謎のデート・開始編
「なあ、騎士殿。一応聞いとくけど、なにやってんだ?」
食事を終えた尋賀一行は、屋敷のエントランスで何かをしていた美玲を発見する。
「これからメイド服を改造するところだ! ぜひ見ていってほしい!」
美玲は尋賀に一枚の用紙を突きつける。
その紙には細部まで丁寧に描いてあるメイド服が。
だが、元の原型を留めておらず、ナイフやらいろいろなものがメイド服に取り付けると書いているためメイド服かどうかかなり怪しい。
そして、どこから手に入れたか、美玲が連れて行ったメイドと同じメイド服が手に握られていた。
「うむ! この屋敷にあるメイド服は地味だと思ったのでな! 改造しようかと考えたのだ!」
調子に乗って暴走する美玲ほど怖いものはなし。
この言葉を暗黙の了解として持っているため尋賀の後ろに優作、ルシェール、ナゲリーナの順で隠れた。
彼女の脅威に怯える仲間たちとは反対に、慣れている尋賀は堂々としている。
「一応聞いとくけど、それ、追い剥ぎしたものじゃねーよな?」
「む? 追い剥ぎ?」
「そのメイド服、どっから盗って来たのかって聞いてんだよ」
尋賀はその持ち主の最悪の事態を想定していた。
食事前に美玲が連れて行ったメイドが今どうなっているのか。
そして、今後彼らはどうなるのか。
尋賀の背中に隠れた者たちに戦慄が走る。
「それならば心配ないぞ! ちゃんと許可を貰って、いらないこれを好きにしていいと言っていた!」
不要なメイド服というのは本当らしく、裾の方をよく見ると破けていた。
だが脅威はまだ去っていない。
このメイド服を改造して彼女がしでかすこと。
当然、服なのだから着用するのだろうが、果たして着るのか、着せられるのか。
「ね、ねえ、美玲。改造してどうするの?」
「おっと、私としたことがこれをどうするか決めていなかったな」
優作はしまったと口を自身の口を塞ぐがもう遅い。
作って満足すればそれでお終いだったものを、不安のあまり聞いてしまった。
及ばなかったはずの被害が、彼らに牙を剥こうとしている。
「ふむ。やはり誰かに着せねばな」
思案し、美玲はあることに気付く。
「そうか! 天城 優作! このメイド服を着てみたいのだな!」
「なんでそうなるのさ!?」
「最近はそういうのが流行だと聞いたことがある! だから私に尋ねたのだな!」
「何の話!?」
「……ふむ。でも優作は似合わない……と思うんだけどなぁ~」
「ねえ、自分から話を振っといて急に真顔になるのやめてほしいんだけど」
とりあえず優作は除外された。自分から言っておきながら美玲的には『ない』らしい。
「となると後は――」
「はいはいなの! シュヴァルツレーヴェがよく似合うと思うの!」
「わたしよりも尋賀が」
「おい、魔王様。なんでオレに振るんだよ。やっぱ優等生にしとけよ」
「ちょっと待ってよ! なんでそこでまたボクに振るのさ!?」
「てめぇが犠牲になりゃー皆が平和になるんだよ」
「やだよ! そんな生贄! そんなことを言うなら尋賀が着ればいいだろっ!」
「着れば醜い姿を晒すからオレぁいい。見たくねえよな? てめえら」
「サカマキが着ればいいの!」
「多少のリスクは仕方がない」
「……そもそも男が着てどーすんだよ。だったら女であるのの女が着るのが一番だよな」
「無理矢理は嫌なの! ドレス着てるシュヴァルツレーヴェが着ればいいの! 大差ないの!」
「わたしのこれも無理矢理。そんなことよりも尋賀は一度も美玲の犠牲になってない」
「ンなこと言ったら優等生の服は騎士殿が作ったやつじゃねーぜ?」
「だからまたボクに振らないでよ!」
「――普通に修繕して返そうかなって言おうとしたのに……」
必死になって美玲のターゲットから回避しようとする。
当の本人は飽きてしまったのかのように静かに裁縫道具でちまちまと修繕を始めた。
そこで尋賀は最後の人物に話を振る。
「自分で着ろよ、騎士殿」
ピタリと糸を通した針の動きが止まり、美玲の視線がゆっくりと尋賀の方に移動する。
「どーしたよ」
「……やだよ」
「ああ?」
「メイド服なんて着たくないよ! 私は騎士なんだよ!」
尋賀の一言で修繕の手を止めて猛抗議する美玲。
「だからどーした」
「カッコよくないとやだー!」
「自分で作ったんだから自分で着ろよ。なんでてめぇの着てる服はよくてメイド服はダメなんだよ」
彼女が今着てる服はお手製のワンピースだ。
さらにその上にマントのような服を羽織っている。
尋賀から言わせればどちらも大差ないのだ。
尋賀の基準は恥ずかしさだが、美玲の基準はカッコよさなのだが。
「女扱いされるのが嫌なんだよー! 私は守られる側じゃないもん!」
「違いが分からねえって言ってんだよ!」
「違うもん! 私の服はカッコいい騎士の制服だもん! メイド服は戦う人間の服じゃないもん!」
「もんもんうるせえっての。てめえは門にでもなりたいのかよ」
