでもなればどんな男の心も鷲掴みだろう。

掴めないのは尋賀くらいだが、その尋賀ですら対応に困っている。


「さーて、どうするの?」


背を伸ばし、伸びをする美玲に、周囲の人間たちの視線が集まる。

見られていることを気にもせず、気付きもしない本人。


「まずは離れてくれね?」

「えー、やだ」


ご主人様の命令を無視するメイド長。

これが本当の仕事だったらすぐにクビだろう。


「あんなぁ……周りの野郎どもの視線が集まってくるんだよ」

「? だから?」

「だからこっちとら恥ずかしーんだよ。できりゃーオレの知らねー遠くで勝手にやってろ」

「なんで恥ずかしいの? 尋賀ってそんなこと考えないよね」

「変な目で見られるからに決まってるだろ」

「ふーん。……変なの」

「……オレ、おかしいこと言ったか?」


とにかく、と尋賀が言うと、歩き始める。


「屋敷に戻るぞ。てめえとデートなんざぁー真っ平御免だぜ」

「ちょっと待ってよ、尋賀!」


美玲は彼を呼び止める。

未だに演技口調をしない美玲に、慣れぬ尋賀。

本来の口調はこちらであるハズなのに、どうにも聞き慣れない。


「んだよ。とっとと帰ろうぜ、メイド長殿」

「折角、異世界なんだから観光したい!」

「……そんな服でか? それよりもとっとと屋敷に戻った方が良くね?」

「嫌だよ。ずっとナゲリーナの研究所の中だったもん。異世界をもっと堪能したいよ」

「メイド長にしちゃー良い提案なんだが、オレ達、道に迷ってるってことと、金はガキから貰ったモンってこと、忘れてねーよな?」

「細かいことを気にするなんて尋賀らしくないなぁ~」

「細かくねえから気にしてんだよ」

「ってことで、出発!」

「どういうことでだよ! つーかご主人様にどんだけ逆らってんだよ」


再び先頭を歩くメイド長こと美玲。

本当にメイド長失格である。


出発した二人を付け回す人影が四つ。

しかも、尋賀に気付かれまいと双眼鏡を使い、離れた距離から二人の動向を見守っている。


「うーん……これで声も聞こえてきたらいいのにね」


眼鏡越しの双眼鏡で尋賀と美玲の様子を見ていた優作が呟く。


「仕方ないの! サカマキは近づいたら間違いなく気付くの!」


ルシェールもまた、双眼鏡を用いて動向を探っている。


「それでも尋賀ならわたし達の考えに気付きそう」


ナゲリーナは双眼鏡を下し、白衣の袖で顔を隠しながら言う。

隠しているが、若干笑っているのがバレている。


「その点は大丈夫だよ。美玲を担いで全力ダッシュして、ボク達を撒いたと思ってるだろうから」


ナゲリーナの疑問に答える形で優作は言う。

彼はそのまま、双眼鏡で凝視しているテールノに向かって言う。


「お金と双眼鏡、ありがとう。ボクからはお金を返せないけど、代わりに出来ることならなんだってするよ」

「だいじょうぶです。すてきなじょせいにめぐりあえました。すてきなデートもみれます。これくらいでじゅうぶんです」

「助かるよ。ボク達、お金無くて、不甲斐なくて」


年の離れた子供にお金を貰うことに引け目を感じている優作。

反対にテールノは双眼鏡を使い、食い入るように尋賀と美玲を見ている。


「よくをいえば、かのじょのあいをくれるならばうれしいのですが」


チラリとナゲリーナを見る。


「…………」


ズゴゴと殺気で返事。


「まあとにかくふたりのデートをみまもりましょう。せっかくこんなにもそうがんきょうをもってきたのですから」

「……ところで何で双眼鏡を四つも持ってたの? そもそも何の目的で双眼鏡を持っているの?」


姉は疑問に思い、弟に問う。


「きほんてきにじょせいをみるようです。ひとつはしようよう、ひとつはこわれたよう、ひとつは……」

「もういいの。お前、私の弟なんかじゃないの」


頭痛でも襲ってきたのか、ルシェールは頭を押さえる。

本当に彼は弟だろうかという疑問と疑いがルシェールの中で渦巻く。

彼女の一家に、ルシェールのように語尾をつけて話す者がいない辺り、血がつながってないかもしれない。語尾が遺伝するものかは知らないが。

だが、彼女にとって残念なことに血は繋がっている。


二人のデートは美玲が先頭で続く。

と言っても二人ともデートを意識しておらず、尋賀からすれば美玲に付き合わされて偶然デートのようになっているだけ。

美玲にしてみれば、異世界というものを隅から隅まで楽しみたいだけ。

それが、たまたまデートのようになっているだけなのだ。

つまりはどちらもデートと考えてない。


「絵画が売ってる! あっ! こっちには鎧売ってるよ! 私の服も鎖帷子くさりかたびらに改造しようかな~? おお、異世界にも漫画があるよ! ちょっと古い感じっていうか寂しい感じっていうか私達の世界とはだいぶと違う感じがするけど!」


