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休日の過ごし方

「休日……休日……」


ナゲリーナはうわ言のように呟きながら廊下を歩く。


「っと、危ないの。ちゃんと前見てるの!?」


前をしっかりと見ていなかったためか、廊下の反対側から来たルシェールとぶつかりかける。


「…………」

「黙ってないで謝るの!」

「ごめんなさい……」


ナゲリーナは素直に謝る。


「謝れば別にいいの。ところでどうして上の空なの?」

「休日……どう過ごそうかと考えてた」

「そんなもの悩むものじゃないの」

「じゃあどう過ごしていた?」


ルシェールは考え込む。


「だらだら〜としていればいいんじゃないの?」

「だらだら……」

「仕事終わって寮でぐでぇ〜っとするの! もしくは寝てるの!」

「ぐでー……」

「あっなのッ!! 寮の荷物、今頃どうなってるのッ!?」


突如大きな声を出され、ナゲリーナは思わず耳を塞ぐ。


「うるさい」

「黙ってられないのっ! あそこには……そういえば特に大した物なかったの」


ないのなら、大きな声を出すなとナゲリーナはルシェールを睨みつけるが、当の本人は明後日の方向を向いて口笛を吹き始めた。

そんな二人が話している時に、慌てた表情で美玲がやってくる。


「先ほどの大きな声は何なのだ!? 何があったのだろうか!」


どうやらルシェールの大きな声に、呼び寄せられる形で来たようだ。


「休日の過ごし方を聞いていた。慌てる必要はない」

「むっ! 敵襲ではないのか」

「少し聞きたい。美玲の休日は?」

「むっ? 私の休日?」


美玲は質問に対して指を一本一本曲げ、一つ一つ思い出しながら答える。


「狩りに行く、裁縫する、絵を描く、山の草刈りの手伝い、ピッキング練習、設定……。騎士団たる者、休日は主にスキル磨きだ!」


途中でスキル磨きで休日を括る。

その中に一つ、磨いてはいけないスキルが混じっていたが。


「何言ってるの? 騎士は実力さえあれば技術なんていらないの」

「むっ! 絶対にそんなことはないぞ! 技術さえあれば必ずやいかなるピンチも打破できる!」

「弱いからピンチになるの。ピンチにならなければいいの!」

「ふっ。例えば閉じ込められた時にどうするのだ?」

「ならないの!」


ルシェールは断言する。

彼女自身のピンチは忘れてしまったのか、あるいは都合の悪い話は忘れてしまうのだろうか。


「くっ、じゃあ囚われた姫君を助ける時はどうするのだ!?」

「一人で助けに行かないもーんなの」

「ええー! でも魔王城に乗り込むのは少人数だもん ! そんなの卑怯だもん!」

「囚われてるのに卑怯も何もないの! 勝てば正義なの!」

「そ、そんなのカッコよくないし!」


美玲はすっかり演技とナゲリーナを忘れている。

ナゲリーナは一人、どこかに行こうとしていた。


「おっと! すまぬ! すっかり話が脱線してしまった!」


美玲はいつもの演技口調に戻り、話を戻す。


「それで、どうして私の休日を聞いたのだ!?」

「休日の過ごし方が思いつかない」


美玲は人差し指で顎を触り、考え事をしている素振りを見せる。


「休日は悩むものだろうか。今まではどうしていたのだ」

「今まで……。ブレアーの記憶なら研究ばかり」


美玲とルシェールは互いに顔を向けると、黙る。

しばらくの沈黙の後、続ける。


「わたしは……休日はお父さんとお母さんと一緒にいた。ピクニックにも出かけた。いっぱい遊んだ」


少しだけ、笑顔を見せたような気がした美玲は、小さく頷くと、彼女はいつもの調子で彼女に接する。