「門じゃないよ! 騎士だよ! メイドじゃないよ! 騎士だよ!」
「あーはいはい。立派な騎士なこって」
「うわ~ん! バカにされたぁ~!」
騒ぎ始める美玲に対して、尋賀は耳を塞いで聞いていない。というよりもこれ以上聞きたくないらしい。
だが、どれほど待っても美玲は止まることはない。
しばらくして、根負けしたかのように尋賀が謝る。
「……だぁーもう! バカにして悪かったよ! だから黙れよ!」
「……謝ってほしいわけじゃないよ!」
「……さっきのは一切バカにしてねえ本心だ。てめえ以上の騎士をオレは知らねえよ」
「本当に……?」
「当たり前だ」
何せ、美玲以上の自称騎士を尋賀は知らないからだ。
つまりはバカにしているのだが、そうとも知らずに美玲はすぐに調子に乗る。
「ふはははは! 何せ、この矢薙 美玲! 弱き民を助ける強き騎士だから当然だっ!」
「……ちょろ」
「むっ!? 何か言っただろうか!?」
「さすがって言ったんだよ」
「そうとも! この命を燃やし、全ての民を守るぞ!」
その意気込みを、破けたメイド服に注ぎ始める。
おだてればすぐに調子に乗る彼女に、尋賀は再びちょろいと心の中で笑う。
だが本題はメイド服の修繕でも、メイド服をどうするかでもない。
「ねえ、尋賀」
「どうしたよ、優等生」
「そろそろ行こうよ」
「っと、わりぃ。そうだったな」
本題は彼女を連れて尋賀一行全員でフォーゲロンのところに行く。
これを彼女に言いに来たはずが、いつの間にやらメイド服を誰が着るのかという話しになっていた。
誰も得しない話だったが。
「おい、騎士殿。出かけるぞ」
「何のつもりだ? 坂巻 尋賀。観光に行くのか?」
「ちげぇーよ。これから用事があるから出かけるって言ってんだよ」
「そうか。ならば私もついて行くぞ!」
そう言って彼女はメイド服を持ったまま立ち上がる。
「おい。置いて行けよ」
「歩きながら修繕する! 早く完成させたいのだ!」
「どーせ完成まで早いんだから、誰かに預けておいて、帰ってからやりゃーいいだろ?」
「何かの役に立つかもしれぬ」
「立たねーよ」
一体、どんな役に立つと思い、言っているのだろうか。
「さあさ、参ろうぞ!」
美玲はメイド服を手に持ったまま宣言した。
ーーー
「そんで、フォーゲロン……だっけか? そいつのところに行ってどうすんだよ」
屋敷を出て街中。
フォーゲロンのところに行くとしか聞かされていない尋賀は疑問をナゲリーナにぶつける。
だが先に喋ったのはルシェールだった。
「フォーゲロンは有名な名匠なの。私の細剣もフォーゲロンの剣なの」
「あの給料三十年分を作った奴か」
その給料三十年分の剣は折れており、刀身は鞘の中に入れられている。
「フォーゲロンの作る剣や武器はどれもこれも芸術品なの。その代わりチョー高いの!」
「……マジで給料三十年分の高級品なのか?」
「うう……。折ったことバレたら殺されるの……」
「ははは。悪い冗談、だよな?」
「くうぅ……なの。誰なの! こんな状態にした奴は誰なの!」
ルシェールが喋る度に美玲の汗が止まっていないのを、尋賀は見逃さない。
暴走する彼女でもさすがにこればかりはマズイと思っている証拠だろう。
尋賀は言及しない。
「不幸な事故ってのはあるもんだよな」
「最悪なの! どうしてこんなことになってるの!」
「しゃーねーよ。相手の魔物のせいだって。憎むのなら魔物か魔王様にしとけよ」
「ああ、その手があったの!」
憎むべき対象が美玲からナゲリーナに代わり、美玲はホッと安堵する。
急に対象を変えられたナゲリーナは表情を変えていない。
「さあ、シュヴァルツレーヴェ、弁償するの!」
「修理する」
「ふんなの! 言うことを聞かないと……できるの?」
「それも兼ねてフォーゲロンのところに行く」
「ま、まあ、修理してくれるっていうなら別に文句は言わないの」
「……ただ修理できるかどうか」
「……えっ、なの?」
何度も表情を変えるルシェール。
できないと思っていた修理ができると言われ、かと思ったら不安を煽るような言葉に、ルシェールに一筋の汗が。
折角、修理できるかもしれないという希望の後に、絶望を叩き付けられた、そんな不安。
「……見えてきた。あそこ」
ナゲリーナが指さす。
指さした建物は他と異なり開いており、そこが鍛冶場だとよく分かる。
そこでひたすら熱した鉄をハンマーで打ち続けている男が一人。
布で頭を巻き、汗水を大量に流している。
「上流階級御用達のフェルデファンで、鍛冶職人であるためにしかたがないことであるが騒音を立てるフォーゲロンは住民達からの非難の的となっている。しかし、その非難を跳ね除けてしまうほど、最高の一品を作る。結果としてフォーゲロンはこの街の一つの芸術家として認められ、フォーゲロンはこの街にとってなくてはならない――」
「誰も聞いてねーのに解説どーも、魔王様」
「解説……」
何もそんなつもりで言っていたナゲリーナではなかったのだが、尋賀は特に聞く気はなかったようだ。
