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追憶の三人・後編

翌日。

過去と言う前提があるので、正確には過去の矢薙 美玲と出会った日の翌日が正しい表現だろうか。

とにかく翌日の朝。


「ちっ、憂さ晴らしにもなりゃしねー」


尋賀は久しぶりに路地裏に来ていた。

そして、そこら中に転がっているのは朝からたむろしていた不良、こちらも正しい表現をするなら深夜から朝までだろうか。

そんな不良グループの事情はいざ知らず、彼は倒れている不良のサイフと金目の物だけを貰って行く。


「お……お前、覚えて……やがれ……。その制服と白髪、覚えたからな……」

「起きてんじゃねーよ! オラッ! 沈め!」


尋賀は持っていた棍棒で勢い良く目を覚ました不良の一人に振り下ろした。


「ははは! 金だけはいっちょ前か。雑魚のくせに随分と羽振りはいいのな!」


雑魚とは言っているが、人数は十人ほどおり、それらを相手に棍棒を持っていたとは言え、無傷でいられる尋賀のレベルが高すぎたのが原因だろう。

だが、それは戦闘狂の尋賀にとって、満足する結果ではなかった。


「……ちっ、久しぶりの喧嘩だってのに、クッソつまんねー!」


尋賀の師匠と出会ってから始めての喧嘩だったと言うのに、その心はどこか曇っている。

単純に相手が弱かったからか。

それとも昨日の出来事があったからか。


「くそ、やっぱあの女のことを思い出すとムカムカして仕方ねーぜ!」


美玲の存在が、彼のイラツキを増幅させているようだ。

だから、尋賀はここに来たのだが、ムカつきは収まることはない。

師匠の言いつけもバレなければ何の問題もない。

そう考えて、せっかく『狩り』に来たと言うのに、面白いことが一つもないのは常に昨日の美玲の存在がチラついて仕方が無いのが原因か。


自分のやっていることは悪の道だ。

昨日、美玲にそう言われ血が上り、さらには生きる価値もないとまで言われた。

そして美玲の言うとおり、今尋賀がやっていることは間違いなく悪の道だ。

正義など欠片も存在しない。

生きるために誰かからお金を巻き上げなければ生きていけなかったという大義名分などもはや存在しない。


「あーもうやってられねえ!」


尋賀は唾を吐き捨てた。


ーーー


「どこに……行ってたのさ?」


通学路である自分のアパートの前に通りかかると、複数の生徒の中に良く見知った顔がいた。

だがその顔は尋賀の記憶にない、今まで見たことのない顔をしていた。


「別に。どこだっていーじゃん」

「……喧嘩でしょ? 制服に血が付いてるよ」

「あん?」


優作はそう言って、尋賀の制服を指差す。

言われた尋賀は思わず、制服を隈なく探すが、どこにも血は着いていなかった。


「……やっぱり、喧嘩して来たんだね。いないからまさか、とは思っていたけど」

「謀りやがったな! ヘタレのくせに!」

「別に謀らなくとも君のやることは大体想像つくよ」


優作はしてやったり、などと言う表情は一切見せず、むしろ見せている表情から読み取れる感情は怒りだった。


「どうして……どうして君はそんな事が平気なんだ! 君は何も感じないのか!? 君のやっていることは完全に悪い行為なんだよ! どうして分からないんだ!?」

「るせえ! つべこべ言いやがって!」


尋賀は優作の胸ぐらを掴み、怒鳴る。


「オレのやってることが悪いことだぁ!? だったらなんだよ!」

「君はまだやり直せるはずさ! やり直せるって、信じさせてよ!」

「るせー! あのクソ女と同じような事を言いやがって! オレが生きている事を否定すんじゃねー!」

「な、何もそこまでは……」

「うるせえーッ!」


胸ぐらを掴み、無茶苦茶なことを言っている。

当然、周りは止めようと思っても、その声の大きさと、恐怖から、あともう少しの止めようとする勇気が足りていない。

そんな中、ぬぅと誰かがゆっくりと近づく。

矢薙 美玲が尋賀の死角からゆっくりと近づいてきたのだ。

しかも、弓に矢をセットした状態でそれを首筋に近づけて。


(手を出すか、喋ると……殺す)


美玲は周りに聞こえないように極力小さな声で喋る。

ちなみにその周りは、突然の凶器の登場に先ほど以上に凍りづいているが。


「…………」


尋賀は無表情で、何も言わずにいる。


(今日の酉の刻、再び学校に来るのだ。そこで必ずや貴様を粛清しよう。場所は今日の放課後に改めて伝える)