「ふっ。ならば我々が相手をするぞ! 騎士ごっこだろうか? それとも魔王軍ごっこはどうだろう?」


その二択しかないのだろうか。


「騎士ごっこ……美玲はいつも騎士ごっこ……」

「むっ! 無論、私は騎士ごっこではなく本物の騎士だぞ!」


尋賀辺りがツッコミを入れそうだが、残念ながらこの場にツッコミをする者はいない。

ルシェールが言っていたツッコミ役が今はいないのだ。


「じゃあ魔王軍ごっこを……」


ナゲリーナは無表情で二択を選択する。

無表情ながらも、嫌々選択した感じ、もしくは、渋々選択した感じが伝わってくる。


「そうかっ! ならば準備をしてくるぞ! 準備が終わり次第、呼びに行く!」


そう言って彼女は飛ぶような勢いでどこかに行く。


「休日……」

「あららなの。聞けずにどっかに行ったの。私もどっかに行こうかな〜なの」

「…………」

「そ、そんな目で睨まれてもダメなの!」


ナゲリーナは黙ってルシェールを見ているだけなのだが、ルシェールには睨まれているように感じたらしい。


「そ、そうだなの! サカマキにでも聞きに行くの! それがいいの!」

「……ルシェールは?」

「わ、私はこれから急用なの!」

「…………」


下をうつむくナゲリーナ。


「ふんなの! 騙されないの!」


その一言で目元にジワリと涙が。


「って、違うの! 急用なんてないの! ついて行くの!」


彼女がそう言った瞬間、ナゲリーナは何事もなかったかのようにケロっとしている。


「ああっなの! 嘘泣きなの!」

「目を開けっぱなしにして、まばたきしなければ自然に出る」


ナゲリーナは白衣の袖で口元を隠す。


「今笑ったの! 絶対バカにしたの!」

「してない。それよりも一緒に――」


言い終える前にルシェールは逃げ出そうとする。

そんな彼女を逃がさまいと、ナゲリーナは、ルシェールにしがみつく。


「ぐぬぬぬなの! は〜な〜せ〜な〜の〜!」


ルシェールは力任せに歩くが、ナゲリーナはしがみついて離さない。

この根比べはすぐに決着がついた。


「分かったの! 分かったから引っ張るななの!」


ーーー


ルシェール達がいた廊下とは別の廊下。

そこで尋賀と優作は歩きながら話している。


「だからゴメンって」


優作は尋賀に対して何かを謝っている。


「二度と許さねーよ」

「不可抗力だから仕方ないよね。夢なんてさ」

「けっ。ロクでもねえこと聞いちまうくれぇーなら仮眠室に行かなかった方が幸せだったなぁ?」

「だからゴメンって謝ってるじゃないか」


優作は謝罪するが、尋賀はそっぽを向いて聞く耳を持たない。


「ほれ、もう一度言ってみろよ。誰がハーレムだって?」

「も、もういいじゃないか。君だって誰かに聞かれたら嫌でしょ? しかもハーレムなんて言ってないし!」

「それ以上にイラついちまった」


尋賀の威圧感と、言えよと言わんばかりに迫ってくる彼に、優作は言いにくそうに答える。


「尋賀が実は白髪じゃなくて銀髪で……髪長くなってて、それでボクしか男がいないって状況で……」

「ああ? 聞こえねえな? 話をちゃんと纏めてから聞こえる声で言えよ」

「だから夢の中で………………」


優作は小さな声で話し始める。

廊下の壁まで追い詰め、視線の定まらぬ彼を追い詰める。

誰がどう見ても今の構図は、生徒を脅している不良だ。

これが親友だと言うのだから不思議だ。


「ああ? なんだって? 実は、オレは女で? 白髪じゃなくて本当は銀髪宣言して? ヅラの下は髪が長くて銀髪美人で? ここにいるメンツ、てめえ以外全員女だからハーレムだって?」

