5日目の外出
尋賀達5人は、早朝にナゲリーナ出発した。
目的地はフェルデファン。
馬車に乗り、揺られるに揺られておよそ一時間。
彼らは目的地に着いたのだが。
「久しぶりに異世界の他の街だってのに、んだよコレ」
尋賀は街の光景を見ながら呟いた。
彼らの目の前には大きな街。
行き交う人々。
そして、外からの訪問を歓迎していない門番が二人と、街全体を包み込む、ドーム状に広がった幾何学模様の異様な光景。
「この街にはわたしが作った防衛システムがある。今はそれが作動している状態」
「防衛システムだぁ? 何から防衛してるんだ?」
「それはノデランスノ家の領主に聞かないと分からない」
ナゲリーナが防衛システムについて説明するが、肝心の防衛システムが働いている理由が分からない。
広がる異世界の不可思議な光景を優作は注意深く観察していた。
「おい、優等生。なんでだと思う?」
「さぁ……。この街の事情を知らないからなんとも……」
現状では彼でも分からないということだ。
「まぁいいや。通せよ」
門番に対して尋賀は、命令口調で言う。
人に物を頼む態度ではなく、優作はそのことで怒る。
当然彼らに与える印象はよろしくない。
「お前達を通すわけにいかん!」
「ダメか」
門番は彼らに対して武器を向ける。
防衛システムまである上、門番が二人いるというのに通せなどと言って警戒心を持たずに通してくれるハズがない。
だが、門番達はそれ以上に尋賀達を警戒していた。
「この人攫いめ! ここで成敗してくれる!」
「人攫いだぁ? オレ達、そーいうのじゃねーんだけど」
「嘘を吐くな! ならばその者をどうするつもりだ!」
門番の一人が尋賀の背後にいるルシェールを指差す。
「~~~~!!」
指さされた彼女はモゴモゴとしか言えない。
なぜならば彼女は、両手両足を縄で縛られ、さらにはハンカチか何かで簡素な猿ぐつわをされている。
そんなことをしでかした犯人は美玲だった。
「ずっと言ってるだろーが。いい加減縄ぁ解けよ」
尋賀は眉を八の字に寄せる。
普段は他人を煽り、挑発する彼でもさすがに少し怒っているのだろうか。
「しかし! 縄を解けば早々に逃げ出すではないか!」
「ここまで来たら逃げ出しても意味ねーだろ」
つまりは縄で縛る必要性は今はない。
苦し紛れの言い訳になってない。
「つーかのの女が喋ろうとする前に縛りやがって」
正確な状況は、ルシェールはフェルデファンに行きたくはなかったが食事やその他諸々を考えたらついて行ってもいいかなーっと言おうとしたが、言う前に縛られたが真相だ。
ここまで強制して連行する必要性は微塵もないということだ。
「ええい! 悪党どもめ! ここで成敗してくれる!」
尋賀と美玲のやり取りの間に痺れを切らした門番の二人。
だが、ナゲリーナは小さな言葉で呟く。
「わたしは魔の使者。取引に来た」
二人の門番は表情を変えて、お互いに小さな声で話し始める。
すぐに話は終わった。
「申し訳ありませんでしたっ! ただちに防衛システムを解除致します!」
表情。態度。それに血相を変えて二人は息のあった礼をする。
「その必要はない。それよりも領主邸に連絡してほしい。新たな取引を行いたいと」
ナゲリーナは街を包んでいる幾何学模様の上にさらに幾何学模様を描く。
人一人分の大きさになった幾何学模様をナゲリーナは手を通す。
手は二種類の幾何学模様を通り抜け、街の中へと入っていく。
手が通ったことを確認すると、そこには何もないかのようにナゲリーナは幾何学模様を通り抜けた。
二人にとっては異様な光景で、門番は表情をさらに変え、驚きや様々な感情で呆気にとられている。
「そんじゃ、オレも通らせてもらうかねえ?」
「お邪魔します」
「おおっ! こっちの魔法は壁になっていて、こっちの魔法で通り抜けることができるのか! 素晴らしいぞ!」
「~~~~!」
残りの4人も通り方は様々だ。
ポケットに手を突っ込んだまま、特に気にせずに通る尋賀。
少し、キョロキョロしながら辺りの様子を確認する優作。
街を覆っていた方の幾何学模様に触りながら通る美玲。
そして、未だに解放されておらず、ぴょんぴょん跳ねながら通るルシェール。
全員が通ると描かれた幾何学模様は消え、ドーム状の幾何学模様だけが残っていた。
「おい、あのロープで縛られていたお方。もしかしたら……」
「まさか……お前もそう思っていたのか?」
彼らにはもう一つ驚きがあった。