しょぼーんとしているナゲリーナ。
「話は通っているはず。あとは作ってもらうだけ」
口を尖らせながらナゲリーナは言う。
そこまで不満だったのか。
「ま、とりあえず頼めばいいんだろ?」
言うと同時に尋賀は建物の中で、赤くなった鉄をひたすらたたき続けるフォーゲロンに近づく。
「オレ達、魔王様から注文してたモン取りに来たんだけど」
「…………」
「それともあれか。ノデランスノからの連絡とかは来てねーのか?」
「…………」
「話聞いてねーな」
無視される。
優作はナゲリーナに問う。
「話は通っているんじゃなかったっけ?」
「……そのハズ」
二人してどういうことなのか考えていると、不意にフォーゲロンが口を開く。
「……追い返した」
「追い返した? ノデランスノの使者を?」
「…………」
ナゲリーナは問うが、それ以上答えは返ってこない。
おそらくは肯定の意なのだろう。
「なんにせよわたし達の仕事の依頼を引き受けてもらう」
「……断る」
「それはなぜ?」
「…………」
フォーゲロンは視線を壁に向ける。
壁には大量の紙が貼りつけられていた。
「…………」
「つまり、予約でいっぱいだから新しく受注できないと?」
「…………」
フォーゲロンは何も言わずに鉄を窯の中の炎に入れる。
「おいおい、この領土で一番偉い奴の依頼を無視したってか?」
「らしい」
「どーするよ?」
「どうする?」
尋賀とナゲリーナはお互いに顔を向ける。
どちらも解決の糸口を知らぬ顔だ。
「困った。この依頼は絶対に優先してもらわないといけない」
「金かなんかの力でどうにかできねーの?」
尋賀はチラリとフォーゲロンの表情を見る。
汗が流れているだけでその顔に変化は見えない。
「職人気質か。めんどくせーな」
「この手の相手は骨が折れる」
「……全員で考えるか。おい、てめえら! 作戦タイム!」
尋賀のその掛け声で少し離れた位置で、彼らは円陣を組んだ。
……何も言わずとも円陣を組む彼らは、案外仲が良いのかもしれない。
「金の力じゃあ、解決できねー。他に何か方法はねーのかよ」
「コネクターズカオス現象解決のためにはここは譲れない場面」
二人の言葉に皆が頷き、その中で優作は手を上げる。
「普通の方法ではまず無理だろうね。鍛冶職人だけに曲がらないものを持ってるから」
「誰が今、上手いこと言えって言った」
「でも熱した金属は曲がる。だからボクらの持っている『熱』を交渉に使えないかな?」
尋賀がツッコむが優作はまるで聞いていない。
「ナゲリーナの持ってる物で交渉とか無理かな?」
「例えば?」
「仕事の役に立つ物とか」
「……必要かどうか」
「それじゃあ、魔法とかは……?」
「……物とおよそ一緒」
「無理……かな……?」
「相手は強敵」
優作が溜め息を吐いたところで、尋賀はもうどうでもよさげに言う。
「んじゃ、色仕掛けでもしてみるか?」
「嫌なの!」
もはや適当になった尋賀の提案はルシェールによって一瞬で棄却された。
しかも、適当になるまでが速い。
「定番だと思うけどな?」
「サカマキの定番なんて知らないの!」
「おい、ちょっと待てのの女。あれ見てみろ」
尋賀は指さす。
ルシェールだけではなく、その場にいる全員がフォーゲロンの方へと向いた。
「…………」
無言で鉄をハンマーで打ち続けるフォーゲロン。
しかし、妙に鼻の穴が大きく開いているように見える。
……気がする。
熱を扱っているのも原因の一つだが、顔が先ほど以上に真っ赤に染まっている。
……気がする。
「聞いてたみてえだな」
「聞いていたわけではないッ!」
建物の方から声を荒げるフォーゲロン。
「色仕掛けされたところでどうもしないッ!」
(なんかいけそーだな……)
黙っていればいいものを過剰に反応するフォーゲロン。
慌てた様子のフォーゲロンに、尋賀は『刺せる』と確信した。
尋賀が高校野球の球児の如く、声を上げる。
「よっし。そんじゃー色仕掛け作戦開始!」
「嫌なの! 誰がそんなことするの!」
「しゃーねーだろ。ここが世界を救えるか救えないかの分水嶺なんだからさ」
嫌な分かれ道である。
というよりも人が通る街中で、堂々と色仕掛け作戦などと言うのもどこか嫌だ。
「やかましいッ! 大きな声を出すなッ!」
怒鳴り声にも似たフォーゲロンの声。
だが、鼻を伸ばしているように見えるのはもはや気のせいではない。声を出すまでに、少し自分の世界にも入っていた。
「行って来いのの女」
「くうぅなの! どうして私がなの!」
だが、他に案がない以上、これ以外の作戦はない。
しかたなく、ルシェールはフォーゲロンの近くに立つと、仏頂面で言う。
「どうか私たちのお願いを聞いてほしいの」
「…………」
抑揚なしで言った一言は見事に無視される。
期待していたものが大したことなかったがっかり感しかフォーゲロンにはなかったのだろう。
それはそれでルシェールは嫌な気分になった。