「そ、そんなことまでは言ってな……あっ!」

「あん?」


二人の前に、ナゲリーナとルシェールが立っていた。


「…………」

「うわぁ……なの」


しかも話を全部聞かれていたようだ。

気の毒そうな表情が、二人が今考えていることの全てを語っている。


「自滅しちまった」

「サカマキって本当は……女なの?」

「ちげえよ。どっからどう見ても男だろーが」


だが、ルシェールの表情は変わらない。

夢の話だとは気づいてなさそうだ。

そして、勘違いしている人物がもう一人。


「なら、女性になりたいと?」

「そんな願望もねーよ」

「薬品はないけど……」

「いらねーよ。ぜってー作るなよ」


ナゲリーナもどこか、哀れみの表情を見せている。


「んなことより、てめえらどーしたんだよ?」


尋賀は逃げるように話題を変えた。

やや強引に話を変えたが、これ以上不毛な会話をしたくないという彼の自己防衛の本能が働いたのか。

あるいは単純に面倒だからか。


「休日をどう過ごそうかと」

「ふーん。二人揃ってそんな話か」

「違うの! 私は強引に連れてこられただけなの!」


どうでも良さげな表情で尋賀が言う。


「休日なんて適当に過ごしてりゃーいいんだよ」

「尋賀は年中休日なのにさ」


優作は会話の間に割って入る。


「ひっでえこと言いやがる」

「だってそうだろ? 学校来ない日とか多いし」

「そうは言うがな、優等生。点数はそれなりに稼げてるんだぜ?」

「学校は成績だけじゃないよ。第一、勉強を教えてるのボクじゃないか」

「つーか金ねえ時どーすんだよ」

「朝からじゃなくてもいいよね? 普通は授業が終わってからでもアルバイトなり、色々できるでしょ? 第一……」


と、そこまで言ったところで彼は気づく。


「ゴメン、ナゲリーナ。話、逸しちゃって」

「二回目……」


今回は優作が話の腰を折った。


「休日の過ごし方だったよね」


話を戻し、優作が尋ねる。


「うん」

「あまり深く考えないほうがいいよ。深く考えているとできることも難しくなるよ」

「でも、つい考え過ぎてしまう」

「身体を休めようと考えすぎるからだよ。休日はどう過ごしてもいいんだよ」


その言葉に尋賀が頷く。


「まっ、深く考えるだけ面倒くせえ! そーいうこったな」

「君は面倒だって、途中で考えるのをやめることをやめたほうがいいよ」

「へっ。つっても短所は……」

「裏から見た長所だって言うのならもういいよ」

「そうかよ。んじゃ、今まで通りでな」


短所が長所だと言うのであれば彼の捻くれた性格も長所なのだろうか。

立派な個性ではあるが、周りからしてみれば本人の感じる面倒臭さ以上に面倒だが。


「深く考えるだけ無駄……」


ナゲリーナは小さな声で呟く。


「サカマキの言う通りなの! 深く考えるだけ面倒なの!」


ルシェールはナゲリーナに言う。

納得したと言わんばかりに、尋賀はその言葉に二回、三回と頷くと、一つ大きな欠伸あくびをする。

それに釣られる形でルシェールも欠伸する。


「そんじゃーオレ、寝てくる。結局寝れてねーからさ」

「あっなの! 私も寝るの!」

「……いいのかよ、仮眠室にオレがいるんだぜ?」

「襲いかかってくるなら斬り伏せるの! ……って剣、折れてたの!」

「って、訳でオレがいるとあぶねーから部屋に来んなよ」

「やーなの! 私はベッドで寝るの! サカマキは廊下で寝てろなの!」

「今まで床で寝てたのにそりゃーねーだろ」


尋賀は一人でゆっくりと寝たいがためにルシェールを仮眠室に来させまいと、冗談を言う。

対するルシェールも一歩も譲るつもりはない。

一応、彼女は病み上がりなのだ。

……本人もそのことを忘れており、荒療治のことも、荒療治を行ったナゲリーナのことも忘れているが。


「ここにいたのかっ! 皆の衆、探したぞ!」


廊下に響き渡る美玲の声。

そして飛来する輪っかの作られた4本のロープ。


「!?」「うわっ!」「ふぎゃなの!」


美玲の投げ縄に捕まる優作にナゲリーナにルシェール。


「危ねーな」


尋賀は一人、投げ縄を躱していた。


「んじゃ、オレは寝てくるわ。騎士殿の相手、よろしくな」

「卑怯なの! 一人だけズルいの!」

「わりーな、騎士殿は面倒だかんな。オレはパスで」


そう言った尋賀に対して、美玲はニヤリと笑った。


「ふっ。何を言っているのだ? 足下をよく見るのだ!」

「あん? ……そりゃーねーぜ」


尋賀の足にはロープが引っかかっていた。


「貴様には躱しても、足下で新たに輪っかができる特別製の投げ縄を用意したのだ! 貴様の事だから躱すと信じていたからな!」

「さすが騎士殿。どうやったのか知らねーけど、女子力の高いことで」


呆れ顔の尋賀に、同じく呆れ顔の優作が何かの義務的な口調で質問する。


「女子力って?」