だが、真相を確かめることができず、二人の門番は街に入っていった五人の背中を見ていた。
ーーー
「絶対縛る必要なんてなかったの! なんてことするの!」
「悪いのの女。前にも言ったが、騎士殿は周りが見えなくなる時があるからな」
ついに縄から解放されたルシェール。
だが、怒りの矛先である美玲は街の景色に夢中になっている。
それもそのはず、街中は建物から地面、見える景色のほぼ全てが白一色で統一されており観る者を圧倒する。
小さな建物から街の奥に見える巨大な建物も全てが黒一つない純白。
美玲はこの非日常の光景に圧倒されているのだが、ルシェールは違った。
「こぉらなの! どうしてさっさと解放しなかったの!」
優作も人工物の素晴らしい景色に見惚れていたが、大きな声で我に返りルシェールに続く。
今回は尋賀も黙っていられないらしい。
「騎士殿。流石に今回は言い逃れできねーぜ」
「そうだよ! 美玲はされたら嫌なことを全然分かってない!」
三人から責められ、ようやく自分に言われてると気づいた美玲はしゅんと静かになる。
ちなみに尋賀はこの景色をなんとも思ってない。
「だってだって、尋賀に言われたし……」
「もっと早い段階で縄ぁー解けたろ。馬車とかさぁ?」
尋賀が言ったを言い訳にするが、容易く論破される。
「ごめんなさい。ルシェール……」
ルシェールは美玲の謝罪に対して、急に素直になられて困り顔。
「べ、別に謝れば問題ないの」
「謝りゃーいいってわけじゃねーけど」
彼女は許すことにしたが、尋賀は絶対に懲りないと思っている。
「次からはもうしないようにね」
「うん……」
「美玲はやりたいことになったら他人を無理矢理引き込もうとするのを止めた方がいいよ。尋賀に嫌われたくなかったらね?」
「それはイヤかな……」
美玲は応えたようでさらに沈み込む。
そんな彼女をよそに、優作は尋賀にしか聞こえない声で話しかける。
「やっぱり、美玲は乙女だと思うんだけどなー?」
不自然に語尾を伸ばす優作。
「こいつは恋愛感情とは縁遠いんだよ」
「そんなことはないはずさ」
「どーせオレのことは倒してぇー相手って考えてるだけだって」
「言うと思ったよ。……二人とも、本当に鈍感だね」
尋賀は優作を無視して、美玲の背中を叩く。
「ほれ。全て解決したらオレと喧嘩すんだろ? しけたツラすんなよ」
「……うん。そうだね」
美玲はその一言で即元通りだ。
「さて、この街を探索するぞっ! ルシェール!」
「……え、私なの?」
突然、誘われてしばらく気づかなかったルシェール。
脈絡もなく言われれば仕方がない。
「……謝りたいのだ。冷静に考えれば私はやり過ぎていた」
「別に、同じことしなければ別にいいの!」
どうでもいいが、別に、が重複している。
「この街は広い! 観光しつつ、買い物でもしたいのだが、どうだろうか!?」
いつもの通りの声の大きさ。
いつも通りの彼女に戻った。
「おい、騎士殿。金あんの?」
「大丈夫だっ! 手持ちはいくらかある!」
「どわーなの! 引っ張るななの!」
そう言って、ルシェールの手を引っぱり……というよりも引きずって行く美玲。
結局、彼女は懲りていない。
「日本円は使えねーのにどーすんだ?」
「ショッピングなんて女の子らしいと思わない?」
「あいつを女だって思ったことねーっての。バカばっかしでかしやがって」
尋賀と優作が話している間に二人の姿はすぐに見えなくなる。
街は多くの人が行き交い、多くの店に人が集まり、繁盛しているように見える。
話し声が四方八方から飛び交い、近くの人と話すことすらいつもよりも大きな声でないと聞こえない。
「なんというか、全体的にソワソワしてる感じがするね。落ち着きがないというか」
「そうかぁー?」
「うん。何かのイベントがあるのかな?」
全体的に落ち着きがなく、どこかに興奮や、隠しきれない心を溢れ出させているような雰囲気が、優作には何かのイベント会場の雰囲気を彷彿させるようだ。
「……おかしい。いつもはこんなに浮き足立った雰囲気はない」
ナゲリーナはポツリと呟く。
そんな街の情勢はどうでも良さそうな顔で尋賀は二人の肩に手を乗せる。
「んなことより昼飯食いたいんだけど」
街の商業区だけあって、飲食できる店も多い。
「ぼちぼち頃合いだね。異世界ではどんな物が食べられるか楽しみだよ」
どんな料理に出会えるのか、期待で胸が一杯になる優作。