美玲は、髪で顔を隠し、その髪の隙間から覗かせる瞳はまるで暗殺者のような雰囲気を出していた。

彼女は用件だけ言うと、そそくさと逃げるように小走りで去っていく。

それはそうだ。

弓なんて取り出し、人に向けたのだ。

朝の登下校中に起きた喧嘩よりも遥かにたちが悪い。


「……くそが。今のは生きた心地しなかったぜ」

「あれ、明らかに凶器だよね。やじり付いてたよね? 絶対殺す気満々だよ、あれ……」


しかも、そんな武器を平気で学校に持ってくるのはどうだろうか。

わざわざ鏃には刃も付けられており、殺傷能力も十分に備わっているだろう。

つまりは、弓道部などという言い訳もできない。

ということは、


「バレなければ犯罪にはならない理論かな……」


美玲も悪人ではないかと、尋賀と優作は呆れて言い争いする気を失せさせた。

田舎という事情があっても、町中で凶器を持ち歩くのはいかがなものか。それとも田舎だからバレないのだろうか。


「人のこと、全然言えねえじゃねえか……あのクソ女。正義面ぁ一人前にしやがって……!」


弓矢を向けられていた時が脳裏に蘇る。

向こうが昨日、殺す気満々の話し方をしていたことも含めて、尋賀は本気で殺されると思ったのだろう。


「まあ、話を聞いた限り彼女は過去で色々あってね」

「過去か。そりゃー大層な過去なんだろうな!?」


人に弓を向ける理由になる過去など、あるとは尋賀は微塵も思っていなかったが。


「ボクはそう思ってるけどね」


尋賀の予想に反して、何やら事情はあるようだ。

優作は美玲の過去を話し始める。


ある学校に一人の少女がいた。

その学校は魔法や何かを教えるような、そんな学校ではない。

ごく普通の学校の、ごく普通の少女。

友達も大勢いた、明るくて人付き合いも普通だった。

ある時、子供達の間で『ごっこ遊び』が流行った、いや子供なら『ごっこ遊び』は普通のものだろうか。

ある者は、剣士と言った。

ある者は、魔法使いと言った。

これらは男の子だろう。

ある者は、お姫様と言った。

ある者は、お店屋さんと言った。

これらは女の子だろう。

しかし、少女は一人、何かに思いついたかのように言った。


『じゃあ私は、正義の騎士かな』


少女にしては随分と男の子寄り選択だった。その時は、みんながきっと何かの漫画の影響だろうと考えた。


遊びは長く続いた。

ある子供は剣のおもちゃや、ある子供は家の食器なども持ち出して本格化してきた。

だが、一人だけ異彩を放っている者がいた。

少女が、祖父の弓を持ってきたのだ。


少女は次に設定を書いたノートを作り、口調を普通の女の子のものから、女の子らしからぬ勇ましいものに変えた。

次は大人達に同行して山に入ったり、狩りを成功させたり、自分で作った変わった服装をするようになった。


一緒に遊んでいた子供達は、背が伸びるに連れて日に日にその人数が減って行く。なのにも関わらず少女は飽きることなく設定を考え続け、最後には一人になった。

一人になっても彼女は変わることなく設定を考えて、周りに話す。

周りは次第にウンザリし始め、少女はある日、かつて一緒に遊んでいた子供からこう言われてしまう。


『もうその遊び、俺たちやめたから』


次の日から少女は髪で顔を隠しながら学校に登校するようになった。

周りと自分とは違うと、そういう風に考えるようになったのだろう。

誰とも話さず、孤独で、誰も信じていない。そういう雰囲気を常に出し続け、その顔と心の内を隠した。

学校以外ではかつて遊んでいた時のような格好をしている姿を友達たちは何度か見たことがあった。

だが、学校では常に一人で近づきがたい雰囲気を常に出し、末永く孤独と共に過ごして行くのだろう。

これから先、彼女がその妄想と設定と演技をやめない限り。


「結局大したことねーじゃねーか! んなくれーで弓なんか持ち込むな!」

「孤独の辛さは君も知ってるんじゃないの?」

「その前にオレは最初っから何もねーっての! つーかそんな妄想やろーなんか、関わるだけ損だっつーの!」


この場にいない者を嘲笑あざわらう尋賀。

それを優作は良くは思わなかった。


「確かに彼女は変わった人間で、現実と空想の区別や、常識を持っていないかもしれない。それでも彼女の言っていることは正しいんだよ。どんな理由があっても人を傷つけたのなら、それに対する償いがなければボクは決して君を許さないよ」

「なんでてめえらに許されないといけねえんだよ!?」

「それが人間社会だからだよ」

「くっだらねえ!」


尋賀は吐き捨てるように言うと、一人先に学校に向けて歩き出す。

優作は黙ってその後ろを歩いていく。


「……そんなに人間社会が嫌なら、君のお師匠さんの言うことなんて聞かなくてもいいんじゃないの?」

「親の居場所、聞けねえだろーが! それに、あの女と決着つけなきゃなぁ!」

「君って人間は本当に救いようがないかもしれないね」

「ふん、だったらどこにでも行けよ!」

「……もう、その方がいいのかもしれない」


優作は、今までどれだけ尋賀の近くにいたか過去を振り返る。

彼は自分のためならば、他人を傷つける。

それは、いつまでも変わらず、彼の師匠に弟子入りしたのも、力を身につけるためだ。

そして、身につけたその力をまた、他人を傷つけるために使うのだろう。

現に彼は、誰かを傷つけてきたようだ。

もはや、生きるために金を巻き上げる必要があったという言い訳はもはやできない。


「どんな人間でもやり直せると思ってた。君だってやり直せるって思ってたし、ボクにとって君は恩人だったから、やり直して欲しいって。だけど、今の君は……ううん、君はいつだって間違ったことしか言わないし、間違った考えしかない。君は……どうしようもない……悪人だ」

「だったら失せろ! もう二度と話しかけてくんじゃねー!」

「ただ……最後に一言だけ言っておくよ。他人が傷つくところを、自分と重ねてみてよ」

「……ふん、それだけか? おらっ! とっととどっかに行けよ!」


尋賀は優作の背中を押すように蹴る。

蹴られた優作は、制服についた足跡を何度か払って落とすと、後ろを振り返ることなく尋賀よりも先に歩いていく。


「へっ! どいつもこいつもオレが悪いってか! 好き勝手言ってくれるぜ! まずはあのクソ女をぶっ潰す! 次はクソジジィをぶっ潰して親の居場所を聞き出すか! あとは性懲りも無くあのヘタレが近づいてきたらそん時はあいつもぶっ潰す!」


恐ろしいことを声に出しながら尋賀は道を歩く。

多くの者は彼から逃げるように歩いていく。


ーーー


授業はこんな日もいつも通りだった。

美玲の弓を見た者が誰も告げ口していないのか、突然の手荷物検査も始まらなければ、美玲の弓の入った袋も健在だ。

昨日と同じくノートにだけ気を配った美玲が出席している。

そもそも、手荷物検査などやらない緩い学校なのだ。

でなければ尋賀の理由もなく持ってきている棍棒がとっくにバレているだろう。


だが休憩時間はいつもと少し違った。

優作は尋賀に話しかけてこない。

美玲は休憩時間になると、すぐにどこかに行ってしまう。


昼休みも同様だった。

相変わらず優作は話しかけてこない。

尋賀は、ゆっくりと教室から、屋上に続く階段を登る。

可能ならば、美玲との決着もそこでつけようと考えたが、そこにいるという予想に反して、扉は開かなかった。


「ちっ! めんどくせー! 別に酉の刻じゃなくてもいいじゃねーか!?」


尋賀は開かずの扉を、怒りに任せて蹴る。

当の美玲は現在、決闘の場に相応しい場所を探していた。

休憩時間を利用して、人目に付かぬ場所で、神聖な決闘の場として相応しい場所を用意したかったために彼女は休憩時間をフルに使って探していたのだ。

そのような事を知らぬ尋賀は、美玲を探す気も失せてしまった。


「くそが! 約束の時間まで待つか。これで雑魚だったら承知しねーぞ!」


自分に罠を張って、なおかつ弓まで取り出したのだ。

これで、喧嘩が弱ければ折角、盛り上がっている自分の心も興ざめるというものだろう。


「いや、喧嘩以上にあいつにやってみたいこと、思いついたぜ」


尋賀は歯を剥いて笑う。

まるで、獣が牙を剥いて攻撃する意思を見せるかのように。

まるで、悪魔が歯を見せて笑っているかのように。


「あいつをボコボコにして死にかけにすればきっと許しを請うんじゃねーか? あのくそ女は自分が死にかけても、他人を傷つけてまで生きようとはしねーって言った。ははは! どんな奴だって死ぬのは怖いハズだ! オレと同じ目に合わせてやるぜ! くっくっくっ!」


きっとだ。きっと死にかければ誰だって死ぬのは怖いから、許しを請い、なんとしても生き延びろうとするだろう。

尋賀はその光景を想像する。

生意気な女が、地面に倒れ、その髪を持ち上げる。

口を切り、血が流れ、思うように身体が動かせなくなっている。


『ほら! 許しを請えよ! そしたら殺さずに許してやるぜ!』


その美玲に謝ることを強要する自分。

やることは今までと同じだ。

相手と喧嘩して、相手を倒し、残るのは怪我をして倒れている者だけ。

今回は金を取るのではなく、許しの言葉を吐かせるだけだ。


「俄然やる気、湧いてきたぜ! くっくっくっ!」


自身の拳を左手で受け止め、悪意をむき出しにしながら笑った。


ーーー


教室に戻った尋賀は椅子に座ると、足を机に乗せて授業を受けた。

美玲も戻ってきており、彼女はノートとひたすら睨めっこをしており、二人とも完全に授業など耳の中を右から左だった。

その光景を優作は少し悩む素振りを見せつつも、何かを決心したかのように黙って見ていた。

授業が全て終わると、美玲は弓が入った袋とは別の袋を持って尋賀に近づく。


(まだ決闘の場所が決まってはいない。決まるまで教室に居てもらおう)


美玲は尋賀にしか聞こえない小声で彼に伝える。

それに対して尋賀は鼻息だけで返事する。


(どうせ、酉の刻だから、夕方までお預けだろーが)


これは美玲に言ったことではなく、尋賀の頭の中で思ったことだ。

おそらく、人がほとんどいなくなるこの時間帯を指定してきたのだろうと尋賀は推測する。

美玲は弓などの入った袋はそのまま教室に置いて外に出ていった。


(けっ。あのやろー、得物を置いていくなんざー随分とナメくさってやがるな)


だからと言って、尋賀はその武器を隠したりなどと言う気は全くない。

彼は戦闘狂なのだ。

相手が弱いとつまらない。


(ん?)