――のだが、美玲のテンションは演技口調じゃなくても高い。


「おい、メイド長。バカなことするなよ」

「……ええ~。私、何もしてないのに」

「何回もしでかしてんだよ。てめえは大人しくしろってんだ」

「むぅ~。尋賀はさ、逆に冷めすぎてるんだよ」


ふくれっ面になる美玲。

だが、尋賀は全くと言ってもいいほど反応しない。

もはや反応するだけ面倒に感じてきたようだ。


「いいだろ? オレがどう思っても」

「あー、私、尋賀のそーゆーところは嫌いだな」

「あっそ」

「私みたいに尋賀ももっとカッコ良くなろうと考えればいいのに。そうだ――」

「番長服をカッコ良く思ってるのはてめえだけだ」

「まだ何も言ってないのに、見透かされちゃったよ……」


口調は異なるが、やはり美玲は美玲。

何を考えているのか、尋賀にはお見通しなのか。


「そういうわけで服を見に行こうよ!」

「どういうわけでだよ」

「むぅ。こういうわけでだよ!」

「だから、理由をちゃんと説明しろって言ってんだよ」

「番長服の代わりの服を探しに行こうって」

「行かねーよ。とっとと帰るぞ」

「どうせ道分からないなら適当に回ろうよ」

「回る前に帰った方がいいっての」


二人は互いの手を取って、それぞれ反対方向に引っ張り合う。


「てめえ、メイド長ならご主人様の命令聞けよ!」

「やだよ! 異世界観光したいよ~!」

「いつだってできるんじゃねーの?」

「無理だよ! 異世界は近所にはないよ!」


対立する二人。

だが二人が対立すればするほど周りの視線は集まってくる。


「……あー、分ぁーたよ。服屋でも異世界でも好きなところ行って来い」


現時点で異世界にいるのだが、そのツッコみは野暮だろうか。

尋賀が承諾したので、美玲は満面の笑顔でグーを上げる。


「よし! 早速行こうよ、尋賀!」

「……へいへい。騎士殿と関わるとロクなことになんねー……」


反対に暗く、淀んだ表情で手を上げる尋賀。

本人がそんなつもりがないことを差し引いても、デートをしている顔ではない。


ーーー

二人がまず入ったお店は服屋だった。

尋賀の似合う服を探す、との話だったが、


「なんか、似合わないね」


と試着もしてないにも関わらず一蹴される。

さらに彼女は店に並んだ服たちにも地味だの、カッコ悪いだの、こんな服私達の世界に普通にあるだの言って、店員の怒りを買い。

居づらくなった尋賀は、美玲を連れて店から出ていく。

店から出ていくと美玲は次のお店……武器屋を探すと言って探し始める。

探し続けた結果、美玲は武器屋を発見して中に入ると、


「あっ! すごい剣! 欲しい!」


と先ほどの服屋での反応とは百八十度異なる対応をしたかと思うと、これください宣言。

彼女にとって、修学旅行で木刀を買うようなノリだったのだろう。

店員が来る前に尋賀は美玲を連れて店から出ていく。

彼がそうした理由は二つ。

一つは今更感が凄いが、銃刀法。

一つは剣に金やら銀やら、とにかく豪華な装飾がなされている上に、ショーケースの中に入れられ、値札の0の数がとんでもないことになっているからだった。

美玲は拗ねた様子で、次の店を探しに行く。

彼女は遊技場を見つけ、止める尋賀を無視して中に入っていくと、


「おお! 弓で射れば賞金が貰えるのか!」


演技口調と素の口調の混じった、興奮気味の声で参加。

彼女の研ぎ澄まされた感覚で次々と的を射る。

結果……二人は賞金を持たされ、『出禁』を食らった。

そこまでの腕を持っておきながら弓道部にでも入ればいいのにと、尋賀は思っていたが、美玲がこれで二回目の出禁だと嘆いた瞬間……一回目の出禁がどこで言われたのか察した。


二人のデートは続く。

その二人を遠くで見守っている者たちの追跡も続く。

土産屋に行くとお店に置いてあった龍の鱗という小物を美玲が砕き、弁償した上で出禁。

怪しい露店で売っている、力を持った札なるものを、美玲は空に掲げ、風に飛ばされ、紛失し、弁償し、出禁。

本屋で、この世の全てが書かれた本……というものを取り扱った古い小説を、美玲は本気で全てが書かれていると思い込み、何度も何度もページをめくり、破り、弁償からの出禁。