「……んじゃ、騎士殿。頼んだ」
「むぅ~……? 色仕掛け、か。私が何をすればいいのだ?」
「頼めばいいんだよ。何々をしてくださいってな」
「ふっ。それだけならば容易い!」
そう言って、美玲もルシェールの後に続く。
「ふははははは! 次は自分で武器を作ってみたかったのだ! この私に武器の作り方を教えてはくれまいか!?」
美玲は腰に手を当て、ふんぞり返りながら言う。
「頼みてぇー内容ちげーし、色気全然ねーんだよ」
「……手取り足取り……弟子なら、まあ……」
「てめえもなんで嬉しそうな顔してやがる」
先ほどよりもフォーゲロンの鼻の穴が広がった。
だからと言って、違うものを交渉できてしまった。
……微妙に下心が見えているのは気のせいだろうか。
「騎士殿はもういっか。次は……」
尋賀はナゲリーナの方に視線を向けるが、ナゲリーナの前に優作が立ちはだかる。
「魔王様――」
「それはダメ」
「んだよ」
「色仕掛けには元から反対だけど、ナゲリーナの色仕掛けだけはダメだよ」
「……ま、上手くいかねーだろーし」
「上手くいってもボクは絶対に信用しないよ。誰を、とは言わないけどね」
と、そこまで言うと尋賀は優作の肩を叩いた。
「つーわけで優等生。出番だ」
「なんでボクが!?」
「しゃーねーよ。こん中で一番ヒロインしてんのは優等生だしな」
「まだそのネタ引っ張るつもり!?」
「行って来いよ優等生。男だろ?」
「男だから色仕掛けしないんだよ!」
そんなとき、美玲がポンッと手を叩く。
「どーした、騎士殿?」
「妙案を思いついたのだ……いや、妙案っていうか、妙ななんとか……」
「はっきりしろよ騎士殿。男だろ?」
「! うむ!」
「え? なんで男って言われて喜ぶのさ」
ぱぁーっと美玲の表情が変わり、思わず優作は横からツッコんだ。
「天城 優作が色仕掛けする方法があるのだッ! ……おすすめはしないけど」
「まさか……アレってか? このための伏線ってか?」
「うむ。そのまさかだ」
優作はそのまま何も聞かずに背を向けて逃げ出した。
しかも全力疾走。
「うわっ!?」
「へへへ。オレから逃げようなんざぁーチーターでも無理ってな」
「ぷぅークスクスなの。逃げ出す悪い子はどこにいるのかなぁ~なの」
逃げ出す優作をすぐに捕まえたのは尋賀とルシェールだ。
どちらも悪い顔をしている。
余談だがチーターは逃げるものではない。追いかけるのが普通のハズだ。
「ちょっ! 離してよ! ボクが何をしたって言うのさ!?」
「何もしてねーよ。何もしてねーけど――」
「面白そうって思っただけなの!」
「何も面白いことにならないよ!」
尋賀とルシェールは優作の両脇を持ち上げる。
宙ぶらりんとなった彼は足をバタバタさせ抵抗を試みるも、成果は得られない。
「ねえ、尋賀。私は止めた方がいいと思うんだけどなぁ……」
そう言って彼女は今まで矢を入れていた袋から取り出す。
フォーゲロンのところに着くまでに修繕の終わったメイド服を。
「やめろッ! 気色悪いッ! 帰れッ!」
フォーゲロンは顔色を変えて怒鳴りだした。
それを見た尋賀は顔を見られないように、背を向けて悪い笑みを浮かべる。
「しゃーね。そんじゃあオレのターンってことで」
尋賀はそのまま美玲からメイド服を奪った。
「んじゃ、ここはオレも一つ色仕掛けでも」
「バカ野郎ッ! 死ねッ!」
「泥水啜って、泥水を啜らせるのが好きなんだよなぁーオレ」
「自分の身を削ってまで見苦しいものを見せるなッ!」
「じゃ、見たくなかったら言うこと聞けよ」
「くッ……脅迫と来たか……ッ!」
結局、脅迫に作戦変更したようだ。
尋賀はにやにやとしめたと内心笑っている。
何も本当に着る必要はない。相手が屈するその時までを尋賀は待っているのだ。
「これしかボク達に方法はないのかな?」
「色仕掛けがだめなら仕方ない」
「やだよ。脅迫も尋賀のメイド服姿も」
優作とナゲリーナがこそこそと話す。
見たらもれなく何か、大事なものがごりごり削れていくだろう。
主に精神面か。
「どーするよ。正直、オレだって嫌だかんな。黙って屈してくれりゃあ平和に解決するぜ?」
「ぐ……人間のすることじゃない……」
「褒めてくれてどーも。オレ、不良だし」
(内容はともかく)悪人面で脅迫する尋賀。
非人道的と言い、追いつめられるフォーゲロン。
そこに追撃で交わるもう一人の人間。
「ふっ! 坂巻 尋賀! この私も追撃するぞ!」
完全に勢いだけの美玲が参加してきた。
「騎士殿?」
「今は緊急時だ! 手荒な手段はやむを得ない!」
「まあ、そうだけどよぉー。何するつもりだ?」
「うむッ! 察するに男らしく、強さを持っている者がメイド服を着ている姿を見たくないらしい!」
「あん? 何を言って……?」
「つまりだ! 最強の騎士たる私が着ているのも見たくないはずなのだ!」
「ちょい待て騎士殿。騎士殿は黙ってりゃー美人だし、男には全然見えねぇ……ん、だけど……」