美玲が出て行ったすぐ後、優作もまた荷物を教室に置いて出て行ってしまった。


(ふん。あの女を付け回して、喧嘩する場所でも調べにでも行ったか)


尋賀はこの高校では喧嘩をしたことがない。

だからこそ、誰にもバレない場所と時間帯を知らない。

それは優作も同じだった。

だから、美玲の後を気づかれずに付け回し、喧嘩の場所を調べようとしているのだろう。

二人はやることがあるが、残された尋賀には何もやることがない。


(あーくそ。待ってる時間がたまらなく暇だ)


尋賀は、棍の入ったバットケースを背負うと、ゆっくりと教室を出る。

彼らの学年の三階の渡り廊下。

そこを適当にフラフラと歩いていく。

本当ならば、この時間帯は師匠の道場に向かっているハズだったが、今はそうする訳にはいかない。

ゆえに時間を潰すまでフラフラと歩いている。


(ん?)


尋賀はなんとなく、窓の外を見る。

窓の外は校舎裏。

普段は申し訳程度の花しか植えられていないその場所に何人かの人影が見えた。

うち一人は眼鏡をかけた女子生徒で、近くにはジョウロが落ちている事から、花に水をあげに来たのだろう。

そして、その生徒の周りを囲むように立っているのは、この学校の物ではない制服に身を包んでいた。

尋賀はその男たちにどこかで見たようで、既視感を覚える。


(あー、今朝の雑魚どもか)


よく見ると、顔に湿布やら、ひどい者なら包帯をぐるぐる巻きにしている。

それだけ尋賀に執拗にやられたのだろう。


(あいつら、くっそつまんねーんだよなぁ……)


尋賀はそういうコメントしか頭に浮かばなかったが、不良達は人気ひとけの少ない校舎裏に移動し、一階の窓からは死角となるポイントで行動している辺り、狡猾さが伺えるのだが。


(どーなるか、しばらく高みの見物でもして時間でも潰すか)


窓を開け、不良達を見続ける。

誰も彼らの存在に気づかないということは、一階の窓からは彼らの存在に気付けないのだろう。


ーーー


美玲は『決闘の場』に向かっていた。

まだ決まっていないという言葉は嘘で、本当は決闘の場に昨日、尋賀に仕掛けた罠と同タイプの罠を仕掛けに行くのが真実だった。

ちなみに、校内だと言うのにいつの間にか、髪留めをつけてゴーグルスタイルだ。


「ふむ。あの卑怯で、狡猾で、卑怯で、え〜……卑怯な坂巻 尋賀のことだ! 必ず卑怯な手を使ってくるハズ!」


彼女のボキャブラリーはこれでいいのだろうか。

ともかく、卑怯な坂巻 尋賀と真正面に戦えば分が悪いと考え、美玲は彼女オリジナルの罠セットを袋に入れて持ち運んでいた。

これを仕掛けておけば、後は勝手に憎き宿敵は罠に掛かるだろう。

そうすればこちらの勝ちは揺るがない。


「ふっ、今日こそ貴様を倒すぞっ! 『伝説の不良』坂巻 尋賀!」


妄想好きの彼女が言うと、彼女が勝手に付けた二つ名のようにも聞こえる。

そんな大声を出して一人言を言う彼女を付けている者が一人。


(矢薙さんには悪いけど、決着はつけられないよ)


優作が一人やかましい美玲とは反対に黙ってついて行く。

優作の考えたシナリオはこうだ。

二人が決闘を開始した時、優作が教師と一緒に現れる。

あからさまな凶器を持つ二人を教師が間に入って止める。

これが、彼が考えた、彼にとっての事実上の『最後の手段』でもある。

どちらもやる気満々で、どちらかが怪我をすることは避けられない。


(ボクには二人を止めることは出来ない。どちらも怪我をせずに解決するにはもうこれしかないんだ……)


優作には、その後の二人がどうなるか、思い浮かばなかった。

良くて退学か、悪くて……。

だが、もう彼には止められない。


(尋賀は……もう救いようがない。矢薙さんはとばっちりだけど、どれだけ正論を言っても凶器を持ち出すのは間違ってる)


きっと、これが二人にとって最善の選択なんだと自分に言い聞かせる。


「なっ!? なんだ、貴様らは!?」


突然の美玲の大きな声、と言っても今までの大きな一人言とは違う、誰かに向けた敵意のある声。

美玲が見たもの。

それは、湿布や包帯などを付けた男達だった。

しかも、男達は一人の女子生徒を壁に追いたと言わんばかりにニヤニヤと嫌な笑みを浮かべている。

隠れながら様子を見ている優作は、死角でどういう状況かは直接見えなかったものの、複数人の笑い声が聞こえてきて、すぐに状況を理解する。


(ま、まずい……!)


すぐに優作はその場に急いで離れ、助けをを呼びに行く。


ーーー


(あのバカ。喧嘩する場所が被ってるじゃねーか!)


尋賀は、三階から傍観している時、すぐに美玲が来たのだ。

ちょうど、お金を巻き上げられているところだった。


(……って、バレない場所をお互い求めてるんだから、自然と被るよな)


尋賀はそのまま傍観を続ける。

そして、美玲に一人の不良グループの男が近づく。

尋賀はその男が、今朝の最後に負け惜しみを言っていた雑魚だと思い出す。


「別にぃ〜、俺達は白髪しらがのここの生徒を探してるだけですぅ〜、ついでにお金を取られたし、取られた分のお金と治療費をここの女の子に分けてもらってるだけですぅ〜」


男の挑発的な喋り方に後ろの仲間達はゲラゲラと笑っている。

男達が笑うたびに、女子生徒は怯え、ついには涙を流す。

すぐに美玲はブチ切れた。


「貴様ぁ! そこの少女を解放し、巻き上げたお金を返し、この学校から出て行け!」

「くけけけけ! おいお前ら、今なんて言ったか聞いたか!? 注文が多すぎてちょっと覚えてないわぁー」

「貴様ぁ! どこまで私を愚弄すれば……!」

「しかっもその格好何? ゴーグルなんてつけてるよ! ひゃーははははは!」


美玲と話している男が笑うのに合わせて、後ろの仲間達は下卑た笑い声をだす。


「ま、こっちの条件飲んでくれるなら考えないこともないんだけどなー?」


男が美玲に顔を近づけながら言う。

美玲は不快に思い、後ろに一歩下がる。


「白髪の男をここに連れて来い」


不良は急に表情を変えて美玲に言った。


(ふん、雑魚どもを潰すのは好きじゃねーんだよ)