そんな彼とは反対に、食事という言葉にナゲリーナはふと思い出したかのように慌てて白衣のポケットに手を突っ込んだ。
だが、その手には何も握られていない。
「お金ない」
「馬車代。払った時にはあったろ?」
「行きの分は」
全然持ってきていないようだった。
「しゃーね。一日のうちの一食を抜いても大丈夫だろ」
「だめだよ。ナゲリーナはまだ子供なんだから」
「オレ、こいつの歳くれぇーの時には飯食うのに苦労したのにな」
尋賀の苦労話はさておき。
お昼を食べ損ねることがないようにしなければならない。
「ここは同じ異世界人のルシェに頼んでみようよ。彼女ならきっとお金、持ってると思う」
「奢ってくれるかねえ?」
嫌なの! と一蹴されると尋賀は思っているらしい。
「奢ってもらう代わりに向こうの世界でいっぱい奢ればいいよね」
「ふーん。じゃあ探さねーとな」
だが、件のルシェールは美玲がすでに連れて行った後だ。
「……見つかるかな?」
「さぁ? 集合場所も何も決めてねーからな」
決まるわけがない。
なぜならば、そんな話をする前にルシェールを連れて美玲はどこかに行ってしまったのだ。
立ち止まっていても仕方がないので、尋賀はゆっくりと歩き始める。
その両脇を優作とナゲリーナが歩く。
美玲とルシェール。二人が通った道と同じ道を歩き、止まる。
「ここまでは見たんだけどな」
「どっちに曲がった?」
「さぁ? どこに行った?」
途中の十字路で立ち止まり、ナゲリーナの質問に尋賀が質問で返す。
もっとも、分からないから質問しているのに、同じ質問を繰り返して答えなど帰ってこないのは明らかだが。
「このまま二人が迷子になって見つからなかったときはどーするよ? 優等生?」
「決まってるよ。見つかるまで探す」
「めんどくせーから放っておきたいけど、昼飯食うためにゃー仕方ねーよな」
「さすが尋賀。いちいち素直じゃなくて面倒臭いね」
「へへ。褒めても何もでないぜ」
優作は褒めてないとはツッコまない。
「騎士殿なら目立つ格好してるし、案外すぐにみつかるかもな」
彼女の服装はお手製のマントのような服を羽織り、ゴーグルを首にぶら下げている。
自称騎士の変わった服装ではあるが、こちらの世界の人間でも似たような服装をしているものはいない。
つまりは悪目立ちして浮いている。
「それじゃあ手分けして探そうよ。30分後に入口集合でどうかな?」
優作も同じことを考えたのであろうか、早めの時間設定をする。
その提案に乗る前に尋賀は優作の話を止める。
「なあ、騒がしくね?」
元々、街全体が騒がしいというのに、尋賀には違いが分かるようだ。
「手分けして探す前にちょいと行ってみねえか?」
「どうして?」
ナゲリーナの問いに、尋賀は面倒そうに答える。
「騎士殿はトラブルばっか起こすし、のの女もここならトラブル起こしまくりそうだしな」
尋賀は地面を指さしながら言った。
『ここ』とはフェルデファンのことを言っている。
「尋賀。もしかして、気づいてる?」
優作の曖昧な問いに尋賀は何を言いたいのか察する。
「のの女がノデランスノ家の娘だっつーことか?」
「気づいてたんだ」
「ファミリーネームがノノなんざーおかしいだろ。昨日、フェルデファンに反応しまくってたからなんか関係あるってのがバレバレだし、それにノデランスノを縮めたらノノになるしな」
そう言っている間にナゲリーナは騒ぎが起きている方向へ歩いていく。
当然、残された尋賀と優作は後を追う。
しばらく歩いたところで美玲とルシェールは呆気なく、すぐに見つかった。
だが、様子が少々おかしい。
「弟なんて知らないの! 私じゃないの!」
ルシェールが対峙しているのは背の低い少年。
そして周りには少年のお供と思わしき集団と、有名人でも見てるかのような様子の野次馬。
これが尋賀の言う騒がしいの正体だった。
「いいえ! あなたはまちがいなくおねえさまです!」
そう言う少年の髪色は……ルシェールと同じく金髪だった。
彼がルシェールに向かって姉だと言っている。
そしてこの地にはルシェールの生まれた家がある。
これらのそこから導かれる答えは彼はほぼ間違いなく……。
「なあ? ここは話、割り込みに行った方がいいよな?」
「じゃないかな?」
一部始終を見ていたはずの美玲は、放心状態でぽかーんとしていた。
「ノデランスノ家にはもとから用がある」
暗にナゲリーナは案内させろと言っているようだ。
「……ちょい話してくる」
渋々、尋賀は話を割り込みに行った。