「ふははははは! 貴様はこの私が男らしいと言ったな!」
「そーだったよな。へへへ……」
尋賀の力ない笑顔。反対に大笑いする美玲。
「騎士殿……いい加減自分が女だって、思い出せよ……」
「ふっ! この最強の騎士、矢薙 美玲。超えるべき相手である坂巻 尋賀と同じ条件にならねば貴様を超えられぬ!」
「さすが騎士殿。漢気溢れることで」
「ふははははは!」
大笑い。
半分、会話のドッジボールだ。
もはや、尋賀はげんなりとしている。
そんな正反対の反応をしている中、また一人違う反応をしている人物が。
「…………」
ハッと作業が止まっていたことに気付き、再び鉄を叩き始めるフォーゲロン。
「見たいのか?」
尋賀の一言に目が泳いでいる。
何がとは言っていないが。
「見せてやってもいいんだぜ?」
「……脅迫には――」
「天国が見てえのか地獄を見てえのかどっちだ?」
「……仕事の内容と報酬次第で」
「天国を選ぶってか」
何が『天国』なのか、何が『地獄』なのかは言わずもがな。
ーーー
美玲は後になってから自分が売られたことに気付き、演技が取れて騒ぎ出す。
そんな彼女を非情にも連れていくのは仲間だと信じていたルシェール。
突然の仲間の裏切りに対して、美玲はなす術なく連行される。
……正確にはルシェールは美玲の暴走に対する腹いせで、二人はフォーゲロンの鍛冶場とつながった自宅の方に入り、着替えという名の追剥をしている最中だ。
「……なんかすげぇ不安なんだけど」
「ボクもだよ」
時折というにはあまりにも短い間隔で二人の騒ぎ声やら、ズシンと何かが落ちるかぶつかったような音が外にまで聞こえてくる。
……きっと家の中を覗けば悲惨な光景が広がっていることだろう。フォーゲロンは何も言わずにいる。
「仕事の件」
彼女、ナゲリーナも不安になりつつも、数枚の紙をフォーゲロンに渡す。
「……剣ではないのか」
「不可能?」
「……金は?」
「いくらでも」
「一か月後」
「明日」
「断る」
「時間がない。わたしの研究成果の一部を報酬に上乗せ」
「研究?」
「わたしはシュヴァルツレーヴェ」
「……何がある?」
「仕事の役に立つ。生活が豊かになる」
「考える」
「世界がかかっている」
「……法外」
「領主に話しておく」
「……いいだろう」
話が終わったようだ。
似た者同士なのか、両者は多くを語らずとも伝わるようだ。
聞いていた優作は何が何やらさっぱりと言いたげな顔をしている。
「ね、ねえナゲリーナ。何を話してたのかな?」
「依頼品について」
「ま、まあ何となく分かるけど。最後の法外って……何かの文句?」
「法外な金額を要求する、と」
「分かるわけないよ。そんな会話」
色々、分からない点も多いが、最後の法外に至っては、何が法外なのか完全に分からない。
世界にかかっていることが法外なのか、重労働が法外なのか、脅迫が法外なのか。
正解は法外な金だったわけだが、分かるわけがない。
というよりもこんな会話でよく伝わるものだ。
「あんた。シュヴァルツレーヴェだったんだな」
フォーゲロンは手を止めずに口を開く。
「そう」
ナゲリーナが一言で終わらせると、彼は手を止めてナゲリーナを見つめ始める。
「世界のために俺の武器が必要か?」
「その通り」
「あんたの力で国を変えてくれるのか? 騎士団の連中をどうにかしてくれるのか?」
「……さすがに苦戦はする」
世界が滅ぶことを知らないフォーゲロンは、世界を救うと言われて国のことだと勘違いしたようだ。
そのことはさておき、ナゲリーナが少し間を置くとフォーゲロンは鋭い視線で睨む。
だが、子供なのに物怖じどころか、全く顔色も表情もナゲリーナは変えない。
「それでも、高い税金や理不尽な法。騎士団の強制介入ができないようにする」
「…………」
無言ではあるが、フォーゲロンの険しい目つきは、まだ疑いの眼差しを向けているということだろう。
「この街は一個の国として独立する」
「……そう簡単にはいかない」
「……この街には防衛システムがあるが、これはわたしが訪問している最中に、騎士団が侵入してくるのを防ぐための物でもある。この街の地下に動力源となる魔法具がある」
「……それが?」
「この防衛システムを常に貼っておけば、外部からの侵入を防げる」
「……防げるからなんだ?」
「……独立できる」
「話にならんな」
「私腹を肥やすだけの身分の高い者や、私腹を肥やすばかりで国民に負担を掛ける王族に関わらないでいたら自然消滅する」
「そんなことをさせないための騎士団じゃないのか?」
「その騎士団もこのわたしが跳ね除ける……ようにする」
二人は納得のいくまで話し続けている。
優作は話の邪魔にならないように小さな声で尋賀と喋る。
「異世界の歴史的転機、上手くいくかな?」
「シンドイってレベルの話じゃねーぞ」
言葉で言い表すことができないほど……想像も絶するほど苦しくなると尋賀は考えていた。