別の土産屋に行くと、かつて、とある街の女自警団長が使っていたという剣の模造刀を、美玲は振り回し、店の物と模造刀を壊し、弁償からの出禁。

次の店は……なんやかんやで弁償出禁。

その結果。


「てめえ、いい加減にしろよ!?」


もはや、尋賀は黙ってられなくなった。


「うう~……今日はよく物が壊れるね」

「壊れるんじゃねえ! てめえが壊してんだよ!」

「あっ! その『壊れるんじゃねえ! てめえが壊してんだよ!』って台詞、カッコ良くない?」

「どーでもいいんだよ! ンなこと!」

「尋賀、怒ってる?」

「怒ってないように見えるってか? これが!?」

「うん!」


尋賀の容赦のない、無言のヘッドロックが美玲に炸裂する。


「冗談! 冗談だって!」


慌てて尋賀の腕を数回叩き、降参の意を示す。

首を絞められているハズだが、尋賀はしっかりとは絞めていないために、呼吸はちゃんとできていた。

解放された美玲は尋賀から距離を取り、尋賀の無言のヘッドロックを警戒する。

自らの安全を確認すると、彼女は視線を明後日の方向に向けながら謝る。


「次はお店の物、壊さないようにしマ~ス……」

「それが常識だっつーの。てめえ、元の世界でも店の物壊して、出禁食らってねえよな?」

「…………」

「眼ぇ逸らすってこったぁ、何件かやりやがったな」


眼を逸らすだけではない。

汗も大量に流れている。

ルシェールの細剣も壊した彼女には、壊す才能があるのかもしれない。

ルシェールの時は仕方がないにせよ、もしあるとしたら嫌な才能だ。


「さ、最近はしてないから!」

「今日やっただろうが」

「うっ! ……その、うぅ~」


消えるような唸り声。

特にこれと言った言い訳が思いつかなかったのだろう。


「ま、中二病のてめえが一般常識を覚えていってるだけ成長してるんだろ」


ぶわっと沈んでいた顔を勢いよく上げる美玲。


「まだまだバカの塊だけどな」


ずーんと勢いよく顔を沈ませる美玲。


「……はぁ」


尋賀は一つ溜め息。


「てめえは料理もできるし、狩りも、服を作るにしても、何やらせてもすげーのにどーしてやることなすこと無茶苦茶なんだよ」

「だって! ……尋賀に勝ちたいから」

「また妄想かよ。もう何回目だ? 少なくとも飯食った回数だけ妄想してるだろ?」

「…………」

「シカトかよ。いつになったら妄想を卒業できるんだ?」

「……しないし、できないよ」

「あん? どーいう意味だ?」

「ふーんだ。教えない~」

(妄想って自覚はあるのか?)


釈然としない尋賀。

彼女とは、それなりの時間、友人として接していたはず。

なのに、彼女のことが未だに理解できない。

矢薙 美玲は坂巻 尋賀に憧れている。

矢薙 美玲はカッコいいことが好き。

矢薙 美玲は妄想が好き。

矢薙 美玲は中二病。

矢薙 美玲は時に……尋賀にも、誰にも分からない時がある。


「尋賀! この話、終わりにして、あそこの噴水に行こうよ!」


尋賀が考える前に美玲はメイド服姿で走り出す。

一体彼女は何なのか。

ただの中二病の、坂巻 尋賀の悪友ではないのか。

いつも、騎士だと言って勇ましい口調で話しをし、意味不明な行動をしでかし、時に周りが見えなくなって暴走しがちなお調子者で、かつては無茶な行動をしでかして、二人が友人になって、信頼するようになって……。

答えを探しつつゆっくりと美玲のいるところに歩く尋賀。


「尋賀! お金!」


何を言い出すのかと、尋賀は思ったが美玲が、素振りで投げる動作をしていたので、噴水に向かって硬貨を投げるつもりだと気付く。


「ほらよ」


尋賀が美玲に向かって硬貨の一枚を投げると、美玲はそれをキャッチして、噴水の水の中に入れた。


「これ、投げ入れるとどーなるんだ?」


疑問に思った彼は近くにある立札の説明文を読む。

決闘の噴水。

嫌いなあの人と別れたい、あの人ととの関係が薄くなってきた、そんなあなたはこの噴水に、あの人から貰ったお金を入れてみましょう。

するとどちらか一方に不幸が起き、二人は不仲になるでしょう。

その時、二人は決闘をし、新たな出会いのために別れを――


「てめえ、この野郎! なんつー願掛けしてやがる!」

「えっ!? だって決闘できるって……」

「決闘を明るいもんだと……あーそうだったな!? てめえは決闘好きだもんな!? オレも喧嘩好きだよ、へへへ!」

「うん! 私との決闘の約束を忘れないためにね!」


やけぐそ気味に笑う尋賀。

やはり、矢薙 美玲という女性は、尋賀の理解の範囲外だった。


「てめえ、オレのこと嫌いなのかよ」

「ん? 別に?」

「やっぱ、騎士殿は理解できねーな……」


噴水に向かって、手を叩き、尋賀と熱い勝負が出来ますようにと願掛けする美玲。

反対に尋賀は冷静に、こんなものが叶うわけがない、迷信だと決めつけるのだった。







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