それを上から見ていた尋賀はがっかりした表情になる。

これが強敵相手ならまだしも、一度雑魚認定した奴らと戦う気などこれぽっちも起きなかった。

そんな尋賀の心境を知ることもなく、下では話が続く。


「あの野郎がここにいることは分かっている。そのために俺達は『伝説の不良』に協力してもらったんだ」

「何!? 伝説の不良だと!?」


不良の男が『先生』と言うと男達の中から一際図体がデカイ男が前に出てくる。


「バカな!? そんなハズは……!」


美玲は『伝説の不良』は坂巻 尋賀だと思っていた。

だが、男はこの図体のデカイ男が『伝説の不良』だと言う。

図体のデカい男は口を一切開こうとしないが、周りにいる仲間達と一緒で下卑た笑みを浮かべている。


「こりゃーいい! 流石、都市伝説扱いの『伝説の不良』! 偽物なんて現れても誰にもバレねーよな!」


尋賀は上で爆笑していた。

きっと、第二、第三の『伝説の不良』を語る者は現れるだろう。

そうすれば、美玲のような厄介な人間に遭遇しなくて済む。

そんな爆笑する尋賀とは裏腹に、美玲はたらりと一筋の汗が線を描く。


「この男が『伝説の不良』でもなんでもいい! そこの少女を解放するのだ!」


その言葉に対する返答はまたもや下卑た笑い声だった。


「えぇ〜、俺たち、白髪の男に用があるのに先に連れてきてもらうのが先決だよねぇ〜?」

「……分かった、いいだろう」


上から見ていた尋賀はげんなりとした。

まさか自分が売られるとは思っていなかったのだろう。


「ただし、貴様らはこの矢薙 美玲が相手だ! 覚悟するのだ!」

「……は?」


男は間の抜けた声を出す。

十人ほどいる仲間に伝説の不良まで雇っているのに、たかが女一人で何ができるのだろうかと。


「ははははは! 分かった分かった! じゃあこうしよう! そこのお嬢さんは解放しよう! そんでお嬢さんが白髪野郎を探している間にねーちゃんが相手してくれるよな?」


逃がしている間に助けを呼ばれるとは考えないのだろうか。相手が理屈の通用しない人間だからこそ何を考えているのか分からない、とも言える。

女子生徒の周りを囲んでいた不良達が一歩下がり、その女子生徒は小走りで美玲の元に走る。


「あの……」

「礼など必要ない」


なんと言えばいいのか分からずにいる眼鏡を掛けた少女に、美玲は少しだけ微笑んで見せた。


「大丈夫だ。……そうだな。ただ少しだけ頼まれてくれるか?」


美玲はそう言って、少女に耳打ちする。


「…………」

「ッ!?」


当然、目の前の不良達にも、上で見ているだけの白髪の不良にも聞こえない。

ただ一人、耳打ちされた少女だけが表情を変えた。


「……そんな」

「ふっ、さっきほどの貸し借りはこれでなしということにしよう」

「でも……」

「件の白髪の男は三階にいる。すぐに見つかるだろう」


美玲に何かを言われた女子生徒は何かを躊躇ためらう表情を見せる。


「早く行くのだ! 折角助かったものを無駄にするつもりか!?」


その一言で女子生徒は走り出す。


「すげーかっちょいい〜。しかっもねーちゃんよく見たら美人じゃねーか? こんな美人に出会えるなんて俺たちツイてるぅ〜。くくく!」


美玲はその言葉に反応することなく、持ってきた罠セットを地面に置く。

中にはロープなどが入っているが、これでは戦えないだろう。

こんなものよりも教室に置いてきた弓を持ってくれば良かったのだろうか。

しかし、弓を持ってきていたとしても、これほどの人数を相手に戦えると思えない。


「ねーちゃん、俺の女になる? なるよね?」

「ふっ、私は女ではない! 正義の騎士だ! 貴様ら悪人を必ず成敗しよう!」

「は? 何言ってんの?」


美玲は、勇ましく宣言し、格闘技の心得があるわけでもなく構えた。

しかし、心の中では恐怖で震えていた。

それでも宣言しなくてはいけなかった。

自身の正義は絶対だと考えているから。

彼女は不良の男よりも先に、拳を繰り出す。

しかし、腕を掴まれるだけの結果に終わる。


「危ねえ! ちょっと黙ってろよ!」


不良の男は美玲の顔を容赦なく殴る。


「ぐっ! ……その程度か?」


目元を殴られ、痛みで手を覆う。

すぐに殴られた場所はあざとなる。

だというのにも美玲は演技でしかないのにも関わらず気丈に振る舞う。


「そういえば騎士とか言ってたっけぇ? 許してくださいって言ったら乱暴には扱わないよ? くけけけけ!」

「それを言うのは貴様らの方だ。でなければ死ぬことになるぞ?」

「口の減らねえ女だなぁ!」


男が数発、美玲に拳を入れる。

その光景を見ていた尋賀は昼頃を思い出す。


(オレと同じこと言ってんのな)


尋賀は自身の昼頃に考えていた事を思い出す。

今は気丈に振舞っているが、次第に許しを請うだろう。

尋賀は黙って見続ける。

また一撃。

だが、彼女はよろけるだけで、まだ気丈に振る舞う。


「か、軽い一撃だ。この程度じゃあ私は倒れない……ぞ」


そう言う美玲はもうふらふらで倒れ掛けている。

顔ももう一度殴られ、口を切ったのか、血を流している。

それでもなお、彼女は戦う意思を見せつける。

一回も攻撃できていないと言うのに。


「ほらほら! どうした!? 攻撃してこいよ!」


また殴られ、美玲は倒れそうになる。

しかし、倒れようとしていた美玲を偽伝説の不良が彼女を羽交い締めにする。


「わ、私はまだ……倒れてはおらぬぞ……!」


確かに倒れた訳ではないが、これは正しくは捕まっているというのだろう。


「随分と頑張るねえ……」


これは下にいる不良ではなく、尋賀が漏らした感想だ。

赤の他人に関わる義理がないとでも言いたげな表情で見守っている。

それはそうだ。

美玲は敵だ。

敵を助ける方がどうかしている。


「はぁ……はぁ……あの!」


急に息の切れた女性の声が聞こえてきた。

初めはグロッキーな状態になっている美玲の声かと一瞬思ったが、すぐに尋賀は後ろを振り向く。

眼鏡を掛けた女子生徒。

さっきまで男達に囲まれて、怯えていた女子生徒だ。


「お願いします! 助けてください!」

「なんでそんなことしなくちゃなんねーんだよ」

「今、外で殴られてる人、なんだか死ぬつもりでいるみたいで!」

「……はぁ?」


ボコボコにされるだろうとは思っているが、まさか殺されるなど尋賀は微塵も思っていなかった。


「大丈夫だろ。どうせそうなる前に先公共が気付くだろ」

「今日は、職員会議で先生達は……!」


来ないとでも気づかないとでも言いたげだ。


「ふん。だったらどうした」

「お願いします! 本当に……死んでしまうから……! そうでなくともひどい目に……!」

「何言われたんだよ、あの妄想馬鹿女に」

「それが……」


女子生徒は美玲に耳打ちしたことを尋賀に伝える。


『坂巻 尋賀という不良の男に伝えてくれ。私はこれから私の正義のために死ぬ。だから今宵の決闘はなしだ! だから……貴様を粛清することはできない。本当は貴様を誰かが倒さなければならないが……今は守りたいものがあるから、そちらを優先させてもらう。