「人間なんざぁー多くなればなるほどめんどくせーのに、国家規模の人間をどうにかするなんざぁーほぼ不可能だろ」
「かもね。でも誰かが皆を引っ張っていく必要があるんだ」
「果たして魔王様の思った通りになるかどうか。未来でも見れたらとっくに見てるんだけどよー」
「……ボクは応援してるよ。そんなことくらいしかできないけど」
優作のナゲリーナ向けて送られた応援の言葉は彼女には聞こえなかった。
優作と尋賀が話し合っているうちに、いつの間にか交渉は成立したようだ。
「この国を良くしてくれるなら、騎士団から武器を作ることを強制されることのない世の中にしてくれるなら依頼を引き受けよう」
「助かる」
「今日も徹夜だ。通常の依頼と同時進行では間に合わない」
「……本当に助かる」
元々の依頼の物と、ナゲリーナの依頼。
どちらも滞りなく完了しようと思えば必然的にそうなってしまうだろう。
「依頼は三つだったな」
フォーゲロンの言葉に尋賀は指を折り曲げながら一つずつ思い出す。
一つはナゲリーナの依頼。
一つは折れたルシェールの剣の修理。
後一つは何だろうか。
「まずは剣を見せてみろ」
フォーゲロンは寄越せと言わんばかりに手を出す。
「これ」
ルシェールより預かっていた細剣を鞘ごと渡すナゲリーナ。
受け取ったフォーゲロンは、真っ先に柄を持つが、するりと柄だけが抜けてしまい、刀身は鞘を下に向けたときに出てきた。
「これは修理できない」
「焼き直しになるから?」
「そうだ。もう元には戻らない」
「高級品……」
ナゲリーナは無表情だが、表情には現れなくても、わずかに視線が泳いでいるように見える。
動揺が表れにくいのか、それとも動揺しにくいのか、動揺を隠しているのか。
「……持ち手の使い方も悪い。折角作った俺の剣を台無しにしやがって」
地面に力なく横たわっている細剣を見て言うフォーゲロン。
「明らかに振り回して使っていた形跡がある。こんな使い方しているならいつかはこうなるか」
それならばもしかすると、美玲が壊さなくても壊れていた可能性があるのかもしれない。
フォーゲロンはしばらく柄を見ていると、鍛冶場の隅の方に丁寧に置いた。
「刺突剣はもう止めた方がいい。それよりもサーベルに変えておこう」
本人のいない間にフォーゲロンは勝手に決める。
勝手に決められはしたが、専門家の意見なので優作は頷く。
「ルシェは剣を振ること多いから、振り回せる剣の方がきっといいよね。ボクは剣に詳しくないけど、細剣って基本的には刺突剣らしいし」
「のの女には優等生が勝手に剣の種類を変えたって言っておくぜ」
「……じゃあ細剣のままがいいかな」
「のの女にはタコのお勧めを無視したって言っておくぜ」
「どうすればいいのさ」
少し間を置いたところで俺はタコじゃない! スキンヘッドだ! と怒るフォーゲロン……を軽く無視する尋賀。
反省の色もなしに悪ぃ悪ぃと適当に謝ると、フォーゲロンは黙って熱した鉄を叩き始めた。
「……一応、報酬」
消えそうな声と共にナゲリーナは指さす。
指さされた先に立っていたのはクラシカルかつシンプルで、ドレスとワンピースの中間のようなデザインをしており、取り付けられたエプロンによって白と黒のコンストラクトとなっているノデランスノ家の制服。つまりはメイド服。それを着ているのは、騎士騎士連呼している妄想騎士である美玲が、騎士ではなくメイドになっていた。
黙っていれば美人と尋賀が言うように、今の彼女の姿は非常に映える。
道行く者たちは、今までの騎士の格好だと変わり者を見る目をしていたのに対し、今ではすっかり釘付けだ。
ただ、その顔は……今にも泣きだしそうだった。
「……脱ぐ」
「えっなの?」
小さな声で呟いた美玲。
隣で彼女の服を持っていたルシェールにはちゃんと聞こえていなかった。
美玲は、がっしりと自分の着ているメイド服を両手で掴む。
「こんなのカッコ悪いよぉ! 今すぐ脱ぐっ!」
服を上にあげようとしていない。むしろ両手を広げようと……破ろうとしていた。
「ちょっと止めるの!」
ルシェールが抑え込もうとするが、美玲は止まらない。
尋賀も優作もナゲリーナも鍛冶場の中に入り、美玲を止めようとする。
「バカ野郎が。公衆の面前でなにしようとしてやがる!」
「止まって!」
「似合ってるからさ! すっごい綺麗だからさ!」
尋賀が、ナゲリーナが、優作がどうにか止めようと必死に宥めつつ体を抑える。
「本当に?」
美玲は優作に対して問う。
優作は勢いよく、数回首を縦に振ると……美玲は余計に暴れだした。
「うわーん! そんなやだよっ!」
「ええー!?」
四人がかりで抑えているはずなのに、彼女は自らの服を破ろうとする。
「優等生! このバカは女扱いされるのが嫌いなんだよ! 特に美人はこいつにとってのタブーワードなんだよ、クソ!」
「世の女性達に恨まれそうだよね!」
「騎士殿! そのメイド服、超カッコいいよな!?」