「料理、洗濯、狩猟のできる暴力的な騎士殿みたいな女のことな」

「やだよ。そんな物理的な女子力」


美玲はロープを引っ張り、全員が歩くように促す。

尋賀曰く、女子力の高い美玲でも、四人全員を無理矢理引っ張り、連れまわすほどの怪力はない。


「さぁさ! 行くぞ、皆の衆!」


だが、捕まった4人は逃げることはできずに、連行される。


ーーー


美玲が連れてきたのは、研究所の一室。

だが、


「置いてあった物が全部なくなってる……」

「おい、騎士殿。勝手に部屋のリフォームしたのはてめえだろ」


部屋にあった置いてあった物は全てなくなっており、代わりに置かれているのは金の装飾がなされた椅子が一つ。

彼女がいつの間にか作ったのか、レッドカーペットすら敷かれている。

さらにはナゲリーナすらも知らない壁紙が貼られており、赤やら黒やらの趣味の悪い色で一色になっている。


「うむ! これぞ、魔王軍の本拠地だ!」


そう言って、美玲は黒いマントを羽織っている。

いつぞやの物だ。


「まさか、魔王軍ごっこ……」


ナゲリーナは、あっけにとられたように呟く。

まさか、ここまでされるとは思わなかったのだろう。


「その通りだ、我らの魔王よ。さあ、あの椅子に座るのだ!」


迫る美玲、色々な意味と物理的意味で引くナゲリーナ。

美玲は折れる様子はない。

結局折れたのはナゲリーナの方だった。


「ここに座れば……?」

「うむ! そうだ!」


言われた通りに椅子に座る。

どうすればいいのか分からず、ナゲリーナは膝の上に手を置いて、慎ましく座っている。

だが、それでは美玲の気がすまないらしい。


「そうではない! もっと魔王らしく踏ん反り返るのだ!」


踏ん反り返れ。

そう言われてもナゲリーナはどうすればいいのか分からない。


「もっと偉そうに威張れって言ってんだよ、騎士殿は」

「威張る……偉そうに……」


尋賀の助け舟。

だが、助け舟は沈没し始めた。


「…………」


紙とペンを取り出すナゲリーナ。

たしかに、真面目に勉強している姿は偉い。

だが、偉そうとはそう意味ではない。


「チェンジな」


尋賀の一言に、美玲が怒る。


「待つのだ坂巻尋賀! 我らの魔王はナゲリーナだ! 他の誰かでは務まらぬ!」

「もーいいだろ? 優等生だとかのの女がやりゃーいいだろ?」

「む?」


言われて美玲は想像する。


『ボクが魔王軍のリーダーだよ』


やけにまじめな感じだ。

続いてルシェールで想像する。


『私が魔王のルシェール・ノノなの! 世界を根絶やしにするの!』


世界なんて征服できなさそうな雰囲気が出ている。主に語尾から。

彼女は結論を出す。


「絶対魔王に向いてないよ……」


演技せずに本音を漏らした。


「だろ? つーわけでもういいだろ?」


尋賀は欠伸しながら言う。

美玲は食い下がる。


「待つのだ! 台本を用意したのだぞ!」

「台本?」


台本と言う割には本になっておらず、紙キレ一枚のみだ。

その紙を、この場にいる全員に配り始める。


「んだよ。これ?」

「魔王軍ならば口上がなくてはな!」

「お前の頭の中の世界に巻き込むなよ。こんな恥ずかしいセリフ、誰が言うかっての」


尋賀は心底嫌そうな顔をする。

そんな尋賀を無視する美玲。


「皆の衆、準備はいいだろうか? 多少のアドリブは許すぞ!」

「おい。将来、今日のことを思い出して頭抱えてもオレは知らねーぞ?」


尋賀は台本に眼を落とす。

どうやら一番先頭は彼のようだ。


「えー、世界を混沌の闇に沈めるため……」


嫌そうな顔で、かつ棒読みをする尋賀。

続くルシェールはノリノリだった。


「この剣で世界の闇を切り裂くの!」


尋賀はルシェールを睨みつけた。

彼を一人、置いて優作が続く。


「ボク達は誰かのために戦い続ける!」


おい、という声を無視して美玲が続く。


「この命、正義のため、世界のために捧げる!」


その言葉を発した美玲、そして優作とルシェールの三人がナゲリーナの座る椅子に近づく。


「わたし達は、世界を創造する」


そう言って尋賀以外の4人は決めポーズをとった。

ノリノリで。

仮に効果音がつくならば、バーンかそのあたりだろうか。


「おい、止まれ。バカども」


尋賀は決めポーズをとっている4人に、決めポーズの中止を求めた。

続いて彼はツッコミの時間に入る。


「まずはのの女」


どうやらこのツッコミは長くなりそうだ。


「なんで闇に沈めたのに切り裂くんだよ」


続いて優作だ。


「戦わねえくせに、戦い続けるって言うな」


そして、全員へ。


「最後の決めポーズとか色々言いてえことあるけど、まず言わせてもらうわ」


尋賀は一呼吸置いて、言った。


「てめえら魔王軍じゃねえ」


冷たいツッコミ。

そうなって当然だ。