貴様は昨日、貴様のように死と隣あわせの状況だったら誰かを犠牲にして自分が生き延びる道を選ぶって言ったな? しかし私は誰も犠牲にしてないぞ!』


「――って」

「……んだよそれ」


尋賀には納得できなかった。

助けを求める言葉ではなく、よりにもよってそんな言葉を伝えるとは。

今、下で殴られている女はそんなことを言って自身を犠牲にしてまで立ち向かっているというのか。

尋賀の脳裏にふと今日の昼の事が蘇る。

尋賀が美玲を倒し、そして死にたくなければ許しを請えというくだり。

それが今では想像の中の彼女が言葉を紡ぐ。


『誰かを傷つく位なら……死んだほうがまっしだ!』


尋賀は我ながら美玲のように妄想力がたくましいなと自嘲した。

それと同時に間違いなく彼女ならそう言うだろうと確信してしまった。


一体彼女はなんなのだろうか。

ただの妄想好きの変人じゃないのか。

ならばどうして自分の身を犠牲にしてまで勇敢に立ち向かい、女性であるくせに殴られ、死すらも覚悟して立ち向かっているというのだろうか。

どうして妄想でしかないのにも関わらず、彼女は傷ついているのだろうか。

我が身は大事なのに、なぜ彼女はそうも簡単に捨てられる。

尋賀は、名も知らぬ者を傷つけて、お金を巻き上げる。

美玲は、名も知らぬ者を傷つけぬために、立ち向かう。

この差が、大きな違いを生み出すというのだろうか。


「お願いします! あの人、私の代わりにあんなことになって……!」


彼女は、窓の下にいる美玲を見て、もしあの場で助けてもらわなければ、最悪美玲のように殴られていたのではないかと、戦慄する。そして、その恩人を助けて欲しかった。


「なんでオレが……?」

「あなた『伝説の不良』だって噂があるじゃないですか! 喧嘩好きで、乱暴で、口が悪くて……そして強いって」

「うるせえ! 好き勝手言ってんじゃねえ!」

「ひっ!」


美玲が助けた女子生徒はまたしても泣き出しそうになる。

というよりも、理由教えてくれという素振りを見せておきながら、好き勝手言うなは無茶苦茶ではないだろうか。あるいは、理由を述べてもいいが、表現の自由は認めていないというところだろうか。


「でもお願いします! なんでもしますから!」


尋賀は断ろうと口を開こうとした。

わざわざ美玲を助ける義理もなければ、見ず知らずの女子生徒に何かをしてもらうことなど一つもない。


「…………」


だが、なぜか口から言葉が出てこなかった。

その間にも美玲が一回、また一回殴られる度に、気丈に振る舞い、そして尋賀はただそれを見ているだけ。

断らない理由はなく、断る理由ならある。

しかし、なぜか声帯が震えることがない。

何かが引っかかっているのだろうか。

喉を通すことを許さない、何かが。

ふと優作の言葉が、昼の時と同じように蘇る。


『他人が傷つくところを、自分と重ねてみてよ』


もしも、自分だったら……もし相手が自分よりも格上が相手だったら。

戦闘本能に従って突っ込んで行くのだろうか。

それとも命惜しさに逃げ出すか、関わらずにいるのだろうか。

じゃあ、そこから今から美玲と同じ状況に立たされて、同じようにボロボロにされていたらどうなるか。


(……死にたくねえに決まってる)


命がけで生きてきた人生が……死を恐れて生きてきた自分の人生が終わる。

そう考えただけで、尋賀は自分の目の前に広がる光景が、ひどく息苦しくなるのを感じた。

しかも、向こうは尋賀と違って女なのだ。

だと言うのに、尋賀以上に勇気を見せつける。

その彼女はそろそろ限界なのか、意識がややはっきりしていない。


「やべ、ちょっとやりすぎちゃったぜ、美人が台無し〜」


不良は笑いながら美玲の顎を掴む。

それに対して美玲は薄っすら笑っていた。


「何がおかしい」

「……私は騎士として……守れた…………どうなったとしても、悔いは……ない」


ひどく小さな声で呟かれた声は三階まで届くかすら怪しかった。

しかし、尋賀には聞こえていたようだ。


(悔いはないって……)


完全に自分の人生に幕を降ろそうとしている者の言葉だ。

しかも、ここまでボロボロになって、命乞いも何もせずに最後までそんなことを言うつもりだろうか。


(馬鹿だ。何が正義だ。そんなくだらねえ物のためにボロボロになりやがって。死ぬ位なら逃げろよ! 簡単に投げ捨ててんじゃねえ!)


尋賀は完全に初めとは完全に態度を変えていた。

自分と重ねてみて始めて他人の痛みが分かったのか、それとも無謀なことをして我が身をかえりみない美玲に心を動かされたのか。

尋賀は、その瞬間気づいたような気がした。

ひょっとしたら、自分は今のこの状況から彼女を救いたいと、ちょっとずつ揺らいできているのではないかと。

現に彼は態度が完全に変わってきている。

自分の中で気持ち悪さとなって、その感情を受け入れようとしないが、かと言って

彼女を助けないという選択肢が徐々に消えて行っている。


(何でだ……? 見捨てればいいものを……どうしてオレは……? そもそもオレはあいつをあそこまでボロボロにしてやろうって考えていたはずだろ……?)