尋賀がかわいいとは反対のことを言う。
だが、彼女は止まらない。
「絶対絶対絶対違う! こんなのカッコよくない!」
「騎士殿はすげえ面倒な女だよなぁ!?」
しかも鍛冶場で火事場の馬鹿力を発揮している。
「いい加減我慢しやがれ! てめえがここで頑張らねーと世界が救えねえだろ!」
「ふえ? 世界?」
ピタリッと美玲は止まる。
「そうだ。今日一日だけ我慢すれば、てめえは世界を救うことができんだぜ?」
「こんな恰好で救えるわけ……あるからこんな恰好させられて……」
「なんせメイド服姿を見せるって約束で依頼を引き受けてくれるって話だからな」
「世界を救うためには魔王の目を欺いて行動するためにはメイドとしてが一番だもんね」
「人の話を聞けよ」
またもや妄想。
しかも魔王なら一緒に行動しているにも関わらず、敵側の魔王が妄想内に出てくるのは、ナゲリーナは魔王には相応しくないということだろうか。子供に魔王の肩書が不釣り合いなのは間違いないが。
「……ない」
「あん?」
消えそうな声で呟き、彼女の顔はどんどん曇っていく。
「――やっぱりそんな設定、納得いかないよ!」
「……設定言いやがったぞ。コイツ」
「それにこんな服着てるから魔力が足りないよぉ~!」
「魔力と服は関係ねーし、てめえは魔力なんざ持ってねーよ!」
すると、急にく~っと気の抜けた音が響き渡る。
すると、今まで暴れていた美玲が大人しくなり、その場に座り込んでしまった。
「騎士殿、今の音、まさか……」
「お腹空いたぁ~……なんだか力出ないと思ってたら、食べるのを忘れてた……」
「オレ達の飯作って自分は食わずってか。バカだろ」
「うーん……」
やっと暴れ続けた美玲が止まり、一行は一安心。
美玲はさっきまで暴れていたことが嘘のように、喋らなくなった。
「…………」
しばらく無言で美玲を見続けるフォーゲロン。
美玲はお腹を触りながら、意気消沈しており、見られていることを気にしていない。元から気にするような性格ではないのだが。
「…………」
何も言わず、フォーゲロンは自分の作業に戻る。
長い時間をかけておきながら、見たのは一瞬にも等しい。
「てめえ、見たかったんじゃねーのかよ。騎士殿のメイド服姿」
「……見れた。忙しいときは美しいものを見ると心が休まるというものだ。これで一日中でも頑張れる」
「プロだな」
「……当たりま……ち、違うぞッ! 断じてメイド服など!」
「今更どんな言い訳したって無駄だっつーの」
今までの全てを言い逃れできるのはどんなに嘘が上手い詐欺師が喋っても取り繕うことは難しい。
しかも完全にメイド服を見たかったと、告白してしまっており、この状態から取り繕うとすればどれほどの盛大な嘘を盛り込めばいいのだろうか。
二十文字以内ならば間違いなく誰も解けない難問と化す。
「……とにかく、明日までには完成させる」
フォーゲロンは何もなかったかのように静かに、鉄と向き合い始めた。
「んで、次の問題だよな」
尋賀は床に座っている美玲に向かって呟く。
「うう……お腹空いた……夢中になってて食べること忘れてた……」
「飯作っておきながら自分の分忘れてましたってか。どんだけバカなんだよ」
「言い返したい……でも言い返すのがダルイ……動きたくない……」
「そこまでかよ」
そのまま座り込んだまま動く気配のない美玲。
その姿勢のまま、美玲はお腹を触り、く~。
今度は腰を曲げて、く~。
さらに腰を伸ばして、く~。
わざとお腹を鳴らす美玲に、ルシェールは耐えられずにいる。
「ヤナギはそんなにお腹を鳴らして恥ずかしくないの!」
「……別に」
「ついに受け応えもダルくなってるの……」
(片方は妄想であるが)同じ騎士として、そして何よりも同じ女性としての注意をルシェールはするが、残念ながら通用しないのが矢薙 美玲という難敵なのである。
「のの女。屋敷で飯用意してくれるんだろうな」
「用意することはできるの。でもディナーまで時間があるの」
「じゃあそのディナーをすぐに用意してくれね?」
「頼めばしてくれるの」
「うっし。そんじゃ……」
「ちょっと待って」
尋賀を突如として止めたのは優作だった。
「どうした? 優等生?」
「屋敷の人に無理に頼み込んで食事を用意してもらうよりも、どこかで外食してみたらどうかな?」
「あん? 金はどうすんだよ」
尋賀は手を伸ばし、寄越せと言わんばかりに手を動かす。
「どうぞ。こちらになります」
「お? 用意いいじゃねーか」
手の上に置かれたずっしりとした小さな袋。
尋賀はその中を覗くと、大量の硬貨が入っていることを確認する。
彼は袋をトントンと、上に投げて遊んでいる時に、気付く。
「……なんでマセガキがここに?」
「? マセガキさまというかたがいらしゃったのでしょうか?」
「人名じゃねえ。てめえのことだっつーの」
ルシェールの弟であるテールノが、なぜかこの場に居た。
「うげっなの! なんでここにいるの!」