全員が台本を完全に無視して正義側の発言したのだから。

最後の決めポーズは特撮の戦隊もののポーズに近い上に、完全に悪人がするものではない。


「何が気に食わなかったのだろうか?」

「オレしか魔王軍っぽいこと言ってねえからな」


美玲に対して、素っ気なく答える尋賀。

それを、拗ねてるように感じ取った彼女は優しい口調で言う。


「ならばもう一度やろう」

「なんでオレがワガママ言ってるみてえになってんだ?」


尋賀の言葉に、クスリと笑う声が。


「魔王様?」


ナゲリーナは白衣の袖で口元を隠していたが、確かに笑っていた。


「面白い」


平坦な声ではあったが、間違いなく本心だ。


「休日なんざぁー今みてえに笑って過ごしゃーいいのさ。バカみてえに考えても仕方がねえだろ?」

「バカなんて言って、ひどい」

「オレ、口が悪いからな」


自覚している分、タチが悪いが。


「オレもバカみてえに考えても仕方ねえよなあ……」


尋賀は、視線をそらしながら言う。


「魔王様。てめえは今、何もかも大丈夫なのか?」

「? どういうこと?」


ナゲリーナは問う。


「まだナゲリーナは死ぬ可能性があるの?」


ナゲリーナが質問している最中なのに、優作も質問する。

彼としても話の詳細を聞きたくて仕方がないのだろう。


「てめえは今、オレと出会った時と変わった。でもオレと出会う前に戻れてねえ」

「戻れてないけど、問題ない」

「何が問題ねーんだよ」


尋賀は腹の中に溜まったモヤモヤを吐き出しつつも、一気に出さないように小さめを意識した声で喋る。


「てめえは元の生活に戻れば良かったんだよ。でなくちゃー真の意味でてめえを救えたことになんねー」


ナゲリーナは面倒臭そうな表情を浮かべる。


「うだうだうるさい」

「……年上に向かってなんつーことを」

「わたしはわたしの思ったようにやる。ブレアーの支配も受けない」

「……へー」


尋賀は適当な返事だが、本当はもっと追求したいのを堪えていた。


「それともわたしをまた救ってくれるという言葉は嘘?」

「……だーもう!」


だが、尋賀はすぐに吹っ切れたかのように声を出す。


「ああそうさ。てめえがピンチなら世界の壁ブチ破って飛んできてやりゃー! 心配する必要なかったなぁ、オレ!」


彼はナゲリーナを心配していた。

彼はナゲリーナが元の日常に戻れていないことを気にしていた。

彼はナゲリーナがまたブレアーの意思のまま行動しないか心配だった。

彼女の事件は、尋賀を大いに心配させるだけのことはあった。

だが、彼はこれ以上心配することを止めた。


「もーいい。寝る」


尋賀は考え、心配するのをやめた途端、急に疲れがやってきたような気がした。

背を向ける尋賀に、ナゲリーナは椅子から立ち上がり、呼び止める、


「少し待つ。明日のことでみんなに話がある」


仕方なく、尋賀は座り込み、頬づえをついた。

適当に話を聞いたら寝に行く気満々だが。


「明日、フェルデファンに行き、そこで物資の調達をする」

「うげっなのっ! フェルデファンに行くの!?」


フェルデファンと言葉を発した時、メンバーの反応は様々だ。

新たな単語を知らぬ優作はただ黙っている。

だが、フェルデファンという言葉を一度聞いている尋賀は、美玲を睨みつけ、美玲の方はなんのことだか忘れている。

彼の中では闇のなんたらという風に記憶しているが、美玲は適当なネタだったのか既に忘れているらしい。

そして、妙な反応するルシェール。

あからさまに何かありそうだ。


「フェルデファンはノデランスノ家の自治下にある街。唯一の歴代の魔王の器の取引先」

「へ、へえなの。そうだったの。……知らない方が幸せだったの」

「? とにかく、そのノデランスノ家に行き、研究成果と物資をトレードする」

「うえええええなの! もう絶対にここから出ないのっ!!」


ルシェールはそう言って、美玲が用意した椅子にしがみつく。


「おい、のの女。面倒くせえこと言ってると飯抜きだぞ」


尋賀が言うが、成果は現れない。


「嫌なの! 絶対に行かないの! ぜえっっったいに行かないの!」

「騎士殿。明日になったらこいつを無理矢理連れてくぞ」


尋賀はそう言って一人部屋から出て行った。


「む。ならば早速準備をせねば」


美玲はそう言って尋賀の後を追う形で部屋から出て行く。

尋賀の言う『女子力』を最大限に発揮しに行くのだろう。


「ふーん……『ノデランスノ』、かぁ。行こうナゲリーナ。ノデランスノ家の人に挨拶しなくちゃ」

「どう報告するか、今のうちに考えておく」


そう言って二人も出て行く。


「……もしかして、バレたの?」


ルシェールは出て行く時の二人の顔を見て、一人呟くのだった。




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