時が止まったかのように、思考の海に流される。

尋賀は、一度、自分と美玲を置かれている立場を重ねてしまったからなのか。


「おい! やっぱ白髪諦めてこいつ連れて行こうぜ! こいつ、気に入ったしな。先生もこの女、自由に使っていいっすよ!」


下から美玲を殴っていた不良がその場にいる者たち全員に向かって言う。

同時に全員が賛成の声やら、下卑た笑い声がする。

こんな声を出していれば誰かが気づきそうなものだが。


「そんじゃ行こうぜ〜」


もはや美玲の反応はない。

偽伝説の不良に担がれて連れて行かれようとしている。

このままでは美玲は、ただでさえボロボロなのに、何をされるか分かったものではない。

そう考えた瞬間、尋賀の思考の海は一瞬で凍結した。

完全に考えることをやめてしまう。

尋賀は、窓を完全に開け、バットケースの中から棍棒を取り出し、窓に足をかける。


「ちょっと! 何をしてるんですか!」


その女子生徒は、ずっと顔色が蒼白だったが、さらに真っ白になって尋賀の方に目を向ける。


「……飛び降りる 」

「そんなことをしなくても階段から急げば間に合います! 第一そんなところから飛び降りれば無事では……!」

「…………」


尋賀はもはや何も聞こえていなかった。

その身を乗り出し、そして臆せず重力に身を任せた。


「何で……オレはこんな事を……?」


窓から身を投げ出した事を後悔する尋賀。

ほとんど本能に身を任せた結果が、自由落下だ。

考えなしで飛び出したようなものだが、策がない訳ではない。

尋賀は、校舎の壁に棍棒と足で摩擦を起こす。

今までかかっていた力が重力のみだったものに摩擦力が力の向きとは反対方向に加わり、その速度を緩める。

その分、尋賀の手と棍と靴と足には負担が掛かるが、尋賀は完全に気になっていなかった。

ズガガガガガッという音が校舎裏に響き渡る。

当然、尋賀に気づいた不良達は一斉に振り向き、そして開いた口が閉まらないでいる。

尋賀が無事に着地すると、不良達は誰が落ちてきたのかを理解した。


「なっ……! 白髪……!?」

「…………」


尋賀は何も言わずに美玲を担ぐ偽伝説の不良にゆっくりと歩いていく。


「おい、待て! そこの女に危害を加えてほしくなかった大人しく言うことを聞きな!」


人質と言うことだろうか。

だから初めに女子生徒を脅し、次に美玲を側に置いておいたのだろうか。

しかし、尋賀は歩く事をやめない。


「おい、俺達は本気だぞ! ど、どうなってもいいのか!?」


不良は坂巻 尋賀の威圧感から今朝殴られた痛みを思い出したのか、包帯を手で抑えながら脅迫する。


「……くそ女が」


尋賀は、偽伝説の不良の目の前にたどり着くと、小さな声で呟いた。


「…………」


その一言だけで口を開かず、何も動こうとしない。


「せ、先生! やっちゃって下さい!」


リーダー格の不良のその一言で偽伝説の不良は拳を振りかぶる。

だが、それよりも尋賀の方が速かった。

身長差がある相手にも関わらず、棍で顔を殴りつけた後、鳩尾に一発の拳、顎に一発の蹴り上げ。

それだけで、巨体は宙を舞い、それと同時に美玲も宙に投げ出される。


「…………」


宙に浮いた彼女を尋賀は両手で受け止める。

その瞬間、美玲は意識を取り戻したのか、目を覚ます。


「……貴様は……坂巻 尋賀……?」

「……ああそうだよ。てめえの大っ嫌いな不良だよ」

「まるで……本物の……き……し……」


尋賀はそう言うと、彼女を地面に下ろして、棍棒を構え直した。

不良達は、頼りにしていた者が戦闘不能になり、全員顔が引きずっている。

それもそうだ。

この面子は今朝、坂巻 尋賀に全滅させられたばかりなのだ。

頼りにしていた『先生』がやらてしまった今、残る彼らでは既に敗北は決定しているようなものだ。


「せ、先生が……! 伝説の不良が……!」

「……今のオレはなぁ、オレ自身に最っ高にムカついてんだ。見逃してやるからとっととどっかに行きな!」

「ひっ! だ、だが女守りながらで何ができる!?」

「……ふん。死にてえのならかかってきな」


ーーー


「こっちです!」


優作が教師を引き連れて、校舎裏にまで来たのは、呼びに行ってから十分ほど経過していた。

職員会議の事を知らなかった優作は職員室に行っても誰もいないことに気づき、そこから探し回っていた。

そして、職員会議を知り、会議室に駆け込んだ後、さらに警察などに連絡しているうちに大きな時間のロスとなっていた。


(矢薙さん、どうか無事で!)


彼は美玲が無事でいることを祈っていた。

だが、校舎裏に広がる光景は違っていた。


「これは……!?」


倒れていたのは、包帯やらをした不良達。

しかも、新しい打撲痕などができており全員気を失っている。


(もしかして、これをやったのは尋賀?)


どういった経緯で、どういう理由でやったのかは分からなかったが、優作はこんな事をするのは尋賀しかいないと確信していた。


(そうだ! 矢薙さんは?)


優作は、辺りを見回しても彼女の姿が見つからなかった。


ーーー


「…………」


尋賀は黙って、保健室の椅子に座っている。

その視線の先は包帯を巻かれた美玲だ。


「あの……何か手伝えることは……」

「こいつの処置くらいで十分だ」


尋賀は保健室に一緒にいる、美玲の助けた女子生徒に向かって話す。

保健室には誰もいなかったところ、彼女が保健室の鍵を取りに行き、さらには再び気を失った美玲の処置も彼女がやったのだ。


「…………」

「…………」


そして沈黙が空気を支配する。

特に話すことがないのだろう。


「……ん」


そんな沈黙を壊すかのように、美玲が目を覚ます。


「あ! 大丈夫ですか!?」

「……ふん」


目を覚ましたことに気づいた女子生徒は彼女に近づき、心配そうに尋ねるが、尋賀は鼻を鳴らすだけだ。

それに対して美玲は天井を見上げたまま弱々しく呟く。


「私……死んじゃったのかな……」


目の前の少女がいつもの堂々とした態度ではないことに尋賀は一瞬驚いたが、すぐにいつもの調子に戻る。


「かもな」


尋賀は冗談なのかよく分からない答えを返す。

すると、美玲は尋賀の顔をじっと見つめだした。


「な、なんだよ?」

「坂巻……尋賀……?」

「ああそうだよ。てめえの大っ嫌いな坂巻 尋賀様だよ」


こういう態度を取れば、きっと美玲はすぐにでも憤慨するだろう。

出会って一日しか経っていないのに、予想がついてしまった。

だが結果は違った。


「ねえ、さっき私を助けてくれたのは本当!? 夢じゃないよね!?」

「は?」


尋賀は訳が分からなかった。

今朝まで親の仇でも見るかのような目をしていた美玲が今は目が輝いているように見える。

それが理解できなかった。

彼はたまらずに逃げ出そうとするが、その前に彼女は両手で尋賀の手を掴んだ。

まるで、ファンが憧れの有名人に出会ったかのように。


「すごくカッコよかった! 本物の騎士を見ているようだったよ!」

「な、なんじゃそりゃ?」

「そうそう、空から降ってくるし、敵を一瞬でやっつけちゃうし、敵を蹴り飛ばした時に私をキャッチしたり!」

「そん時気ィ失ってたんじゃねーのかよ!」

「私、最初から最後までぜーんぶ見てたもん! ズバッ、バカッ、って一瞬で敵を――イタタタッ」

「おい、怪我してんだから興奮すんなって! 骨だって折れてるかもしれねーんだぞ!?」


尋賀がそう言っても彼女の興奮は止まるところを知らない。

怪我はひどいが骨折はしていないようだ。


「そんな些細なことどうでもいいよ! それよりも尋賀はどうして強いの!? 騎士だから!?」

「些細なことってお前! 一体何なんだ……?」


どうも彼女は自分の身体の事は気にならないらしい。

後、いつの間にかフルネームで呼んでいた彼女が突然尋賀と、名前で呼ぶようになり、彼女から尋賀に対する好感度が、マイナスだった時と比べるとうなぎ登りだ。

どうも、その露骨な態度の変わりようが尋賀にとってやりにくいらしい。


「と、とにかくオレはてめえを助けた訳じゃねーって! てめえの怪我が治ったらもう一度今と同じ状態にしてやる!」


と言っても、彼女の目の輝きは止まらない。


「やった! 私と決闘してくれるんだね!? 嬉しい!」

「な、な、な――」


尋賀は頭の辺りに激痛が走る。

ただの頭痛ならいいのだが。


(なんだ、こいつ……)