「帰れ!」
ルシェールとナゲリーナはテールノに対して顔色を変える。
しかもナゲリーナは彼が心底気に食わないようで、いきなり帰れ発言までしている。
「……そんで、てめえは何しに来やがった?」
尋賀は今にも手を出しそうな雰囲気のルシェールとナゲリーナを止めつつテールノに問いかける。
「ええ。ししゃがもどってきまして。こうしょうにしっぱいしたとのことでそのことをほうこくしにまいりました」
「……てめえが報告しに来なくてもいいんじゃねーの?」
「いえ。あねのために、そして、じょせいたちのためにぼくがほうこくやくにかってでました」
「……あっそ」
だが、交渉はすでに終わっているため、彼が伝えに来る必要性はもはやない。
どちらかと言えば尋賀一行の女性陣に会いに来るのがメインの目的だろうか。
「そのおかねはぼくのおこづかいです。ゆうこうにつかってください」
「……ガキから貰った金を使うのは気が引けんだけど」
「いいえ、そこのじょせいのためなら……おや? わがやのめいどにこのようなうるわしいものはいましたかな?」
テールノが美玲に近づこうとするのを、尋賀は前に立って阻止する。
「あれはてめえの所のメイドじゃねーよ」
「ふむ。ならばこのおかねをつかってください。はなしをきくかぎりはおなかをすかせているのでしょう?」
「聞いてたのかよ」
「さきほど、みみにきこえてきましたゆえ。おかねなら、いっぱいあるのでだいじょうぶです」
「金持ちのガキはすげえ怖いことをさらりと言うねぇ。全く」
将来的にはロクな大人に成長しないのではないか。
尋賀は貰った金入りの袋をポケットにしまう。
「おい、騎士殿行くぞ」
「やだ」
「飯食いたくねーのかよ」
「……動けないよ。お腹が空いてて」
「飯、どーすんだよ」
「あーそうだ。尋賀ぁ~運んでよ~」
「なんでオレが、んなことしねーといけねーんだよ」
ぐずる美玲に手を焼いている尋賀。
二人が鍛冶場の中でもたもたしている間、いつの間にか鍛冶場の外で円陣を組んでいる四名。
「おい、てめえら。んなところで何してやがる」
むしろ今の状況ではフォーゲロンが鍛冶場で永遠と何してやがると言ってもおかしくないが、言わないのは永遠と美玲が見れるからか。
そんなフォーゲロンの心境はさておき、優作、ナゲリーナ、ルシェール、テールノは手を振る。飛びきりの笑顔で。
「ねえ尋賀。美玲を連れてデートに行ってきなよ」
「はあ?」
「私たち面倒だから屋敷にもどってるの~」
「おい、こいつの面倒をオレ一人で――」
「じゃあ」
ナゲリーナのその一声と共に一斉に離れていく四人。
「……マジかよ」
デートと言われて、美玲と二人、置いてけぼりにされた。
しかも、デートの相手である美玲は動こうともしない。
「……あー、非常食あったんだ」
一人呟きながら服を探る美玲だったが、途中で自身の服装に気付く。
「ああ! 私の服、ルシェールに持って行かれた~!」
そう、未だに彼女の服はメイド服。
がっくりとしている美玲を、尋賀はどうするか考える。
「……なんでメイド服姿のコイツを街中連れまわさなきゃなんねーんだ? デートじゃねーよ」
メイド服の彼女を連れて回っている時点でデートではないと主張する尋賀。
ただ、いつものお手製の服はマントなどが付いてくるため、恥ずかしさという面では、ほぼ一緒だった。
「おい、騎士殿」
「ふっ。今の私はメイド長でも好きに呼んでくれたって構わないよ、ご主人……」
いつもの演技はどこへやら。いつもの演技口調をかなり適当にした感じに喋り、周囲に『の』の字でも浮かんでるかのようだ。
「……おい、騎士殿。とりあえず飯食いに行くぞ」
「動けないのに?」
「クッソ役に立たねえメイド長だな、おい」
尋賀は文句を言いつつも、座る美玲をお姫様抱っこ。
だが、彼女が暴れだそうとしたため、とっさに肩に担いだ。
「あー……なんか楽だね。尋賀?」
「オレ、超恥ずかしんだけど。なんつーかすっげえ見世物みたいになってんだけど」
「そうかな?」
「気分としては女を裸にして連れまわしてる鬼畜野郎とほぼ変わんねえ気ィする」
「へえー……」
「人目がこの時点ですげえことになってんだけど」
「いいんじゃない?」
「良くねーよ! 降ろすっつってんのが気付けねーのかバカ!」
美玲は降りる気配は全くなく、常に尋賀の肩の上でだるーんとしている。
「くそっ! この野郎……! もういい、突っ走る!」
普段は動じない尋賀でも、流石にこんな状況になれば動揺せざるを得ないようだ。
最も、それでもなお下ろさずにいるのは彼なりの優しさだろうか。
「あーくそ! 何がデートだ!」
尋賀は美玲を肩に乗せ、周囲の視線を集めながら走り出す。
奇妙なデートが、幕を上げようとしていた。
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よく分かっていないのですが、ぜひ覗いてみてください。