隣にいる女子生徒も、同じような考えをしている事だろう。


「だって、尋賀って超かっこいいんだもん!」

「……ちょっと黙ってろ」


尋賀はどこからツッコめばいいか分からなかった。


「私も尋賀みたいになりたいんだよ! 人を救える騎士みたいだから!」

「頼む……黙っててくれ……」


黙れという言葉を無視して彼女は続け、尋賀の頭は許容範囲を超えそうになる。

目の前にいる矢薙 美玲という少女は本物なのだろうか。

むしろ、矢薙 美玲の同姓同名で同じ顔の別人か、別人格か何かではないだろうか。

尋賀のそうであってほしいという願いは叶わないが。


「とりあえず、オレはてめえを助けたくて助けたんじゃない。いいな?」

「え〜!?」


とりあえず尋賀は無視する。


「次、オレはてめえが気にいらねえからボコボコに痛めつける。これもいいな?」

「うん」

「そんで、その決闘のルールを決めてなかったな」


尋賀はそこではっと気がつく。

もしここで、ひどいルールを決めれば彼女は、自分に向ける謎の態度をやめるのではないか、と。


「決闘のルールは勝ったほうが敗者に自由な命令ができるでどうだ!」

「うん、いいよ!」


尋賀は、ずっこけそうになるがなんとか耐える。


「それじゃあ、オレが勝ったら、てめえは死んでもらおうか!」


これだけ無理難題を押し付ければ彼女は目を覚ますだろう。

しかし、目論見はすぐに外れる。


「うん! 分かった!」


あっさり快諾かいだくされる。


「てめえ、意味分かってんのか! 死ぬんだぞ!?」

「え? きっと何かの正義があるんだよ。だって尋賀だから」


尋賀は意味が分からないと、とうとう頭を抱え始めた。


「それ、どういう意味だ?」

「どういう意味って、尋賀は正義の人間だから」


つまりは彼女の中では、尋賀は実際に死ねなどと言わない人間とでも思っているのだろう。

彼女は先ほどからの尋賀の言動の全てを照れ隠しとして受け取っているのだ。


「へ……へ、へへ。う、嘘だろ? 何を言ってんだ? オレは悪人だっててめえ言ってたろ? てめえを助けた……じゃなくて外の雑魚どもはなんとなくで叩き潰しただけだって……助けたんじゃねえって……」

「あはは。素直になってよ、尋賀は本当は私を助けたかったんだよね? だって正義の人間だから」

「へ、へへ……へ……」


尋賀はもはや何がなんだか訳が分からなくなり、乾いた笑い声しか出なくなった。


「オレが……てめえなんかを助けるわけねーだろ」

「どうして? そっか……じゃあまた私が死にそうになったら助けに来てくれるよね」

「助けるわけねーつってるだろーが! くそっ! 死を簡単に考えやがって!」

「あはは、やっぱりだ」

「何が!?」

「私が死にかけたら助けに来てくれるような言い方だから」

「ちげーって! てめえみてえな奴どっかでくたばっとけ!」


と、尋賀は言うものの、尋賀のやったことは美玲のピンチを助ける行動だ。

きっと、彼女の姿を自分と重ねればきっとまた、何度でも体が動くだろう。

一度そうしてしまったのだ。

多分、二度目も三度目も同じことになるだろう。


「あのヘタレが……余計なこと言わなければ……。てめえがバカなことしなければ……」


ほとんど一人言のように呟く。


「ん? 誰が何を?」

「いつもうろちょろしてるヘタレが相手の事を自分の事として考えろって……なんだってお前にこんなこと言わなくちゃ、なんねーんだ?」

「へえ、尋賀ってそういう風に今まで人を助けてきたんだ」


もちろん、人を助けたは美玲の妄想だ。

実際やってきたのは多くの人間を傷つけたこと。


(今まで……)


尋賀は今まで傷つけた光景を、顔すらも思い出せない相手のことたちを思い返す。

もしも、その相手が自分だったら。今日の美玲を見て考えたことだ。

自分が突如、知らぬ人間に襲われ、怪我をし、金を取られたら。

当然、あての無い尋賀は生きていくのが難しくなる。

つまりは、やられた相手にも事情というものは常に存在するということだ。

直接は命を奪ったことはない尋賀でも、間接的には命を奪ったかもしれない。

今日の美玲のように。

尋賀が朝に不良達を襲わなければ、このようなことにならなかった。

つまり、美玲は尋賀によって関節的に傷つけられたということになる。

不良達と同じように包帯などが非常に痛々しく、顔にすら包帯をしている。

彼がいらないことをしなければ、こんなことにはならなかったのだ。


「ああ、そうだ! 私が決闘に勝ったら何してもらおうかな?」


尋賀はつい、ボロボロの癖にお気楽なものだと考えてしまった。


「私が勝ったら、うーん」

「な、何だよ」


美玲は尋賀の顔をじっくりと見ると、彼女は思いついたかのように言う。


「じゃ、変わってもらおうかな!」

「は?」

「騎士らしく、ちゃんと素直に人を助ける。だって今の尋賀、誰が見たって本物の騎士に見えないから私、勘違いしちゃった!」

「………………ぷっ」


尋賀はその言葉に吹き出してしまった。


「ぷっ、くははははははっ! 本物の騎士だぁ? オレは人を守る人間じゃねーよ、くくく!」

「じゃあなんで私を助けてくれたの?」

「別になんだっていいだろ――いいぜ、それでいこう」


尋賀はそっぽを向いて呟き始める。


「クソジジィもヘタレも言ってたんだ。変われってな。オレは今まで人が傷ついてもなんとも思ってなかったから、変わるつもりなんてなかった」


淡々と、語り続ける。


「んで、てめえがボコボコにされているのを見てオレは笑ってたんだよ。でもてめえを見てると何だかほっとけなくなってさ。てめえが死ぬんじゃねーかって、考えるようになって。死ぬのが怖いのはオレでも分かるからさ。そんでちょっとは他人の事、わかった気がするぜ」

「やっぱり正義の人間だったんだね! 正義の人間が人を助けるのは当然だもんね!」

「やっぱ敵わねえな。てめえには振り回されっぱなしだ。――だから決闘、オレの負けでいいぜ」


美玲は一瞬何を言われたか分からなかったが、すぐに言葉の意味を理解する。


「ちょっと! まだ決闘やってないよ!」

「多分、オレはてめえを傷つけることはできても、殺すことはできねえ。決闘に勝ったらてめえに死んでもらうって、勢い余って言っちまった。だから――」

「勝ちはないってこと?」

「ああ。絶対に勝てねえ勝負だから。オレの負けでいい」

「なんで! それじゃ決闘にならないよ!」

「かもな」

「それでいいの!? そんなの決闘じゃないよ!」

「へへへ。しゃーねえよ。てめえを見てると、オレが負けた気になるしさ」


尋賀は再び乾いた笑い声をだす。

まるで自嘲するかのように。


「オレ、変わるさ。……約束しちまったし、自分が間違ってた……かもしれないし、な」

「それじゃあ、私も変わろうかな、なんて」

「へへ、そうか。何を変わるんだ? えーっと名前、名前――ま、なんでもいっか。何を変わるって言うんだ、騎士様?」

「尋賀には秘密ね」

「そっか。――帰れるならぼちぼち帰ろうぜ。オレ、早くジジィのところに行って、変わるって言いに行かなくちゃな」


美玲はゆっくりと保健室のベットから降りる。

今までずっと彼女を心配そうに見ていた女子生徒を、尋賀は先に帰るように伝えると、彼女は何度も二人に謝ってから先に帰った。


「そうだ、オレもてめえらに謝らなくちゃな。てめえを怪我させた奴らはオレが呼び寄せたようなもんだ」


尋賀は慣れていない、言葉に少し躊躇とまどったが、すぐに伝えたい言葉を出した。


「悪かった」


美玲はその言葉を笑顔で受け取った。


ーーー


翌日の朝、学校。

優作は、美玲が心配で彼女の家に電話をしたところ、彼女は家に帰って来たという。

つまりは誘拐などはなく、あの場から彼女は逃げ出したということだ。

そして、彼には気になる噂が教室で渦巻いていた。

伝説の不良が判明し、伝説の不良が捕まったというのだ。


(尋賀、君はやっぱりやり直せないんだね)


優作は昨日、師匠のところには行っていないため、彼がどうなったかは知らない。

だが、その件の坂巻 尋賀は教室に入ってくる。

捕まったのではなかったのだろうか。

そして、優作の顔を見ると彼に近づいていく。


「よ、元気か?」


おかしい。

違和感が優作の中で渦巻く。

昨日、彼は二度と話しかけてくるなと言ったはずだ。

だと言うのに、彼の方から話しかけてくるではないか。


「もう、ボクとは話したくないんでしょ?」

「そんなこと、言ったか?」


また、何かがおかしい。

もしかして、伝説の不良が捕まったという噂と何か関係でもあるのだろうか。

というよりも、伝説の不良は捕まったというのに、彼が目の前にいるのはおかしい。


「なあ、優等生。頼みがあるんだけど聞いてくれるか? ジジィにも言ったんだけどさ」


優作は違和感の正体に気づいた。


「ねえ君、誰!?」

「オレの顔、忘れちまったか? 友人の顔忘れちまうなんてひでえことするな、優等生」

「本当に誰!?」


優作は驚きを隠せなかった。

彼が友人だと言うはずがない。

昨日今日で彼に一体何があったのか。


「昨日、ジジィにも言ったんだけどさ、オレがもし間違った事をしたら、そん時は言ってほしいんだ。オレは何が間違った事か分かんねえからな」

「そ、それはいいけど」

「へへ、持つべきはやっぱり友人と親だよな」


随分と達観染みている笑いとともに、再び違和感のある事を言う。

そんな時、教室にもう一人の人物が入ってくる。

その人物は二人の元にゆっくりと歩いてくる。


「……矢薙さん?」

「うむ、なんだろうか」

「その、どうしてそんな格好してるの?」


優作は目を疑った。

今まで、学校では地味で物静かな人間を演じていたハズの美玲が、マントこそつけていないものの髪留めをつけて、ゴーグル、そして制服というスタイルで来ていた。

さらに、今までなかったものとして、目元に眼帯代わりの包帯をしている。

しかも、その包帯は無駄に長くて、まるでハチマキのようにも見える。

優作にはそれが怪我で包帯を巻いているようには見えなかった。


「これは昨日、怪我をしてな」

「優等生、騎士様にも色々あんだよ」


一体この二人は一日の間に何があったのだろうか。


「狐か狸にでも化かされてるんじゃ……ないよね?」

「流石優等生、気づいたか」

「ま、まさか」

「そのまさかだよ。山から来たんだよ。多分な」


優作は当然、尋賀の冗談だと考えたが、いっそ嘘ではなく本当の方がいいと内心、願っている。


「にしても騎士様。どういう風の吹きまわしだ? 昨日までクラスだったらなんか暗い感じだったろ?」

「うむ。私は騎士であることを口外して、いつも一人だったからな。だが、騎士である私を受け入れてくれる仲間がいる! だから私は真の姿で学校に来れるのだ! この包帯が取れるまで本調子は少し遠いが」

「そうか。変わるってそういうことか」

「ふっ。貴様には感謝するべきなのかもしれぬな」


尋賀は拳を美玲に向ける。


「んじゃ、おあいこってことで」

「うむ!」


美玲はその拳に自身の拳をぶつけた。

一体何があったのだろうかと優作はもう一度考える。

どうしてあれほど互いに嫌い合っていた二人がこんなにも仲良くなっているのだろうか。


「どうしたよ、優等生。てめえもやるか?」

「い、いや。それよりも二人は一体どうしたのかなって」

「男子三日会わざれば刮目して見よって言うだろ?」

「三日じゃなくて一日だよ」

「私は騎士の階段を登っただけだ!」

「どんな階段!?」

「大人の階段みたいなもんだろ」

「ちょっ! 本当に何があったのさ!?」


優作は狼狽えるが、二人は笑うだけだった。


ーーー


「――と、そういうわけでボク達は仲良くなったんだ」

「ふーん、爆笑ものなの」

「ねえ、ルシェ。君はボクの話をどう受け取ったの?」


ルシェールは簡潔な感想を返す。

というよりも話をちゃんと聞いていたのだろうか。


「それよりも面白いことが聞けたの! 早速使ってやるの!」

「面白いこと?」


優作は首を傾げる。

そんな時、仮眠室に尋賀と美玲が戻ってくる。


「随分と楽しそうに話してたじゃねーか、優等生?」

「うん、退屈は潰れたよ」


優作はそう言うと伸びをする。

ルシェールは尋賀にニヤニヤしながら近づく。


「どうした、のの女?」

「聞いたの。サカマキは白髪って言われると嫌がるって、なの」

「……のの女、優等生。死ぬ覚悟はできたか?」


尋賀の表情こそ変わっていないものの、優作の背筋が凍りついた。


「わわ、ごめん! そんなつもりで話したんじゃないんだよ!」

「ふんなの。私、別に白髪頭なんて言われてもなんとも思わないの〜。私は白髪じゃないもんなの」

「のの女。一つ忘れてるぜ。悪口、言いたい放題だったとしても口をきけなくすればいいってことをな」


ルシェールは鞘から細剣を抜くと、構える。


「私の口を止められるものなら止めてみろなの!」

「そこまで喧嘩したいならいいぜ。てめえが一度オレに負けていること、思い出させてやる」

「ふんなの! あの時はたまたまなの! 次は勝つの!」

「その決闘、待つのだ!」


やる気満々の二人を美玲が止める。

そして、


「ふっ! 私も参戦させてもらうぞ!」


自らも油となって、火にダイブする。


「てめえら、喧嘩するからには腹ぁ括れよ」

「私が勝つに決まってるの! なにせ実力は隊長格なの!」

「ふむ、この最強の騎士、矢薙 美玲の存在を忘れてもらっては困るぞ!」


三人は仮眠室から出て行く。

部屋には優作と、美玲と尋賀の取ってきた野草だけが残る。


「人間、やれば変われるね。だよね尋賀」


出て行った尋賀に対して優作は呟く。

ひどかった昔、そして他の人に支えられ、彼は自分が間違っていると気づくことができた。

変わると考えた日から、彼は自分が間違っていることをどんどん正していった。


「でも病人放っておいて、みんなで乱闘するのはどうかと……」


優作の呟きは誰にも聞こえることはない。


そして、また一日は終わる。

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